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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
最終章-新たな世界への旅路-
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メタゲーム2

「実を言うとね、僕としては彼らが目的を果たせるかどうかはどうでもよかったりするんだ」


 鎖がまるで生きた蛇のようにのたうちながら襲ってくる。

 それを僕は特に苦労することもなく回避する。

 その程度ならば、僕にとって躱すのが難しい物じゃない。

 たとえ、僕が能力を使わなくたって関係ない。

 僕という存在が、その程度でどうにかされるほど軟じゃないから。


「と言っても、それはその結末に対する僕の考え方であって、決して彼ら自身、彼らが歩む道のりの全てがどうでもいいと言っている訳ではないんだ、分かるかい?」

鳥籠ノ天使(フリューエル)

「......キミもそうやって僕を捉えようとするけれど、いつまでも同じじゃつまらないよ」


 天使の鎖は僕を捉えようとする動きをするけれど、僕には全然とどかない。

 なにせ、


移動(フォルト)


 僕にはこれがあるから

 瞬間的に自分や周囲にある物や生き物を自分の認識している空間に強制的に移動させる能力。

 便利でよく多用するけれど、戦闘という場面でもその性能を遺憾なく発揮してくれている。


「キミが僕の未来を知る力を封じている原理は何となく予想はつくけれど、そっちにリソースを取りすぎて素の能力がこの程度なら、期待外れかな」


 恐らくこの天使は、本当に僕の力に対する対策のためだけに生み出されたのだろう。

 その目的はちゃんと達することができているが、それだけだ。

 それ以上のことが今のところ存在していない。

 これなら、まだ九重君の能力の方が面白味があるというものだ。


「ま、これ以上がないなら僕としてはさっさと晴君を見に行きたいからさ、もう眠っててくれよ...…伝わる爆発(タミスンイクサ)


 僕がもつ能力たちは、そのほとんどが殺傷能力に乏しいが、組み合わせて使う事で化けるものや、軽微ながらも戦闘に使える能力だってある。

 その中でも、最も早く、最も正確で、最も手軽に発動できる組み合わせ。

 本当にやる気のない時や、あえて手加減をするときに使用する技。

 伝達(タミス)の好きな場所にアクセスすることが出来る能力に、爆発(デイナクション)を組み合わせたもの。

 好きな時に好きな場所を自分の望んだ規模で爆破できる技。


 伝達(タミス)ではよく、僕の意識や言葉を直接脳内に届けていたけれど、その届けるものを言葉から爆発に変えた技というわけだ。

 おおよそ生命に対しては必殺に近い技。


 しかし、


「............?」


 何も起きない?

 この技は光ほど速くはなくとも発動したら時間を置かずに、頭がザクロかトマトみたいに弾けるはずなのに、何も起きない。


「......鳥籠ノ天使(フリューエル)、『鳥籠』」


 そこでようやく気が付く、僕の手にあるはずのティリス・アナザーがない。

 そこにあるべき、爆発(デイナクション)のティリス・アナザーが。


 代わりに現れたのは天使の周りに浮遊する謎の籠。

 扉の閉じた三つの籠と扉の空いた五つの籠が天使の周りを守るように浮遊している。


「......くっ、はは、はははははははは!!そうか!!そうだよな!天使!”権能”と呼ばれるほどの力が僕のたった一つを封じるだけで済むはずがなかったか!」


 状況から見て、僕のティリス・アナザーを奪ったのとあの浮遊する籠が無関係とは思えない。

 あの天使の力。

 封じる力という事を考えれば、あの籠に封じているというのが妥当なところか...


 三つ閉じているな…...


「さて、でも僕の力はあれだけじゃないのをキミたちはよく知っているはず......ここからどうするのかが見ものだね」


 そうして、僕はもう一つ。

 晴君たちには見せたことのないティリス・アナザーを取り出して、天使に放つ。


切断(エクサート)


 放たれるのは斬撃。

 斬撃という概念が付与された波動ともいうべきものが飛んでいく。

 僕は別に剣を振ったわけじゃない。

 斬撃というのは本来、そういう武器なり器具を振るった結果の事を言う。

 しかし、この能力はその結果だけを得る。

 斬撃という概念だけが表に出た結果、本来であれば剣なりを見ることで防御などを行う事が出来る技であるはずの結果が、不可視不可避となって襲い掛かるのだ。


 もちろん弱点はある。

 これはあくまでも斬撃という結果を得る効果なだけで、名前のように切断する能力というわけではないという事。

 すなわち、


 ガギンッ!!!


 大きな金属音を立てて天使の周りを守る様にうねっていた鎖が何かに弾かれた。


 この技は、切れるだけの威力がなければ普通に防御されるという能力ではあった。

 鎖で防がれることは分かっていた。

 それでもこの場面で僕がこの能力をチョイスした理由は、この能力が連射の効く物だったからだ。


「がら空きだね」


 鎖が弾かれて無防備になった天使に追撃を放とうとした瞬間。

 こんどは見逃さなかった。

 しかし、対応するには遅すぎた。


「『鳥籠』」


 僕の胸元で輝きを放っていたティリス・アナザーに鎖が巻き付く。

 その鎖は、天使の周りを浮遊していた籠から伸びていて、僕が何をすると一瞬の迷いで止まっている間に籠の中にアナザーを捕らえてしまった。


「...............そうやって、封印しているのか」


 とは言え、もう何度も見たことで対策もとれそうだなというのが正直な感想だった。

 あの籠からでる鎖にさえ注意してしまえば、それ以外は依然としてあまり怖くはないのだから。


「次は、どうやっ............て......」


 そう思っていた。

 天使が扉の閉じた籠を自身の胸元へ引き寄せて銀色に輝かせるまでは。

 まるで、アナザーを起動した時のような挙動をする鳥籠を見るまでは。


「おい、まさか......」

「『鳥籠ー切断(エクサート)』」

移動(フォルト)!!」


 ほとんど本能で、僕は回避を選択した。

 その結果、先ほど僕がいた場所の地面が綺麗な縦に傷痕が付いた。


「はは、マジかよ」


 そんな驚愕に思考が鈍る暇も与えさせず、天使は次の籠を輝かせる。


「『鳥籠ー爆発(デイナクション)』」


 ここはかなりの広さがあるとはいえ、実験室なんかと比べれば狭いただの通路。

 そんな限られた場所で、威力を制御していない。する気のない威力で放たれた爆発は、天使自身すらも巻き込んで、僕に襲い掛かる。


防壁(フォテクション)!」


 僕を守る防壁によって爆発をやり過ごす。

 ああ、疑いようもない。


「封印した能力を使用する”権能”!!それは、ちょっとズルくないかい?」


 爆発の煙から天使が姿を現した。

 多少の汚れはあれど無傷の様だ。

 何かをして自分を守る程度の事は出来るみたいだ。

 それはつまり、僕から封印と言う名の強奪をした能力をちゃんと分かって使っているということ。


 それは単純に僕の選択肢が減り、敵の性能が強化されていることに他ならない。

 せめて、使い方が分からないとかなら楽だったのに。


「こうなると、僕の手持ちの中では攻撃力が高い二つを持っていかれたのは結構厳しいね」


 さて、どうするか。

 天使の周りを浮遊する鳥籠は全部で8つ。

 その内の4つが閉じていて、残りは開いている。

 さらに閉じた4つの内2つは爆破と切断と分かっている。

 分かっていないのは残り二つ。とはいえ、そのどちらかは僕の本来の力を封印しているだろうから、不明なのは一つ。


 開いている4つは引き続き警戒。

 すでに攻撃能力が高い二つを奪われた上に、これ以上便利な能力を奪われるのは避けたい。

 鎖に注意していれば、ある程度は平気だろうけど……

 鎖と一緒に斬撃やら爆撃やらが飛んで来るならちょっとキツイ。


 まったくやっかいな能力を持ってかれたものだ。


 ............

 .........


 仕方ない。

 こっちもある程度はコラテラルだと割り切るしかないか。


「根負けだ。僕はあんまり全力勝負とかって柄じゃないんだけど、そっちがそんなずるっこい技で来るなら、こっちはもっとズルをしなきゃ勝てないからね...…負けるのはもっと柄じゃないから仕方ない」


 僕はティリス・アナザーを創ることができる。

 それは博士だって知っていることだ。

 そうして創ったアナザーをいろんな人間に与え、その最後を見届け、その覚醒したアナザーを回収したり複製したりしてきた。

 それもまた博士だって知っている。

 博士が知っている事は敵全員が知っている事だ。


 だけど、博士も知らない僕の事はもちろんある。

 例えば...…僕がどれだけティリス・アナザーを持っているかとか


倉庫(エストラージ)


 そのものを沢山しまえるという、普通のティリスと変わらない能力のアナザーを起動する。

 この能力の普通とは違う点はただ一つ。

 最大容量が存在しないこと。


 そんな能力じゃないとしまうことすら困難な僕のこれまで。

 それを大解放する。


 天使の周りを天使を守るかのように鎖と籠が浮遊するなら、

 僕の周りを僕の周りを守るかのように無数のアナザーが浮遊する。

 そしてそのどれもをいつでも起動できるように待機状態で輝かせる。

 その数は、もはや数える事すら出来ないほどの量。

 そして、天使に補足されにくいようにランダムに倉庫(エストラージ)の中にしまったり、出したりを繰り返す。


「そうだな...…あえて名付けておくなら『多重起動(オーケストラ)』とか、かっこよくていいんじゃない?」

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