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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
最終章-新たな世界への旅路-
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姉妹喧嘩3

「『こごえるほのお』」


 部屋中に溢れかえる銀色の炎

 寒気のする、恐ろしいほどの破壊力を秘めたその炎は

 部屋の壁を床を、空気すらを凍り付かせながら燃え盛る。


 視界はその白銀の輝きに覆われて、他のものは何も見えない。

 触れればその瞬間から凍り付く形のない炎という必殺のその技。

 何度も見たその技。

 何度見たとしても有効な対処手段が、無効化能力をぶつけるか、同じ規模の攻撃での相殺しかないズルく優秀な技。

 そんなものが空中に浮かぶ私を取り囲むようにして襲い掛かる。


 しかし、今の私はその程度でやられるような存在じゃない。

 本来の私を解放した今の状態ならば、例え天使の対規模範囲攻撃だとしても十二分に対処が可能だった。


「『光の檻』」


 即興の必殺技。

 (リグフト)による光を操る力を原初ノ天使(ラグナエル)によって強制的に天使に通用するレベルに引き上げて放つ、私を中心とした光の柱を生み出す技。


 瞬間、私は光に包まれた。

 それは私によって生み出された私以外の全てを破壊して殺す、終末の光。

 私という天使が放つ、救済の一撃。

 白銀の炎は極光の柱に阻まれて私には届かない。

 そのせめぎ合いによって空間がきしむ。

 お互いに形のある攻撃をしたわけじゃない。

 炎と光という物理的には存在しない攻撃手段をとっているはずだ。


 だと言うのに、私の光と彼女の炎はその境界を中心として金属同士がぶつかり合うような不快な音を立ててせめぎ合っていた。

 それは私の物でもなく彼女のものでもない光を生み出しながら激しさを増し、やがてお互いの技を爆散させて散る。


 その一瞬の輝きによって目が眩んだ私が慌てて周りを確認すれば、すでに拳を握りしめているもう一人の天使が目の前にいた。


慈悲ノ天使(バサクィエル)『私は弱い』」


 小さく呟く慈悲の子の言葉。

 それは熱の子や私がやるような自分に言い聞かせる言葉。

 この技を使いたい。

 こういう結果を得たいという思いを強化する言葉。

 すなわち自己暗示のための技名。

 慈悲の子の能力は単純な自己強化系だと思っていたから、そんな自己暗示が必要だと思っていなかった。

 というより、前は使っていなかった。

 なのに、今使ってきたのなら恐らく、自らを強化するその能力を強化する目的があるのだろう。


 私はとっさに能力を使う。

 今、あの拳を体で受ける訳にはいかない。

 そんな予感があるのだ。


「...…...…ㇱッ!!」


 短く息を吐きながら、放たれる慈悲の拳。

 それは空気を割き、空間を超えて、光を打つ一撃。

 ただの拳なれど、本来の力を使った私を殺す一撃。

 仲間で言えば、晴と同系統ながら晴とは違い上限を知らないかのようなその速度と威力はさすが天使としか言いようがない。


 そんな拳が私に突き刺さる。

 その瞬間、私の体は何の抵抗もなく粉々になる。

 恐らく慈悲の子には何の手ごたえもないほど、抵抗なく。


 そうして砕け散った私の体は光と化し、散り散りになりつつも一つに集まり始める。

 集まった光は少しずつ体の形を作り出して、やがて私となる。


 緊急脱出のための技。

 一歩間違えれば、光として拡散して二度と元には戻れないハイリスクな技。

 私が今までそのリスクを抱える事に不安を持っていたため使えなかった、(リグフト)の奥義。

 今ならば原初ノ天使(ラグナエル)の権能が助けてくれるため、そんなリスクも踏み倒して使い放題だ。

 ただ、光の私は眼球がないから見えないし、鼓膜がないから聞こえないし、脳がないから思考できない。

 あらかじめプログラムしておいた時間でもとに戻らないと何もできない。

 ずっとこの状態を維持するのはさすがの原初ノ天使(ラグナエル)でも不可能だった。


 しかし、その技があるだけで私はあの二人と戦う上での不安要素をかなり減らせるのだから多用はするだろうな。


 たった一度の技の撃ち合い。

 あの子達が攻めて、私がそれに対処する。

 そんな一瞬で単純な応酬だというのに息が詰まる想いをする。

 全てが必殺。

 一度でもミスをすれば即座に負けるという確信が、私に強烈なプレッシャーを与えていた。


「流石に天使二人あいては本気でもきついね」

「...…...…」

「相手は話しもしてくれないし...…正直、こうやって話しかけるのも虚しくなってくるよ」


 相も変わらず、あの子達は話さない。

 感情を見せつつ、発露はさせない。

 熱のように熱いその瞳が、冷たく抑えられているのが気に食わない。

 暴れだしそうなその身体が、慈悲深く制御されているのが気に食わない。

 あの子達を抑え込む、見えない鳥籠が気に食わない。


 こうやって戦っていても何も変わらない。

 だけど可能性がないわけじゃない。

 オウルは言った、能力はイメージだと。

 天使の力は確かに普通の能力と比べれば別格だけど、その使い方自体は変わらない。

 イメージと思い込みが、その能力の運用方法を変える。


 なら私はあの子達を追い詰めなきゃいけない。

 あの子達を縛るあの鳥籠があっては、生み出せないような強力な技が必要だとあの子達に思わせなきゃいけない。

 イメージも思い込みも強い感情がなければ生まれないのだから。

 少なくとも私はそうやっていつも能力を使っていた。

 私は私の感情に従って能力を使っていた。


 だから、あの子達も追い詰められればその鳥籠を壊すしかない。

 あの子達は博士の言う通りに行動するだろう、ならば鳥籠を壊さなきゃ戦えないとその博士の施したプログラムに判断させれば、自ら鳥籠を破壊するはず。

 そう信じている。

 だから、一手仕掛けるとしよう。


「私の本来の権能はあらゆる全てに対する付与と剥奪だ。私が許可したものが世界に存在し、私が拒否したものは世界から弾かれる。そういうものだ」


 私は能力の本質を言葉にすることで、私自信にもそういう物だと自己暗示を施していく。

 イメージを構築するために、より強く、より確かに、より深く、確実にそれを実行するために。

 イメージするのは優しい透明な巨人。


「だから、本来の私にはこんなことも出来る。...…『権能付与―――私は、敵の動きを止められる』!!!」


 私の言葉によって世界に付与された新たな法則が適応される。

 私に新たな能力が付与される。

 そのままあの子達に向けて手のひらを向けて、そのまま握りこむ。

 それによって起こる現象は如実に表れる。


 あの子達はお互いの邪魔をしない様にある程度離れていたが、私が握りこんだ空間と同じように、何かに握りこまれるかのように一点に集まり空間に押しつぶされようとしていた。


「...…ッ!!」

「...…...…!」


 私の手には少しの反発感が残っていたが、それを無視してそのまま握りしめる。

 叶うならこのまま決着させたいと思いながら。


 だが、


慈悲ノ天使(バサクィエル)『私は不自由』」


 慈悲の子のその一言で、あの子達を捉えていた空間がはじけ飛ぶ。

 それと同時に私の手も引き裂かれてしまう。


 法則を上書きされた。

 私が付与した私による空間を巻き込んだ拘束のルールを慈悲の子の権能によって上書きされて消された。

 これが天使同士の戦い...…


 お互いの権能を駆使して、相手を抑えて圧倒する戦い。

 これは、普通の能力者がどれだけ束になってもかなわないわけだ。

 能力はどこまで行っても能力者に新たに加わった能力に過ぎない。

 すなわちこの世界のルールに収まるのだ。

 それを私たちはルールを変える。

 天使の能力はそういうものだ。


「さて、拘束はダメ...…...…少なくとも慈悲の子には効かないか。熱の君にも効かないと思っていいのかな?」

「...…...…」

「はぁ、そろそろ熱の子とか慈悲の子とか呼ぶのも虚しくなってきたな、ねぇ名前ないの?...…...…あるわけないか...…私もなかったし」

「『こごえるほのお』」

「...…!!」


 ノータイムで放たれる銀色の炎を羽ばたいて躱す。

 躱した先にはすでに慈悲の子。


「連携!!」

慈悲ノ天使(バサクィエル)『私は弱い』」


 先ほどまでのお互いの技を撃ち合うターン制のような戦いから一変、私に行動の余地をあえて残して隙を取りに来る。

 これは、このまま流れに流されるのはマズイ。


「『権能付与―――私は、敵よりも強い』!」


 だから、あえて私は自分自身の体を強化して慈悲の子に向かって突っ込む。

 イメージするのは光すら防ぎ、力を持て余す、増え続ける力。


 拳を突き出したまま、翼による加速に任して慈悲の子にただ突進する。

 伸ばした拳が慈悲の子の体に突き刺さり、彼女の腹部にめり込む。


「...…ガッ!!?」


 その威力は今まで物理的な暴虐をまき散らしていた天使に驚愕の表情をさせるほどで、いとも簡単に彼女を吹き飛ばした。

 翼による姿勢制御も出来ず、壁に打ち付けられる慈悲の子。

 私の隙を作り、そこを刺すつもりだったのだろうが、そうした連携の綻びを逆に利用させてもらった。


 これはチャンスだ。

 恐らく、熱の子よりも慈悲の子方が権能の自由度が高い。

 それは権能による法則の取り合いにおいて、脅威になる。

 ここで慈悲の子を落とせるなら、この後が随分とやりやすい。


 追撃を、そう思った時私を妨害する氷が地面や壁からせり上がる。


「『もえさかるこおり』」


 その氷は、熱く燃えるように揺らめいていた。


「はぁあああ!!」


 その氷を砕く。

 今の私はこの場の誰よりも肉体的に強い。

 だから、例えこの氷が普通じゃなくても壊せる。

 そう思っていた。

 だが、


「!?」


 氷に私の拳が当たる瞬間。

 その運動エネルギーがそのまま炎に変換されたかのように、私の拳が燃え上る。

 それなりの威力で殴りつけた結果、その炎は爆炎のように周囲に衝撃波をまき散らしながら燃え上った。


 すでに引火した私の腕は炎に包まれ、酷いやけどと今もなお焼き続けられている痛みが私を襲う。


「くぅ...…!!け、『権能剥奪―――私は、あらゆるものを打ち消す』!」


 咄嗟に力を使って炎を消す。

 イメージするのは、触れるだけで何もかもをゼロへ帰す無力の力。


 すぐさま炎は掻き消える。

 しかし、最大のチャンスはすでに逃し、状況は私と慈悲の子がダメージを貰い合う痛み分け。

 2対1なことを考えれば、私に圧倒的不利な状況と言える。


「さて、ここからどうしようか...…」

原初ノ天使(ラグナエル)

神を再現する実験により産まれた能力。完全な情報から完全な生命を創る能力。

あらゆる情報に干渉し、書き換える。

情報に干渉するということは、情報の塊であるティリス・アナザー、引いては能力にまで干渉が行える。

もちろん干渉による書き換えには制限はあるものの、この世界における最も神に近い能力であることに変わりはない。

原理上、新しい能力すら0から創造可能なまさに神の所業。


0から1を1から0を産むのは神にしか許されない


しかし、新しい能力をとっさにイメージすることが困難であるため、一度見た能力の再現であったり、

自身の能力の出力を大幅に強化することに使用している。

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