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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
最終章-新たな世界への旅路-
85/110

頂上2

 水槽の並んだ部屋。

 その部屋を照らす光源が特殊なのか、仄暗い印象を与えるのにしっかりと光が確保された不思議な部屋。

 そんな部屋で、今最も危険であり、俺たちと明確に敵対している人間と対峙していた。

 しかし、その人間の顔には見覚えどころではない既視感を得ていたが、その理由は本人の口から説明される。


「一ノ瀬...…...…だって?」

「ああ、そうだ。私は一ノ瀬博士とここの職員からはよく呼ばれる。紛れもない一ノ瀬の者だが?」


 一ノ瀬、俺の親友の性だ。

 それが目の前の男の名前だと言う。

 そして、顔もそっくりとなれば疑いようもなくて。

 それはつまり、目の前の男と羽衣は...…


「羽衣は!!羽衣は、知っているのか?」

「ん?何をだ?」

「お前がこんな事をやっている事をだよ!!」

「こんな事、こんな事ね...…...…まぁ、君が何を言いたいのか大体分かる。つまりはこうだろう?キミの言うところの羽衣は、私と血縁関係にあって、私がくだらない人間の感傷で言うところの酷い事とやらをやっているのを知っているのか、と」


 淡々と、事実確認をするかのように落ち着いたトーンで述べる博士。

 いや、本当にただの事実確認のつもりなのだろう。

 そんな中でこいつはただ、本当にただの確認の一環で口にした言葉にも驚いた。

 こいつは自分のしていることが、一般的に酷い事だという自覚があってやっているのだ。

 それが、何より恐ろしい。

 自分が酷い事をしていると知っている。その上でそれを衝き通すのなら、もうコイツは止まる事を知らないという事じゃないか。


「結論から言うならば、知っているとも。アレが知らない方がおかしい。だが、まぁ私とは袂を分かったがな」

「知っている...…あいつが?」


 知っている。

 羽衣はこの街の闇を、この塔で行われている事をそれを知っているという。

 何を知っているのか、どこまで知っているのか、気にはなりつつもそれは無駄なことだとも同時に思った。

 この羽衣と瓜二つの博士がやっていることを知っているのなら、この塔の最高責任者とでも言えそうな男の事を知っているのなら、おおよそ全てを知っている事が普通だろうと思うから。


「晴くん、確かに衝撃ではありました。だけど、目的を忘れちゃいけません」

「六鹿...…」


 六鹿は俺に比べれば酷く冷静で、この場での最適解を選んでいた。

 そうだ、俺たちはこの場に目的があってきた。

 博士の正体も、羽衣の真実も今知るべきことじゃない。

 そんなものは目的を達してからでも、こいつから直接聞けばいい事だ。


「それで、希空ちゃんはどこですか...…博士」

「...…ふむ、希空...…希空…ああ、誰だったかな?すまないが私の知り合いには希空という名前の者はいなかったように記憶しているが...…」

「お前が攫った俺の妹だ!!」

「ああ!あの分裂の子か!そうか、そうか、彼女は希空という名前だったのか!...…うむ、コレはいい事を聞いた。彼女はこの人類の歴史に名を刻むべき存在だからな、名前を知ることが出来たのは思わぬ収穫だ」


 博士は希空の名前を聞いて嬉しそうに何かコンソールを操作している。

 何なんだコイツは、何がしたいんだ。


「...…何言ってんだ!希空はどこだって聞いてんだよ!!」

「...…...…うるさいな、そう声を荒げなくてもこの若い肉体なら聞こえるさ、それとも私を老人のように扱う気か?いや、実年齢を考えたら間違いではないが、いささか癪に障るのは肉体に感情が引っ張られているのかな?まぁいい。希空くんの場所だったね?それならば、よくよく周りを見たまえよ」


 そう言いながらコンソールのなにかスイッチを入れる博士。

 とたん、今まで仄暗かった部屋が明るくなる。

 自然と、中身がよく見えなかった水槽の中がよく見えるようになる。

 そして、


「...…...…は?」

「っ!?」


 俺はその水槽を見て、思考が止まってしまった。

 六鹿もまた、それを見て息を詰まらせる。

 無理もない、というより無理だろう。

 こんなものを見せられて、平常でいられるわけがないのだから...…


「希...…空...…...…?」


 いくつも並ぶ水槽。

 それが一体いくつ並べられているか何て分からない。

 数えるだけ無駄だと思えるほどの数が並んでいる。

 その一つ一つに浮かべられているのはよく知った顔だ。


「希空!!」


 ()()()()()がその水槽には入れられていた。

 まるで実験動物のように。

 まるで、大量生産の商品のように。

 希空は並べられていた。


「ようやく気が付いたか?現実を受け止めるのに、そこそこな時間を要していたな?なるほど、これはそれなりに精神的衝撃の大きな出来事だったのか、すまない。私としてもフラットな状態としてこれを見せたつもりだったが...…研究者として前提の条件を見落とすのは減点だな」


 博士は未だ意味の分からない事を言う。

 ああ、でも一つだけ分かるのは希空はきっと無理やり能力を使わされているのだろう。

 そして、何かしらの実験を受けている。

 ああ、ここにきて最悪の可能性に気が付いた。

 こいつが俺という無限エネルギーと同レベルで希空を欲しがった理由。

 希空は自分を増やせる。

 人間を増やせるという事は、こいつにとって実験ようモルモットが無限に手に入るという事だ。


 つまり、こいつがこうやって希空を無理やり増やして何をしていたかと言えば...…


「ぶっ飛ばす!!!!」


 加減はない、ただ今はコイツをぶっ飛ばしたい。

 ただその感情を握りしめて、全身を動かす。


「おいおい、私をあまり揶揄わないでくれ...…その程度の速度で、どうにかなるわけないだろう?麻痺(パラリス)

「っが!!!」


 体中に細かく走る痛み、足を上手く動かせなくなる。

 勢いをつけている状態で、急に自分の意思通りに動かせなくなった足に動揺する。

 動揺はそのまま肉体の制御に現れて、転んでしまう。


「これは、同一のアプローチを掛け続けることで被験体が生み出す能力に方向性を与えることが出来るかという実験で産まれた産物でね...…なかなかに便利でよく使っているお気に入りだ」


 博士が得意げに話す。

 まるで実験成果の報告をするように、自分の功績を見せびらかす様に。


「晴くん!!」

「ああ、六鹿の君は正直じゃまだな、君にはもっとやってもらいたい事があるんだ、今は退場願おうか」


 六鹿の叫びに反応して、博士はまたコンソールを操作する。

 きっと、あのコンソールはこの施設にアクセスするための物なのだろう。

 それを少しばかり操作するだけで、六鹿の足元には巨大な穴が開いた。


「え?」

「六鹿!!」

「では、時間が来たらまた会おう」


 六鹿はそのまま穴に吸い込まれるように落ちていき、姿が消えた。

 痛みの動揺から抜け出し、慌てて傍に駆け寄るが再び博士がなにやら操作することで穴は塞がれていく。

 そして、俺がたどり着いた時には穴は完全にふさがってしまった。


「くそ!」

「これで、後は君だけだな」

「六鹿をどこへやった!!」

「...…もう少し会話をしてくれてもいいだろう?さっきから君たちの質問に答えてばかりのように感じるが...…はぁ、彼女なら少しばかり大切な場所へ案内させてもらったよ」

「大切な場所?」

「ああ、まぁ私にとってはな……気にする必要はない。君はもう十分に役目を果たしたから、そのティリス・アナザーを置いて去り給え、君自身にはあまり興味がないんだ」


 そんなことを宣って俺に向かって手を差し出す。

 そんな事を言われて素直に出すと思ってんのか?

 思ってないないなら煽っているとしか思えない。

 こいつ何なんだ。

 希空をあんな目にあわせて、六鹿を嵌めて、俺に興味がないだ?

 ふざけやがって!


「欲しいなら自分でとってみろよ!俺も、奪われたもんを無理やり取り返しに来たんだから!!」


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