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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
最終章-新たな世界への旅路-
82/110

抱えた秘密2

 その男が現れたのは突然の事だった。


 真実を知っても、親を亡くしたという事実は意外なほどに自分の心の中で自然と馴染んだ。

 夢を見ていても、どこかで納得をしていたからだろう。

 二度と会えないと。


 だから、何もしなかった。

 普段と何ら変わり映えのしない毎日を過ごし、ただそこに縋るような希望がなくなっただけだ。

 そうして、一人で過ごす。

 そんな日に現れたのがあの男。


「やぁ、ぜひとも僕とお話ししようよ」


 その男は梟を模しているのだろう仮面をしており、顔の半分が隠れていた。

 しかし、異様なのはそれだけではなかった。


 その日も、ただいつものように両親の仇とも言える街そのもの...…...…そのシステムの言うがままに日常を過ごして、まっすぐに家へ帰宅したのだ。

 誰も帰りを待つことのない家へ。


 そんな家の中で待ち構えていたその男は、まるで家の主かのようにソファにふんぞり返りつつも、その口元は決して支配者とは思えないほどに下品に歪んでいた。


 その男の醸し出す雰囲気は、そのすべてが怪しさに包まれておりそれのどこにも信用という文字が見当たらないかのように見えた。

 しかし、その男を異様だと評するのはそんな曖昧なものだけではなかった。

 その腰から伸びた焦げた色の翼。

 まさしく梟と言ったその姿。

 これを異様と...…異容と呼ばずになんと呼ぶのだろうか。


「なんや...…お前」


 だが、この街のおかしさをすでに知っている俺にとってはこの目の前のがそれらのろくでもない何かなのは明白だった。

 だからだろう、それが決して普通ではないということを理解しても、冷静を保てていたのは。


「なに...…とは、ご挨拶だね?僕としては君というよりも、君の持っているものに興味があるだけだからね...…そうやって拒絶をするのなら、別にいいよ。勝手にしゃべるから」


 そう言って、後にオウルと名乗った男は宣言通り勝手に話し始めた。

 この街のこと、オウルが行っていること、今注目をしているとある兄妹のこと...…


「兄妹...…...…」

「んふふ、気になるかい?」


 ここぞとばかりにオウルはそう問う。

 当然だ。両親が残したという、会ったこともない弟と妹。

 その現在を教えられて気にならないわけがない。

 しかし、両親はその二人の話はしても決して合わせることも、どこにいるかも教えてくれることはなかった。


 この年になれば分かる、会えない。会わない方がいい理由があったのだろう。

 それでも、気にならなかったと言えば嘘になる。


 それをこの目の前の胡散臭い男は平然と語った。

 そのことに何も思わないかと言われれば、思うに決まっているのだ。


「なら、見に行ってみようか?きっとそろそろ面白い事になっているはずだからさ」


 オウルはそうやって手を差し伸べる。

 その怪しい手を、

 俺はその時、確かに葛藤した。

 両親を思えば、どうするのが正解なのか...…


 少なくとも俺の両親は善良な人だった。

 科学者として優秀であったと聞いたが、それでもこの街の非道をとは相容れない程度には普通の感性を持った人たちだった。

 であるならば、両親の願いはきっと俺が生き残る事。

 それは決して間違いではないと確信できる。

 だが、どう生きるのが両親の願いかは分からない。


 このまま街に従い、闇から目を背けて、偽りの日の元に過ごす事と、

 真実を見つめて、闇の中を藻掻き、それでも納得のいくいつかを目指す事。


 果たして、どちらが良かったのか。

 それは今になってしまえば取り戻せない後悔ではある物の、その時は葛藤したと思う。

 そういう心があった。

 しかし、体は迷わなかった。


「即決かぁ...…...…いいね、行こうか」


 気が付けばオウルの手を取っていた。

 そのまま、オウルによって街の空を行った。

 向かった先は、街の端、コンテナ街。

 そこでたった数分で行われた人を超えた戦い。

 それを見て、俺の心は決まった。


 ーーー


「そうやったな...…...…」


 俺は父親の名前が刻まれた、脳の入った水槽の前であの時の決意を思い出す。


「ああやって、抗うやつもおるんやって知った」


 抗う事をせずに何もしない日々を過ごしていた俺にとって眩しくも、羨ましいそのあり方を見た。


「何より知らなきゃいけない事だと思った」


 両親の真実を、この街の闇を、俺に残されたらしい弟妹を。


「その思いでここまで来たんやで?」


 そう、語り掛ける。

 相手は何も言わない。

 ただ、じっとこちらの様子をうかがうだけだ。


「はぁ、あんたが生命の天使とかいう奴かいな」


 言葉と共に振り返れば、そこにいたのはただカメラが搭載された機械。

 明らかに戦闘を想定しているとは思えない貧弱な見た目。

 機械的な機構は丸見えで、頼りないその姿には機械相応の力すらない様に見える。


 その機械に搭載されたカメラから何かの感情を伺うことは出来ない。

 ただ、冷たくこちらを見つめるその姿には、生命らしい暖かさは何も感じなかった。


「さて、折角感傷に浸ってたってのに邪魔されて気分悪いわ。だからな?さっさと終わらそうや」


 天使が俺の元にやって来る。

 それは、一人で行動を使用と決めた時には可能性として考えていたことだ。

 俺の能力は、ことエネルギーに対して脅威と言っていいだろう。

 それを今までの戦闘から知っているだろう、敵さんがおとなしく俺を動力室まで行かせてくれるとは思えない。

 そして、機械兵も電力をゼロにしてしまえばどれだけ性能を積んでも、一撫でで終わりだ。

 時間稼ぎ以上にはならない。

 だから、正しく時間稼ぎとして使ってこの天使を援護していたのだろう。


「さぁ、ここからが大仕事やな」


 ここからはきっとこの目の前の天使が全力で俺を排除しにかかるだろう。

 それはきっと命を賭した戦いになるはずだ。


 善良な両親が、息子にそんな生き方を望むとは思えないが、

 今の俺に後悔はない。

 後からするのが後悔なら、今あるのは勇気だけだから。


生命ノ天使(マキナエル)


 天使の機械的なその音声と共に足元の床が消失した。


「んな!??」


 生き物として恐怖を覚えずにはいられない浮遊感と遠ざかる部屋の景色を横目に、俺はさらに深い地下へと落ちていった。

九重 隼(ここのえ はやと)

18歳 男 身長高め 細身 三葉学園

情報量:5 許容量:7


ある日、三船晴たちの元に現れた似非関西弁の男。

自分が初対面の人間には少しばかり引かれるやすいことを自覚している。

研究職についていた両親をもち、本当に何も知らない一般人に比べれば、この街「ティクティリス」がおかしい事を最初から知っていた。


両親は街の闇によって失っており、その真実を知るために三船晴たちに協力し「天秤神殿(サンクチュアリ)」と敵対している。


どうやら三船兄妹とは何やら因縁があるようだが、晴と希空は何も知らない。


 ・能力「無力(ゼロ)」 情報量:0 改変率:0

全てをリセットして0にする能力。

あらゆる力を0にすることで無敵ともいえる状態になれるが、自分自身すら能力の対象であるため発動のタイミング、対象、範囲を間違えると大惨事となる。


運動エネルギーを0にして動きを封じる。情報量を0にして能力を相殺する。

そうやって絶対防御を成し遂げているが、アナザーによる基礎的な身体強化すら能力によって打ち消しているため身体機能、耐久力が人間のままであるため不意打ちなどの認識外の攻撃に弱い。


余談ではあるが、他の能力は能力によって自動的に名前が心に浮かぶがこの能力は名前を付ける機能すら0にしていたため九重がその特性からちなんだ名前を勝手に付けて呼んでいる。


この能力は九重の心の内から産まれたものではある物の100%純粋な九重の心というわけではない。

これを託した九重の両親による、この街そのものへの抵抗のための力であり、使われない事を願いながらも九重を守るものであることを願われた結晶。


例え、九重がこの力を別の形で覚醒させたとしても恐らく攻撃的な能力にならなかった。

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