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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
最終章-新たな世界への旅路-
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抱えた秘密1

 電灯などの光源がないのに、不思議と暗くはない白い通路。

 まるで壁自体が発光しているかのような異様な明るさが確保された道をひたすらに一人走る。

 もちろん、速さが異常というわけでも体力が無尽蔵というわけでもないから、休み休みではあるものの。

 俺自信の目的的にも、皆の安全を考えても、急ぐ価値があるために自然と足は速くならざるを得ない。


「はぁ、はぁ、...…...…晴くんらは大丈夫やろか...…」


 そんな一人、ゴールの見えない持久走のような状態で、口から自然に漏れ出るのはこの戦いに参加すると決めた理由である人物とその仲間たちの事。


 心配だ。

 そう、心配。

 俺にとっては、晴くんも希空ちゃんもとても大切で、何においても彼らの意思を尊重したいと考えていた。


 そう考えた時、この塔は害悪そのものだった。

 希空ちゃんを攫うのもそうだが、両親がこの塔で研究に携わっていたという経緯からある程度この施設で行われた実験の事を知っている身としては、急がなくては命はあっても、精神が無事とは言えない状態になるかもしれない。

 それを正しく理解しているのは、恐らくオウルと天使(あまつか)ちゃん、そして俺の三人だけだろう。

 だからこそ、オウルは全員で今すぐ助けに行くことを提案したし、天使(あまつか)ちゃんも反対するでもなく、むしろ率先して協力しているのだと分かる。


 正直、今の彼らはとても強い。

 オウルが目を掛けていた能力者である六鹿ちゃん。

 三船兄妹、『神人計画』の実験体。

 恐らく、オウルがティリス・アナザーをバラまいて産まれた野良の能力者の中では確実に並ぶ者がいない戦闘能力ではあると確信できる。

 しかし、ここはその能力を研究し続けた悪魔の城。

 強いだけでなんとかなるとは到底思えない。


 だから、宣言通りに速く動力を止めて、少しでも相手の戦力を削らないと彼らが危ない。


「まったく、地味な役割は慣れっこやけど...…...…肉体労働は苦手や...…」


 思考が肉体に鞭を打ち、肉体が悲鳴を上げる寸前までは絞りだそうとしている。

 それでも、一般人の枠を超えることのない俺の肉体はどんなに急いでも平均的高校生レベルであった。

 自分の能力を悪く思ったことはそんなにない、ましてや他人の能力を羨ましく思う事なんて全くなかったが、今だけは晴くんの能力が羨ましくて仕方ない。

 力もスピードも体力だって無尽蔵。

 こういう一刻を争うって場面だと大活躍間違いナシやな。


 運動能力の壁というのに初めてぶつかったような気がしていたが、もちろんそれだけがうらやむ理由ではなかった。


「ッ!!!!」


 通路を曲がった瞬間。

 目に飛び込むのは数体の機械兵。

 それを認識した瞬間、反射で能力を行使して全身にすべてを台無しにする最悪の力を纏う。


 そうして襲い来るのは一般人を容易く屠れる、邪悪で凶悪な金属の塊。

 しかし、それが猛威を振るうことはなく、悉くが台無しにされて地に沈むことになる。


 通路に響くのは火薬の炸裂する音と、カランカランと力を失った銃弾が足元に落ちていく音だけだ。


 俺の能力は全てをゼロにする。

 それは俺自身も含まれる。

 だからこそ制御を誤れば、自滅してしまう使いずらい切り札だ。


 特に今みたいに物理的なエネルギーを無効化している時は、自分も下手に動けない。

 俺の能力はかなり精密に能力の適用範囲を決めておかなければ、俺もうっかり能力に適応されてしまう。

 物理エネルギーを無効化している最中に下手に動いて、制御が乱れれば自分の運動をゼロにして地面に転がってしまう。

 だから、物理無効をしている時は極力動かないように立ち回っていたし、そもそも俺が能力を使う時は基本的に防御の時なのだから待ち構えているだけでよかった。


 しかし、今のように先に一秒でも速く進みたい場合だと、この能力では突破力がなさ過ぎて長期戦になりだちだ。


 それは本当に肉体的な疲労はともかくストレスとして自信に圧し掛かっていると自覚していた。


 こうして銃撃の雨の中をノーダメージではあるが、その代わり速度を犠牲にして一歩ずつゆっくりと進まなければならないのは歯がゆい物だった。


 そうして、上階で仲間たちと倒した時と比べて数倍以上の時間を掛けて、機械兵に接近した俺はそれらを一撫でする。

 たったそれだけのことで機械兵たちは沈黙する。


「どんなに強くたってただの機械。電力をゼロにされりゃ止まるってな」


 まぁつまりはこの程度の雑魚に負けることはない。

 ただし時間はかかるって事だ。


「さて、そろそろあのマップ的には動力室の近くのはずなんやけど...…...…あー、何かにメモしてから来ればよかったか?この階、部屋多すぎやろ」


 とにかく、手あたり次第に行くしかない。

 どうせどれかが正解なのだから...…

 それに、動力室さえ見つけてしまえば俺にとってはただ触れるだけの簡単なお仕事だ。

 時間はかけられないが、まだ焦るほどの事じゃない。


 そうして、迷う時間も惜しいとすぐそばの部屋の扉を開ける。


「...…はぁ!?」


 そして、そこで目にしたのは大量の水槽と、その中に浮かぶ脳だった。

 当然、外れの部屋だ。

 ここは目的地ではなかった。

 だから、すぐに次の部屋に向かうべきだ。

 そう理解してはいても、足がその中に入ってしまう。


「...…...…ああ、そうゆう感じね」


 入口にこの部屋の名前が書かれていた。

『記録室』

 と。


「なんや、悪趣味な記録の仕方やな...…...…()()()の間違いなんやないか?」


 嫌な予感がする。

 この部屋を見た瞬間に、全てを悟ってしまいそいうになった。

 よくよく水槽を見てみると、ガラス張りの水槽に何やらプレートが付いており、そこには人の名前らしきものが書かれていた。


「どういう人だったかは知らんが...…...…ここで脳ミソの記憶能力だけ使われ続けている感じかな?」


 一つ一つ見ていく。

 そんなわけがない。

 そうゆう事にはなってないかもしれないと思っていた。思いたかった。

 だけど、昔から嫌な想像はずっとしてきた。

 そう、ずっと前から


 ーーー


 両親は、この塔で叩く科学者だった。

 どういう人であったかは分からない。

 この街で科学者とか研究者とか、技術者と呼ばれる人間はそのほとんどが塔で仕事をする。

 塔で仕事をするという事はすなわち機密を扱うという事。

 塔の裏を知らない一般人ですら、塔の研究は秘匿されていて一般には教えられない事を知っている。

 だからこそ、そんな両親を持った子供は街の優秀な機械がサポートして育てられる。

 つまりは親の愛情をろくに知らずに育つのだ。

 俺もそんなよくある家庭の一つだった。


 そんな家庭で育ったのだ、少しは性格に歪みも出るだろう。

 というより両親に対して情を持てるなんてこともないだろう。

 だけど、まだ幼かったある日両親が家に帰ってきた。


 両親は真っ当に善人だった。

 きっと塔での研究が嫌になったとか、そこで対立したとかで別れてきたのだろう。

 しかし、当時はそれを知らなかったし、記憶の限りでは写真意外で顔を知らない両親がある日突然帰って来て泣きながら抱きしめてくるものだから、どう反応していいのか分からず立ち尽くしていた。


 それから両親は色々な話をしてくれた。

 もちろん幼い俺に塔の黒い話をしていたわけじゃない、親子として、人として、失われていた時間を取り戻すような話を沢山沢山した。

 俺のこと、何が好きで、何を学んで、どうなりたいかを話した。

 両親がどう思って、俺にどうなって欲しいかを話した。

 明日の話をした、夢の話をした、過去の話をした、弟妹の話をした。

 買い物に行った。

 普通の家庭のように食材を勝手帰った。

 今まで渡せなかった分と言って沢山の玩具を貰った。

 新しい写真を撮った。

 古い写真は両親の顔を知る唯一のものであったけれど、それは俺が生まれる前に撮ったものだったから。

 新しい家族写真を撮った。


 そうして、両親はまた俺の元から去っていった。

 去ったあの日両親は仕事に行ってくると言っていた。

 俺は何となくで察していた、両親がもう長い事帰れないという事を。

 それでも一度帰ってきたのだから、また帰って来てくれる。

 こんどは話しに出ていた弟と妹とも会いたいと思った。


 だけど、高校に入ってすぐの頃...…

 それは二度と訪れない夢であったと知った。


 新しい環境に慣れるまでに、柄にもなく寂しくなって家族写真を眺めていた。

 ずっと飾られていた写真。

 そうそう手に取ることもなく、遠くから眺めていたから気がつかなかった。

 写真立ての裏側。

 そこに挟み込まれていたのは二つのティリスだった。


 一つは俺の髪と同じ薄茶色のもの、そしてもう一つは()()だった。

 そして、俺はその謎のティリスを起動する。


 茶色のティリスにはこれまでの全てが入っていた。

 塔の裏側のことも、両親が携わった『神人計画』の事も、『零号計画』の事も。

 そして、それに反対し、逃げ出したがついに補足され連れ戻されることになったことも。


 俺は真実を知って、最初は何もする気が起きなかった。

 あの男が現れるまでは、

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