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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第1章-星と魔弾-
8/97

重圧3

 昨晩も特に何も起きなかった。

 もしかしたら、色々考えすぎていたのかもしれない。

 ここまで何も起きないと、あの梟面の男が言っていたことも嘘なんじゃないかと疑いたくなってくる。


 今まで警戒しすぎていたのだ。

 使い方もわからず、ヘタに使うのも危険を伴うような代物を手元に置いておくのは確かに不安もある。

 だが、当初思っていたよりも身近な危険が少ないことがこの数日の経験でわかった。


 こうなると、もうあの梟面の男に直接話を聞くぐらいじゃないと進展はしないのだろうと思う。


 この膠着した状況にやきもきとしながら今日も学園へ行く。




 学園につくといつもとは少しばかり雰囲気が違っていた。

 なんというか全体的にざわついているというか、空気が騒がしいというべきか。

 その雰囲気は教室に入っても変わらなかった。

 何の話をしているかはさっぱりだったが、なんとなく同じ話をしているというのがわかった。


 こういう時、教室に気兼ねなく話しかけられる奴がいないと話題に取り残される。

 六鹿はダメ。女子のグループで集まっているし、学園の有名人と話しかけるのは難易度が高い。

 十六夜も...ダメだな、完全に空気と一体化してやがる。

 あの”話しかけるなオーラ”はすさまじいな。


 そして、その二人がダメになるともう教室内に俺が知り合いと呼べるような人間がいない。

 普段、生活するのに対して困らない程度に人付き合いはしている。授業とか、そういうのに困らない程度には...

 だが、俺はやはり変人扱い。積極的に友達になろうなんて奴はいない。


 疎外感に打ちひしがれていると、その変人に声をかけるもう一人の変人がやってきた。


「おは~、晴。」

「よう羽衣。やっぱり持つべきは親友だな」

「え、何?」


 教室に羽衣が遊びに来た。

 おかげで謎の疎外感を気にしなくて済む。

 悪いな十六夜。俺とお前の差はここにあった。


「いや、ちょっと聞きたいことがあって」

「何よ、改まって」

「大したことじゃないんだが、教室っていうか...学園が騒がしくないか?こう...空気というか」

「え?何?風が騒がしく感じるようになったの?随分遅い発症だねぇ...これは治らないかも」

「誰が中二病だよ、誰が」

「いやいや、人生を決められているのに納得できねぇっていうのは十分、中二病じゃない?」

「そ...んなことはないだろ」


 まさかの中二病宣言。

 え、俺って中二病なのか?

 急に自分が物わかりの悪い子供に思えてきて恥ずかしい。


「ま、確かに今日は騒がしいと思うよ」

「それを教えてくれよ」


 分かってやっているこいつは性格が良すぎる。


「ま、結論から言っちゃうとこの街で殺人事件が起きた。そのニュースが昨日やってたからみんなその話題一色なんだと思うよ」

「...殺人事件~?」


 なるほど、それは確かに話題になるだろう。

 特にここは報化技術がある街。

 最初から犯罪に利用できると分かっているものに対策をしていないわけがなく、他の街よりも犯罪を犯す難易度が高い街であると宣伝している。

 それは如実に犯罪率に表れているらしい。


「そんなことがあったのか」

「晴はなんで逆に知らないんだよ」

「いや、独り暮らしの若い男が家でニュースなんか見るわけないだろ」

「ネットサーフィンでもしたら一発でわかるよ。めっちゃ話題になってたんだから」

「あー、昨日はなぁ」


 昨日、というよりここ最近は例の件で考えることや警戒することが多くてネットサーフィンをしていない。

 気を張り詰めていたら自然と眠くなり気が付けば朝ということがここ最近のルーティンとなっていた。


「それにしても、確かに殺人事件なんて穏やかじゃないし珍しいけどさ...そんなに盛り上がる話題かね?誰かの身内が殺された~とかなら分かるけど、知らない人が死んでそれを悲しむほど心がきれいな奴なんてそういないだろ」

「それはそう。だから、話題は殺人事件そのものじゃなくて手口のほうだよ」

「手口?」

「そう。殺されたのは一般男性だったんだけどね、致命傷は何か高温の物で頭を焼かれていたらしい。それでそんな武器を持ち運べないだろうからティリスの使用を疑われたんだけど、周辺の観測機器ではティリスの使用を観測できていなかったんだって」

「...それで?」


 この街の犯罪抑止の一つである観測機器。

 レーダーのように周辺で使用されたティリスの情報を型番や何を取り出したかまで自動で記録する監視カメラのようなものだ。


「だから、警察としては違法に製造されたか改造されたティリスを利用したこの街初めてのティリス犯罪かもしれないって発表したんだ」

「違法ティリス......」


 その言葉に思わず、教室の端で女子グループと一緒にいる六鹿を見てしまう。

 遠くから見た感じでは、特に変わったところはなさそうだが、六鹿も当然この話を知っているだろう。

 きっとこの街のほとんどはそれを聞いても珍しい事件で、今までにないパターンってことで興味を惹かれているだけなんだろう。

 だが、ごく一部。俺や六鹿のような人間には全く違う意味を持った事件の可能性があった。


「とまぁ、事件の珍しさと凶悪さが天元突破してるから街の行政も一般人にはしばらく不要不急の外出を避けるように要請しているよ。興味本位で近づかれると危ないってね」

「いや、普通に考えたら殺人犯とか怖すぎて近づきたくないわ」

「いやいや、顔もわからない犯人に近づかないなんて無理でしょ。だから、そもそも出かけるなってこと」

「の割には学園は休みにならないんだな」

「ままならないねぇ」


 そこでチャイムが鳴る。

 羽衣は「しばらくゲーセンはお預けかなぁ」なんて呑気なことを言って教室を出ていった。


 その日の授業はいつも以上に頭に入らなかった。


 そして放課後。

 ここ数日ですっかりいつもの場所になった屋上へ向かう。

 そこにはやはり六鹿がいた。


「六鹿、昨日は何かあったか?」

「何かってなんですか?」


 まだ、今朝の話の動揺が抜けていない俺は煮え切らない質問を六鹿に投げかけてしまう。

 六鹿もそんな俺の心境を察してか苦笑い気味に意地の悪い言葉を返す。


「いや、なんていうかな...昨日あった事件の件。あれ聞いてどう思った?」

「いきなり本題ですね...まぁ、ついに動いたか、と」

「やっぱりそう思うよなぁ」


 違法ティリス。それが関わっている可能性のある初めての殺人事件。それがこのタイミングなんて俺たちが関わっている違法ティリス。ティリス・アナザーとそれをめぐるゲームと無関係とは思えない。

 もちろん証拠も確証もない。

 だけど、無関係だと楽観的に無視することもできない。


「一応聞くけど、何か情報持ってたりする?」

「クラスメイトと同じぐらいしか知らないから、三船くんとも大して変わりないと思います」


 つまりはただただ状況が動いたかもしれない事だけ知っていて、それが好調なのか不調なのかもわからずただ警戒することしかできないってことだ。


「問題はそれで、俺たちがどうするべきかってことだな」

「...そうですね、やれる事はあまりないでしょうけど」


 確かにやれる事は少ない。

 少なすぎて、やれる事を探すより先に行動の方針を決めないと動きようがないほどだ。動きながら考えるなんてことができない。


「とりあえずこれだけ決めよう。積極的に関わるか、積極的に逃げるか」

「その二択?」

「だってそうだろ?今のまま様子見だと受け身になる。相手は殺人犯。決して低くはない確率で俺や六鹿のアナザーを狙っているなら受け身は不味いだろ」

「持っているというのを隠して普通に生活ではだめなんですか?」

「...なくはない。だけど、これだけデカいことが起きて素知らぬ顔を何日も続けられる自信がない」


 俺の自信満々の自信がない宣言に六鹿も考えるそぶりをしながら肯定する。


「私も、ないですね」

「なら、こっちから探して対策をとるか、絶対に見つからないように引きこもるしかないだろ」

「...積極的に探して対策を取る方にしませんか」


 六鹿の返答は意外だった。

 今まで危険からは遠ざかる方針だった。俺が首を突っ込もうとすることに否定的だった。

 そしてそれは正論だったから俺としてはおとなしくしていた。

 だから、今回も逃げる方を選択すると思っていた。

 逃げるという選択肢を迷いなく選択できる強さを持っているから。


「...なぜ?と言いたい顔してますね。簡単ですよ、逃げるというのが現実的じゃないからです。この街から出ることはできません。私たちはまだ子供ですから...かといって家に引きこもることも難しい。理由がないから。それに家が安全とは言い切れない。相手は殺人犯。不法侵入ぐらいはしてくるかもしれない。なら、こちらから探して最悪の場合でもアナザーを引き渡せば穏便に済むかもしれない可能性に賭けたほうが心に優しいと思うんです」


 確かに、いきなり襲われたら交渉もへったくれもない。

 なら交渉の可能性が残っているガンガン行こうぜにするってわけだ。


「わかった。なら方針はそれで行こう...で、実際にやる事だけど」

「まぁ、選択肢は多くないですよね」

「そりゃ、警察の捜査からも逃げおおせているわけだし、俺たち素人が探す方法なんて一つしかない」

「「事件現場に行くこと」」


 六鹿と意見ががっちり合う。

 そう素人が人探しするなら最後の目撃場所や少ない手がかりのある場所から歩いて探すしかない。


「問題は、事件現場はきっと封鎖されていると思うんですよね」

「あー、それは確かに」


 それはそうだ。警察だって貴重な手がかりを逃したくない。

 となると現場の保存とかは当然しているはずで、一般人の俺たちでは立ち入りはできないだろうし、ヘタしたら近づいただけで補導されかねない。


「とりあえず近辺まで行ってから考えるか」


 方針もできる事も考えたら後は行動しか残ってない。

 そういうことを六鹿に言う。


「わかりました。ではこのまま行きましょうか」

「おう」


 放課後から少したって、事件の影響かほとんどの部活が休みになった学園は人気がなかった。

 おかげで六鹿と並んで廊下を歩いても人に見られなくて助かった。

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