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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
最終章-新たな世界への旅路-
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ルート確保

 光り輝く地図。

 それが今俺たちの頭上に現れる。

 それは一般的な平面の地図ではなく、立体的に現れることでこの塔の構造が直感的に分かる形になっている。


「あはは!いや、本当に成功させるなんてね!」

「なんだ、失敗すると思っていたのか?お前が?」

「いいや、そんなわけないだろう?ただ、思ったよりあっさりだったことに喜んじゃっただけだよ」


 オウルは非常に楽しそうにその光景を眺めて褒めたたえる。

 しかし、これは本当に凄いと思う。

 能力というのは発想。イメージだと、度々言われてきた。

 そしてそれを実践してきたし、もう体に、思考にこびりついた考え方でもある。

 決して先入観に囚われてはいけない。

 何よりも出来るという確信が能力を上手く使うコツだと、経験で理解できる。


 しかし、だからこそ凄いと言わざるを得ない。

 仮に俺が光の能力者だったとしても、その使い方はきっとできなかっただろう。

 俺には光を電気に、電気を光に変換するイメージが湧かない。

 あの光の能力を何よりも身近に感じていたとしても、それを想像できなければ能力として成立することはない。

 それを、忘れそうになるが本来の持ち主ではない天使(あまつか)がやってのけることに驚愕する。


「何はともあれ、これで僕らはこの塔の詳細な構造を手に入れることが出来たわけだ。これで、多少のトラップや待ち伏せは回避できるだろう?」


 こうして、マップを見ると複数の分かれ道や、同じ場所をグルグルと回る羽目になりそうな繋がった通路なんかも見受けられる。

 何よりも、この塔の構造で特徴的なのは...…


「なんや、階段があっちこっちにバラケとるな…」


 階段がフロアごとに設置場所がバラバラなことだった。

 こういう構造はたしか、何かの創作で見たことがあるな…


「侵入者対策ってやつか?」

「ああ、そういうことですか...…」


 実際、俺はそれを何かで見ただけで、ちゃんと調べたわけじゃないから詳しくは覚えていないが、こうして侵入者側になってみるとよくわかる。

 こうもランダムに階段を設置されるというのは非常に厄介だ。


 単純に上の階に進むためだけで、そのフロアをしっかりと攻略しなければいけない。

 今でこそ、マップを手に入れて階段の位置が分かっているが、それで最短を言ったとしてもフロアを横断する羽目になる。

 それは侵入者としては非常に手間であり、危険を伴う事ではある。

 そして、本来マップなんて持っていない。

 ならば、階段の位置が分からず、探しながらの行軍になると思えばその面倒さが際立つ。


 さらに言えば、俺たちにとっては厄介な相手であり、できれば避けて通りたい相手である天使たち。

 どの階になるかは分からないが、どこかのフロアで階段に向かうために必ず使わなきゃいけない道にでも配置すれば、それは必ず接敵する相手となってしまう。

 それが、たったそれだけが俺たちにとっては致命傷になりかねない。


「厄介...…な」

「そりゃ、伊達に能力者あいてに敵対するかのような行動はしないだろうよ」

「せやな、俺たちを全員一度に相手にしても問題ないと思えるぐらいには自信があるんやろ?これぐらいは当たり前なのかも」


 これぐらいは仕方ない、むしろあって当たり前だと相賀も九重も言う。

 まあ、確かに俺としてもそれぐらいはあって当たり前の障害かと納得をする。


「むしろ、これはチャンスかもしれませんね」

「どういうこと?」

「こういう構造をしているなら、私たちと天使を確実に接敵させるのに苦労することはないでしょう?通り道に配置するだけでいいんですから...…なら、逆に言うなら私たちが必ず通らなきゃいけない道にこそ天使はいて、それ以外の道にはいないという事では?」

「あ!」


 なるほど、逆の考え方だ。

 俺たちはこの塔を進む限り、天使と戦うことは避けられない。

 避けられないが、不意打ちや偶然の接敵というのは避けられる。

 それは、ただでさえパワーバランスで負けている現状では、地の利を使われないという最大の利点だった。


「私たちに選択の余地がある通路では、襲ってくるのはせいぜい先ほどの機械兵でしょう?オウルの知っている戦力で全てならですけど」

「あはは、それは手厳しいね。確かに正確なことは言えないけれど、信憑性はそこそこ高いはずなんだけどな」

「そこそこ高い、に命を賭けていたらいくらあっても足らないだろう」


 それはそうだ。

 命を賭けるのは、曲げられない時と確実な時だけだ。

 そこそこに賭けた結果、それを失うなんて馬鹿のすることだ。


「それで?敵の配置は、まぁこの際通り道は多少楽で待ち構えている中ボスとラスボスはいいとして、俺たちはどこに向かうべきなんだ?」


 そうだ。色々話しても、俺たちがこのまま進むことには変わらない。

 今、話すべきはどこに向かうかだ。

 だが、天使(あまつか)の作り出した光のマップは、ご丁寧に部屋の名前まで書いてあるにはあるのだが、そのほとんどが資料室、保管室、実験室で構成されていてどこがどこだか俺たちには分からない状態だった。


「そうだね、これに関しては僕も想像でしかないけれど、ここには大量の実験室や保管室があるけれど...…その系統別に名前を少し変えつつも、同じ系統の部屋というのは存在している。そういうのには番号が振られているけれど、得てしてこういうのは初めに創られたところが番号が若い。そして、重要な実験ほど初めに行っている可能性が高い。特に博士が重要であると判断しているものほど...…」


 オウルはそう言いながら、映し出されている塔のマップの上に方。ほとんど頂上に近い位置に存在しているフロアぶち抜きの一室を指さす。

 そこに書かれていたの完結な一言。


『第一実験室』


 それだけだった。

 ああ、なるほど。俺はそこを目指さなきゃいけないというわけだ。

 ようやく、目標が分かった。

 あとはどんな障害があろうと、そこを目指すだけだ。


「ほな、俺はこっち行ってるわ」


 そう決意を固めていると九重が、急に変なことを言い出す。


「九重さん!?それは別行動するっていうことですか?」

「ああ、この中で一番生存だけを、条件にしたら俺の能力が一番可能性高いからな。だから、俺がこれをやっとかなあかんなって」

「...…これって?」


 俺の疑問に九重は指を指して答えを示す。

 九重が指した先は、オウルの示した先とは真逆。

 地下にある一室。


『動力室』


 と書かれていた部屋だった。

 しかし、そんな部屋にいったい何の用があると言うのだろう?


「まぁ、目的は単純に足止めと保険ってとこやな」

「なるほどね、九重くんはやっぱり優秀だね。だしかに、それなら君の能力はうってつけだ」

「どういうことだ?」


 相賀が間髪入れずに訊ねる。

 しかし、俺にもその意図が理解できない。


「この施設は実験施設だ。その多くは様々な機械によって支えられているし、天使なんかを除いた戦力もまた機械兵とこれもまた機械だ。それを動かす動力は当然電気だろう?すでに充電されていて切り離されたものは無理でも、今もなお動力と繋がっている機械だったら...…九重くんが動力に触れて能力を使うだけで機能停止に追い込める」


 ああ、なるほど。

 確かに、機械兵相手の戦いは思っていたよりも簡単だった。

 だけど、無尽蔵に戦い続けられるかと言われれば無理だ。

 それがまだ出撃していない、奴だけでも停止させられるなら確かに助かる。


「今のが、足止め...…で、保険は」

「晴くんですか...…」

「せや、晴くんが万が一、敵の手に落ちたときにその能力で無限エネルギーを確保させないように、あらかじめエネルギーを0にしとく。晴くんの能力は1を2にするのであって0から増やすことはできんからな」


 なるほど、確かにそれはやっておくべき保険だと言われれば、半ば我儘のようにこの場に来ている俺にとっては何も言えないな。

 実際、九重の能力は一人で行動するのに便利な能力だ。

 自分一人を守るならば、あれほど便利な能力もないだろうからな。

 むしろ、俺たちと行動する場合俺たちの能力を間違って消さない様に、気を使っているだろうしここは単独行動してもらったほうが、九重的にもいいのかもしれない。


「納得してもらえたか?ほな、俺は先行くで」

「九重」

「?」

「死ぬなよ」


 ありきたりだが、今ここは敵地。

 しかも、本当に命の保証がない場所だ。

 あいつなら大丈夫。そう心から思っていても、同時に万が一を考えてしまう。

 そんな心から生まれた心配の言葉。


「ああ、せやった。晴くんに言っておかなあかん事があったんや...…」

「なんだ?」

「死んでも、希空ちゃんを助けろよ」

「っ!」


 は、折角心配してやってんのに、そっちは俺に死んでもとか言うのか…

 でも、そうだな。


「ああ、当然だ」


 それだけを言うと、九重はさっさと目的地に向けてこの場を去っていった。

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