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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
最終章-新たな世界への旅路-
75/110

魔窟

 轟音。


 まるで、落雷でもあったかのような...…

 いや、それはさながら堅固に造られた砦を破壊するための兵器の一撃。

 大量の炸薬と、超質量の鋼鉄の塊が着弾したかのような、そんな破壊音。


 そんな音が、その闇の一切を外に漏らすことのない白亜の塔の麓で鳴り響いた。


 それは音だけでなく、まさしく兵器と言って差し支えない結果を伴っていた。


 おおよそ人には生み出すことのできない破壊力を秘めた拳も、

 神の御業と見紛う光の断罪剣も、

 今この場にある破壊を目的とした時の上の方に君臨する力を、拒み、弾き、否定し、その役目を真っ当した門。


 それに対して放った俺と相賀の力を組み合わせた、まさしく必殺の技。

 直撃さえしてしまえば、あの天使たちにすらたったの一撃で勝ててしまうかもしれない。

 そう思ってしまうほどの力を秘めた一撃は、果たしてその門との戦いに勝利していた。


「あはは!凄い!凄い!!これほどか!僕をして、最強の矛だったと言わざるを得ないほどの!」


 オウルはテンションも高めに何やら吼えている。

 六鹿は声も出ない様子で驚愕に目を見開いていた。

 天使(あまつか)は楽しそうに笑っていた。

 九重はなぜか誇らしげにしていた。


 四者四様に反応をしていたが、その中でも困惑が大きいのは紛れもなくこの一撃を放った俺と相賀の二人だっただろう。

 それは、明らかに想像していたものよりもはるかに大規模な破壊。


「これは…」

「...…これって、俺らのせいか?」


 相賀がなにか責任を逃れようとするかのような発言をするが、もとより俺たちは塔の博士とは敵対している。

 このティクティリスという名前の街の皮を被った、巨大な実験場の管理者であるはずの博士との敵対はすなわち実質的な国家反逆とか、テロリズムとかに近いだろうから今更そんなことを言うのはお門違いのはずだ。


 しかし、相賀の気持ちも分からなくはない。

 想定したよりも凄い事になって、おじけづくのは仕方のない事だと思うのだ。

 特に、何かを壊す。という事に関しては...…


 目の前に広がるのは門だった瓦礫と、衝撃が突き抜けた道を残すように地面に残る抉られた痕。

 そして、勢い余って吹き飛ばした塔のその本当の入口。


 最初は土煙がもうもうと立ち込めてよく見えていなかったが、全員の思考が停止しているうちに風に攫われてそんな視界を遮るものも無くなった今ならハッキリと塔の中まで見通せてしまっている。

 そんな状態になってしまって、これから乗り込もうとしている相手なのに、やりすぎたかもしれないという心のブレーキがかかってしまった。


「いやいやいや!すごくいい物を見せてもらったよ!ほらほら、どうしたんだい?せっかく入口まで開けたんだから早く行こうよ」


 そのなかでもオウルだけはそのやたら高いテンションで持って俺たちを促す。

 いまだなお、混乱が覚め止まぬ俺たちを伴って、開放的になった塔の入口へと歩を進める。


 混乱しつつも、当初の目的を忘れたわけではない。

 意識を切り替える努力をしつつも、オウルに引きずられるように塔へと入っていった。




 塔の中は予想通りと言うべきか、むしろ意外と言うべきか悩むものではあった。

 白亜の塔。

 昔からこの街の中心にある目立つ建物であるから、そんなに興味はなくともちょっとした想像ぐらいはきっと街の誰もがする。

 きっとこういう建物なんだろうという想像だ。

 何も知らないただの青年だった俺は、あの建物をその真っ白な見た目から少しだけ神聖なものだと思っていた。

 だから、中身はきっと荘厳で神聖で、さぞ俺にとっては居心地の悪い場所なんだろうなと思っていた。

 実験施設の総本山であると聞いてからは、なんとなくのイメージで真っ白な部屋とかが無機質に並ぶような味気ないものを想像していた。


 そして、その想像はどちらも正解ともいえる雰囲気だった。


 確かに、全面が真っ白で味気のない内装は、実験施設といわれて俺が想像した通りのものではあった。

 しかし、よくよく見て見れば所々にワンポイント程度に施された装飾がその味気のない内装を神聖なものへと変えていた。


「なんというか、白いな」

「やめーや、その頭の悪い感想...…」

「いや、分かりますよ?なんか感想も出ない感じの建物ですよね」

「...…私としてはここ生まれのようなものだし、コレが普通だから分からない」

「いやいや、こればっかりは天使(あまつか)ちゃんがここ生まれでこれが普通だと思っているからというよりは、この建物が印象を与えないような作りになっているのが悪いよ。どんなに永く過ごしても、この場所に思い入れなんてできないような作りになっているからね」

「なんだそれ?意味あるのか?」


 オウルが言うにはここはあえて印象に残らないようにするように作られているらしい。

 しかし、そんなことに何の意味があると言うのか...…


「もちろん意味ならあるさ!ここは巨大な実験施設だよ?ここにあるほとんどの部屋は何かしらの実験用の部屋だ。しかし、しかしだよ?実験ていうのは不確定要素は出来るだけ排除したいものだ。だからこそ何もない、色の刺激すらない真っ白な部屋というのは、まぁ分かるだろう?」


 オウルの言葉にまぁ、それは分かると頷く。

 しかし、たとえ真っ白だとはいえ...…むしろ真っ白だからこそ印象というのは強烈に残りそうなものだけど…

 この建物は、確かに言われてみればなんだが、目にはすっと飛び込んでくるようなインパクトをしているのにそれを覚えようとか、思い出そうとすると途端に靄がかかったようにちゃんと認識できなくなる。


「だけどね?刺激が少ない部屋というのは慣れるのも早いということだ、ここでする実験のそのほとんどは生き物を使うからね、「慣れ」という変化も出来るだけ排除したかった。だから、壁や天井、床の一部に特殊な装飾を施して、印象に残らないように細工をしているのさ」


 そういわれて、少しだけ納得はできるけど、スケールが上手く感じ取れなかった。

 なるほど本当の意味で条件を同一にしたいから、慣れさせもしたくないと…その動機は分かる。

 そうしようと思うまでの思考は理解できるが、一体どんな方法を使えばそんな事が出来るのだろうか?


「あまり深く考えない方がいいよ、これも能力研究の一環で産まれた技術だから…気にするだけ無駄だよ」


 そう解説しながら歩く、オウルの足取りは軽い。

 そういえば、こいつはここの構造をある程度までは分かるんだったな…だけど、こいつの知っている道は罠があるとか言っていなかったか?


「そういや、オウル。道はこっちであってんのか?」

「?さぁ?」

「え?」

「はぁ?」


 待て待て、さも当然のように先陣を切って歩くものだから、脳死でオウルの後をついていっていたが、こいつ何も分からずに歩いていたのか?


「まてまて、なら今俺たちはどこに向かってるんだ?」

「まぁまぁ、落ち着いてよ…ちゃんと事前に言ったでしょ?策があるんだってば…そのために今は適当に歩くんだよ」

「...…策があるから、慎重に動くんじゃなくて?」

「うん、適当に」


 正気か?

 こんな敵地の懐で、考えは―あるらしいけど、それでも適当に歩き回るなんて

 俺でも分かる自殺行為では?


「とりあえず、僕ならそろそろ―」


 ちょうど曲がり角にさしかかったタイミングだった。

 オウルがその角へ身をだした瞬間、反射的に身をそらして戻ってくる。

 その動きに、脳が言葉を発するよりも、その行動の意味を考えるよりも先に、釣られて止まる。

 そして次の瞬間には、その角の向こうから聞いたことのない聞き馴染のある音がいくつも聞こえた。


 それは、フィクションでは腐るほど、今時ならば動画サイトなどでも気軽に聞くことができるが、しかしこの国にいる限り本物を聞く機会など皆無に等しい音。

 銃声だった。


 その独特な破裂音は、それを視なくともどういう物かを想像させるのが容易なほどの連射音で、強化していない俺の目には音とほぼ同時にしか感じないタイミングで、今まさに曲がろうとしていた曲がり角の壁を削っていく。


「ようやくあえたね」

「おいおい、見つかってんじゃねぇか」

「いやいや、見つかる云々はもう入口の時点で無駄でしょ?なら、どこかで必ず待ち伏せか襲撃はあるだろうなって思って誘ってたんだよ」

「誘うって囮かいな」

「ちょっと違うかな、ま、僕の策に必要だから待ってたんだよ。この角の先にいるのは機械兵だね。あれが一体でいいから必要なんだよ、制圧してくれる?」


 オウルはそうやって、簡単に言うのだった。

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