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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
最終章-新たな世界への旅路-
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巨神の槍

 天秤神殿(サンクチュアリ)

 オウルの言うところのそれは、その実、多くの街の住人にとっては少しばかり目立つ建物であるという以外に印象はなかったりする。

 美しい白亜の塔は、なるほど確かに目立ち、観光資源としての価値があると言われれば納得せざるを得ないほどの存在感はあった。

 だが、それはあくまでもこの街を外から見た時の話でしかない。


 よくあるだろう?

 観光地としては有名だが、現地の人にとっては「ああ、なんかあるよね」程度の認識でしかない場所。

 そこはそういう類の建物だった。


 理由はいくつかある。

 まずは、そもそもその建物に入ることはできないということ。

 その裏の顔を知る者は少ないが、表向きその建物はこの街の行政機関ではあるのだ。

 つまりは、そこへは理由のある人間しか立ち入ることを許されていない。

 一般人は完全な立ち入り禁止区域となっており、そこに行ったところでなにも出来ないのだ。


 次に、その塔の周囲に何もない事。

 その塔は孤立するように建てられており、一般人が気軽に入れるような店なんてなく、その塔を見て楽しむような場所がない事だ。

 観光資源というのは、それを十全に生かすことができる周囲の協力あってこそ輝く。

 それはそこの近くを便利にするような店、交通だったり、それをある程度見て楽しむことができるような街の創りだったり…


 つまり、観光資源になりうる建物であることを否定するつもりはないが、それを観光しに来て楽しいかと言われれば全く持ってそんなことはない場所であるという事だ。


 そんな多くの人にとってはただのバカでかい、無駄に綺麗な塔。

 きっとその闇を知る人にとっては、邪悪を積み上げて神に至る(バベル)の塔。

 そして俺たちにとっては、囚われの()のいる魔王城。


 そんな場所の前に俺たちは今はいた。

 俺たちにとっては、塔の周りに何もないのはありがたい。

 それは塔の関係者以外が、この周りにいるという事はないのだから。

 無関係の人間を巻き込むことを心配しなくてもいいのは、思いっきり力を使えるからとても助かる。


 しかし、周りに何もなく、孤立するようにそびえる塔は、つまりコソコソとした動きが出来ないという事でもあった。

 この立地を考えるとどうしても、行動は目立つ。

 きっと最初から正面突破以外に出来なかっただろうと言うのが伺える程度には、塔に近づくだけで目立つ。

 その塔自体の能力が高いからこそ成り立つ、防衛策には参る。


「さて、まずは正面の門を破壊しないとね」


 オウルがそういって無警戒に正面入り口へと向かう。

 その友人の家を訪ねるかのような足取りには、驚くがオウルにとってはまさにそのような場所であるのだろうし、奴が警戒していないのならここはまだ大丈夫という事だろう。


「...…これは…」


 誰かが思わず口からこぼす言葉。

 それはきっとこの場で、オウル以外が皆思っていること。

 一歩近づくたびに、感じるその圧。

 恐らく防衛のために、隠蔽を考えていないのだろう。

 ただの門というには、明らかに無理があるほどの情報の圧がそこにあった。

 まるでアナザーを起動して、能力を待機させている俺たちのような圧。

 それをこの目の前の門から感じていた。

 そして、それは勘違いなどでなく、事前にオウルから聞いていた通り門自体がアナザーによって何重にも守られているからこその圧だろう。


「これを破壊しなきゃいけないんですか...…」

「とはいえ、オウルから事前に聞いている能力ならば割と楽に壊せそうだけど」

「そうやな、やりようはありそうなんやけど」


 そう、事前に聞いていた通りならいくらでもやりようはあるだろう。

 もちろんオウルが言っていた通り、生半可な攻撃じゃ壊せないだろう。

 とは言え、オウルとしては俺にとっぱ出来るかのような態度をとっていたし、それなら俺以外にも突破できる天使(やつ)もいるだろう。


 しかし、しかしだ。

 事前に聞いていた門にかかっている能力。それは『頑強』と『再生』の二つだったはず...…

 だというのに、この門からは明らかに複数…二つ以上の能力を感じる。

 それはつまり、事前情報よりも強力な守りを施されているということだ。

 それを破壊となると、オウルの想定よりもさらに難易度が上がっているということ…それは果たして大丈夫なのだろうか?


「ま、心配してもしょうがない...…ここまで来たならやるしかないでしょ?(リグフト)


 天使(あまつか)が、そう言いながらレーザーをぶっ放す。

 それは、一瞬で放たれ貯めを全くと言っていいほどしなかった。それにも関わらず、十分すぎる威力を秘めていた。

 天使(あまつか)も能力の特訓によって、使い方が上手くなったのかそれはかつて俺の腕を焼き貫いたそれと比べて、明らかに威力も熱量も貫通力も上がっているように見えた。

 まさに光の剣とでも言えるような、あらゆるものを溶断するだけの力を秘めた光線が門を襲う。


「...…マジか」


 その言葉は相賀の物だったが、俺も全く同じ気持ちだった。

 天使(あまつか)のレーザーは確かに必殺の威力だった。

 おおよそ地球上の物質で防ぎきれるものには見えなかった。

 なのに、そのレーザーが創った結果は門の表面を少しばかり溶かしただけ。

 もちろん貫通力は高いが破壊力という意味ではそこまでではないレーザーだった。

 だから、これで門を完全攻略できるなんて都合のいいことは誰も考えていなかっただろう。だが、あの天使(あまつか)のレーザーをして、表面を溶かすことしかできないとはそれこそ誰も考えていなかった。


「これは…?なんか変な感じだ。おい、晴。殴ってみろ」


 そしてレーザーを放った本人である天使(あまつか)も、その結果は意外な物であったらしく、何かを考えてから俺にも試してみろと言う。

 それを聞いて、特にやらない理由もないためおとなしく従う。


増幅(アンファクション)


 門の正面に立ち、能力を起動する。

 体中に力が張り、人外の破壊力をいつでも発揮できるようにする。

 俺の能力の性質を考えれば、軽く殴っても重く殴っても、どうせ増幅に上限が出来てしまっている現状を考えると変わりはない。

 それでも、ちゃんと構える。

 その方が威力が出るイメージがしやすいからだ。


「ふぅ...…」


 折角、時間をかけて能力を使えるのだから息を吐いて、イメージを明確にする。

 思い描くのは拳。

 何物をも破壊する拳。

 膨大で、甚大な破壊力がこの目の前の門を粉々にするイメージ。


 それを思い描き、完璧と、自分を褒めたたえられるほどにイメージをしていき、それを現実にする。


 放ったのは時間をかけた分、理想に近い形で放たれた最高の一撃。

 能力によって強固になった拳が、人の限界を超える速度となり、そこに含まれる破壊力そのものが増幅していく。

 それを増幅されて、引き延ばされた意識の中でハッキリと認識する。


 このまま決まれば、確実に門を破壊できる。

 そう確信をしていたその時。

 まさに、拳が門へと突き刺さる直前だった。

 必破崩壊の威力を秘めた拳から、威力そのものが奪われていくような感覚。


 それに強い不快感を感じながらも、拳を今更止めることも出来ずにそのまま振りぬく。


 ドゴォ!!!!!


 と、轟音が鳴り響く。

 結果、俺の拳は門を貫通し、穴を空ける事に成功した。

 成功したが、それは想定よりも非常に小さい穴でしかなかった。

 人が通るには全く足りていない程度の穴を空けた門は、その全体を淡く光らせながら治っていく。

 それは逆再生をしているかのように、瓦礫がどこからともなく集まって来て治っていく。


「晴くんでも…」


 声を漏らしたのは今度は六鹿だった。

 それはショックを受けたというよりは、手詰まりを意識してしまった絶望感からくるような声だった。

 だが、俺としては今の一撃で分かったこともある。


「...…吸収された?」

「やっぱり、そういう類の物か」


 先に一撃を放っていた天使(あまつか)が俺の言葉に同意する。

 今の一撃はそのまま決まっていれば、確実に門を破壊したであろう一撃だった。

 それがそれがあの程度に抑えられたのは、当たる直前のあの不快な現象。

 恐らくこの門はそうやって無敵となっている。


『頑強』でより強く、より硬く、より重く。

 破りづらい門をそうやって作り、

『吸収』で門が完全に破壊されるような攻撃を、耐えられるまでに弱らせ、

『再生』で即座に修復する。

 そうやって守られた門は俺や天使(あまつか)でも破れない最強の盾となった。


「でも、それってさ…九重の能力でどうとでもなんじゃね?」

「あ」


 さて、どうしようか。と仕切りなおす前に相賀がそう提案する。

 そういえば九重の能力ならば、相手がどんな能力だろうと関係ない。

 全てをないものするそれならば、この門だってただの門に出来るはず。


 オウルに破壊しようと、言われて思考がそっちに偏っていたけれど、確かにそっちの方が確実だ。


「あ~どうなんやろね?少なくとも向こうは俺の能力を知っているやろ?なら、そう簡単に突破させてもらえるんかな?」


 九重はそう言いながら門に手を添える。

 そして、全てを0にしてしまうどうしようもない力を行使する。


無力(ゼロ)


 見た目には何も変化はない。

 当然だ。九重の能力は破壊力があるわけではなく、破壊的なだけだから。

 しかし、その力が正しく発揮したのならすでにこの門はただの鋼鉄の門というだけだ。


 だが、もし正しく発揮しないのなら...…


「あかんな...…こりゃダメや。俺の力もその影響を吸収されちまう。やっぱりメタ張られとるわ...…俺の力をというよりかは、アナザーによる直接干渉を吸収して自分にだけ適応させている感じか?なんか奪われた先で、俺の0に戻す力をさらに大きな力で塗りつぶされている感じが…」


 九重が門に手を当てながらも、そう言う。


「その大きな力は、多分『生命』の天使じゃないかな?きっと吸収のアナザーを遠隔操作しているのも彼女だろうから、君の力だけは隔離して自分の天使の力と相殺させてるんだと思うよ」

「そんなこと出来んのかよ…」

「『生命』の子だけの裏技だとは思うけどね、無機物を操る。彼女のそれは常識の外にあるから、それに九重くんの能力は無機物と相性悪いでしょ?自分とは違う構造体相手にはイメージも難しいでしょ」

「...…よく分かってるなぁ」


 こんな土壇場で発覚する九重の苦手な相手。

 とは言え、確かに自分も増幅させる相手に電力とかのエネルギーを指定できないのだから人の事は言えないな。


 でも、これで本当に手詰まりになった。

 一体どうやってこの門を突破すればいいのだろうか。


「ここは、晴くんに頑張ってもらうしかないね」

「は?」

「このままじゃ、僕らはここで待ちぼうけだ。だから、必ず突破の必要がある。それはいいよね?」

「...…ああ、」

「今のところこの門を仮にも突破できたのは君の拳だけだ」

「そりゃ、そうだがアレは手加減とかしてないぞ?ちゃんと全力だった」


 加えて言えば、理想的でもあった。

 アレよりも最高の一撃は放てる自信がない。


「何、大事なのは突破できたという事だよ…」

「そう言う事ですか!晴くんの拳は、『吸収』でも吸収しきれない威力...…」

「そう、だから後は破壊規模さえ大きくなれば、問題は解決するよね?」

「いや、そうかもしれないけど...…」


 攻撃の規模を、破壊の規模を大きくしようとしてはいたのだ。

 それでもあの大きさに抑えられたのだから、無理というものだ。

 ここからさらに破壊規模を大きくするなんて、それこそ


「俺の拳そのものがデカいわけじゃないからなぁ...…破壊規模って言ったって、やっぱり衝撃の起点は俺の拳だし、吸収されちゃ衝撃は外側ほど小さくなるだろ?」

「そうですよね...…」

「うんうん、だからさ…十六夜くん?キミの力も必要だ」

「...…俺の?」


 相賀の?

 そういえば、相賀は拡張で自身の拳を大きくしたりも出来るんだっけ?

 いや、でもそれは大きくなるだけで威力が上がるわけでは...…ああ、だから俺の力も…?


「いや、ちょっとまてオウル。俺は能力の出力を増幅させることはできないんだぞ?その話はしたじゃないか」

「ああ、うんそうだね。でも、それは晴くん側の話でしょ?十六夜くんの側のなら行けるんじゃない?」

「俺が!?」

「うん、別に無根拠で言っているわけじゃないよ?十六夜くんは元々、自分を別の場所に置く能力を使っているのだから、自分以外という認識を上手く持てているじゃないかって思ってね」


 そうか、相賀は当たり判定とかいうよくわからない概念で能力を行使している。

 後は相賀の認識。

 俺が相賀に能力を掛けるとき、その能力を上手くイメージできないせいで、その力を強化出来ない。

 だが、相賀がイメージするのは能力じゃなくて俺の体、その当たり判定のはず。

 元から曖昧なものを対象とした能力だから、俺よりは難易度が低いという事なのかもしれない。


「つっても、ぶっつけ本番で出来る訳が...…」

「なら、アドバイスだ。能力を使う時、君たちは自分の本能。無意識にしたがって能力を使っているけれど、その対象やどういうイメージを持っているかを言葉にしてみなよ…まるで魔法のような詠唱をしてみなよ…能力はイメージが出来なきゃ発動しない、そのイメージを補完するつもりで」


 え?急に何を言っているんだコイツは?

 詠唱だって?今ここで、急に?


「「...…」」


 俺は相賀と顔を見合わせる。

 相賀も困惑の表情を浮かべているが、俺もきっと同じ表情をしている。

 そんなことを急に言われても、何を言えばいいのか...…


「...…二人にとって、門を破壊するのに必要なのはどんな武器ですか?」

「え?」

「いえ、急な言葉に困惑しているようなので、まずは認識のすり合わせからしてはどうかなと」


 六鹿のその言葉に、まだ困惑から抜け出せなくてもやってみようと思う事が出来た。


「門を破壊か...…そうだな、なんかこう...…デカい杭みたいな?」

「確かに、アレだよな。丸太」

「そうそう、でも思うんだけどあれって持ちづらくないか?」

「ああ、分かるわ...…もっと持ちやすいものならいいのにな?槍みたいな?」

「いいな、それ。槍で行こう」


 なんとなくで、話す。

 元々、俺と相賀は話しは合う方だった。

 だから、こういう時には感性が似ているのかもしれない。


「槍、槍か」

「俺が槍だな」


 そう、門を貫いたのは俺。

 なら槍は俺だろう。


「俺は槍」

「俺はそれを大きくすればいいわけだ」


 そうして、役割を決めた後は再び門へと向き直り構える。

 先ほどやった、破壊のイメージを言葉にしながらくみ上げていく。


「俺は槍、全てを壊す槍」

「俺はそれを放つ、大きな手でそれを放つ」

「大きな槍、透明な巨人の、破滅の槍」

「神の城を、魔王の塔を、貫く虚ろな巨人」


 言葉に自己暗示を、

 詠唱に感情を、

 相賀に俺はこうだと、伝えるるもりで

 そして、相賀の言葉にノル。


 だんだんとテンションが上がってきた。

 なんだかんだ言ったって、こういう必殺技のようなものはちょっと楽しい。


 羞恥心を捨てて行け!


「巨人の放つ一撃は、最強の一振り!」

「何ものにも止められぬ、神話の一撃!!」


 ここで、オウルがアナザーを輝かせる。

 瞬間、俺と相賀の意識が繋がり、次の言葉が重なった。


 それはこの技を完成させるイメージ。

 それを形にする言葉。

 すなわち、


「「巨神の槍(テイルドーン)!!!!」」


 この技の名前だった。

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