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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第4章‐不安は日常の中にこそ-
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三天進軍1

 最初に違和感に気が付いたのはたぶん天使(あまつか)だった。

 俺たちを追い回すのに能力を最初から起動済みだったからだろう。

 自分以外の能力による干渉がされていることがすぐに分かったのだろう。


 そして、次点で九重。

 本人曰く、あらゆる力をゼロにする能力を持つが故にあらゆる力に対して敏感になっているとのことだ。

 それに、じゃれ合いと言う前提はあっても放たれる天使(あまつか)の一撃に対して対応できるように能力の準備はしていた。

 そして、遅れて俺や相賀、希空だった。


 俺が気が付けたのは、冷えた空気の感じがしたから。


 まだまだシーズンから外れているとは言え、外で薄着になるのに抵抗は無くなってきた季節。

 そんな中で肌に感じたのは、明らかに自然とは思えない冷気だった。

 そしてそれには覚えがあった。

 圧倒的な、暴力的とすら言える力の奔流。

 その前兆。


 あの時は必死で、何より頭の中をオウルに覗かれているような気味の悪さがあった。

 だからこそ無意識だった。それを今、こうして体験して思い出せば理解できる。

 俺が、あの時なんだかんだで最後まで戦えたのはこの前兆の冷気のおかげだ。

 これがあるから強化された俺の体にとっては無意識にでも構えることが出来る。


 俺は、

 いや、気が付いた全員は反射にほど近い、無意識と意識の狭間で能力を起動して自分の身を守る動きをする。

 そして、走馬灯のように引き延ばされた時間感覚の中でハッキリと聞こえたあの声だ。

 天使(あまつか)の物の様で、天使(あまつか)よりも熱く冷たい。

 冷えた激情を思わせる声音で聞こえたのだ。


熱ノ天使(アシエル)ー『こごえるほのお』」


 直後、白銀の爆炎が周囲を焼いた。

 それは恐らくあえて海水にぶつけて爆発させたんだろうと思える規模で弾けて、瞬時に凍り付いていく。

 それは飛び散った海水を巻き込む形で、あり得ない規模であり得ない速度の凍結を実現する。

 まさに氷の爆発。

 それは確かに油断していた俺たちにとって脅威になりえた。

 同じ規模の攻撃が、例えば学園で授業を受けている時だったなら反応することも出来ずにやられていただろう。

 しかし、ここは幸いにも周りに誰もいない。

 それによって一目を気にせず能力を使って遊んでいた俺たちは油断していても、それに対する対処に間に合った。

 俺は体中に力を巡らせて体を強化する。

 直接触れられたわけでも、あの炎に触ったわけでもない。

 あくまでも大規模氷結の範囲内だっただけ。

 少し体の表面が凍るが、それを無視して自分の速さを増幅させて離脱することで対処する。


 九重を見れば危なげなくその肉体を能力で守っていた。

 そして、自分の身を守るという意味では不安が残る相賀とコピーしていない状態の希空を心配してみれば、天使(あまつか)がその巨大な翼の影に庇って、助けていた。

 凄いな、あの翼。

 表面が凍っているがそれだけだ。

 流石、天使(あまつか)


 そうして、ようやく状況を冷静にみられるようになってから辺りを見渡す。

 そそり立つ氷の柱。

 その麓には冷たい輝きを放つ翼を三対携えた天使が居た。

 それは紛れもなくあの時、俺たちを襲った氷の天使だった。


 その姿を目に捉えた瞬間。

 俺は駆け出す。

 アイツには辛酸をなめさせられている。

 一度は退けてはいるものの、アレはオウルの助けありきの物だ。

 今度は正面から打ち破ると、その意気を込めて駆け出す。


 先ほどの逃げるための無意識の加速ではない。

 明確な意思を持って、明瞭な目的にそって、加速、強化、硬化、猛進。


 それは人間の出せる速度の限界を超えようかという速度。

 0からの加速による緩急によって人の意識を置き去りにする加速。

 踏み出した足元が、やわらかい砂と言うのもあり爆発のように巻き上がる。


 一瞬で天使の元へ近づき、必殺の拳を叩きこもうとする。

 もちろん、こんな直線的な攻撃で倒せるとは思えない。

 あの時も、こんな単純な突進は簡単に防がれた。

 だから、これは他の皆が攻撃やらを準備するための目くらまし。


 目くらましなのだから派手であるほどいいはずだ。

 そう思って、大きく隙が残るような直進攻撃を行った。

 それによって返される反撃には十分注意していた。

 それでも気が付けなかった。


 俺が天使に肉薄するスピードと同じくらいの速度で俺の顔に飛来する拳に。


「グボッァ!!???」


 超スピードに耐えられるように体の硬さも強化していたおかげで、何とかなったが体感的には頭から上が吹き飛んでもおかしくないような衝撃を受けてしまう。

 いくらダメージを受けきる耐久力があっても、いくらダメージを受けても少し時間があれば回復すると言っても、完全な不意打ちを受けても平然としていられるわけじゃない。

 まったく警戒をしていなかった角度からの攻撃に目を白黒させる。


「あちゃ~、こりゃまずいな...」

「晴くん!大丈夫ですか?」


 吹き飛んだ俺の元にいつの間にか戻ってきていた六鹿とオウルがやって来る。

 六鹿に心配されつつ、起き上がり先ほど俺に何があったのか確認しようとした。そして、その原因は見てすぐにわかった。


「...…なぁ、オウル。前にお前が言っていた、天使の人数って何人だっけ?」

「三人だね」


 その光景があまりにも最悪な状況過ぎてオウルに思わず聞く。

 俺が吹き飛んだときに、相賀や天使(あまつか)ならそれを見てもすぐに行動に移すだけの冷静さがあるし、実際そうすると思っていたのにそうしなかったのにも頷ける。

 あまりにも状況が悪すぎて、動くに動けなかったのだ。


「なら、アレは全員出動ってことでいいのか?」


 熱の天使の周りには他に二人の天使が居た。

 片や、天使特有と思われる金の髪を一房にまとめた少女、頭の輪、よく見ると赤いラインの入った三対六翼の大きな翼。

 片や、短く切りそろえられた金髪、頭の輪、鎖が巻き付いた三対六翼の小さな翼。

 対照的ではあるが、明らかに熱の天使と同じ...「零号計画」によって生み出されたのであろう天使たちだった。


「まずいって言ったのはまさにそれなんだけどね?...あの鎖が巻き付いている子。僕知らないんだよね…」

「…はぁ?」

「オウル、どういうことですか?あなた、あちら側にいたことがあるから戦力を知っているという話でしたよね?知らない?()()()が?」


 オウルが知らないという。

 それに対し俺よりも六鹿が激しく動揺する。

 確かに、オウルがこういったことで知らないなんて言うのは初めてかもしれないが、きっとオウルが出て行ったあとに生まれたとかなのだろうとは思う。

 六鹿も混乱しているのだろう。


「たぶん、僕が出た後に創られたんだろうけど…僕があの子の事を知らない。分からない。見えない。て言う事は...いや、違うな...そうか、()()!」

鳥籠ノ天使(フリューエル)


 オウルが何かに気が付いた瞬間、鎖の天使が言葉を放つ。

 力を起動するための意味ある言葉を。

 たったそれだけで、今この場が何かに閉じ込められているかのような重圧のような気配を感じるようになった。


「やっぱり...やられた!」

「なんだ!オウル!これはなんだ!」


 言葉を投げかけるのは天使(あまつか)だった。

 その声には余裕はなく、今は何が起こってもいいように身構えるしかない状態みたいだ。


「これは、ごめん!確実とは言えないけれど、これは僕に対するメタだ!!あっちは僕の事をよく知っている。よく知っていて僕が敵対的になった時ようの戦力も創っていたんだろう...悪いけど、多分もう僕は本当の意味でちょっと手助けができるだけになってしまった可能性が高い」


 オウルがこの場にいる全員に情報を共有するために声を張り上げる。

 いつものアイツなら、例の意思なんかを強制的に脳に叩きつけるあの能力で作戦や情報をやり取りするところだろう。余裕を見せながら、薄ら笑いを浮かべながら。

 それをしない、表情もいつもよりも苦しそうで、そんな珍しい奴の態度がよけいにこの場をよくない空気にしていく。


 このままでは、後手に回る。

 後手に回ってしまえば、俺たちにはこのイレギュラーに対処するだけの余裕がない。

 だから、先手を取らなきゃいけない。

 そう考えたのは俺と六鹿、九重。

 九重はこの状況でまず、防御能力が薄い希空と相賀のフォローをするためにすでに、そちらに向かって駆け出していた。

 それを視界の端に捉えながらも、俺は六鹿に一度視線を向けてから天使に向かって再度突進する。

 六鹿も、ちょうどそのタイミングで俺の方を見ていた。

 そこに同じことを考えているような雰囲気を感じたので援護を全て任せてただ突っ込む。


(リブラ)


 女王の重力(ことば)が、天使たちを縛る。

 その力は無差別で、俺も近づいてしまえば影響を受けるがそれを肉体強化によって無理やり打ち払って近づく。

 しかしこの重力の中で、更なる力で無理やり動けるのは俺だけではなかった。


慈悲ノ天使(バサクィエル)


 赤い天使が言葉を呟けば、その翼に走った赤いラインがさらに紅く輝き、ほのかに全身までも紅い光を纏ったかのようなオーラを放っていた。

 そして、その動きは先ほどと同じ。

 俺と変わらない。ひょっとしたら俺よりもなお速い速度で肉薄する。

 近づきさまに放たれた拳を無意識の動体視力強化によって、捉えギリギリで躱す。

 しかし、無理に交わした影響で崩れたバランス。

 死角から放たれた紅い天使の蹴りが側頭部にヒットし吹き飛ばされる。


 追撃をしようとした天使にレーザーによる妨害がされるも、それは白銀の炎によってかき消される。

 なるほど、連携もちゃんとしてくる、一人ひとりが俺たちよりもよっぽど強い相手ってわけだ。


 場は混沌を加速させていき、平和な浜辺は一瞬で戦場となってしまった。

似た見た目のキャラが一気に増えたので天使たちの特徴比較


天使(あまつか)

金髪ロングストレート、低身長、感情希薄

(リグフト)の天使の輪、(フェアヘア)による1対2翼の大きな翼

『神人計画』の生き残り、『零号計画』のプロトタイプ


熱の天使(アシエル)

金髪ツインテール、低身長、冷たい印象だが内心が熱い印象

氷の天使の輪、氷と陽炎で出来た3対6翼の大きな翼

『零号計画』の第一成功体


慈悲の天使(バサクィエル)

金髪ローポニー、平均身長、いろいろデカい、体のあちこちに紅い線が奔っている

赤みのかかった天使の輪、赤いラインの奔った3対6翼

『零号計画』の第二成功体


鳥籠の天使(フリューエル)

金髪ショート、低身長

鎖のついた天使の輪、鎖が巻き付いた3対6翼の小さな翼

『零号計画』の成功体

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