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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第4章‐不安は日常の中にこそ-
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能力の使い方4

 ここは、かつて俺たちが暴れて一区画まるごと吹き飛ばしてしまったコンテナ街。

 あの戦いからまだ、そこまで時間が経っていないのもあって、闘いの傷痕はハッキリと残っている。

 壊れ拉げたコンテナ。

 地面に突き刺さり、その形を留めないほどに崩れてただの鉄塊になってしまったコンテナ。

 その地面だって、アスファルトによる舗装がひび割れ、めくれ上がり、爆撃か何かにでもあったかのような惨状になっていた。


 そんな場所に俺たちは再び来ていた。


 六鹿、希空、天使(あまつか)は少し離れた場所で何があっても動けるようにしつつも、俺たちを見守る姿勢になっていた。

 そして、俺たち。俺、相賀、九重は睨み合う様に、少しだけ距離を開けて対峙していた。


「いくぞ...?」

「全力でいいんだよな?」

「おう。また転がしてやるよ?」


 それはいつか、九重が俺たちの前に初めて現れた時の際限の様で。

 構える九重に俺と相賀の二人がとびかかれるように準備をする。


増幅(アンファクション)!!」

拡張(エクファシオン)!!」

「…無力(ゼロ)


 三者がそれぞれ、能力を起動する。

 俺の体に人間には不可能なほどの膨大なエネルギーが張る。

 相賀の体が不確かになり、そこにいるのに他の場所にいるかのようになる。

 九重の体に存在が薄くなるような、干渉を阻むような目に見えない膜が降りる。


 それは戦闘準備が完了した合図。

 俺たちが普通の人間とは違う、最たる部分。能力を起動し終わった合図だった。


 同時に俺は全力で地を踏みしめる。

 そのまま伝わる衝撃はその破壊力ではなくて、伝わる力。衝撃力とでも言うべきものを増幅させて広範囲にその強化された足から放たれた震脚を伝えていく。

 結果、すでにひび割れ、崩壊していたアスファルトの地面はさらにその亀裂を深めて割れていく。

 その衝撃によって地面から打ち上げられるのは俺や相賀ではなく、もちろん九重でもない。

 整備されていたなら問題にならないハズだった、塵や砂、小石などだった。


 まきあがるそれらはダメージを与えるようなものではなかったが、視界に対する効果としては十分すぎるほどに仕事をしていた。


 九重も、それに対しては目を庇う様に腕を上げて自ら視線を遮った。

 その隙。


 俺と相賀では正面から挑んでも前回のように無力化されて話にならない。

 だからこその奇策。

 九重の弱点である、能力を扱う上での脳のリソースを削るための策の一つだ。


 俺は一瞬。確かに九重の視線から外れたのを確認した瞬間に全身の速度を今耐えられる限界に近いところまで一息に上げて、九重の死角に回り込むように動く。


「...ッ!!チィ!」


 文字通り瞬きの間に姿を消した俺に対して警戒をしつつも、舌打ちを打ちながら目の前で攻撃姿勢を取っている相賀を無視することはできない九重は動けない。


 相賀はあらかじめ最初の攻防は相談していたため、俺の行動になにも動揺することなく自分にできる事を行っていた。

 右の拳を引いて、引き絞った姿勢。

 明らかにこれから右ストレートをする構えのままに、相賀は小さく息を吐いてその貯めた力を解き放つ。


「ふっ!!」


 それはただの右ストレート。に見せかけた相賀なりの搦め手。

 九重の能力は、直接触れないと効果を発揮できず、調整を間違えれば自分自身すら能力の影響に晒してしまう難しいものらしい。

 そのため九重は、能力のON/OFFという意識の切り替えに集中して能力の範囲を手に限定することでその負担を減らしているらしい。


 そして、その能力によって無力化するものの選択も能力の発動前に認識しておくことで、曖昧なものをうっかり消さない様にしていると、本人の口から聞いた。


 で、あるなら。

 触れるだけでアウトという、物理攻撃しかできない俺と相賀にとって相性の悪い九重に勝つために必要なのは、その意識の切り替えが間に合わないほどに、そして能力の発動を誤らせるほどの止めどない攻撃という事になる。


 見え見えの右ストレートは、九重の能力を誘導するためのフェイクだ。

 相賀の遠距離パンチは、実際に相賀の体が伸びているわけではないため物理というよりは能力による側面の方が強いらしい。

 初めて九重と戦ったときも、相賀の攻撃は無力化されつつも俺のように全身の力を無力化されて転がるなんてことにはなっていなかったしな。


 振りぬかれる相賀の拳。

 しかし、目に見える変化はそれだけ。

 それはきっと相賀の攻撃を九重が無力化した証。


 今のアイツが使っている無力化の力は能力に対するものになっている。


 その隙に俺は瞬きの間に姿を隠せるほどの速度のまま、九重の背後まで接近する。

 九重は俺の速度にはついてこれていない。

 背後に回った俺をその手で触れることはできない。

 その一瞬で能力の切り替えもクソもないだろう。


「これで一本だ!」


 しかし、俺の目論見は外れる事になる。

 九重は俺にとっては酷く緩慢な速度で振り返る。その時見えた、表情は笑みを浮かべていた。

 まるで、獲物が狙い通りに罠にかかったのを確信した狩人のような笑みだった。


 俺の拳が九重の背を打ったその時。

 俺は自分の能力でその拳の威力を増幅させようとした。

 そう、確かに増幅させようとしたのに、結果はその威力を上げるどころか全身の力が抜け落ちるという形だった。


「は?」

「残念やったね?これが俺の新技、体の違う部位で違う無効化を使う技や」


 その言葉に俺が誘われたことに気が付いた。

 確かに九重にとって俺の姿を見失った時にすべきなのは、その時俺や相賀にとってやって欲しくなかった行動は、全身に無効化バリアを張りながら全力で逃げることだ。

 相賀の能力は強力だが、身体強化がそれほど強力というわけでもないから生身で耐えようと思えば、何発かは耐えられる。

 そして、俺の攻撃は無力化すればいい。


 つまりは逃げの一手で仕切り直しされるのが一番痛い行動だった。

 しかし、九重はそれをしないでわざと俺たちの策に乗った。

 そうすることで俺の行動を読みやすくするために。


「とりあえず、これでしばらくは動けんよ。あとは十六夜くんを適当にいなして終いやな」


 その言葉に思わずおれは笑ってしまう。

 たしかに、相賀が九重という相性の悪い相手と一対一をしても勝ち目は薄いが、ただでやられるほど弱くはない。


「なめんなよ」


 俺の言葉を合図にしたわけではないだろう。

 そのタイミングになったのは単純に相賀にとっても難しい試みだったから他ならない。

 しかし、それは確実に勝ちを確信していた九重の横っ面にヒットした。


「ッゴゥ!!?」


 鈍い音を立てながら九重を吹き飛ばしたのはあり得ない速度で飛んできた瓦礫だった。

 顔面に受けた予想外の衝撃は、俺に対して作用していた無力化の能力すらを維持できないほどの動揺をと混乱を与えられたらしい。

 一ミリも動かせなかった体にちゃんと力が入る様になり、ようやく俺は立ち上がる。


「うまくいったな!」

「冷や冷やだったぜ、手元がくるってお前にぶつけちまったらどうしようかと...」

「おいおい、多分平気だけどやめろよ」


 元々、まともな一撃が入ったら終了というルールで行った模擬戦が終わり、相賀がこちらに駆け寄ってくる。

 実際、今回はほとんど相賀頼みの作戦によって行動しており、相賀がミスると必然的に九重の近くにいるだろう俺に攻撃が飛んでくるという間抜けを晒すことになっていただろう。


「おーう!!痛ぁ…なんやねんあれ」


 そんな俺たちに九重が鼻を抑えながら近寄ってくる。

 足取りはフラフラしているし、押さえている手の隙間から止めどなく溢れる血をみるに結構いいところにヒットしていたみたいだ。

 流石に見ていて痛々しいので、治癒力を増幅させて治してやる。


「ああ、相賀と話していてな。こいつの能力だったらもっと強い必殺技が出来るんじゃないかなって」

「そうそう。そもそも俺の虚剣抜刀ってあれは言っちゃえば滅茶苦茶長い腕でやっている手刀だろ?なら、その長い腕に何か持たせて全力投球したらどうなるかなって...それがあれ」

「はぁ~なるほどな?残りは十六夜くんだけやから、俺も能力無力化にしとったところに純粋物理か」

「そうそう、ハマると思ったんだよ」


 そう、今回は俺を囮として九重に差し出す事で九重が油断してくれることに賭けた策だった。

 実際上手くいって、能力を絡めた攻撃しかないと油断した九重に物理攻撃を覚えてきた相賀が上手く刺さったのだ。


「あれ?ん?、ちょっと待ってな?...つまりは、強化済みの三船くんにも通じるような攻撃と同じ方法でかっ飛ばした石を俺にぶつけたんか?」


 九重が気が付いてはいけないことに気が付いてしまった。

 そうこれは下手をすれば九重の顔面が弾けたトマトになる可能性もあったのだ。

 まぁ、生きてさえいれば俺が治せるからという、実に軽いノリで実行したのだが。


「こわぁ。何がってそれをためらいもなくやる精神がこわぁ」


 なにやら、あまりの衝撃にキャラ崩壊を起こしているようだ。


「みなさんお疲れ様です」

「なんか、いよいよ超次元!って感じになってきましたね!」


 そこに見学に回っていた女性陣が近寄ってきて話に混ざる。

 俺たちは、ここに特訓の一環として模擬戦を行っていた。


 というのも、順調に特訓をしていた俺たちにオウルが急に言い放ったのだ。


『さて、そろそろ実践形式で新しい事を試そうよ。ほら、君らが派手に壊したコンテナ街あったでしょ?あそこで今日一日ぐらいなら、博士にもバレないだろうし...行って来たら?あ、僕?僕はちょっと外せない用事がこの後あってね?不参加でよろしく』


 とかなんとか言って、そうそうに六鹿の家から一人立ち去ったのだ。

 とりあえずはオウルの言う事には従っとくか、という気持ちになっていた俺たちは実際にここにきて模擬戦を行うことになっていた。


「それで?傍から見ていてどうだった?」


 全員での乱戦とかにしなかったのは、それじゃひたすら引き打ちが出来る六鹿と天使(あまつか)が強すぎるせいだ。

 それに、傍から見ている人の意見というのは馬鹿に出来ないという理由もある。


「そうだな...まずは晴。お前、手を抜きすぎじゃないか?」

「初っ端からダメ出しかよ...褒めるとかねぇのかよ」

「いや、お前は別に褒めて伸びる感じじゃないし」

「それは……まぁ」


 天使(あまつか)からの辛口評価に肩を落とす。

 気分的には相賀と二人でリベンジ達成出来て浮かれていたからなんだか出鼻をくじかれたような気分だ。


「そもそも兄さんって囮やってただけで、それ以外何もしてないじゃん?」

「そ、それも大事な役目だろ!」

「いやいや、それは分かってるけど今回の趣旨ってそういうんじゃないでしょ?新しい技を試そうって会なのに囮だけしていつもと変わらないじゃん」


 希空にまでダメだしされてしまう。

 いや、確かにせっかく習得した遠距離攻撃を一回も使わなかったけど…それを使って上手い事九重を倒す方法が思いつかなかったから仕方ない。


「ていうか、相賀と一緒に戦ってる時点で俺が遠距離攻撃をする必要ってあんまりないんだよな」


 そもそもの話。原理に多少の違いはあれど、俺と相賀のやっている遠距離攻撃は結果だけ見れば同じものだ。

 ならば遠距離攻撃が主体となるような戦場か、そもそも他に遠距離攻撃手段がないような状況でもない限り、俺がそれを行うことに大した意味はない。

 俺の能力の強味を言ってしまえば、その強化幅による肉体性能のごり押しや、回復能力による損害無視にあるのだから囮には一番最適だろう。


 今回はその強味が全面に出ていただけだ。


「それはそうですね。次はメンバー入れ替えてやってみますか?」

「いや、今日はもう遅いし解散にしよう」

「ああ、俺も店開けなきゃだし」

「私も門限が…」


 続けてもう一回と言いたいところだったが、残念ながらもう日はだいぶ傾いて辺りがほの暗くなっていた。

 だから今日の特訓はいったんここで終わり。

 それぞれがそれぞれの家へ帰ることとなった。

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