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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第1章-星と魔弾-
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重圧2

 結局、大した対策なんてものは浮かばず。

 出来るだけ一人になる時間を作らないなんてありきたりな話で決着がついた。

 だが、俺は現在ほぼ独り暮らし...その一人にならないが絶望的な難易度をしていた。


 いらない心配をかけたくなくて、その話は六鹿には内緒にしてしまったが...バレたときに怒られそうだ。


 きっと六鹿は家に使用人もいるだろうし、一人になる事なんてないだろう。

 俺は...とりあえず、日中は平気だ。夜はどうしようもないから、できるだけ外食して周りに人がいる状況を作るしかない。


 と、いうわけで二日ぶりに喫茶「Luna」にやってきていた。


「また来てくれて嬉しいぜ」

「まぁ、事情もあってな...」


 そういってまたミートソースを頼んだ俺に純粋に店に来たことを喜ばれる。

 事情があると言ったところですこし眉をひそめたが、まぁいいかとでも言うように肩をすくめる。


「どんな事情があっても俺にとっちゃ客が増えたという事実だけだ。詳しくは聞かん。俺はただ食事を提供するだけよ」

「...ほう、店員の鑑のようだな」

「だろう?俺はカフェと両親の子だからな」

「お前三つも遺伝子持ってんのかよ」

「いいだろ?新人類だぜ?」


 ポージングで自らの筋肉を見せびらかしながら、アホなことをのたまう。

 正直言ってきしょい。

 折角オシャレなカフェでうまいパスタとコーヒーを楽しんでんのに、目の前で筋肉ゴリラがポージングしている絵面はちょっと勘弁してほしい。


「なぁ、十六夜」

「なんだ?コーヒーのおかわりなら一杯までだぞ」


 声のトーンを真面目なものに変えたことに気が付いているはずなのに、あえてふざけている十六夜にイラっとしつつも質問する。


「もし、お前が危険に巻き込まれて、誰かも一緒に巻き込んだ時...どうする?」

「......ふむ、質問の意味は分からん。細かいことを聞かないと的確なアドバイスもできない。だが、さっきも言ったが俺は事情を聞かん。そのうえで、お前がその誰かを助けたいと思っているが力がないと仮定して話そう」

「......」


 的確な考察。

 事情は話していない、意味深な質問を一つ。それだけで、それが大真面目で深刻で、だけど容易に話せない内容と察して、欲しい答えまで予想する。

 こいつは本当に客商売が天職なんだと思う。


「力をつけるしかないのではなかろうか...強くなるしか」

「...だよなぁ......どうすっかな」

「何、現代で必要な力は確かにすぐに獲得できないものが多いのは確かだ。財力や権力といったものはな。ただ、純粋な力も一朝一夕では無理だろう。ならすぐに獲得できる強さは一つしかない」

「...そんなのがあるのか?」

「精神力だ」

「えぇ、」


 ここで精神力と来た。

 なんだ、やはりこいつは筋肉キャラだったのか?

 意外と理知的だと思っていたんだが。


「心というのは大事だぞ?覚悟があれば大胆に行動できる。恐怖におびえるよりは余程いい結果につながるだろうさ」

「そういうもんか」

「ああ、俺もこの店に立つと決めたときは相応の覚悟をしたさ。親父の顔を潰すわけにはいかなかったからな」


 それは、すでに経験した言葉だった。

 重みのある経験という積み重ねがある言葉だ。

 やはり、こいつはなんで友達がいないのか不思議なほどにしっかりとした奴だった。


「...ちなみに友達はいるぞ」


 心を読むし...だから学校でボッチなんじゃ


「学校ではな、このカフェの常連はみんな友達だ」

「なんか、寂しくない?」

「寂しくないわ!」


 それからは、他愛もない話を少しだけして店を出た。

 強さか...


「心ねぇ...思い込みで解決する話ならどんなに良かったか...やっぱり、首突っ込んだのは間違えだったのかな」


 後悔。その念が口から出て、夜の街に溶けて消える。

 後悔はあるが、間違ってるとは思わない。

 だけど、現状では六鹿よりも力がない俺は本当にただの馬鹿になっている。


「権力も財力もあって、その子を守るために首を突っ込んで、俺が一番弱いのは情けないな」


 その言葉も夜の冷えた空気に消えていった。



 翌日も、念のための報告会のようなものとして屋上に集まっていた。


「なんもなかったわ」

「ええ、こちらも普段通り過ごしてました」

「ま、急に何かが大きく変わるわけもないか...」


 そう...昨日はシリアスに話していたが、そういきなり何もかもが変わることなんてなかった。

 言ってしまえば拍子抜けだった。

 あんなに心配して、俺は一人だどうしようとか力がないとか考えていたのに何もなかった。

 思い出すと恥ずかしさがこみ上げてくる。


「結局、あの梟野郎がこれをバラまきたいだけってのは本当っぽいな...なんもなさすぎて信じられるわ」

「そうですね、ゲームを活発化させたいなら干渉してくるか、やる気のある人を探して引き入れる方が早そうですし...やる気のない私たちを参加させて、干渉してこないなら現状で満足してるってことじゃないんですか?」

「そう思うよな~」


 つまり、俺たちは警戒しすぎたのかもしれない。

 得体のしれない物と得体のしれない手段で得体のしれない男が何やら得体のしれない事を起こそうとしている。

 人間、知らないことを怖がるらしい。

 俺たちはまんまとその何も知らない梟面の男に関する一連に恐怖を覚えたということなのだろう。


「なんなんだよティリスアナザーって...」


 無駄に心労をかけたのかと、恨み言が自然と出る。


「そういえば―」

「うん?」


 呆れて肩を落としてアナザーを睨みつけていた俺に、六鹿が思案するように問う。


「三船くんのアナザーって起動してみましたか?」

「あ~、そういえば...」


 これを受け取った時は、そのまま解析するために機械にセットしてそれきりだ。

 一日経ったというのに一度も起動もしていないことに今気が付いた。


「してないな」

「...なら、してみませんか?私の時みたいに何も起こらないと思いますけど、違う結果が出るかもしれませんし」

「...そうだな、やってみるか」


 俺は安全を確保するように六鹿から少し離れて、アナザーを起動する。


 途端に目を灼くような輝きを放つアナザー。

 二日前、六鹿が言っていたように膨大な何かがそこに収められているのが自分の脳へのフィードバックでわかった。

 それを一言で表すなら海。

 一部分を切り取ってもそれが何かなんてわからない。

 全体を見たとしても、それが海であると認識できるだけ。それがどれほどの大きさなのか、そこにどれだけの物があるのかなんて分からない。

 そういう、膨大な何か。


「...ッグ!!」


 六鹿が試した時になんともなかったから、引き出せるだけ引き出そうとした。

 だが、あまりにも膨大なそれに自分自身が一緒に抜け落ちそうな感覚に襲われる。

 同時に感じるのは本能的な恐怖。

 このままでは自分が自分でなくなるという恐怖だった。


 その感覚に耐えられそうになかった俺はすぐにアナザーの起動をやめる。

 輝きは何事もなかったかのように消え、その場に何も残さなかった。


「三船くん...大丈夫ですか!」

「......ああ、大丈夫。ちょっと気持ち悪いが、平気だ。......凄いな、六鹿はコレで顔色一つ変えなかったのか...」


 何というか、暴れ狂ってでたらめになった俺という情報がゆっくりと元の形に戻っていくような感覚が今も渦巻いている。

 段々と落ち着いてきてはいるが、なんとも腹の中でグルグルと渦巻くような感触が気持ち悪い。


 これを六鹿は表情を変えずに堪えていたと思うとなんだか精神力でも負けているような気がする。


「......あの、三船くんは今回何か特別なことをしましたか?」

「...?してないけど」

「三船くんのおうちにはメンテナンス用の機器があると言ってましたね...それで改造とかは...」

「いや、いくらアナザーが違法でも俺自身が法に引っかかるような行いはしてない」


 そう、ティリスはこの街を支える重要機密だ。

 一つ一つが厳重に管理されていて、普段から何に使われたか記録されていて犯罪行為利用すれば一発アウト。

 改造なんてもってのほかだった。

 した瞬間に自動で通報が入り警察の御厄介になる。


 アナザーは存在そのものが違法なのだから、犯罪行為や改造したところでバレやしないのだろうが...流石にそこについて良識を失ってはない。


「...そう、それは良かった」

「どうしたんだ?何が気になってるんだ」

「いえ、私の時はそんな状態にならなかった...と思いまして」

「え?」


 六鹿はこの感覚を感じていない?

 どういうことだ。

 俺は感じて、六鹿は感じない。

 なんで?


「とりあえず、三船くんはむやみにこれを起動しないほうがよさそうですね...原因は分かっていても、どんな理屈かわからない以上は危険です」


 六鹿の言葉はもっともだ。

 今はほとんど回復した。とは言え、この後どんな後遺症が出るかはわかったもんじゃない。


「それはそうだが...六鹿もそうだろ?これが毒のようなもだとしたら、許容量が違うだけで何か害があるかもしれない」

「そう...ですね。私も使用は控えましょうか」


 納得して何度もうなずく六鹿。

 俺が言ったことは確かに考えられる可能性だ。

 だけど、本心はそれだけじゃなかった。


 ファンタジーに憧れた。納得もできないシステムから脱却して、非日常へと足を踏み入れることに心躍った。

 後悔した。望んでもいない非日常に怯え恐怖している人を見て、自分の薄っぺらさに嫌気がさした。

 だから、せめて、強さを欲した。

 なのに、自分は弱かった。

 だから、次は心で負けないようにできることからやっていこうと思えた。


 なのに、自分はアナザーの起動すらまともにできない。

 六鹿と俺の差が、比べるものでないと分かっていても開きすぎていて気落ちする。


 六鹿にも危険がある。これは本当だ。可能性だけど確かに危険だ。

 それを心配している。これも本当。できれば危険からは遠ざけてやりたい。

 でも、出た言葉には嫉妬も混じっていた。


「...ごめん、六鹿。足引っ張ってるな」

「そんなことないです。というより、元々前に進めているかもわかりません」

「どういう?」

「この件に関して、私たちは何も知らない。何が正解なのかも、どれが近道なのかも。なら、何をしてもいいじゃないですか。もしかしたら最初から逆方向に走っているかもしれない。そしてら、足を引っ張る行為は前に進もうとしているってことです。だから、いいんです。今は試行錯誤の時間です」


 そういいながら、六鹿は自身のティリスから水を取り出して渡してくれる。

 礼を言ってから受け取り一口飲み込む。

 ちょうどよく冷えている水が腹に落ちていく。

 いろいろ渦巻いていた腹の底が冷えて心地いい。


「前向きな考え方だな」

「そうですか?そうしないと前を向くどころか、どこに向かうかもわからなくなりそうじゃないですか」

「確かに、そうだな」

「ええ」


 やはり、六鹿は強い。

 権力も財力もあって、精神力すら俺より強かった。

 そのあまりにも非情な現実に、優しさを感じた。


「もう少し、頑張らないとな」

「そうですね」


 とりあえず、日が暮れてきたので帰ることにしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「お前三つも遺伝子持ってんのかよ」 「いいだろ?新人類だぜ?」 新人類じゃなくても人のキメラは普通存在する ただDNA検査をしない限り見つからないので 余程特殊の例じゃないと発見はされな…
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