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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第4章‐不安は日常の中にこそ-
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能力の使い方3

「さ、あっちはもうほっといても大丈夫だろうから、こっちの話をしようか」


 晴くんがオウルとの話で新たな力の使い方のヒントを得て、十六夜さんとそれを試しに行ってしまいました。

 それにより、次は私たちの番の様で、オウルは実に楽しそうに笑っていた。


「とは言ってもね。実は君たちのほとんどは僕がアドバイスできるような単純な能力じゃないんだよね」


 オウルは楽しそうな雰囲気をそのままにしたまま、どこか困ったような仕草をする。

 器用な人だ。どうやったら楽しそうにしたまま困る事が出来るのだろう?

 しかし、オウルの言う事も分かる。

 少なくとも希空ちゃんだけは、能力の使い方なんてことを考える余地がない。


 他人の能力をコピーできてしまう希空ちゃんはどちらかと言えば、自分の能力の使い方より他人の能力の使い方を練習する方がよっぽど戦力増強につながる。


「まずは、三船ちゃん。自分でも自覚があるみたいだけど、君に関しては、僕の意見なんて挟まる余地がない。成長の余地がない。それは悪い事じゃなくて、最初から完成されている能力だという事だ。あとはひたすらに練習。どうせ、天使(あまつか)ちゃんもそっち側だから二人で練習すると良いよ。で、その天使(あまつか)ちゃんだけど、君はそもそも元の能力を使えるようにしなきゃね?」


 そう二人にはひたすら自分の能力を使う様に言う。

 実際、能力の事は素人の私から見ても希空ちゃんの能力は発展性に欠けるように感じるし、戦力が足りない現状では、零さんの本来の能力は強力な切り札になりえる。


「私の能力って、それ以外出来ないんですか?」

「出来ないって事は無いよ?しつこい様だけど、能力はイメージだ。君自身がその能力で何ができるかを想像できるならそれは出来る事なんだよ。でも、君の能力は他に無いぐらい自由度がない。物を増やす。増殖させる。分裂させる。それは有用で、便利で、確かにこのメンバーの中で一際ずるい能力だと言える。だけど、それは本来なら覆すことが出来ない、「物量」を覆せるところにある。それは、使い方を変える必要のない、その能力の本質だろ?」


 きっと、自分だけ成長の余地がない事が足を引っ張るっているように感じたのだろう。

 希空ちゃんは、儚く切実に問いかける。

 オウルはその言葉に、諭すように事実をそのままぶつける。

 そして、それは事実であるからこそ反論の隙もなく、ただその通りだと頷くことしかできない言葉だった。


 それは希空ちゃんも分かっていたのだろう。

 オウルの言う通り、自分でも理解していたのだ。

 自分一人だけ、その能力による最も強い立ち回りを。


 それはきっと、優しくて強がりな希空ちゃんにとっては不満の残る方法。


 だけど、最も効率的な戦い方。


「希空ちゃん。なんとなく、希空ちゃんが抱いている気持ちは分かります。でも…」

「いえ、分かっています。正直、ちょっとだけ羨ましかっただけです。新しい力って、ちょっとワクワクしていただけです。私の力がサポート向きって言う事も分かっています。だから、私はこれを極めてやりますよ」


 オウルのありのままの言葉に傷ついたと思って、フォローをしようとした私を希空ちゃんは制する。

 希空ちゃんはやっぱり、ちゃんと理解していました。そして、納得もしていた。

 私は少し、希空ちゃんを見くびっていたのかもしれない。

 心のどこかで、守る対象と見ていたのかもしれない。いえ、綺麗に飾らないなら私よりも弱いと思っていたのでしょう。


 事実。もし、ありえない仮定ではあるが、私と希空ちゃんが戦うことになったとしても私はきっと負けることはない。

 今の私はいくつものコンテナを持ち上げる力はなくても、ただの鉄球を飛ばすだけなら前の比にならないほどの力を込めて飛ばすことができる。

 それを引き打ちするだけで、身体能力的には普通の人間からそこまで逸脱していない希空ちゃんなら制圧できるでしょうし、ただの重圧にしたって不意打ちなら零さんにも通じるのですから希空ちゃんならそれで完全に封じることができると思う。


 その明らかな力関係が私に希空ちゃんが弱いというイメージを勝手に作り上げさせたのでしょう。

 思っていたより希空ちゃんはしっかりと考えて、納得のできる強い子だった。


「うんうん、納得も出来て、心の整理も大丈夫の様だね?というわけだから、三船ちゃんと天使(あまつか)ちゃんは二人で能力の練習をしてもらえるかな?」

「ああ、分かった。私としても本来の能力は使い慣れていないから練習させて貰えるというなら願ってもないしな」

「うん、よろしくね!零さん!」


 二人は先ほどの晴くんたちのように私たちから離れて部屋の隅へ向かった。

 これで、残ったのは私と九重さんだけだ。


「なぁ、オウル?」

「ん?なんだい九重くん?」

「どうせ、俺も特にアドバイスなんかないんやろ?」

「お、勘がいいね!」

「そんなん聞かんでも分かるわ。俺の能力は触れたものの力をゼロにすること。何を鍛えたって能力の使い方を変えたって、前提である触れたものにしか発動しない事は変えようがないし、どんな力をゼロにするかなんて、決まっている。能力を無効化するのが一番強いってのが考えるまでもない事実や。なら、俺のももう発展性ないやん」


 九重さんは自分の能力を冷静に判断して、そう結論付けていた。

 オウルもそれについては全く否定せずに、頷く。


「うん、そうだね。そのとおりだ。だから、君がしなきゃいけないのは能力の発動や切り替えに慣れる事。発動範囲なんかも無意識に決められるぐらいになっとかないとこの先辛いよ?」

「わかっとる」


 それだけ言うと、九重さんも自分で能力を鍛えるためにこの場から去ってしまう。

 そうして残ったのは私だけ。

 ここまでの話を聞いていて、私も自分の能力を見直したが、私の能力にはまだ力があると思う。

 だから、オウルも私を最後にしたのだろうし、私も何も言わずに最後まで残った。


「さて、最後になったけど…ようやく六鹿ちゃんの番だね」

「はい、途中から私を後回しにしている事には気が付いていたんですけど…私にはちゃんとアドバイスがあるって事ですよね?」

「うん。でも、それだけじゃないよ?」


 オウルはそういうと、一つのネックレスを渡してくる。

 それは簡素な銀のチェーンに桃色の石がはめ込まれたものだった。

 私には、その石がどのような物なのかは分からないけれど、それが何を意味しているのかはすぐに分かった。


「…これ、って」


 流石にこのタイミングでこんなものを受け取ると思っていなかった私は同様で声が震えてしまう。

 見覚えのありすぎるその宝石は、前に見たモノと変わらずに桃色の輝きを損なうことなくその存在を主張していた。


「うん、約束だったしね?それがあれば、ちょっとは六鹿ちゃんも心晴れるだろう?」


 まるで、私を慈しみ、心配し、心砕いたかのような優し気な口調と表情でそんな事を言ってくる。

 その優しさの中に、「サービスだよ?僕がこんな事をするなんてめったにないんだから」という言外の想いがにじみ出ているため、素直に感動できない。

 しかし、それの分を差し引いてもなんだかコレだけでなんでもできるようになったかの様な力を感じて、私は思わず笑ってしまう。


「ええ、これで私は無敵になれます」


 だから、私は柄にもなく大きな口を開く。


「それは結構!では、実際に無敵になってもらおうかな?」

「…はい?」


 しかし、私の大言壮語に対して返ってきたのは、冷静なツッコミや、現実的な指摘ではなくまさかの浮かれた同調だった。

 そもそも、私の言葉は今の気持ちを言葉にした比喩的な表現だったのだが、本当に無敵になれと言われてはさすがに困惑する。


「おいおい、自分で言っておいてすぐに日和るなよ。せっかく、本当に無敵になれる素養があるのに」

「いえいえ、え?そんなわけないじゃないですか…私が無敵になれる訳が...」

「ああ、意外と六鹿ちゃんも俗っぽいね?もしかして「無敵」って響きから最強になれると思ったのかな?それとも、ゲームでいう無敵状態みたいに何してもダメージを受けなくて、自分は軽く超ダメージを与えられる存在を想像したのかな?」


 先ほどの優しそうなオウルはどこへ行ってしまったのか、明らかにこちらを小馬鹿にしたような態度で煽るようなことを言ってくる。

 流石に怒りの感情を感じるが、それを狙っての事だと分かってしまうのでここは冷静を保つように努める。


「現代において、無敵と言われればそういう意味以外に考える人はいないんじゃないですか?」

「う~ん、それは否定できないね。でも無敵って言葉はあくまで比喩だよ?敵が無いで無敵。転じて敵となる比較相手が存在しないという事だからね...元々の文字通りの意味ならば、敵がいない状態。それだけでしょ?」


 確かに、言葉の意味をそのまま受け止めればそれは間違いないのでしょうけど、そのままの意味を使っている人なんていないんじゃないでしょうか?

 なにせ、敵がいないなんて状態が生まれるわけないんですから。

 人が生きているだけで、それを邪魔に思う人は必ず出てくる。

 いや、人に限らず敵は出てくる。

 それは相手が敵として登場しなくても、自分にとって不利益を与える相手は自分側の認識としては敵となるからだ。


「当然だけど、敵がいない状態。なんてものが現実に作れるわけないよね?でも、現実に出来ない事を出来るようにする力を君らは持っているだろう?」


 つまり、アナザー。能力を使用してその状態を作り出せると言っているわけだ。

 とは言っても私の能力は星。

 星が当たり前にもっている機能を私も行使できるというものだ。

 光を歪ませることも、重力や重圧を与えることも、そういった類の物だ。

 では、私のその力で敵がいない状態を作れるだろうか?


 イメージ出来る気がしない。


「もし、君が自分の力を星にまつわるものだと思っているなら...もう少し本質を考えた方がいい。もっと原点を思い出そう。能力はイメージによって変化するけど...その本質を決めるのはイメージじゃなくて願望だ。発現したときの、本人に足りない物や願望によって本質は決まる。なら、君の本質はいったい何だろうね?」


 私の本質。

 私の願望。


 いったいなんだろう?

 私はこの力をいつも無我夢中で使ってきた。

 意識して、それをどういう力かなんて考えずに振るってきた。


 いつか聞いた言葉を思い出す。


『可哀そうに、あんな能力が発現するぐらいには変わっている。私だけはその苦しみを分かってあげられる。』


 それはいつか夢の中で聞いた声。

 あの、敷浪さんにそう言われるほどに変な能力。

 それが発現するほどに変わっている私の本質って何なのだろう。


「んふふふ、悩んでいるね?困っているね?僕がするアドバイスは、そんな君を助けるためのものだよ。そっと背中を押してあげよう。可哀そうな君に僕が教えてあげよう。本当は自分で気が付くのを待ってようかと思っていたけど、僕も大概我慢が苦手みたいだ」

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