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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第4章‐不安は日常の中にこそ-
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能力の使い方

「とはいってもね、能力なんて個人個人で全く持って別の物だし...使い方もコレっていう物を定めてしまうと発展性を阻害しかねない。だから、僕ができる手助けは本当に手助けという域を出ないちょっとしたものになる。例えば、イメージの仕方だったり、どこまでが許容されるのかだったり。そういったすべての能力に言えるような抽象したアドバイスしか出来ないんだよね」


 オウルは能力の使い方を教えると言ったその口で、大したことはできないと釘を刺した。

 しかし、それは仕方のない事なのだろう。

 オウルの話と今までの経験から、恐らくこの能力というものは『似た能力』はあっても『同じ能力』というものは生まれないだろうから。

 人の願望と素質を反映させて能力が開花するなら、同じ能力が発現するという事は同じ人間がいると言っているようなものだ。

 全く同じ人間なんか存在しない。ならば同じ能力も存在しない事になる。

 結果だけなら同じ現象を起こせても、根っこの所では違う能力になっていたりするのだろう。


「それってつまりは能力の使い方を考えるのは僕らで、それを実現するためのイメージの仕方を教えるいう話やろ?」

「うん、その通り。結局は今ある能力をどう使うかは使い手のイメージが大事だからね。明らかに無理そうなのはやるよう言えるけど、これができるアレができるって僕が教えちゃうとね...いざって時に困ると思うよ?」

「はぁ、ま、それはいいんやけど...」


 九重は何か突っかかるものがあるのか、言いよどみながらオウルへ疑問を投げかける。

 たぶん、言いたい事は分かる。

 それはこの場の皆がちょっと思ったことだ。


「俺らはすでにある程度、能力の使い方を確立しとるやろ?今更、新しく能力の使い方を考える言ったって思いつかんし、このままの方向性で鍛えるじゃあかんのか?」


 あ、言った。

 そう。オウルの言い方ではまるで新しい使い方を模索した方がいいみたいな言い方だ。

 だけど、曲りなりにも能力による戦闘をいくつかこなしてきた俺たちはそのスタイルを確立しつつある。

 きっと、最初から使い方を考え直せばまた別の可能性はあるのだろうが、それは今のスタイルを捨てる事になる。

 それは果たしていい事なのだろうか?


 俺としても能力の特訓はするつもりではあった。だけど、それは能力の限界を上げるとかそう言う事をやろうと思っていたのだ。

 あと、遠距離対策か。


 そもそも新しい可能性を模索したところで、それについても何も指標が何のにこういう事ができそうだとかは考えるのは大変だ。

 何か指標がないと...


「なるほど、なるほど、それは凄く正しい言い分だね。いくら僕が君らより能力に詳しくても、能力を考えるのは君らで考えなきゃいけないとなるなら、それはもう僕の事は関係ないし...せっかく培った能力の経験値を一から積みなおすのは大変だものね」

「まぁ、そうゆうことやな」

「なら、もう少しいい事を教えてあげる。これならきっと君らに何が足りなくて何が必要かが...ちょっとは分かるといいね?」


 オウルはもったいぶる様に、その場でクルクルと回りながら楽しそうに笑う。

 こいつはきっとそれも最初から言うつもりだったのだろう。

 自分の意図していることを、過分なく俺らに伝わったというのが分かった時は決まってあの楽しそうな顔をする。

 思い通りに動くのが楽しいと言わんばかりに。

 逆に思い浮かぶのはあの天使との戦闘前のやり取り。


『……僕はさ、お喋りは好きだけど返事を貰えないのは嫌いなんだよね。』


 あの言葉は本心だったのだろう。

 このお喋りで、お節介で、ちょっかいを出さずにはいられないうざい男は、本当に人との会話が好きで、きっと自分の中で想定している通りに会話が進むのが楽しいのだろう。

 だから、返事を貰えない。想定も想像もさせてもらえない相手は嫌いなんだろう。


 そんな少しだけオウルの本質に触れたような気がしていると、ようやくオウルがその少しだけいい事を教えてくれる。


「仮想敵。というよりは、すでに敵対しているのだから...普通に敵かな?の情報をあげるよ。具体的には博士陣営の戦力をある程度」

「...は?」


 しかし、そのもたらされる情報は思っていたよりも大きい物だった。

 まてまて、そういう敵の規模的な情報はかなり重要なんじゃないのか?

 そんな豆知識を教える的な規模の情報じゃないだろう?


「待ってください。それは……えと、確かな情報ですか?いや、あなたの事だから正確性については今はいいです。なぜ、それを教えるのですか?」


 ほら六鹿すら動揺している。

 それはそうだろう。

 よく知りはしないが、実際の戦争だってそういう情報を得るのが戦いの行く末を変えることだってある情報だ。

 そうでなきゃ、斥候や偵察なんて言葉は生まれないだろう?


 そして、それを知っている事自体は驚きはするけどまだ納得できる。

 納得できる理由が「オウルだから」になってしまうのはなんとも言えないが、こいつのよくわからない胡散臭さがその情報を知っている事についての納得感を生み出している。

 しかし、こいつの場合は知っているからと言って教えるとは限らない。

 そっち方面での信頼は確実だ。

 そういう情報は面白くないとかなんとか言って教えないもんだと思っていたが。


「なぜ...か。確かに、状況次第では面白さを優先して君らに教えてあげないというのも考えただろうけど……今回ばかりは相手が悪いよ?さっきも言ったけど相手は熱の天使みたいな”権能”もちを人工的に作れるんだよ?天使一人に全滅しかけるようじゃ、蹂躙されておしまいなのは明白じゃないか」


 ああ、それは……。

 あまりにも現実的で、厳しい状況に先ほどまで思ったよりも大きい情報を貰えると思って沸いた空気が一気に冷え切った。

 言われてしまえば、その通りすぎる話だったのだ。

 仮にあの天使の他にも天使がいるならそれだけで手も足も出ないだろうという事も、そんなことしなくても相手はこの街を創った相手だ。

 比喩ではあるが、この街全体を相手にした時に俺たちという陣営は余りにも数が足りていない。


「というわけで、根本的に物量が足りていないという問題からは目を逸らして、相手の戦力と共にその対策を考えていこうか」

「物量が足りてないのは前提なんだな...」

「仕方ない。むしろ、私の様なのが私たちよりも多い可能性だってあるんだから…」


 皆も同じように考えて、その上でオウルの話を聞こうと身を引き締めた。

 それが、大切だと分かったから。


「うんうん。分かってくれたみたいだね。ただ、先に行っておくと向こうも天使はそんなに数は用意できていないよ?向こうにいる天使は三人。「熱」と「慈悲」と「生命」の三人だけさ」

「三人もいるんですか!」


 思わず叫ぶのは希空だった。

 いや天使(あまつか)の言った通り、こちらよりもそもそも数が多い可能性すらあったのだから三人で済んでよかったのかもしれない。

 しかし、それでも俺たちにとっては絶望に余りあるほどの戦力だった。

 あの熱の天使の様なのが三人も待ち構えているなんて、本当に勝てるのだろうか?


「ていうか、その三人とも戦わなきゃいけなくなるのは...まぁ、一度置いておいて...俺たちは何をすれば勝ちなんだ?」


 そもそも、その絶望的な戦力が俺たちを狙っているから戦うのはもう、半ば仕方ない。

 しかし、勝利条件もなく…永遠に戦い続けるなんて無理だ。

 せめて何か、明確な勝利目標が欲しい。そんなものがあればだが。


「おっと、そういえばそうだったね…そうだね、簡単に言ってしまえば博士に諦めさせればいいんじゃないかな?僕が今まで目障りで邪魔なのに見逃されていたのは、僕を排除するのが難しいというのと、それが無駄に終わるというのが分かっていたから諦めていたというのが強いだろうからね。だから、君たちも天使を全部返り打ちにして、博士の研究を滅茶苦茶にして、関わるだけ損すると思わせられれば勝ちと言えるんじゃないかな?」


 結局は相手の次第か…

 博士の諦めが悪かったら、永遠に戦う羽目になりそうな予感があるが...それでも、まだそういう希望が目の前に吊るされただけマシだと思うしかないだろう。


「その段階まで行くなら、戦争で言うところの全滅の定義。投入戦力の五割だったかな?を削り取らないとあきらめたりはしないだろうから、そうとう頑張んないとね?博士陣営は言うまでもなく、天使の他にも現代日本じゃまず許されないほどの軍事力を一個人として所有しているから、その規模感はまさしく戦争規模だと思っていたほうがいいよ」


 当然だけれど、相手は天使だけじゃない。

 というより、天使の様な能力を創れるなら…俺たちみたいな普通の能力者も創れるかもしれない。

 ならばオウルの言う通り、その戦いの規模はまさしく戦争となるだろう。

 あのコンテナ街の一画を丸ごと吹き飛ばした戦闘を思えば、さらに大きな規模になるだろうことを覚悟しなければいけない。


「さて、そうなってくると必要な能力は大きく分けて二つに絞れるよね?つまりは一定の強さ以下の雑魚を一掃できる広範囲殲滅技と滅茶苦茶強い相手に使う汎用性と費用対効果が高い便利な単体技。ま、極論この二つがあればどういった状況にも対応できるだろうから、それが簡単にできれば苦労しないってね」


 余りにも極論すぎやしないか???

三船 晴(みふね はる)

17歳 男 身長普通 中肉中背 六鹿学園

情報量:3 許容量:9

灰髪青眼の青年。

「ティクティリス」で産まれた子供あるあるだが、特に自分の将来の展望もなく「報化技術」によって最適化された適性検査ではじき出された進路に着こうとしている。だが、そんな決められただけの毎日を退屈に感じていて心のどこかで自由を求めている。

クラスメイトの六鹿が「ティリス・アナザー」を拾ったところに遭遇し、非日常へと足を踏み入れる。

六鹿の事を完璧な人物だと思っている節があり、自分との差に内心劣等感を抱いている。

基本的に自虐的であり、自身の能力を悪い意味で正確に計っておりもうちょっと頑張ればできるなんて考えをして無茶をする。相性のいい相手だと途端にバカになり小学生男子並みの思考回路になる。


・能力「不明」(増幅) 情報量:5 改変率:2

身体能力が強化される。腕力、脚力、耐久力、回復力などが上がる。

この時点で能力の詳細が分かっておらず、アナザーユーザーが無意識に行える自己強化が発現しているだけ。ただ、元の能力の影響かその強化値が他と比べ物にならない。


・能力「増幅(アンファクション)」 情報量:5 改変率:7

自身が触れているものを増やす。物理的なものは増やせない。

ステータスを自由に増加させることができる。

攻撃力、防御力、ヒットポイント、移動速度などの抽象的で、しかし確かに存在するステータスを際限なく増加させていく。上限はない。


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