再確認の時間2
神と言うもののジャンルをあえて分類するならば、それはきっとオカルトとなるだろう。
そして言わずもがな超能力と言うものもきっとオカルトだ。
たとえ、その厳選にあるものが一見機械的な物であっても、そこには確かに神秘に通じるものがあるのならオカルトだ。
その機械的な部分すらもオカルトであると否定されてしまっては、物を知らない俺たちにそれを信じる以外の道はないのだけれど。
「こんなに機械的で、俺たちの生活に根ざしているものが神様由来だって?」
思わず声に出てしまう。
なんとも受け入れ難い事実に直面した時、人は咄嗟に否定の言葉が出るという。
ならば、俺の今の言葉もニュアンスとしては確かに否定の感情が篭ったもので、つまりはそれだけ受け入れ難かったというわけだ。
「そうだよ?でも、そんなに驚くことかな?よく考えなくてもおかしいじゃないか物体を情報に変換するなんて人間に本当に可能だと思っていたのかい?」
確かに、その部分は世間に公表されていないブラックボックスとなっている技術だ。
しかし、それはあくまでも世間に公表することが出来ないだけで、そこにはしっかりとした理論が存在するんだと思っていたし、そう習ってきた。
「まったく...三船くんはなかなか面倒くさい性格をしているよね、基本的には素直で直情的なのは僕としてはいいと思うけれど、そういう察しの悪いところはあんまりよくはないんじゃないのかな?」
察しが悪いだって?こんな突拍子もない事を言われていったい何を察すればいいんだ。
「要するに、私たちがこの街で受けてきた教育なんて嘘ばっかりで、本当は神なんていう訳の分からないものを知らずに利用していたというわけですか?」
「ま、キレイにまとめてしまえばそう言う事になってしまうね」
「そして、そんな神を模倣しようとしているその博士とやらがいる...と。......一つ聞きたいのですが?」
「何だい?ひとつと言わずにいくらでもどうぞ?」
「神というのはもしかして、ある程度の科学者?というのかは分かりませんが、そういう技術者にとってはそんなに簡単に見つける事が出来て利用できるようなものなのですか?」
六鹿は一つ一つ、答え合わせをするかのように丁寧に質問を重ねる。
オウルもまた、テストの答えを教えるかのような気軽さで、しかし決してふざけた態度ではなく真面目に答えを返す。
「いいや、そんなことはない。神は人にはおよそ到達できず、それを仰ぎ見る事すらできないから神と呼ばれるんだよ」
何かが引っかかる。
オウルは察しが悪いと言った。なら、すでに出ているこの会話の中で察することができる事実があるのだろう。
きっとそれを六鹿は気が付いている。
だからこそ、オウルに質問という形でその気が付いたことが事実であることを確かめているのだろう。
「では、やはり...」
「うんうん、こういうときの六鹿ちゃんは本当に頼りになるね!僕が言葉にしなくても察してくれる。推測して推理して、自分の中で精査してくれる。本当に君には物を教えるのが楽で楽しいね」
「お、おい。二人で納得してないで教えてくれよ...」
しびれを切らした相賀が話に混ざる。
だが、その気持ちは分かる。俺もいい加減教えてほしい。
一体今の話に何が隠されていたのかを。
「でも、これは...」
「......そう簡単にもいかんのや。これは、ともすれば本当にマズイはなしなんやから」
「九重も知っているのか?」
「ああ、知っとる。これはこちら側にいた事がある人間なら皆が知っとる。神だなんだって話は突拍子もなかったが...ピンと来たわ、これはこの街に関わる話やで。ああ、天使ちゃんは別やで?利用されるだけだった彼女には教えとらんと思うからな」
「うむ、全く何の話なのか分からないな」
マズイ話だって?
今ここまで聞いた話だってもうだめだろうに、それを差し置いてマズイと表現するような話が今更あるのだろうか。
そもそも、ティリスの大本。その根幹技術である「報化技術」の正体が神だからなんだというのだろうか?
確かに衝撃の大きい話ではあるがそこから繋がる話なんて......。
いや、そもそもなんでこの話になったのかという事だ。
そう天使の生まれた経緯。天使の秘密から、博士の目的にシフトして神の話になった。
ん?神を知るような人は滅多にいない、みたいな事をさっき言ってなかったか?
ティリスの元が神で、天使も神の模倣?
それじゃ、まるで...
「ティリスと天使を創ったやつは同じ奴みたいだな」
「お!」
自然と口から出てしまった言葉にオウルが反応する。
もしかしてと思っていたことが、その反応で答えが分かってしまった。
「うん、自力で気付けたんだね…じゃ、後は教えてあげるよ。そう、三船くんが気が付いたようにティリスと天使は同じ博士の手によって創られた!なら、もう一つも怪しいよね?」
「もう一つ?」
「そう、このティリスは便利だけどまだまだ未完成の技術だって...そういう風に教えられていると思うけれど、実際は神の力をちゃんと制御できる保証がないだけなんだよね。それで、未完成だからこそまだ世界的に普及はしていなくて、この街では100%の普及率を達成している理由は何だった?」
この街にティリスが普及している理由?
そんなもの、この街がそもそもティリスによる経済などに与える影響を調べるための実験…実験?
「この街はもともと『実験都市』として建設されている。表向きにはティリスの実験という事になっているけれど、それが神の力によるもので経済への影響を考えてなんて理由を今更信じちゃいないだろう?なら、表向きでない理由はなにか?」
この都市を創った人間も博士ならば、その目的はオウルの言う通りそんな普通の話じゃないのだろう。
そもそもの博士の目的。それを考えるなら。
「神の材料…人を集めるのが目的…?」
「お、いいとこいったね。惜しい」
「……晴くんの言った理由も含めた、あらゆる実験のための材料兼、実験場の確保でしょうか?」
補足するように、六鹿が答える。
それはまさに正解だったようで、オウルは大袈裟に手を叩きながら肯定する。
「正解!すごいね、曖昧な答えだから答えられるとは思わなかったよ。そ、この街は博士の色々な実験を同時並行で行うための実験施設にして、実験対象を育てるモルモット育成場なのさ」
ああ、聞いてしまえばなんてことはない。
分かりやすく嫌気がさすようなことを、平然とやっている奴がいるという事だった。
なんとも言えない空気が場を支配する。
「あの……」
「フフフ、三船ちゃんは勘がいいね」
「え、あ……?」
「聞きたいのは、『ならこの街を支えている人勢設計をAIによって行うシステム』がどうして存在するのか?じゃないのかな?」
「はい、そうです」
それを聞いてハッとする。
確かに、ここまでこの街の全てが実験に関係するものだった以上、この街の人間の全てがしたがっているシステムだって何か意味があると考えるのが普通だろう。
「それは簡単だよ。いったろ?この街は実験場だって。実験ていうのは狙った条件によってどんな事が起こるのか試すことを言うんだよ?ま、条件がランダムの場合もあるけれど...ランダムを選ばなきゃいけない事を除いて、実験は同じ条件、同じ状況なら同じ結果にならなきゃいけない。それを街規模で行うのは不可能に近いだろ?」
それはそうだ。全員が実験を知っていて協力しているならまだしも、この街にだって数万人の人が過ごしている。
その全員が実験の協力者というわけじゃないし、むしろほとんどは一般人だろう。
それを自由に操れるならそれこそ何かしらの能力が疑わしい。
「だから、それを制御するために創ったのがシステムさ。あれは人の適正なんか見ていない。個人個人のパターンから欲しいデータを収集するためにそれっぽい未来を提示しているだけだよ...でも、この街じゃそれを信じるのが普通なんだろ?それは管理する人間からしたらとてもありがたいことだよ?なんせこちらから言わなくても、システムに表示するだけでその通りに動くのだから」
それは、つまりこの街で過ごしている人間全員が知らぬ間に実験に参加させられているようなものなのでは?
もともと、俺はそのシステムが嫌いだった。
自分の何もかもを決められているって言うのが嫌でしょうがなかった。
だけど、そんな子供の反抗期のような感情とは比べられようもないほどにドス黒く濁った悪意がそこには隠されていた。
「どうだい?この街は誰かのエゴによって成り立って、そのエゴに巻き込まれた多くの人たちがいて、君たちはその中の一人だという事だよ。これで、少しは戦うのか戦わないのか決められそうかい?」
ああ、そうだった。
俺たちは今、戦うか戦わないかを決めるために知ろうとしていたんだった。
ただ、これでさぁ決めろと言われても無理だ。
大きすぎる情報が頭の中をぐるぐるしている。
常識をひっくり返されたように感じる。それが落ち着くまでは、とてもじゃないか何かを決断するなんてことはできそうにない。
だって、このすべての黒幕みたいになっている博士とか言うのと戦っても何もいい事なんてない。
いっそ、逃げ出してしまえばいいじゃないか。
そんなことすら思ってしまう。
「ま、もう戦うしかないんだけどね」
「え?」
はい?なんて言ったコイツ。
もう戦うしかない?それを決めるために今こうして話していたんじゃないのか?
「え?もしかしてまだ選択肢があると思っていたのかい?言ったろう?後戻りはできないって。随分と覚悟を決めた表情だったから、その戦うとかの選択については一応言葉に出しただけで、分かっている物だと思ったんだけど……」
…言っていた。
言っていたが、そんなに覚悟が必要なことだったのか?
無関係ではいられない程度の話だと思っていたんだけど?
「えっと、その戦うしかないというのはどういう?」
流石の六鹿も動揺が隠せないようで、いつものハキハキとした話し方から一転して、オズオズと自身なさげに聞いた。
「そりゃ、博士にとって唯一全てを知っている僕が一番邪魔な存在なのは分かり切っているんだよ?そんな僕と一緒にいるのがバレている時点で君たちは良くて殲滅対処。悪ければモルモットじゃないかな?」
ちょっと待ってほしい。
こいつそれなのに俺たちに付きまとっていたのか?
「そんなのお前のせいじゃねぇか!」
至極真っ当なツッコミが相賀から入る。
いやほんと、その通りだな。
「いやいや、確かに悪いとは思っているけど……そもそも僕と君たちの関係がバレたっていうのは昨日の熱の天使が報告しているだろうからさ。それまでは僕は気ままにアナザーを配っている邪魔な奴ぐらいの認識だったはずだよ。でも昨日ので完全に敵対しちゃったからね…でも、僕がいなきゃ昨日でどちらにしろ全滅だったでしょ?」
それを言われると弱い。
そう、俺たちは明らかに格上の天使との戦いをオウルの力で乗り切っている。
ならば、これは俺たちの力不足のせいとも言えなくはない。
「まぁ、僕も少しだけ悪いとは思っているよ?だから、こうして色々教えてあげているし...望むなら能力の使い方や訓練も手伝ってあげようと思ってここに来たんだから」
そういって、オウルは本当に心の底から楽しそうに笑っていた。
情報化技術理論提唱記録 No.13 ティクティリス
■■■博士が提唱した13番目の記録。
研究の詳細が組み上がるにつれて、実際に稼働実験を行うためのサンプルが足りないという問題が発生。
その根本的な障害への解決策として提案された都市実験計画。
一つの街を全て利用した環境シミュレーションの様な物。
住人には、ある程度決まった生活を送らせることで意図的な偶然を創ることに成功。
その他研究にも応用が利くためこの実験を開始したことは他の実験の成功に大きく関わることとなった。
また、「番号実験」の検体たちの一部を明らかな特権階級に据えることで街の自浄作用と自然淘汰による一般人の支配管理に大いに貢献したのは予想外の効果であった。




