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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第4章‐不安は日常の中にこそ-
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再確認の時間

 六鹿家のトレーニングルーム。

 一通りのトレーニング道具。施設がそろった一般家庭には到底ない広さを誇る一画。

 流石に6人も集まれば自由に動き回れるってほどじゃないが、あまり激しく動かないような運動なら問題ない程度の広さ。

 改めて、六鹿という家の力をそんなところに感じた。


「さて、ではまず俺たちに足りない物は何でしょう!はい、希空!!」

「え、えぇ...急に?」


 そんな広い、少なくとも身を寄せる必要はないような場所で俺たちはその一角に集まって座り込み、俺の無理やりなハイテンションに付き合わせていた。


「なんや、今日はえらいテンション高めやな」

「どうせなんかいろいろ考えるのが嫌になって無理やり上げてんだろ」

「テンションって無理やり上げられるものだったのか?」

「どうでしょう?場合によってはできるんじゃないですか?」


 なんか、凄い言われような気がしてきた。


「じゃあ......はい、実力が足りてないです!」

「はい、そうですね?遠距離攻撃手段が足りてませんね」

「いや、違うんじゃん。違うなら違うって言えばいいのに...」


 なんとも言えないような目線を希空から注がれるが、無視だ無視。

 そんなものを気にしていたらこのハイテンションは維持できないからな。


「いやいや、晴?遠距離攻撃手段が足りてないは嘘だろ?俺たちの内、何人が遠距離攻撃できると思ってんだ?」

「せやなぁ......俺らが仲間として組んでいる以上は、弱点のカバーができるのが強い味ではあるけど...足りてない事はないやろな」


 男性陣からの篤い正論パンチが飛んでくる。

 実際、確かに俺たちを集団として考えた時遠距離攻撃はいくらでもある。


 まず、女性陣は全員が遠距離だ。

 天使(あまつか)はあの協力無比なレーザー攻撃を。

 六鹿は回避不能の重力の檻を。

 希空はその二人の能力を複製することで何の問題もなかったりする。

 そして、相賀もどちらかと言えば遠距離戦士だ。

 遠く離れた場所を殴りつける技を使っている時点で、どう見ても遠・中距離が得意なのは疑いようもない。


 6人中4人がその手段を確保している現状では、確かに遠距離攻撃手段の不足というのは嘘だ。

 だが、俺の言いたいのはそう言う事じゃなくてもっと感情に縁ったものだ。


「そうだな、これはあくまでも俺の不足で...女性陣は逆に近距離手段が少ないのがあるかな?」

「おいおい、それじゃあ何もかもが足りないみたいじゃんか」

「え?そうだよ?最初からそう言ってるだろ?...実力が足りてないって」

「はい、そうですねってそのままの意味かい!」

「いや、それ以外に何があるんだよ」


 つまりは、それぞれの弱みを消したい。

 それが今回の俺の目的だ。

 とは言え、そう簡単にできる事じゃない。それに、物語のようにすべてがうまくいくなんてこともないし、トレーニングをするにしたって前例のあるような力じゃないから何を鍛えればいいのかもわからない。


「それで?結局のところ兄さんは何がしたいの?」

「ああ、今回の件で俺たちはかなり力が足りなかった。アレが上手くいったのはオウルの指示があったからで、ここから先アイツが協力的になってくれるとも思えない。だから、一人一人の自力を上げつつ連携も上手くできなきゃ...あの天使には勝てないなと思ったんだよ」

「「「「......」」」」


 俺の言葉は確かに皆が少なからず思っていた事の様で、先ほどまでのふわふわとしていた空気も少しばかり引き締められたように変わった。

 各々がなにか思いつつも言葉にしない中で六鹿が一人だけ、しっかりと言葉にして俺に問いかけてきた。


「そもそも、勝つ必要はあるのでしょうか?」

「......え?」


 その疑問は俺の考えの根本を覆すかもしれない言葉だった。


「だって、そうでしょう?よく考えてみれば零さんの時とは状況が違います。襲い来る脅威という意味では変わりませんが...あの時、私たちは零さんを簡単に人を殺す殺人鬼のように思っていたからこそ、身を守るために戦う事を選択しました......ですけど、今度の相手は元々零さんを使って実験していた組織ですよね?ならば命の危険は限りなく低いのでは?死んでは実験ができません。もしかしたらアナザーを渡せばそれで話が解決するかもしれないじゃないですか」


 六鹿の戦いを否定する論理。

 それは一理ある話だった。

 そもそも天使(あまつか)との戦いだって早とちりで起きたこと、といえばそうなのだ。

 俺たちが互いに歩み寄って天使(あまつか)と相賀と話し合っていたなら、あんなことはしなくてもよかったかもしれない。

 天使(あまつか)的にはどうかは分からないが、今こうして一緒に居られているならそうなった可能性もなくはなかっただろう。


「私たちはあまりにも物を知らない。だからこそ、戦う以外の選択肢を考えてもいいのではないでしょうか?」


 六鹿の言っていることは正しい。

 我武者羅に強くなることだけを考えればいいのは物語の中か、スポーツの世界だけ。

 俺たちの言う戦うための強さは行ってしまえば暴力の事で、そんなものを鍛える事に反対の意見が出るのも納得の物ではあった。


「そうだね、だから僕が教えてあげるよ」


 その言葉は唐突に響いた。


「や!約束通りにいろいろ教えに来たよ」


 その声は嫌に楽し気で、まさにこの微妙な空気の流れる場を楽しみに来たとでも言いたげだった。

 例の移動能力でこの場に表れただろうオウルに俺たちは各々が驚いたり警戒したりと反応していたが、全員がその姿を見て、言葉を聞いて、ああなんだコイツか…とすぐに気を抜いた。

 それはもはや信頼とか信用に近くて全然違う感情ではあった。


「まさにベストタイミング!何も知らない君らに何でも知っている僕が教えを与えにやってきたよ?」

「いや、もうその感じはいいわ」

「そうですね、そうならそうでなんか速く話を始めてください」

「え、辛辣。三船くんも六鹿ちゃんも冷たいね...酷いと思わない?僕ってば本当に善意でここにいるのに」

「テンション高すぎてキモイですね?」


 希空の一言でショックを受けるならそんなハイテンションキャラなんかやらなきゃいいのに。

 いつもの飄々とした感じはどこに行ったんだよ。

 それになんだか、その無駄なハイテンションが俺の真似をしているように見えて純粋に不快だった。


「ま、いいか。それじゃお話ししよう。今回ばかりは変にはぐらかしたり、面白さを優先した沈黙はしないよ?なんでも答えてあげよう」


 分かっていたことだけれどやはり、こいつのこの空気の切り替わりはなんど経験しても慣れない。

 飄々として読ませてくれない空気から、全てがぐちゃぐちゃに混ざり合った気色の悪い空気へ一瞬で切り替わって場を支配する。

 表情なんて口元しか見えていないのに、その口元が妙に恐怖を煽るのだ。


「それじゃ、私について聞かせてくれよ。天使について...権能について...私の末路について」


 その空気で最初に口を開いたのは天使(あまつか)だった。

 それは昨日の続き、オウルすら珍しく言葉を選んだ事。

 オウル曰く知らないほうが幸せなこと。

 その内容はきっと、皆が気になっていた事。


「そっか......聞くだけ無駄だと思うけど、覚悟はいいかい?これは本当に聞いたら後戻りできないよ?」


 その言葉に俺たちは無言で頷く。

 オウルの言う通りもう今更で、聞くだけ無駄というものだからだ。


「そうだね、とりあえずは天使という存在がなぜ生まれたのかについて話そうか……時に天使と言われて皆は何を想像するかな?ああ、天使(あまつか)ちゃんの事じゃないし、昨日の熱の天使の事じゃないよ?一般的な天使と言われて何を思う?」


 そう言われて、頭に思い浮かべるのはよくある天使像。

 現代に生きてきて様々なコンテンツでも扱われている天使という偶像。

 それを思い浮かべた。


 人型の頭上に輪、背面に羽を生やした姿だ。


 それは神々の使いらしいが、詳しい事は知らない。

 そういう物に興味を持ったこともあるが、真剣に調べようなんて思わなかったし、思ったとしてもすぐに忘れる自信がある。


 そんな漠然としてあやふやな知識とイメージを持っていた。


「......きっとみんなこう思ったんじゃないかな?『翼の生えた人の姿』で『神の使い』とか呼ばれたりするアレだって。昨日も少し言ったけど、天使の創造者は神を創りたくて失敗したんだ。神を、人にとって都合のいい神を創りたかった、だけど失敗した。出来上がったのは神にはほど遠い......しかし、明らかに人の域を超えた神もどき。それを表現する言葉として天使というポジションを与えた。能力はイメージに左右されやすい。創った博士のイメージを強く受けた天使の能力は見た目もそのように変化したっていうわけだ」


 神のなりそこない。

 それは確かに昨日の時点で言っていたような気がする。

 それが天使(あまつか)の生まれた理由(わけ)


「神の力を人間に埋め込んで、人に都合のいい神を創る。人口現人神を創る実験とその理論。それが『神人計画』と呼ばれる計画さ。そしてその計画には続きがあったんだ」


 そこでちらりと天使(あまつか)を見るオウル。

 その視線につられて、みんなの視線が天使(あまつか)に集まる。


「な、なんだ」

「いいや?ま、ここまでは天使(あまつか)ちゃんも多分だけど...九重くんも知っているよね?」

「ああ、知っとる......」

「私もだ」


 うんうんと首を振りながらオウルは続ける。

 ただ、その表情がなにか企んでいるような...まるで悪戯を仕込んで今か今かとその仕掛けに誰か引っかかるのを待つ子供のような、そんな笑みを浮かべているのが話の重さに合わなくて気持ち悪い。


「結局は目的は達成できずに、出来損ないだけを生み出した『神人計画』。だけど、実際は半分ぐらいは成功とも言えた。天使(あまつか)ちゃんという例があったからね。だから、博士は次の計画を考えた。それが『零号計画』。天使を創り続けて、比較と対策によって少しづつ神を目指す天使(あまつか)ちゃん以外の天使が創られた計画だよ」


 要するに天使(あまつか)をプロトタイプとした、続きの計画があったという事か。

 正直、そうなんだろうというのは分かっていた。

 目的までは分からないなりに、あそこまで似通った能力に見た目をしているのだから何かしらのつながりを疑うのが普通だ。

 いや、天使(あまつか)の能力は元の能力に寄せただけの後付けなんだったか。


「正直、あの博士の執念は僕もドン引くレベルだね。いくら、目指すべきゴールを知っているとはいえ、その道のりも、その障害も、見えない罠だって沢山あるのにそれでも歩み続けるのは狂気の沙汰だ。しかも、それで曲がりなりにも成功しつつあるのが凄いよね」


 ん?


「え、あの...」

「なんだい?三船ちゃん?」

「その......博士という人?はゴールを知っているんですか?ゴールって神様を創る事ですよね?それって、まるで...」


 流石、我が妹。

 同じ疑問を俺よりも早く聞いてくれるのは助かる。

 とは言え、その疑問は当然と言えば当然だ。

 今まで、オウルの話を聞いてなんとなくそういう思想の元に行動している狂人かなにかだと思っていた。

 だが、その言い方だとまるでその博士が()()()()()()()()()()()()()()ように聞こえたのだ。


 現代において、特にこの国においては神という物への信仰心が薄れて久しい。

 神というものはあくまで昔の物語の中の存在であり、実際には存在しないものだと理解されている。

 だから、オウルの言う神を創るというのもそう言えるほどに凄い能力を持った存在を創るとか、そういう物だと勝手に解釈していた。


「ん?ああ、そっか......そうだよね、この世界じゃあまり一般的ではなかったんね。うん、博士は神を知っているし、見たこともあったこともあるよ。そして、当然だけど...いや、君たちには当然じゃないのだろうけど、この世界の当たり前として、神は存在するよ。正確には神を自称したことはないから、人間にとって神と言って違いないほどに力を持った存在が」


 神が存在する。

 今までのこのティリス・アナザーを手にしてからの日々で間違いなく一番混乱する。

 は?神が存在するだって?


「いや、そんなことあんのか?」

「...でも、否定する材料もないですし」

「この情報化が進んだ最先端の街で、そないな事を聞くとは思わなかったわ......」


 混乱は皆も同様にしているようで、各々が今の事実を咀嚼するために言葉を出したり、思案したりする。

 いや、神という字面で混乱していたが、全く信じられない話じゃないのは六鹿が言っている通りだ。

 そもそもアナザーによる能力だって、ティリスという身近にある技術の延長でなかったら神様の力だって思ったかもしれない。

 そう思えば、オウルの妙な言い回しを考えればありえなくはないのかもしれない。

 神のように思える程力を持った存在がいる。


「最先端の街とは言うけど、それを支えている報化技術だってその神様の力だよ?」


「「「「はい?」」」」


 当たり前に使っている。

 街の人間に限っては普及率100%を誇るこのデバイスが神様の力???

・「■さ■■く■の」

情報化技術理論提唱記録 No.1 フォロート

■■■博士が提唱した1番目の記録。

すなわち、この世界の神。

この世界の全てを記述された神であり、何物も記述されていない純真でもある。

■■■博士は彼らと出会ったときに、この世界の全てが所詮はデータに記載できる程度の物であることを知った。

ならば、人を神にすることも…否、自分が神になることも可能であると思いそれを実行することとなる。


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