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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第3章-夢は無力に泣く雨の如く-
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もう一人の天使2

 天使を守っていた氷の壁が砕け散る。

 それと同時に先ほどと同じ白銀の炎が吹き荒れる。


「『こごえるほのお』」


 それは先ほどとは違って、ただ逃げ場を無くすような燃え方ではなかった。

 明確に一点を集中して焼く、火炎放射のように放たれる。


「皆、離れてください!(リブラ)!」

「気にせずやりなよ、移動(フォルト)


 重力。おおよそこの星にある全てに加わる純粋な力。

 それは、爆発が凍る炎という今まで見てきた能力の中でもぶっちぎりに異質なそれすらも捉えて離さない。

 地味にオウルが移動の能力で六鹿の重力の範囲に人が入らない様にサポートしているのが、経験の差を感じさせる。


 大きすぎる重力によって本来、立ち上るはずの炎が潰されて消える。

 しかし、天使も同じ轍は踏まない。

 放たれた炎が霧散された後に、すぐさま第二撃が飛んでくる。

 六鹿は周りに人がいるこの状況ではその超重力をごくごく狭い範囲で起動している。

 それをたった一度で見抜いたのだろう天使は一撃目をその重力の誘いに使って、二撃目はそれを躱す様に炎を出す。


「まったく!私はあんなの知らないぞ!!」


 いつの間にか、恐らくオウルによって天使の背後に移動していた天使(あまつか)がそんなことを言いながらレーザーを放つ。

 それは当然のように氷に阻まれて止まる。

 天使(あまつか)のレーザーは熱の塊みたいなものだ。

 氷で防げるとは思えないが、よく見れば純粋で透明な氷を使って、光を透過させながら屈折させることで威力を減衰させているようだ。


 だが、それも氷で防いでいる方向だけの話。

 当然だが、自身を氷で覆うような真似はしていない。そんなことをしてしまえば、自身の逃げ道を無くすことになるし、氷を透明にしていても景色は歪む。

 そんな状態にするような非合理的な事はしないのだろう。

 だからこそ、隙がある。

 この場には強力は遠距離攻撃手段は大きく二つ。

 光のレーザーが神速の手刀。

 それを使えるのは()()だ。


(リグフト)ォ!!」


 天使(あまつか)とは正反対。

 俺の背に隠れていた希空から放たれるレーザー。


「零さん!!」

「わかった!」


 さらには二人で天使を挟んだ状態でレーザーの出力を上げて放つ。

 これは貫くための物ではない。天使がレーザーを防ぐほどの生成速度で作った氷の盾を継続して削るための攻撃。

 このままじりじりと削り続ければ天使の方が不利にできる。

 そうなれば、天使は当然逃げるだろう。

 前後を挟まれても横は開いている。

 天使に生えた翼。アレが飾りじゃないなら飛ぶことも出来るはずだ。

 だから、その可能性も奪うようにすでに六鹿が動いている。


「閉じ込めます。(リブラ)


 挟み撃ちと分かった時点で俺も相賀も距離を取っている。

 巻き込む相手のいない状況で六鹿の重力が天使を捉える。


 綺麗に決まる連携。

 先ほどからなぜか、皆のやりたい事。やろうと思っている事。それに合わせた動き方が頭に直接流れてくる。

 俺たちは別に能力を使用した連携なんて練習していない。

 つまりこれにはカラクリがある。

 チラと見ればオウルが楽しそうに輝くアナザーを手にこちらを見ていた。


 また何かの能力を使ったのだろう。

 直接、声が頭に響いてくるような不思議な感覚には慣れないが、こうして即興の連携を取れるというのはすさまじい。


 こうして、あり得ない連携によって天使をハメる事に成功した。

 これで、終わればいいが...ここにいる人間でこれで終わると思っている奴はいなかった。


 天使含めて。


「『もえさかるこおり』」


 その言葉によって天使を守っていた氷に変化が現れる。

 希空と天使(あまつか)の二人のレーザーは光を収束したもの。

 破壊の原理としては高出力の熱による物質の蒸発というのが近いだろう。

 それを先ほどまでの天使は氷の冷たさと、光を透過、屈折させることによる減衰で防御していた。

 二人がそれに対する回答として、行ったのが一瞬に貫くのではなく持続的に溶かす方法。本来の熱の性質を表に出した攻撃方法だった。

 それが、あの言葉で変わった。


 氷に冷たさが消えた。

 氷の周りに立ち上るアレはまさしく陽炎で、空間が歪んで見えるほどの高温の様だった。

 言葉の意味をそのまま受け取り、あの爆発が凍る炎の件を考えれば、その性質がなんとなく分かる。

 つまりは、高熱の氷という事なんだろう。

 それそのものが高熱ならば、熱によって盾を削るなんて方法に効果があるとは思えない。


 ならば状況に合わせてアプローチを変えるべきだ。


 オウルに視線を送れば、奴はニヤニヤと楽しそうに頷いてアナザーを光らせる。

 それと同時に頭にカウントダウンが流れて、目をつぶらなきゃいけないと反射的に思う。


 3......2......1......


 レーザーがはじけて光の暴力となって目を灼く。

 それに間髪空けずに俺と九重が動く。

 六鹿も合わせて重力を解除する。

 能力で加速した俺よりもなお速く天使の目の前に移動したのは九重だった。

 オウルによる移動能力だろうか、そのまま九重は天使へ手を伸ばす。

 天使は閃光によってまだ目が正常に動いていないみたいで、手で顔を覆ているのでそれに気が付いていない。


 それでも、反射なのだろうか?それとも合理的な判断の結果なのだろうか?

 あの高熱の氷を捨て置き、自身の周りを氷冷の炎で守るように動いている。

 突っ込んだのが俺や相賀ならそれでガードできる。

 この隙にもう一度レーザーでも、恐らく一瞬ならばガードされる。

 警戒して六鹿の重力なら、決定打にならない。

 それはおおよそ正しい選択だった。

 一番槍が九重でなければ。


「消えろ!!」


 その叫びと共に突き出された手のひらに触れた氷冷の炎はかき消され、ついに天使の体に触れる。

 その瞬間、その一瞬。

 天使の翼と頭上の輪がまるでガラスか何かのように砕けて散った。


 今だ。

 ここしかない。


 加速の乗った拳を握りしめる。

 九重の後ろから、天使に肉薄する。

 最初は簡単にガードされたが、最初と違って不意打ちによって能力が強制的に解除された状態にこれまた不意打ちぎみの強襲だ。

 必ず当たるという予感。しかし、それと同じぐらいの悪寒。


 こいつ。もう目が見えてやがる。

 その燃えるような冷たい目にしっかりと俺の姿を映していた。

 それに気づいた時、本能が自身の肉体よりも生命そのものへの危機を感じ取って半ば無意識に能力を使用していた。


 そもそも、俺の能力の性質を考えたら加速も強化もその上限なんてないはずだ。

 いくらでも速くなるし、いくらでも硬くなるし、いくらでも強くなる。

 それなのにそうならないのは、能力じゃなくて俺の方に限界があるから。

 恐らくだが、俺のイメージの問題もあるのだろう。

 人間のまま速くなるのも、人間のまま硬くなるのも、人間のまま強くなるのもその想像の上限がある。

 元々、人間は本気を出さないようにリミッターを掛けているという話は有名だ。

 そのリミッターは並では外せない。

 火事場の馬鹿力。命の危機でもなければ外れないようにできている。

 そんなリミッターが能力にもできてしまっていたのだろう。


 そして、今そのリミッターが外れた。

 さらに速く、より硬く、確実に拳を相手に届けるために。


 刹那の時間。瞬きの間すらない一瞬。

 音すら止まるような間隙で恐ろしいのは天使の方だった。

 搔き消えた能力をすでに起動している。まだ完全とは言えないけれど翼も頭上の輪も再展開されつつある。

 俺の拳の温度が下がるのを感じる。

 だが、その一瞬に天使は()()()()()()()()に殴られたかのように怯んだ。

 なら、この拳は完全に凍り付く前に届く。


 そんな交錯を経て、この急に始まった闘いで初めての有効打が天使の体に吸い込まれていく。

 凍り付きつつある拳に天使の体の感触がしっかりと伝わる。

 それと同時にその威力の底上げを行う。


「ぶっ飛べ!!!!」


 今までの闘いがこいつのいいようにやられて、それに対処する。いわゆる天使のターンだったのを覆して、俺たちの手にターンを手繰り寄せる一撃。

 それが今決まった。


 天使は俺の拳の衝撃を余すことなく受けて壁に突き刺さる。

 そのまま凍り付いていた壁を崩壊させながら、六鹿家の広い庭にまで吹き飛んでいく。


「よぉし!!やっと入った!!」


 凍り付いた拳でガッツポーズをとってバリバリと音を立てて氷が剥がれ落ちた。

 その氷の下の拳は結構なズタズタの状態で、これは凍り付いただけが原因じゃなかった。

 無意識のリミッター解除。速度を著しく上げた反動と強化が間に合わなかった弊害。

 表面はもちろんだが、筋繊維もかなりダメになっている感覚があった。

 とりあえず、治癒力をあげて誤魔化しておく。


「状況―修正。能力保存者(アナザーホルダー)による抵抗を確認。”権能”を使用しても目標達成に長時間必要な状況と認識」


 吹き飛んだ天使は土煙をその翼で散らして平然と立ち上がる。

 なんて言うか、ここまで強いからたった一回のクリティカルで倒せるとも思ってなかったけれど、平然としすぎだろ。

 と、よく見れば天使の腹部。

 俺の拳が当たった場所に氷が張っていた。

 あれで、ガードされていたのか...


「フフフ、凄いねぇ。いやいや、本当に凄いや。僕が手伝ったとは言え、権能に近い能力があったとは言え、零号計画の天使と渡り合えるのは本当に凄いよ」

「なに?」

「やっぱり...」


 オウルの意味深で思わせぶりな言葉に反応するのは天使(あまつか)と九重。

 しかし、その反応は二人で真逆の物だった。


「零号計画だと?知らないぞそんなもの...」

「そりゃあ、教えてないしね。むしろ、事情が事情とはいえ...知っている九重くんがおかしいんだよ」


 オウルが呆れるように、わざとらしく呆れるようにそんなことを言って九重を見る。

 それにつられて皆の視線が少しだけ九重に集まる。


「零号計画は神人計画の後継の実験。天使―いや、ややこしいな...天使(あまつか)ちゃんの成功を確認して、始まった。所謂、クローン計画やねん」

「...クローン、ですか」

「それって、アレか?生き物のコピー的な...」

「せやで...なんで天使(あまつか)ちゃんが一時的にも追跡の手を逃れられたと思う?天使(あまつか)ちゃんが対策として光と翼を手に入れていた事もあるんやろうけど...大きな理由としては代替品を用意するつもりだったからや」

「......代替か」


 なるほどな、どこか血筋を感じさせる容姿に天使を思わせる能力。確かに、天使(あまつか)との共通点が多いわけだ。

 それにしたってクローンて、つまりアレは天使(あまつか)そのものみたいなものなのか?


「とはいえ、実験言うんは少しずつ変えて試さな意味がないからな...色々調整が入っとるハズやで。あの喋り方もその結果だろうしな」

「長時間の”権能”使用に関しては、現状無許可。優先事項を精査―」

「ああ、明らかに人間の話し方じゃないもんね」


 いったい全体どんな調()()したら、あんな話し方になるって言うんだ。

 天使(あまつか)の件から考えてもろくでもないのだけは確実だろうな。


「とりあえず、その話は詳しく後で聞くとして...どうするよ?なんか動き止まったけど」

「精査、とか言ってましたし...どうしようか向こうも考えてるんじゃ?」

「う~ん、これはあの子達を少なからず知っている僕の意見だけど...多分引くんじゃないかな?」


 オウルが楽しそうにしたまま、そんなことを言う。

 確かに、さっきから天使が言っていることはかみ砕いて言えば「予想よりも強かった」「長い時間戦えない」「命令に矛盾ができちゃったどうしよう」って感じか?


「ま、駄目押ししておこうか…伝わる爆発(タミスンイクサ)


 何でもない様に、急にアナザーを輝かせる。

 そして、天使の頭部が内側から爆ぜた。

 血を吹き出して倒れこむ天使。


「え?」

「楽しかったし、彼らの輝きを見れたのには素直に感謝するけど......これでも邪魔されたことについては怒っているんだよ僕は。今回はこれで勘弁してあげるから帰りなよ?」


 明らかに致命傷となる攻撃が先ほどまで全員でかかっていた相手に、軽い仕草で当たったことに驚愕する。

 もちろんオウルの様子からどこか余裕を感じていたので、本気だったとは微塵も思わない。

 それでも、ここまであっけないとは思わなかった。


「肉体損傷ッ、重大...継戦、困難。状況ッ...再整理。ッ......撤退」


 天使は明らかに大ダメージを受けたようにふらふらとした足取りで立ち上がり、頭の傷を氷で塞いだ。

 血が凍りついて赤い氷となった姿は、なんとも言えない幻想的な姿だった。

 そして言っている事、やっている事とは真逆に満面の笑みを浮かべたままのオウルはその姿を見て「バイバイ」なんて手を振っていた。


 天使はそのオウルの姿を見た後に、少しだけ悔しそうにしながらこの場に表れたときの逆再生のように揺らめきながら空間に溶けて消えた。

情報化技術理論提唱記録 No.11 ティクフォリス

■■■博士が提唱した11番目の記録。

成功の兆候を見せた「神人計画」と同時期に行われていた「■■■■」の結果から、そのアプローチの成功を感じて計画された実験。便宜上「零号計画」とする。

成功体と失敗体の差を見つけて神となれる遺伝子パターンを割り出して、また神にさらに近づく遺伝子パターンを探るのが目的だ。

これには成功目標はなく。次につなげるためのデータ収集そのものが目的となる。

その結果、必要な遺伝子パターンの割り出しに成功。

しかしその他の遺伝子については未だ不安定で、失敗を繰り返す。

「神人計画」よりは成功体を多くだす結果となったが、それでもまだまだ精査の必要あり。

現状では、試験的運用を行い。

耐久やどこまで自我を削ったら能力の発現に至らないかなどを実験予定。

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