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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第3章-夢は無力に泣く雨の如く-
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夢見た世界宛ての梟便

 この場は独特な雰囲気が充満していた。

 その原因達は、睨み合いとは似つかない穏やかな表情を浮かべているのに、その敵対するという意思を隠そうともしない。

 いや、片方は梟の面で顔のほとんどが見えていないが、唯一見えている口元には喜色が浮かんでいた。


「ねぇ、九重くん。人が成長するのに必要なことは何だと思う?努力を積み重ねる事かな?超える事が難しい大きな試練を乗り越える事かな?覚悟を持って未来へ挑むことかい?そのどれもが尊く素晴らしいものだね...だけど、だけどだよ?それを成したところで何も変わらない人って言うのはごまんといるんだ。僕はそれを知っているし、識っている」


 三船くんの頑張っているところを見たいと言ったオウルは唐突にそんなことを言い始める。

 いったい何のことか、何を言いたいのかがいまいち分からない。

 いや、きっと理解させるつもりで話してないんだろうなと思う。


「なら、成長に必要なのはなんなんや?」

「簡単さ、自分を知ることだよ」

「......はぁ?」

「その点。彼女の能力はとても役に立つよ。人の触れられたくない過去も、暴かれたくない望みも、考えたくもない恐怖も、全てを見せてくれるそれを経験したかしないかでは大きく人としての価値観が変わるだろうね」


 つまり、オウルが言いたいのは。

 この状況。三船くんらを能力解除なりなんなりで無理やり起こさないのは、その成長のためだと言う事。


「だから、黙ってみてろ言うんか?」

「そうだね。結論としては、そういう事かな?せっかくの機会だからさ」


 オウルはそう笑いながら言って、この惨状の原因である夢の能力者(しきなみ)に向き合う。

 奴の表情もまた、笑顔を崩すことはしていないが、不服であるというのを全身で表すように、ソファに体を預けていた。


「それは、私にも言っているのかい?」

「もちろん。君には面白くない状況にして申し訳ないけれど、同胞候補が成長できる機会は逃せないからね。それは、君にとってもそうだろう?」

「......ま、気に食わないけれど、その意見には全面同意するしかないから…しょうがないね、待ってあげる」


 そして、場を支配していた剣呑な雰囲気は鳴りを潜めていく。

 それでも、状況は何も変わらない。

 敵対している夢の能力者と、敵か味方かもわからない梟。寝ている皆。

 オウルが言うには三船くんは自力で目覚めるらしい。

 はよう、目覚めてくれ…!!


「あ、そうや」

「ん?どうしたんだい?」

「手助けって結局なにしたんや?」


 三船くんが自力で目覚めることができるが、他の子らは難しいから手助けしたと言っていた。

 結局、無理やり起こさないのならどういう手助けをしたのだろうか。


「ああ、それね。ちょっとしたヒントっていうか…そうだな、夢を見ている彼らの世界に向けて宛てた、僕からのアドバイスを届けただけだよ」

「なんや、それ?」


 ―――


 最初から分かっていた。

 これが都合のいい夢だと。

 あの甘く囁く声に、此処こそが理想の現実だと言われて、まんまとその声に惑わされたんだ。

 最悪な夢と理想の夢を交互に見せられて、逃げ道を用意されて、俺は簡単にその逃げ道へと駆け込んだんだ。

 そんな都合の良いことが起こるはずないのに。

 理想通りすぎて、どうしてこうならなかったのかと心の奥底で常に燻るものから目を逸らして。


「オウガ、どうした?」


 そのことを思い出したのはすでに夢に浸って、浸り切った後に生まれた異物。

 俺の夢なら間違いなく存在しないはずの一匹の梟。

 その梟が咥えている銀色のティリス。

 それがもたらすものを俺は知っている。

 碌でもない、人の人生を幾度となく滅茶苦茶にする呪われたカード。


 梟は何も言わずに、ただそのカードを咥えたまま俺を見ていた。

 それは全てを見透かしたかのように澄んだ目をしていて、俺の「もう少しだけこのままでいたい」という思いすらも咎めているようだった。


「オウガ…?」


 通学中、特に何もない住宅街の道の真ん中で立ち止まり呆けていた俺に零が声をかけてくれる。

 ああ、嫌だな。

 このまま何もかもを忘れて零と学園生活を送りたかった。


「…なんでもない」

「嘘ついてる顔だ」

「…」


 その声は優しかった。

 でも、そうだよな。

 零は優しい子だけど、口調はここまで優しくなかったかもしれないな。


「失礼なこと考えている顔だ」

「…そんなにわかりやすいか?」

「ああ、わかりやすいね。とってもわかりやすい。人と関わりを持たなかった私がこうして他人の感情をある程度理解できるのは間違いなくオウガのおかげだ。わかりやすい顔で笑いかけてくれたお前のおかげなんだよ」


 どこまでも、俺にとって都合のいい。

 だけど、零ならそうやって励ましてくれそうだと思える言葉。

 その言葉に少しだけ気持ちが楽になる。


 その時、梟が咥えたアナザーが輝き出して、俺の脳内には()()()()()()()()()()()()()の映像が流し込まれる。

 そこには豪華なリビングに倒れ込む、俺の姿や晴たち、そして零の姿があった。

 そして一言。


『おはよう。目覚めのアラームは必要かな?』


 なんとなくむかつく、人を小馬鹿にしたような声が響いた。

 しかし、見せられたそれは紛れもなく現実で、今までのことを、忘れていたものを全て思い出す。

 そして、この夢で体験したすべてのことが俺の心だということも分かってしまう。


「夢は…終わりか」

「そうだな」

「覚めたくないな」

「夢は覚めるものって私は聞いたぞ」

「そりゃ…残念だ」


 きっと、この幸せな世界の零とは最後の会話になる。

 こんな都合の良い夢はもう見ることはできないだろう。

 だから、惜しくなってしまう。

 少しでも、なんでもいいから会話をしたくなってしまう。


「これは…此処は俺の夢だ。都合の良い夢、そして俺が恐れた夢だった。零の味方になりたかった。それに嘘はないけれど、覚悟はなかったんだと思う。晴と戦って、負けたけれど…そうじゃなかった場合のありえた未来に俺は恐怖した。友人を捨てて女の子の味方であろうとした、その覚悟が俺になかったから…だから見せた中途半端な夢だ」


 それは零に聞かせるような言葉じゃなかった。

 ただ、もう終わると思ったから自然と漏れただけのただの独白。


「そうだな…きっとこれはオウガが後悔した、後悔していたかもしれない過去の夢なんだろう。そして、そこから逃げるための理想の現実(いま)だったんだろう…」

「ああ、そうだ」


 零が言っていることが全てだ。

 俺には足りなかった覚悟が、後悔を産んで夢を見せた。

 それだけのことだった。


「そして、これは私が怯えていた未来の夢。そしてそこから目を逸らした現実(いま)だ」

「…え?」


 その言葉に目を見張る。

 今まで夢の中の、俺の理想の存在だと信じて疑わなかった零が急に現実味のある存在へと変わっていく。


「私は彼らと殺し合いまでして、それに決着がついた後になあなあで過ごした数日がとても恐ろしいものだった。私は自分のためなら他人を殺せる。他人を思ってやれるほど幸せな人生じゃなかったから…だけど、殺したくない人はいる。そう思えるだけの優しさを貰ったから」


 先ほどの俺と同じように、もしかしたらそれ以上に感情を込めて吐き出される零の独白。

 それは確かに零の恐怖に根差したものだった。


「だけどだ、もし、もしも私にとってとても譲れない二択を迫られた時に、私はどうするだろうと考えると怖かった。その二つの天秤に彼らの命が乗っていたら私はどうするだろうと。きっと私は切り捨てる。彼らを殺したくない。それは本音なのに、後に後悔するとわかっているのに、それでもきっと私は切り捨てることができてしまう。それが怖かった。だから、そんな未来が来ないような今が欲しかったんだ」


 ああ、きっとこれはこの世界を創ったあの女の策略だったんだろうな。

 俺たちを同じ場所で傷を舐め合うようなそんな偽物の楽園の中で踊る玩具にしたかったんだろう。


「ねぇ、オウガ…私たちはどうしようもない夢を見ていたんだ」

「そうだな…そろそろ起きないと晴にどやされそうだ」

「確かに!それはうるさそうで嫌だな……私たちには過去も未来もいらないのかもしれないね」

「そう…だな。どうせ後悔しかないならそれを心配しても仕方ないな」

「きっと、私たちに必要なのは今を見ることだったんだ。今を心配して、今を進む、現在を生きていくしかできないんだから」


 そうだ。今を頑張るしかない。

 だから、もう夢は終わりだ。


 そう覚悟を決めると、まるで見届ける役目を終えたかのように梟が飛び立つ。

 その姿にあの面をした男の姿を思い出して、少しだけなんとも言えない気持ちになる。


「とりあえず、戻ってオウルにあったら一発かましておくか…」

「いいね、大賛成だよ」


 どうやら零も同じことを思っていたようで、いい笑顔でそう答えてくれた。

 そうして、俺の意識はだんだんとこの世界から乖離して浮上していく。

 全てがただの幻想として消えていく、夢の終わりを感じていた。


 ―――


 あれから何かがおかしい事に気が付いた。

 あの梟を見てからだ。

 それまでは、とても幸せな生活の中でそれを特別大切に思える事があっても違和感を覚えることはなかった。

 それなのにあの梟を見てしまってから、漠然とした何かが違うという確信だけが胸の中にあった。


 それはこの幸せな生活をどれだけ過ごしても拭えなかった。

 兄さんと同じ学園に一緒に登校しても。

 兄さんとは学年が違うから帰りはわざわざ校門で待ったりする時間を過ごしても。

 兄さんと恵麻さんが楽しそうにしているのを少しだけ寂しく思って、家で甘えて見ても。


 そんな当たり前の日常の中で、違和感を常に抱えていた。


「兄さん。兄さんは何か違うなって思った時はどうする?」

「…なんだ?急だな?それに何か違うって何がよ」

「……何でもないや」


 兄さんは他人にあんまり興味はないけれど、察しは悪くない。

 ノリもいいから、なんだかんだ言葉を端折ったり、抽象的なことを言っても伝わることも多い。

 それでも伝わらないのは興味がなくてわざとそうしているか、本当に心あたりがない時だ。


 兄さんが私に全くの関心を抱いていないならお手上げだけど、そんなことはないと信じられる。

 だから、きっとこの違和感は私だけの物のはず。

 今もこうして私のその得体の知れない不安を感じ取って、隣にやってきて何も言わずに一緒にいてくれる兄さんに、違和感を感じるのは可笑しなことなんだ。


 その日は落ち着くまで一緒にいてもらってから眠りについた。

 なんだか、最近は寝ると時間がスキップしたかのように学園へ登校する時間になっている。

 実際に準備とかいろいろやっているはずなのに、その記憶が曖昧だ。

 毎日同じルーティンだから意識してないだけなのかと思って気にしていないけれど、よく考えればこれも違和感なのかな?


 学園に向かう通学路。

 その道もいつも通りだ。

 毎日通っているから、何も変わらない毎日通っている通学路だ。

 ちゃんとまっすぐ学園に向かっている。

 何も変なところはない。

 ただ()()()()に歩いていただけだ。


 ようやく学園にたどり着くとその校舎の入口には珍しい人物がいた。


「よう!恵麻!!おはよう!」

「…ええ、おはよう晴くん」

「久しぶりです。恵麻さん」

「…久しぶり?」


 あれ?兄さんって恵麻さんの事を下の名前で呼んでいたっけ?

 ていうか、なんで私は久しぶりだって思ったんだろう?

 兄さんも不思議そうにしているし、恵麻さんも驚いたように目を見開いている。

 確かにこの幸せな生活の中で毎日会っていたわけじゃないけど、それなりに恵麻さんとは顔を合わせていたはずなのに。

 そう、だって最後に顔を合わせたのだって…あれ?いつだっけ?


「晴くん。ちょっと希空ちゃんに話があるから、先に教室言っててくれませんか?」

「ん?内緒話か?いいぜ…じゃ、また放課後だな希空」

「え、…うん」


 兄さんはそれだけ言うと、私を置いて教室に行ってしまう。

 それに寂しくも思いつつ、今はこの場に残っている恵麻さんの事だ。

 どうして懐かしいなんて思うのか、どうしてそんな私をみて真剣な表情をしているのだろうか。


「ついて着てください」


 その有無を言わさない言葉どおりについていくとたどり着いたのは誰もいない使われていない教室。

 まるで物置のように雑多に物が積み上がっている教室。

 こんなところに来るのは初めてで、こんな教室があるなんて知らなかった。


「この教室は初めてですよね、そもそもこの学園そのものが初めての物ばかりだとは思うけど」

「え?」

「ここはね、普段から解放されてていろんな生徒がいろんな用途に使っている教室なんです。先生方からすると管理するのが大変だから閉鎖したいみたいだけど、憩いの場のように活用されているから生徒の反発も多いんですよ。新入生も入学してしばらくすれば、色々な伝手でここの場所を知ることになるから知らない生徒はいないんじゃないかな?」

「へ~、そうなんで…すね?」


 恵麻さんが不思議そうに教室を眺めていた私にこの教室の事を解説してくれる。

 そんな教室があるなんて知らなかった。

 恵麻さんは皆知っているという口ぶりだけど、私は知らない。

 友達が少ないわけじゃない私が知らないなら、意外としらない人は多そうだな。


「知らない人がいるとしたら、それは極端に交友関係が狭い人…晴くんとか十六夜さんとかみたいなタイプか、そもそもこの学園の生徒じゃない人ですね…零さんとか、希空ちゃんみたいなね」


 その言葉はなぜか私に何にも衝撃を与えなかった。

 むしろ何を当たり前の事を言っているのだろうとすら思ってしまった。

 だけど、おかしいよ。

 私は今、六鹿学園の制服を着て、六鹿学園にいるんだから。


「希空ちゃんはさ、今日ここに来るまでの道のりを覚えていますか?」


 恵麻さんは話を続けながら教室の窓を開けていく。

 荷物の多いこの教室から埃っぽい空気が外にでて、外の新鮮な空気が流れ込んでくる。

 恵麻さんの言葉の意味はよく分からない。


「お、覚えてるよ?まっすぐ此処に来たんだから」

「…そう、まっすぐね。確か晴くんの家からこの学園まで来るのにはいくつかの道を曲がらないといけないし、大きな道路を横断するから結構な長い信号とかあったはずだけれど...覚えてます?」

「......」


 思い出せない。

 今さっきその道のりを歩いてきたはずなのに全く思い出せずにいた。

 それが強烈なストレスとなって、思考が混乱する。


「無理に思い出さなくてもいいんですよ。だってこれは夢だから」

「夢...?」

「そう、夢。都合のいい夢。きっと私たちにとってはとても優しくて抗いがたい夢」


 夢。そうだ。

 あの時、声が聞こえたんだ。

 私に語り掛けてくる甘くて蕩けるような声が。


「なんだっけ...声......が」

「希空ちゃんもやっぱり聞いていたんだ。あの声を」

「...あの声は何なんですか?」

「多分、この世界の全てを創った人の声」


 この世界を創った人。

 そんな人がいるのだろうか?

 いるんだろう、まだ私には思い出せない事なのか、恵麻さんだけが知っていることなのか分からないけれど、恵麻さんの言っていることが正しいんだろうということは分かった。


 その時、開け放たれていた窓から一羽の梟が教室に入り込んできた。

 その梟は銀色のティリスを咥えていた。


「あの梟は…あの時の」

「遅いですよ。何をしていたんですか、希空ちゃんが混乱しちゃってるじゃないですか」


 恵麻さんが梟に向かって何かを話している。

 その姿は違和感の塊のように思えるはずなのに、なんだか普通の事のようにも思えた。


「とりあえず、早くアレを見せてくれませんか?希空ちゃんもきっとそれで思いだしますから」

「...」


 梟は恵麻さんの言葉に頷くように頭を下げると、咥えていたティリスを口から離した。

 離れたティリスは独りでに浮かび上がって強い輝きを放ち始める。

 あ、そうだ。これは...


「アナザー!?恵麻さん!!」

「大丈夫。攻撃じゃないから」


 その言葉と共に私の頭に流れ込むのはこことは違う現実の映像。

 違和感だらけの優しい現実(うそ)じゃなくて、確かに存在する本当の真実。

 それを見ただけで分かる。

 だって、私は忘れていたわけじゃなかったから。

 見たくてなくて、認めたくなくて、拒否していただけなんだから。

 それを無理やり気が付かされた。


 覚めるのは一瞬で、後味は最悪だ。

 というか、誰だあの兄さんは!

 私の兄さんは確かに優しいし、私の事を心配してくれる人だけれど...あんなに甘い人ではない。

 私に対してもう少しぶっきらぼうな態度をとっていたはず。

 これが私の願望だと言われると、なんだか誰にも覗かれたくない秘密を見られたかのようですっごく恥ずかしい。


「思い出しましたか?」

「はい、随分と私は都合のいい夢を見ていたんですね」

「いえ...この世界はあなただけの世界じゃないですから...」

「え?」

「この夢はきっと私も、希空ちゃんもそして十六夜さんも零さんもその願望を反映させて作られた甘い夢なんですよ。もしかしたら、本当にすべての人間の願望がかなう理想郷なのかもしれません」


 ああ、そうかようやくわかった。

 私は私の願望通りの日常にも違和感を感じていたけれど、どこかそれとは違う要素があったからいつまでもその違和感が拭えなかったんだ。

 誰かにとっても理想になる様に作られた夢は、私にとっては願望とは違う関係のない要素が詰め込まれているから。


「まあ、夢の事はいいや。結局これってどういう状況なんですか?」

「切り替え早いですね...希空ちゃんのそういうとこ好きですよ」


 恵麻さんは私をあやす様に頭を撫でてくる。

 その手つきは優しくて、悲しげなものだった。


「とりあえず、現実がどうなっているかはオウルに見せられたあれ以上の事は分かりません。ですけど、この夢の事は少しだけわかります」

「…どうすればいいんですか?」

「ちゃんと、心からこの夢から覚めることを望めばいいんです。所詮は夢。いつかは覚めるものですから」

「そんなことでいいの?」

「はい、そんなことが私たちには出来なかったでしょう?」


 そう言われれば言葉が詰まってしまう。

 確かに、私は違和感を感じてもそれを無視していた。

 覚えているはずの大事なことを忘れている事にして考えないようにしていた。

 甘い言葉に誘われて、自ら夢を見るようになった。


 ただの一度も夢から覚めようなんて思わなかった。

 きっと、そうなる様に夢の中でいろんな誘導や誘惑があったんだろう。

 そして私はそれを受け入れていたんだ。


「私も同じでできなかった。ちょっと癪ですけどオウルに現実を見せられなかったら、私もずっとこの世界で自分に優しい夢に浸っていたんでしょうね」

「でも、もうおはようの時間なんだね」

「そうですね。他の皆ももう起きているようですから...」

「...そうなの?そういうの分かるものなんだ」

「実は、希空ちゃんの他の人のところにも会いに行ったんですけど...居なかったり、明らかに私に都合がいいだけの返しをしてきたので...恐らくもう本人はいないんじゃないかと......逆に希空ちゃんに会えなかったらこの世界には私しかいないと思っていたと思います」


 流石は恵麻さん。

 私のところに来る前にすでに色々調べ終わっているなんて...


「じゃあ、もう私たちは出遅れてるんだね」

「そうですね...あまり人を待たせるのは気分的に好きじゃないので、早く行きましょうか」

「うん!ごめんなさい。いろいろお世話になりました!」

「フフフ、私も気が付いたのは遅いほうみたいだったしいいんですよ?さ、起きましょうか」


 ああ、早く現実の兄さんに会いたい。

 夢の世界のように甘えたら、「風邪でもひいたか?」とかちょっと失礼なことを言いながら、少しだけ甘えさせてくれる不器用な兄さんに会いたくなってきた。

 認識しちゃえば、簡単だった。

 私の意識は現実へと戻っていく。

 次に見るのは現実の世界だと、なぜかそのことに胸が躍るような気がした。

伝達(タミス)

梟面の男オウルが再現した、どこかで誰かが抱いた願いの形。

いつどこであろうと、誰にでも好きなようにあらゆるものを伝達できる。

これは色々な人にちょっかいを掛けるのが好きなオウルが好んで使う能力である。

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