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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第3章-夢は無力に泣く雨の如く-
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無力

 あかんなぁ…

 状況は悪くなるばかりで、今はもう自分しかいないという危機的状況。


「あれ?こんな近くで名前まで呼んで能力を使ったのに眠らないなんて...君は随分と抵抗が強いんだね」

「それだけが、取り柄なもんで…」


 いや、本当に格が違う。

 能力の詳細は分からないが、無条件に相手を眠らせられるとかいう無法をされたら俺みたいな()()()()能力にメタを張れる奴じゃないとまともに戦う事すらできひん。


「でも、まぁ君にはどうにもできないんじゃないかな?確かに君を眠らせるのは難しいけれど...私の本質は眠らせる事じゃないよ?」

「?どういう意味や?」

「さぁ、どうだろうね?」


 いや、そんなお喋りに付き合っている場合じゃない。

 能力の細かいとこは分からなくても直接戦闘に役に立つような能力じゃないのは確かや。

 今のうちに俺の能力を使って、三船くんらを起こさないとヤバい。


 兎にも角にも起こすのために、能力を強く意識しつつも強く使いすぎないように注意しながら足元に倒れている三船くんの体に触れる。


「…あれ?」


 しかし、能力が発動した手ごたえがない。

 そもそも、三船くんの体に触れている感覚がなかった。


「ンフフフ、どうしたんだい?そんなに虚空で手を彷徨わせて」

「ッ!何しよった!!」

「いや~大したことはしてないよ?」


 なら、小さい事はしとるやないか。

 くそ!何をされた?どうして能力が発動しない?そもそも、なんで触った感触がしない?

 俺に直接どうこうするのはできないはず...なのにどうして?


「君はさ…ちょっと調子に乗っているよね?」

「なんやと?」

「だってさ、こう思ってるだろ?自分に能力は効かない、だから何かトリックがあるはずだ...ってね?いやいや、自信を持つのはいい事だ。君の能力はさぞ強いんだろう?だけどさ、能力とは言ってもよっぽどその力になれていなければ無意識下で反射で発動なんてできっこないんだよ?君はその能力を瞼ほどに使ってきたのかい?」


 言っていることは分かる。

 分かってしまったが、それでもあり得ないと思っている。

 目の前に脅威があって、自分がそれに晒されていると分かって、集中を欠くかいな。

 自分の体に流れる能力の波動をいまだに感じている。


「まだまだ、今それでも集中は切らしていない、能力も全身に使っているって思ったでしょ?」

「...ッ」


 先ほどから何なんだ。

 心を読まれているのか?しかし眠らせる能力と心を読む能力は関係が無いように思えるし、そもそも俺に能力は効かない。


「ダメだなぁ…君はさ能力を甘く見過ぎだよ?能力は概念にすら干渉できるものもあるんだよ?君は全身を能力で防いでいるつもりだろうけど...君の物質的じゃないところががら空きだったよ。ンフフ、随分と軽い魂だこと」

「魂だと?」

「うん、まだ気が付いていないみたいだけど私の能力は夢を見せる事。眠らせるのはその副産物。起きている人間が見る夢をなんて言うか知っているかい?」

「おい、じゃあ俺が今見てる光景は...」

「幻覚って言うんだよ」


 瞬間、世界が崩れて消えたように感じた。

 いや自分の感覚の中では確かに崩れて消えたのだ。

 浮遊感すらリアルに感じて、バランスを保つことができなくなる。

 地面はそこにあるはずなのに、まるで地面が消えたかのように体重を支えたれなくなってその場に倒れこむ。


「ンフフフ、眠らせるっていうのは肉体に対する干渉だったみたいで防がれたけれど、夢を見るのは脳だと言われているけれど...脳も魂も心も精神だってまだまだ未解明な事が多い。私の能力(それ)は精神に直接投影しているから肉体をいくら守ったって無駄だよ」

「ああ、そういう事か…精神ねぇ…」


 倒れながらも打開策を模索する。

 奴の言うことなんてほとんどが分からん事。

 だけども、少しだけ理解できたのは奴にとって精神も魂も心も、脳と一緒くたに考えているという事。

 なら、この能力の核は脳や。


「元々、脳みそに能力を強く掛けるのは嫌やってん。うっかり脳みその中までパァにしたくなかったからな。でも、ここにほころびがあるんならしゃあないわ」


 覚悟を君て両手を頭に当てる。


「へぇ」


 その俺を見て奴は嬉しいそうに笑みを浮かべる。

 なんだか、その態度も馬鹿にされているようでムカつくなぁ。


 集中する。今まで漫然と体中に張っていた能力も最初はおっかなびっくりしながらちょっとずつ慣らしてできるようになった技。

 なら、同じことを今から脳みそにやるだけ。

 精神という未知の物を守るために自分というものを強く意識する。

 うっかり自分ごと消さないように慎重に慎重に。


 そうして、ようやくぼんやりと掴んだ輪郭に沿う形に能力を発動する。


無力(ゼロ)


 何もかもを台無しにする力が俺の頭を蹂躙する。

 全てをリセットして消す、そんな暴力的な力が俺を守るために俺の体の中を巡る。

 そうして消えていく。俺の中に巣食っていたナニカが消えていくのが分かる。


 そして、俺が見ていた仮初の世界も同時に消える。

 先ほどまで見ていた三船くんたちからは少しずれた場所に本当の姿が現れる。


「ようやっと、これで本物を見れるわ」

「うんうん、ンフフ、アハハハ...いいねぇ、そうゆう覚悟と勇気で前に進もうとする人間を見るのは好きなんだ。だからオジョウサマの事も気に入っていたんだし、なかなかに面白い体験をさせてもらったよ。私の幻覚...というよりは術中と言ったほうが正確かな?から抜け出せる人間って希少でね、随分と楽しませてもらった」


 拍手をしながらそんな事を言う。

 奴にとって今の俺の行動は、珍しい芸を見た程度で自分を脅かすには足りないと言っているようだった。


「へ、とりあえずこれでもう三船くんらは起こさせてもらうで」

「ああ、駄目だよ。さっきも言ったろう?ちゃんと人の話は聞くべきだ。人は慣れていない事はものすごく集中をしなきゃ出来ないんだよ。さっきの君みたいに」


 奴はそういうと先ほどそうしたようにアナザーを激しく輝かせる。


(トレアム)はとても使いやすくてね。一時的に私の幻覚から逃れたところでどうしようもないんじゃないかな?」


 今度はハッキリわかった。

 また夢の世界に囚われたことを自覚できた。

 だが、俺にはここから逃れる方法が先ほどのように時間をかけて能力を解除するしかない。

 奴が俺に能力を掛けるのと俺が奴の能力を解除するのにかかる時間に差がありすぎる。

 費用対効果と言うんか?

 折角の努力が一瞬でパァになるのはなかなかに辛いが、それしか方法がない。


 兎に角、能力の解除をしなようとしたタイミングで体の動きが固まる。


「人間って面白くってさ、集中しようとした時に体に違和感があると簡単にその集中を乱すことができるんだよねぇ...特に無意識下で一度成功体験をした時と同じことをしようとすると行動も同じように振舞うんだけど、それをちょっとでも変えられると途端に失敗する」


 先ほどまでは確かにあった。

 違和感なんて何もなかったはず。

 いや違う。違和感がなかったんじゃない。

 最初から、()()()()()()()()


「どう...なっとんねん!!」

「アハハ!流石に冷静じゃいられないかい?今見ているこの幻覚はリアリティのある幻。人間は例え繋がっていたって、見えなくなっただけで腕の動きにぎこちなさが出るんだ!だから、その集中が必要そうな能力解除の邪魔をするために...腕を消してみた。どうだい?もう一度見せてくれよ!自分と天秤にかけて私を倒すために命を賭けて見せろ!!」


 ゲタゲタと下品な笑いを響かせながら、暗に死ねと言ってくるバケモノ。

 確かに手で頭を触る、他にも三船くんに触ろうとしたのもそうや。

 俺が能力を発動するのに必ずしも手じゃなくてもいい、発動じたいは体のどこでもできる。

 それでも手を使っていたのは、単純に意識がしやすいからだ。

 今から能力を発動する。手に触れている物に向かって能力を発動する。そういうイメージがしやすいからそうしている。

 だから、幻覚を解除するのに頭に触れた。

 今はそれを出来ないようにされたわけだ。


「ほらほら、どうしたんだい?もしかして怖気づいたとかはないよね?うん、その目はまだやる気だね。よかったよ...あ!そうだ、もっとやる気が出るように両足も消しておこうか?それとも頭以外全部消したほうが、いっそ集中できちゃうのかな?ンフフフ、ああ楽しいねぇ。いつになったって人間の努力の輝きは心躍る」


 悍ましい事を平然とぬかす。

 ああ、そうだ。こいつにあった嫌悪感の正体、それはきっとこいつのどこか致命的に外れたその思考のせいなのだろう。


 なんとなく言葉の端々から伝わってくる。

 ああ、こいつはきっと俺が命を賭けて幻覚を打ち破ることに喜んで、失敗して命を落とすことに落胆するのだろう。

 最初から狂っている敵っていうのは物語だからこそ面白いのであって、こう現実で出会うとどうも気色悪さしか感じないんやな。


「...んな事わかってもしゃあない。そう、しゃあないねん。やるっきゃない」


 俺は俺に言い聞かせる言葉を紡ぐ。

 流石に怖い。

 一歩間違えれば脳みそを消して、実質死ぬような状態になる綱渡りまでして一瞬でその希望を打ち砕かれた。

 そして、今度はもっと危険な綱渡りをしなきゃいけない。

 でも。

 それでもや。


 ()()のために頑張るって決めたのにこんなところでくたばっていられない。

 全てを諦められない。

 だから、腹をくくれ。

 先ほどよりももっと、命に覚悟を。


()...」

「あ、それはちょっと待った方がいいかな?」


 パリンッガッシャアアアン!!!


 いざ、と気を入れたときに今いるリビングの窓が全て吹き飛んだ。

 思わず覚悟も集中もしていた状態から素に戻って呆けてしまう。


 それは急に目の前に現れた仮面の男による余波。

 ただそれだけで、あっさりと場の空気は変わった。物理的にも、精神的にも。


「あ、あんた。オウルか…?」

「ん?君とは初対面だと思うけど...ま、君なら知っているのも当然か」

「...オウル」


 オウルはなんとも緊張感のない飄々とした態度を崩さずにいた。

 ふと、気が付く。

 いつの間に俺の腕が治っている。

 俺は能力を発動してない。

 発動する前にオウルが来たから。なのに戻っているということは、奴が能力を解除したか、それとも。


「あ、幻覚は解除しておいたよ。サービスね」

「オウル、何しに来たんだい?私とあなたは不干渉の約束だろう?」

「そうだね、だけど君が先に僕との約束を破っただろう?」


 事もなげに解除しておいたと言うオウル。

 確かに、アナザーを配り悪趣味なゲームを行うコイツならば、あの夢の能力よりもはるかに強い能力を持っていても不思議じゃないが、流石に自分が命を賭けようとしていたところにやられては呆れの気持ちが強く出る。


「約束は破ってないだろう?ちゃあんと私はあなたに言われた通り、色の特性は使わないようにしていたしあくまでもあなたに渡された(トレアム)の範疇で好きにやらせてもらっていたけど?」

「うん、知っているよ。僕がそれを知っていて何に怒っているかを理解しているのにそうやってはぐらかすのは悪い癖だね」

「ンフフ、人の考えなんて普通は言葉にしなきゃ伝わらないものだからね」

「ま、いいよ。今回は少し僕も楽しそうだから見ていようかとも思っていたからね」

「嘘つきだな。全く、すでに干渉しておいてよく言うよ」

「アハ、許してよ。これぐらいはしてあげないと三船くんはともかく、十六夜くんとかは抜け出せないだろうからね。贔屓の子達には手助けしたくなるものだろう?」


 なんと言うか、確かに空気は変わった。

 絶望とあの女の気色の悪い甘い空気からは確かに変わった。

 だけど、今はオウルの全てを見透かしたようで、全てが混ざり合ったような淀んだ空気が場を支配していた。

 決していいほうに向かっているとは言い難い雰囲気が、俺を除いた二人の間に流れていた。


「お、おい。オウル。何がしたいん!」

「なぁに。ちょっと三船くんたちには頑張っているところを見せてもらいたいんだよ」

無力(ゼロ)

全てをリセットして0にする能力。

あらゆる力を0にすることで無敵ともいえる状態になれるが、自分自身すら能力の対象であるため発動のタイミング、対象、範囲を間違えると大惨事となる。


運動エネルギーを0にして動きを封じる。情報量を0にして能力を相殺する。

そうやって絶対防御を成し遂げているが、アナザーによる基礎的な身体強化すら能力によって打ち消しているため身体機能、耐久力が人間のままであるため不意打ちなどの認識外の攻撃に弱い。


余談ではあるが、他の能力は能力によって自動的に名前が心に浮かぶがこの能力は名前を付ける機能すら0にしていたため九重がその特性からちなんだ名前を勝手に付けて呼んでいる。

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