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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第3章-夢は無力に泣く雨の如く-
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男たちの密会

 相賀の連絡にあった通りの公園にやって来るとそこには見慣れた人影と、つい最近見たばかりの人影があった。

 その時点で、俺はこれが厄介事の類だと察して少しだけ嫌な気分になった。


「来たな」

「おう、来たけどよ…これは?」

「嫌やなぁ、コレなんて。親愛を込めて隼でええよ?」

「なんでいんだよ」


 そう、この場にいたのは相賀と先日俺たちに思わせぶりなことを言ってほとんど敵対みたいな状態になっていたように思っていた九重だった。

 当たり前のようにそこにいる当たり前ではない人物に困惑する。


「なんでと言うと、今回お前を呼んだ理由はこいつからの呼び出しがあったからだ」

「呼び出し?」

「ああ、昨日こいつは店を出る前に手紙を残して行ったみたいでな」

「去り際にこそっと置いて貸せてもらいましたわ。上手く十六夜くんに渡っていたみたいで安心しました」

「で、その手紙の内容が内容だったんでな...ギリギリまで悩んだが、晴だけは巻き込んでおこうと思ったわけだ」


 どうやら、今回の厄介事の持ち込み主は九重だったらしい。

 というか、こいつはもし相賀が中身を確認せずに捨てたり、他の誰かが拾ったりした時にどうするつもりだったのか。

 そもそも、こいつは天使(あまつか)の敵だろうに…なんで相賀はこいつの話を聞こうと思ったのか?


「内容ってのは?」

「手紙にはこう書かれていてな…『最近変な夢を見てません?それの原因、教えてあげますわ』ってな」

「夢…」


 その言葉に少しだけ心に引っかかる物を感じた。

 夢と言われると、最近見る悪夢を思い出す。

 いや、内容を全く覚えていないから悪夢かどうかすらわからないが、最近の寝覚めの悪さに直接関係しているであろう夢。

 タイムリーが過ぎるせいで、いやでも反応してしまう。


「その反応だと三船くんも心当たりがあるみたいやな?」

「も?」

「ああ、俺がコイツの話を聞こうと思ったのもそれが原因だ。最近、と言ってもまだ数日のことだけど…夢を見るんだ」


 相賀の言うことは何も不思議なことじゃない。

 夢を見ることは人として普通だ。

 見ない人もいるとかそういう話じゃなく、見ていることそれそのものが異常に分類されることはない程度にはありふれた現象という意味で。

 だが、相賀はそれをわざわざ異常なこと、もしくは不思議なことのように語った。

 それはつまり、その夢に何か普通じゃないことを感じているのだろう。俺のように。


 ただ夢も見る。それだけで何か変だとか、夢について言及されて違和感を覚える程度には心当たりのある人間が少なくともここに二人いる。

 それ自体がすでに何かおかしいのだと気づき始めた。


「それで?話の流れ的に九重も夢を見ているのか?」

「いいや?俺はちゃあんと対策しているから見てへんよ」


 なんなんだよ。流れ的に自分も見ているから異常だよって話じゃないのか?

 いや、対策をしていると言ったな。

 ならば、対策が必要な現象ということだ。


「対策が必要なら、これってヤバいことなのか?」

「そうやな。今すぐどうこうってことはないやろうが...いつかはマズくなると思う」

「マズくなるって具体的には?」

「おそらく死ぬんちゃうかな?」

「「はぁ!?」」


 事もなげに話す九重のその声音に反して飛び出してきたのは文脈から察していた最悪の中では一番の最悪。

 夢が原因で死ぬという。

 それは確かにヤバい。

 だが、まだ危機感はない。どうしてそうなるかがわからないとどうしたって警戒できない。


「どうして死ぬことになる?確かに結構な異常かもしれないが、夢で人が死ぬのか?」

「夢が原因で、というより夢を見せている元凶が原因でやからな。夢は所詮夢。現実に毛ほどの影響もあらへんよ」

「そりゃそうだ。つまり、夢を見せている何者かがいるってことか?どうやって、何のために?」

「そんなん決まってるやろ?つーか言わんでも分かっとるやと?」


 まぁ、それはさすがに分かる。

 ここまで非現実的で、常識の埒外の現象を任意的に起こすことができる存在を俺は一つしか知らない。

 一つあるのが異常ではあるのだが...


「アナザー、か」

「せやね。しかも、まだ影響は少ないとは言え、ほとんど接触してないであろうキミらや俺にも効果を及ぼせるぐらいには強い能力やね」

「なるほど...つまり俺たちはいまその能力を使っている奴に攻撃されているって認識でいいのか?」

「さぁ?」

「えぇ…」


 どういう事なんだ。

 この現象が誰かの能力って事に異論はない。

 そして、俺や相賀は最近はお互いがお互いを敵対視していた影響もあって周りには少し敏感だったという自覚がある。

 その中で直接なにかをされたとは考えにくいし、仮にそんなことがあったなら相手はかなり隙を突くのが上手い奴って事になる。

 そんなことができる奴とはできれば戦いになりたくない。


「まてまて、俺はてっきり九重はその能力者のアタリがついてて一緒に対抗しようって事だと思っていたんだが?」

「そんなこと言うたか?手紙にはそんなこと書いてへんけど」

「いや、そうだけど...そう思うだろ!あんな意味深なこと書かれていたら!」

「んな事言われてもなぁ…まぁ、その通りなんやけど」

「なんなんだコイツ!!」


 相賀が揶揄われて叫びを上げているが、俺も似た気持ちだった。

 攻撃じゃないならこの現象は何だって言うんだという感じだし、一緒に対抗するならやっぱりこれは害のある行動って事で攻撃じゃないのか?


「まぁまぁ、落ち着いて…別に俺的にはこの現象が攻撃とは決めつけられんな~っと思うてるだけで、何も害がないとは言うてへんやろ?」

「いや…えぇ?」

「ほら、キミらも俺も能力をごく普通に使ってるけども、そもそも人間にはなかった能力を使ってるんやで?上手く扱えずに暴発している人だって居るんやないか?」

「…確かに?」


 九重の言うことはなるほど確かにあり得ない話ではないのかもしれない。

 そもそも、人間の体はかなり繊細にできていてほんの少しの遅延が発生するだけでまともに歩けなくなるとも言われている。

 そんな体に余計な機能が急について初めから十全に扱える方がおかしいと言われれば納得してしまう。


「だからな?事故なのか、故意なのかは分からんねん。ただ、俺らにとっては害のある現象だから元凶のとこ行って何とかしたいって話やねん」

「それは……分かった」


 なんだか回りくどくなったが、そういう話なら分からなくもない。

 それに俺と相賀にこうして影響が出ている。

 ならば、六鹿や天使(あまつか)、希空に影響が出ていないと考えるのはさすがに呑気が過ぎるだろう。

 もし女子組にも影響が出ていて、九重の言う通りこの夢の行きつく先が死ならば、早急に対処はしたい。

 そのために、元凶を知っていてこっちに協力を申し出ている九重をいったん信用するって流れなら相賀の判断は良く分かるし俺もそうしたい。


「つってもどうすんだ?何とかって言っても故意ならまぁ話して、駄目ならバトルなんだろうけど……事故の場合は?」

「その場合も説得してアナザーを手放してもらうか、拒否られたら武力行使になるんやないかなぁ?」

「いいのか?俺たちが言うのもなんだけど戦うという選択肢は普通じゃないだろう?」

「ええのええの。俺的にはどうせキミらはもっと大きい闘いをするだろうって思ってんねん。その時も協力させてほしいから今の内から仲良くなりたいねん」

「もっと大きな?」

「ほら、天使ちゃん関連で…ああ!そうやった!この件に付き合ってくれたらそのことも教える。だから協力してくれん?」


 九重は昨日もそう言っていたように仲良くなりたいとへらへらとした態度を変えずに言う。

 その態度が言動が信用でき無くしているというのに、今までの話を聞いたらまるで本当にそう思っているように思えてくる。


 そして、大きな闘いか…

 それは確かに、昨日の九重の話とオウルの話を想えばきっとそれは確かに起こるのだろう。

 天使(あまつか)を巡るいざこざは今は先送りになっているだけで何も解決していない。

 今は、自由になっている天使(あまつか)をいつ襲ってくるか分からないそれはオウルが確かに言っていた事だ。

 そのいずれくることがほとんど確定している闘いに協力したいという九重。

 何処まで信用できるか分からない。分からないが、確かに不安ならこの件で見極めたほうが建設的なのだろう。


「分かった。協力しよう…夢の対処も言っていた方針で大丈夫だ」

「俺も、今はそれでいいや」

「ありがとうな」

「でも、終わったら絶対に話してもらうからな!」

「あいあい、じゃこれから俺らは友達やな」


 話しはまとまった。

 これから俺たちはこの正体不明の夢の元凶と一緒に戦うことになる。

 一つ不満があるとするなら、


「誰が友達だよ!」

「もっと信用できる言動してから言ってくれ!」

「ええ、酷ない?」


 俺と相賀の言葉に大袈裟に肩を落とす九重。

 その仕草すら芝居のように見えてしまって胡散臭かった。

分裂(ダヴシオン)

一つを二つにする能力。物質を増やすという改変率が大変高い能力。

強力だが、他のほとんど無条件に発動する能力に比べればいくらかの制限が存在する。

一つ、増やす手に触れている物か自分自身のみ。

二つ、無生物であること。

三つ、能力で増やしたものをさらに増やすことはできない。


以上の制約により、無制限になんでも増やすなんて無法はできない。

また、能力で増やしたものは同じものをコピーするのではなく同じステータスを持ったオリジナルの情報量の半分程度となった別物を作ることになる。

この能力の神髄は増やしたものがこの世界に物質として存在するという事。

能力を解除すれば何もなかったことになるが、能力によって影響を受けたものまでは元に戻らない。

炎の能力で出した炎は解除すれば消えるが、それで燃やしたものは元に戻らない。

ならば、自分自身を増やせるこの能力によって増えた自分がこの世界に残した現象は残り続けることになる。

だからこの能力は―

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