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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第3章-夢は無力に泣く雨の如く-
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面白おかしいこの街

「アハハ!ま、そういう反応になるよね」


 俺たちの様子から希空以外のみんなの心の声が同じであると確信したのか、それぞれの表情を順番に見てから理解を示した。


「そうだなぁ...そう、誰にも理解できないような、共感してもらえないような、そんなどうしようもない世紀の大悪党がいたとして、彼が信頼できるのはどんな人間だと思う?」

「...何?」


 オウルが始めたのは一つの例え話。

 誰にも理解されない、共感されない。そうだと分かっているなら、誰も信頼なんてできないだろう。

 信頼は少なくともそのどちらかは必要だ。

 お互いの理念を理解して得になるから信頼する。得にならなくても共感したから、志が同じだから信頼する。

 そのどちらかがないと人間関係は成り立たないだろう。


 その答えに詰まり、俺も質問をした相賀も、この場の誰もが沈黙する中で六鹿だけが言葉を発した。


「...もし、そんな人に信頼できるような人がいるなら...それは、同じくらい誰からも見放されたどうしようもない大悪党じゃないでしょうか?」

「フフフ、せいか~い」


 ああ、なるほど。

 そいつの事を何も理解できなくても、そいつの気持ちも思いも願望も何も共感できなくても、同じぐらい理解されない事を知っているならば、信頼できる。

 同類であるということだけで、世界から外れている同士というだけで信頼できる。


「つまり、」

「そう!つまり僕はね、僕と同じ人間と呼ぶには外れすぎた人と出会いたい。創りたいんだ」


 ああ、なるほど。例え話のせいで、いやでも分かってしまった。

 こいつは一人が嫌だから、同じ一人を創ろうとしてたんだ。

 二人になれなくても一人と一人になるために。

 その心は理解できる。理解できてしまうのに、やっていることが、考え方が、話し方が、致命的に気色悪い。


「そのために俺たちに、ゲームをさせてたって?」

「ん?ああ、それは違うよ違う違う。僕のゲームはただのお遊び。だって、そんなことしなくてもこの街は勝手に僕と同じぐらい人間とは言えないモノを創っているじゃないか」

「なんだと?」

「気付かないのかい?気付きたくないのかな?三船くんは優しいね」


 ただの娯楽だと言い切るオウル。その言葉はいたって真面目で、口元のにやけた表情とは裏腹にそれが本当であると如実に伝えてくる。

 だからこそ、さらにこいつが分からなくなる。

 目的のためにほかの何かを利用することへのためらいのなさも。

 目的とは別にそんなことをするのも。

 まるで分らない。


 その気色悪さに辟易していると相賀が口を開く。


「おい、それは零に関わる話か?」

「お、流石に鋭いね。質問も鋭ければ物事の本質を見抜くのも鋭いとは、ますます面白い」

「いいから、答えろ!」

「おっと、そうだね。うん、そこの天使ちゃんはこの街の闇が生み出した僕の同類。最初から人間とは違うモノを創ろうとして創られた外れた生き物だよ」


 それは、あの九重の話を断片的に聞いて想像して、天使(あまつか)の話を聞いてほぼ確信していた事実。

 元は人間だったのだろうけれど、今もそうなのかは分からない。そんな希望とも絶望ともいえない話に決着を与える絶望だった。


「私は人間じゃ、ないのか...」

「あれ?おかしいな…ちゃんとあの部屋でも人間というものについて教えただろう?それのどこに自分と同じ部分があると勘違い出来たんだい?所詮は姿かたちが少しばかり似ているだけじゃないか...意外と夢見がちなんだね」

「...っ」

「おまえ!」


 あまりにも容赦のない言いように思わず口が出る。

 手が出そうにもなるが、希空が済んでのところで止めてくれた。


「フフフ、真実から目を逸らして都合のいい事を見ようとするのは人間に許された特権だね。羨ましいよ本当に」


 これだ。

 オウルの言うことにいちいち腹を立てていても埒が明かない。

 こいつは、本心で俺たちを羨ましいと思っている。そう伝わってくる声音で、皮肉の様なことを言ってくる。

 その矛盾したような、こいつの言葉が気色悪い。


「さて、だいぶ脱線したけれど他に質問はあるかい?おまけのように色々と話してしまったからね、あと一つだけ答えてあげるから何でも聞くといいよ」


 その言葉に俺は反射的に六鹿を見た。

 残り一回。その質問のチャンスを最大限活かしてくれそうな人が他にいなかったから。

 それはみんな同じだったようで、視線が集中していた。

 六鹿は俺たちを見つめ返すと小さく頷き、オウルへ質問した。


「では、私から。現在私たちに対して興味を持っている相手とその脅威を教えてください」

「ふぅん?相変わらず、冷静で実用的で面白みのない質問だ」

「悪くはないのでしょう?」

「ああ、そうだね。そう言ったのは僕だったね」


 オウルは少しだけ考えるそぶりをすると、何かに納得したかのように話し始める。


「このままそれをそのまま話すのはフェアじゃないからね、ちょっとした感じで教えてあげる」

「分かりました」

「お?聞き分けがいいね」

「ええ、そうだろうと思ってました」

「...やっぱり、少し変わったね」


 六鹿は最初からある程度、情報を出し渋るつもりであったのがわかった上で質問をしていたみたいだ。

 それはオウルの琴線に触れるものであったらしい。今まで小馬鹿にするように歪んでいた口元が、純粋な楽しみに歪んでいた。


「さて、キミたちに興味を持った相手だったね...これが、そこそこいる。九重くんみたいに単独の人もいるからめんどくさいけれど...そうだね、まず外せないのはこの街の中枢。天使(あまつか)ちゃんを創った連中は目を付けているし、天使(あまつか)ちゃんに気が付いたから取り戻そうとしているみたいだね。後はそれぞれ静観を決め込んだり、罠を仕掛けたり、って感じかな?九重くんについては自分たちの目で確かめるといいよ」


 オウルの話は天使(あまつか)よりも、天使(あまつか)のために俺たちと戦うところまで言った相賀の方がショックを受けていた。


「おい、取り返そうって...」

「ん?それはそうだろう?元々は自分の元にいた検体で、逃げられたのは事故でしかなくて、行方知れずになっていたのを見つけられたんだから……全く、見つからないように光と翼の能力を教えてあげたのに、あれだけ派手にやったらどちらにしろ見つかるって分かってだろ?」


 言い聞かせるように天使(あまつか)にこの状況を伝えるオウルに、天使(あまつか)は力なく頷く。


「……ああ」

「キミも変わっているのかな?ま、いいや。じゃ、これで質問は終わりね」


 ここに表れた時と同じように、一瞬たりとも目を話していないのに俺たちの目の前からオウルは消えて、店の扉の前に移動していた。

 そしてドアノブに手を掛けたところで、動きが止まりわざとらしく言う。


「ああ!そうだ、これはおまけの独り言なんだけどさ。あんまり近くにいる人を信用しないほうがいいよ?腹の中で何を考えているかなんて分からないんだから...普通はね?」


 それだけ言うとオウルは店を出ていった。

 最後の最後まで意味深で疑心暗鬼の種の様な物を置いて言った。


「クソ、何だよ最後の」

「あまりアイツの言うことを間に受けていると心が持たない」

「ええ、そうですね。私も零さんに賛成です。今回でハッキリわかりましたけど、あの人はきっと面白さだけで行動を決めているんでしょうね」


 ああ、それは俺ももう嫌というほど肌で感じた。

 だからこそ、アイツの言うことが半分ぐらいはただの思わせぶりなだけというのも分かる。

 だけど、残りの半分は真実なんだ。

 天使(あまつか)たちとの闘いで俺と六鹿、希空が生き残れたのもオウルから情報を貰って、早い段階から対策をしとこうと行動したからだ。

 それがなければ、きっと能力の練習なんてしていない。


「それでも人の心としては、一度疑ってしまえばそのことがこの先ずっと頭をよぎる。もう、俺たちは完全に周りの人間を信用できなくなっただろう?」


 相賀の言うことはもうどうしようもないことだ。

 こればかりは、その疑念を持ちつつも揺れない心で過ごすしかない。


「そもそも、そんなに心から信用している友達なんていないけど...」


 ボソッと呟くようにでた希空の言葉に心当たりがありすぎてこの場の全員の動きが一瞬止まる。


「おいおい、俺はこの店を開かなきゃいけないから仕方ないし、零は論外だけどお前らって...」

「いや、言い訳にしているけど。それでも学校にはちゃんと来てんだから友達の一人ぐらいはいてもいいんじゃねえの?」

「いや、それを言うならお前ももうちょっとその頭の悪い思想を隠していれば友達の一人や二人出来ただろうが!」

「はっ!本音の言えない友達が何人いても疲れるだけだろうが!!」

「あれ?さらっと例外にされたな?」


 相賀と友達マウントで煽り合いになる。

 というか、俺には羽衣という親友がいる分で相賀よりもちゃんとしていると言えるだろ。

 ちなみに、天使(あまつか)は論外だ。それは間違いない。


「あ、あの~」

「ん?」

「その、本音の言えない友達が多い私と恵麻さんにグサグサ刺さると言いますか...」

「え?希空は学校で猫被ってるから仕方ないけど...六鹿も?」

「え?えっと?」


 自衛のためのカミングアウトかと思いきや六鹿を巻き込んだ自爆攻撃をした希空。

 六鹿も流石に予想外の方向からの裏切りだったのか、たじたじになっている。


「その、お恥ずかしながら学校のお友達もいい人たちですけど...本音を言い合えるかと言われると微妙です」


 その言いずらい事をオブラートに何重にも包んだ言いように同情しそうになる。

・能力とは

「ティリス・アナザー」の膨大な無垢の情報とエネルギーによって補填された、その人間にとって足りない物。

能力として発現するのはその時点での願望、渇望を元とした感情。

それらは現実を「そうであったもの」として書き換える。

「人間に翼が生える」「人間は触れている物を増やせる」など、そういう物として書き換えることで能力を付与する。これは一時的で、アナザーがないと使用することはできない。


■■■博士によると能力には3つの評価点が存在する。

「情報量」

どれだけの情報がそこに詰まっているかを計る指標。

「ティリス・アナザー」には能力を発現、維持するための膨大な情報量とエネルギーが格納されているが、そこに差はない。

人間でいえば、これまでどれだけの事を成し遂げたか、どれだけの未来に関われる過去を持つかというその人間が持つ可能性ともいえるもので決まる。

これは、産まれや環境、才能ですべてが決まり努力ではほとんど変化のないものだ。

能力でいえば規模、出力、強度に関わる。


「許容量」

どれだけの情報を扱えるかを計る指標。

能力は「ティリス・アナザー」の膨大な情報を人間を通して現実になる。

それはただの人間に、人間とは程遠い情報を大量に流し込むということ、それに耐えられないと能力は発現しない。発動できない。

自力で発動できるような、適正の高い人間はその後己の能力をいくら使おうとも影響は少ない。すでにそういう風に書き換わっているのだから。

ただし、他人の能力を使うと使うたびに自分を自分じゃない何かに書き換えられるようになる。

その果てに訪れるのは良くて廃人。悪ければ能力の暴走を伴う死だ。


「改変率」

能力によって書き換える範囲。その割合を計る指標。

能力はいずれも本来なら人間に許された範囲を超えている。

その際にどれほど現実を改変できる能力かは重要である。

例えば、「炎を出す能力」と「高熱を操る能力」があったとして高熱によって物を溶かし、引火させて炎を出したり、逆に温度を下げて鎮火させたりするのと直接炎を出すのでは現実の改変度合いが違う。

この場合は「熱」よりも「炎」の方が改変率が高いため、同じ出力でぶつかれば「炎」が勝つ。

ただし、改変率が高い能力は稀であり貴重である。

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