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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第3章-夢は無力に泣く雨の如く-
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新しい厄介事

 アレから、俺たちが戦った場所であるコンテナ街は翌日のニュースで謎の大規模爆発があったという報道になっていた。

 天使(あまつか)曰く、あまりにも規模が大きく、なおかつあらゆる計測機器で検出ができなかったためテロか事故か判断できずに無用の混乱を避けた結果だという。

 事情を知っている身からすれば明らかに爆発で済ませることができないような被害が出ていたはずだけれど、それをわざわざ細かく一般に公開する必要はないということなのだろう。


 ともかく、俺たちは特に日常が大きく変化したりはしなかった。

 ただ、毎日のようにクラスメイト達が交わす話の中に一つの事件と噂が増えただけだ。

 俺たちにとっても、あれほどの非日常を体験し、人の命に手を掛けるところまで行ったというのに過ごす日常は変わらない。

 ただ、一人。友達が増えただけだ。


 そんな、普段通り教室で一人でいると珍しく相賀が近寄ってきて話しかけてきた。


「よう、零があの話をしたいって言ってたぞ」

「あの話?」

「零がこのゲームに参加している理由についての話さ」

「そうか…」


 天使(あまつか)の闘いに参加した理由。

 漏れ聞く限りでも、決して楽しくないというのが分かっているもの。

 本人もそう言っていたし、今回はかなり真面目な話になるな。


「とりあえず放課後にLunaでいいか?」

「ああ、六鹿とかお前の妹にも声掛けてといてくれ」

「分かった」


 とりあえず、相賀に言われた通り六鹿と希空にはティリスで連絡をする。

 二人ともすぐに返信を返してくれる。

『わかりました』

『りょうかいだよ』


「じゃ、放課後な」

「おう」




 そして、何事もなく学園ですごして放課後がやって来る。

 俺はそのタイミングで、教室を見渡す。

 このあとLunaで集合する面子の内、俺を含めて3人もこの場にいるのだから、わざわざ別で行く必要もないと思った。

 が、そもそも学園での生活において俺たちにかかわりなどないし、それを他人に見られた時が面倒そうだ。特に六鹿関係が。

 というわけで、俺はそそくさと教室を後にすることにした。


「あ!晴くん待ってください!」


 しかし、俺の平穏な学園生活のための仕方のない判断による行動はあっけなく中断させられた。

 おかしいな?今まで、どんな事件が起ころうとも、それを共有して秘密にしていたとしても公に二人で行動することはなかったのに、急に下の名前で呼び止められた気がする。

 気のせいか?


 …いや、教室に残っていた生徒たちがざわついている。どうやら、俺の耳だけがおかしくなったわけでは無いらしい。


「…六鹿?」

「はい、十六夜さんはもう行っちゃいましたから急ぎましょう?」


 近づいてきて声の音量を下げた状態でそんなことを言ってくる。

 おい、二言目がクラスメイトに聞き取れないような音量だったせいで、複数人での用事じゃなくて二人で下校するみたいな理解を周りにされていないか?

 分かる。これだけ近いんだから周りに聞こえるような音量で話すのは声のでかい馬鹿か、ワザとだろう。

 どっちでもない六鹿が、近づいたのなら声を潜めるには当たり前なのだが状況が悪いな。

 クラスのざわつきが余計強まっている気がする。


「どうしたんですか?行きましょう?」

「…あ、ああ」


 だが、それを意にも介さないのか気が付いてないのか、平常運転を変えない六鹿に俺はこの場でのうまい切り抜け方も後に言い訳しやすくなるようなうまいフォローもできずにその場を後にするしかなかった。

 恐ろしい。

 一体、明日のクラスはどうなっているのだろう?

 いや、六鹿は学園中に知られている有名人。クラスどころか学園全体がどうなっているかわからん。


 そんな恐ろしさと現在進行形でそういう憶測と噂の種を蒔きながら六鹿とふたり学園の玄関口に進んでいく。

 すると、その玄関口にはここ最近で見慣れた人影。無駄に大きいそのシルエットは、先にクラスを出て行った相賀だった。


「よう、遅かったな」

「お前、予想してて逃げただろ」

「ん〜?何のことだ〜?」


 白々しくワザとらしく笑いながら答える相賀。

 本当にコイツ、どうしてくれようか。


「今日は、店開けるのか?」

「いや、零が真面目な話をしたいらしいからな。今日は開けない予定だ」

「そうか、なら客に迷惑はかけないな」


 よし、これで心置きなく殴れるな。

 天使(あまつか)には悪いが、話す前に相賀には痛い目にあってもらおう。

 ちょうど、能力の使い方で思いついた嫌がらせがあるんだよな。


「なんか悪いこと考えてないか?」

「いた、別に?」

「とりあえず、行きませんか?いつまでもここで立ち話できませんよ?」

「そうだな」


 六鹿の言葉でいったん話を収めて、Lunaへ向かう。




「おかえり、オウガ」

「おう、ただいま」


 Lunaにつくと天使(あまつか)が出迎えてくれていた。

 それを気恥ずかしそうに受け止めている相賀がなんだか微笑ましい。


「恵麻と晴もいらっしゃい。すまないな今日は」

「お邪魔しますね、零さん」

「なに、話を聞きたいって言ったのはこっちだからな」


 そんな簡単なやりとりをしながら、すっかり定位置になってしまった店の奥にある席に座る。

 相賀は荷物を置きに行ったのか、どこかに消えたため今は俺たちしかいない。


「しかし、いいのか?結構重めの話なんだろ?無理をさせるつもりはないんだが…」


 そう。あの後、重い話になると言うこともあって天使(あまつか)のタイミングで話してくれるのを待とうという事になり数日は普通の日常を過ごしていた。

 俺たちは聞いてないが断片を知っている相賀曰く、かなりヤバめの話になるとの事なので俺たちも話さない、話せないならそれでもいいと思っていた。

 だが、こうして俺たちを集めて話す場を作ったということは覚悟が決まったということなのだろうが、ここ数日の様子を見ると…なんだか迷惑をかけた詫びのように捉えていそうで心配だったのだ。

 正直、今回の俺たちの仲違いはオウルの仕込みである可能性が高くてとてもじゃ無いけど天使(あまつか)と相賀の二人を責める気にはなれない。


「ああ、いいんだ。お前たちにも関係がない話じゃないし…知っておいた方が何かと今後生きていく上で思うところも出てくるだろうから」

「そうか…」


 だが、天使(あまつか)は関係者なら知っておいた方がいいと話す気でいる。

 無関係とは言えないが、これ以上積極的に厄介ごとに首を突っ込むのはやめとこうと思っている次第なんだが…それでも聞いといた方がいいのだろう。

 きっと、関わりたくなくても知らなきゃ逃げることも避けることもできないからな。


「希空ちゃんは何時ごろ来るんだ?」


 荷物を置いて、ちゃっかり着替えまで済ませた相賀が、盆の上に人数分のお茶を乗せてやってくる。

 なんだか、そういう気の回し方がこいつを喫茶店の店員なんだと改めて思わせてくる。


「希空は七曜だからな…そもそも授業自体がうちより遅く終わるはずだし、学園の場所も少し遠いからなぁ」

「七曜は一応は格式と規則が厳しい学園ですからね…それにクラスやお友達との兼ね合いもあるでしょうから、時間がかかるのでは?」

「そうなのか」

「というか、あなた達兄妹なのに違う学園なのね?」


 なんか今更といえば今更な質問が飛んできた。


「ああ、親がな俺ん時は大したことしてくれなかったのに希空には甘くてよ…金を積んで七曜に入れたんだ。希空は別にどこでも良かったんだろうけど、親の好意には甘えとこうって七曜に行ったよ」

「そもそも、この年齢だと同じ学園に入るってのもなんか変な感じだったりするしな」

「確かに」

「そういうものなのか」


 そんなことを話しながら、希空が来るのを待っていると店の入り口が開きカランカランと音が鳴る。

 相賀は、今日は店を開けていないと言うし閉まっているこの店にやって来るのは閉まっていてもここに用のある奴だけだ。

 だから、最初は希空がやってきたと思っていた。

 思っていたよりも早く来れたんだな、なんて呑気なことを考えていた。

 多分、他のやつらも同じだろう。

 全く警戒していなかった。


「えっと~、ちょっとお聞きしたいんやけど」


 だけど、入ってきたのは待ち人とは似ても似つかぬ男だった。


「あら?脅かせちゃいましたかね」


 男はかなりの高身長、それでいてとても細身でまるで針金か、デッサン人形の様な雰囲気を感じた。

 年は判断が付きにくいが、制服を着ているので恐らくは同年代ではあるのだろう。

 そして表情の読めない細められた目に薄ら笑いを浮かべる口元。

 胡散臭い似非関西弁が警戒心を煽る。


「すまんなぁ、驚かせるつもりはなかってんけど...ちょいとお仲間に入れてほしいな、思いまして」


 男はそれをちゃんと理解していた。

 俺たちが警戒に警戒を重ねていた事を理解していて、それでもなお飄々と告げる。

 非常に慣れた手つきで懐から出したのは()()()()()()()

 もはや見慣れたそれは、俺たちにとって警戒を最大限まで引き上げるのに十分だった。


「お話し、しましょうや」


 新たな刺客とでも言うのか、少なくとも新しい厄介事が舞い込んだらしい。

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