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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第2章-増える宝、天に輝く使いの翼-
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無双-エンジェルズ-

 何なんだ。

 能力の出力では圧倒的に私が勝っている。

 あの六番の少女と私の間にある差を何か埋めるものがあるとするならば、それは単純な技量。それだけだ。

 私もこの能力(光と翼)を十全に扱えているという自信があるわけではない。

 それでも他のアナザーユーザーと比べたときに、出力差で押し切れないなんてことはなかった。

 そもそも名前すら呼ばずに半端な起動しかされていないアナザーで戦おうというのが無茶無謀だ。

 技量だけでここまで追いすがられる。

 才能と、一言で片づけることもできるが...六番の資質ともいえるかもしれない。


 一つ、この状況にいい事があるとすればこうやって撃ち合っている間はまだ状況が動かない事だろう。

 目の前の少女の技量は確かに凄いが、まだ私の方に分がある。

 空を飛べ、威力もこちらが上。技量の差で躱されて、反撃も貰っているが微々たるものだ。

 それよりも脅威となりえるのは、その詳細が全く分からない三番の少女。

 挑発にも乗らずにあの少女を隠した。

 ならば、奴らが私対策とやらで立てた策はあの少女が起点になるのだろう。


 オウガはこの決戦の約束の日に『ああいうタイプが苦手なのは知ってる。自分を顧みず一撃入れようとするタイプだ』と言っていたが、それは間違いでもあり正しくもある。


 私が苦手なのはこの戦いに参加している全員だ。


 三番の少年はその精神性が相性が悪い。()()()()()()()()()()()()()()()()()が、ダメージ覚悟で突っ込む精神力は私にはないし、遠距離主体の私には相性が悪い。

 六番の少女はこの技量。それだけで脅威。

 三番の少女も然り。

 オウガだって苦手の側である。彼の神速の手刀は、躱す余地もなければ圧倒的な質量のせいで一撃で決着がつく類のものだ。そういう一撃必殺も相性が悪い。


 だから、実は私はこの少年少女たちに対して強い興味を示してはいても...戦おうという気があまりなかったりする。

 確かに私はアナザーを集めているが、別に彼らからじゃなければならない理由はない。どうせオウルのやつがもっとバラまいているのだからそっちから集めたほうが早いだろう。


 それでも彼らを挑発して、こうして対峙しているのはなぜだろう……なんでこうやって戦おうと思ったのかは私にも分からない。

 ただ、無関心を貫けなかった。


 それはきっと私と同じだから。

 決して目を逸らすことなんてできなかったから。

 そこにほんの少しの哀れみと同情と、慰めがあったからかもしれない。


 そして、覚悟を決めよう。

 そうだ。これは私が興味を持って始めた闘い。

 本当なら避けてもいい闘い。いつもの私なら冷めた心が何を思うでもなく避ける闘い。

 認めよう。

 私は楽しんでいるのかもしれない。

 私に日常を与えてくれたオウガと生きるためという至極真っ当な動機で格上に戦いを挑む彼女らと今も楽しそうに戦っているのであろうオウガと対峙する少年に心が浮つくのを止められない。


 そう考えながらも続いていた膠着しているレーザーと弾丸の応酬。

 それの流れを変える一手を打つ。

 その行動は罠と分かっていてもそれを正面から叩き潰せるという自信と本来の私ならば即座に行ったであるという確信に基づいていた。


「いい加減。撃ち合いも飽いた。少し強引に行くぞ」


 私のその言葉で身構える六番の少女。

 だが、私が行うのは彼女が行った対策ではどうしようもない一撃。

 頭上の輪と一体となったアナザーが強く輝く。

 放った光をまた集めるように、収束、圧縮。

 自分をまきこまないように最低限の指向性を持たせたまま、放つのは一点突破のレーザーではなく、乱雑乱打の拡散攻撃。


「初めてやるが...あなたに倣って名付けるなら……光の雨、ヘイルレイってとこかな」


 弾ける、圧縮の力は反転し収束された光の弾丸が散る。

 一つ一つが超高温に圧縮された光の玉が四方八方に放たれる。

 ランダム性が強いこれは一発一発をあの斥力の壁で対処することはできないだろう。

 代わりに貫通力を失っている。それに気が付いた場合、彼女がとる手は……


「っ!これは!!」


 彼女は一瞬で理解したのだろう、今までの防御方法では足りないと。そして、私の子の攻撃に貫通力がないことを。

 今まで一か所に限定することで飛躍的に効果を高めていた斥力の力を自身を囲むように展開する。

 それは防御力を落とす代わりに、範囲を広げる先ほどまでとは逆の運用。

 そう、正しい。咄嗟の反応でここまでできるというセンスの高さにまたもや驚かされる。


 だが、致命的な隙だ。


 今の攻撃は拡散して打った。だからこそ着弾には時間差があり、それらを全てやり過ごすまで彼女はあの防御状態をやめられないだろう。

 それだけの時間があれば次が打てる。


 貫通力に秀でたレーザー。未だ全方位防御中の彼女には対応が難しい一撃。


「隙あ―」

「隙あり」


 今まさにその一撃を放とうとしたタイミング。

 完全に意識があの六番の少女に向いたタイミングで三番の少女の声が後ろから聞こえた。


 振り向くと、そこには目の前にまで迫っている三番の少女。

 いったいどこから?

 ここは高度はないとはいえ、空中。どこから?

 そこでようやく気が付く。自身の真上。

 コンテナクレーンがあった。


 そこから落ちてきていたのだ!


「ッく!」

「取ったあああ!!」


 三番の少女はまっすぐに私の頭上に手を伸ばしている。

 何をする気かは分からないけれど、私はとっさに六番の少女に放とうとしていたレーザーを三番の少女に向かって放つ。

 レーザーはいともたやすく少女の体を貫いて、確実な致命傷を与える。


 しかし、少女はそれを受けてもなお手を伸ばしていた。

 何なんだ。腹部に風穴があいたというのに全く気にせずに特攻するその姿に恐怖を覚える。


 そして少女の手は、私の頭上の輪。私の光のアナザーを掴んだ。


「グぅッッ」

「馬鹿な!起動中のアナザーを奪うなんて正気か!?特に私のは光。腕が炭になるだけだ!!」


 とは言え、それを待つつもりもない。

 私は再び光を収束して、今度は念入りに確実に殺せるようにレーザーを放つ。

 こんどのレーザーは頭と腕を貫いて、確実に彼女を死に至らしめた。


「無駄なことを...!!いや、これは!」


 いったいどんな策かと思えばただの自爆特攻なんて、と呆れたその瞬間に再び驚愕に包まれた。

 たった今殺した少女の肉体がまるで最初からそうであったかのように霞へと消えていく。


分裂(ダヴシオン)、その私はただの分身だよ天使ちゃん?」


 そんな声と共に三番の少女はコンテナに影から銀のティリスを輝かせながら出てくる。

 なんて能力だ。

 レアなんてものじゃない。正直、能力の質だけでいえばあのオウルが持っているものですら比べ物にならない。


 いや、思考を切り替えろ。

 今は能力の良し悪しはそこまで重要じゃない。問題は、アレでそんなことを企んでいるかだ。


「……素直に驚いたよ。でも、それで?何か状況が変わったのかい?むしろ悪くなったんじゃないか?」

「そうでもないよ……私の分裂(ダヴシオン)はね、私か私が触れている無機物を増やすことができるの……たとえ、それが分身だったとしても私はあなたの()()に触れたよ」

「!!?」


 なんてことを言いだすんだ。

 なるほど、彼女を隠すわけだ。隠して、伏せて、ここぞとばかりに切るべきジョーカー。

 つまり、


分裂(ダヴシオン)、光を偽れ」


 そして、彼女を中心に莫大な量の情報の圧が吹き荒れる。

 彼女の胸元で輝くアナザーとは別に、手元に新しく力が構築されていく。

 ああ、最悪だ。

 アナザーを使用するための条件は、アナザーに適性がある事。それと、名前を知っている事。

 彼女はそのすべてを持っている。


「確か、こうだったよね?(リグフト)


 目覚めた新しい光はすぐに収束していき、レーザーとなって私へと襲い掛かる。

 彼女が私のアナザーを複製した段階で、こうなると思っていた私はすぐに能力を働かせる。

 このレーザーの原理は、物理的な影響が出るまで周囲の光を収束しているだけだ。

 ならば、その収束をほどいて拡散させればただの目くらましでしかない。


「ちぇ、当たらないか」

「...切り札としてふさわしい事をしてくれるね?だけど、同じ能力なら出力や練度の差が如実に出る。流石にあなたに負けたりしないよ」

「そりゃそうか……でもさ、これであなたの光は怖くなくなった」

「……ふむ」


 それは確かにその通りだろう。

 私も大概ミスが多い。今のレーザーも拡散させるのではなくて翼で防ぐなり、避けるなりすればよかったのだ。

 今、光のレーザーを光の能力で防いだことで、それができるということを三番の少女に教えたようなもの...これでは私のレーザーも拡散させられて有効打にならなくなるだろう。


「でも、忘れてないかい?私にはもう一つ能力があるんだよ?(これ)がね!!」


 私はこれまで防御と空中浮遊意外に使ってなかった翼の能力を引き出す。

 この翼はただの翼だ。

 それ以上でもそれ以下でもない。だけど、これは能力で産まれた翼だ。だから、これには私のイメージが色濃くでる。


 私の翼は鋼鉄よりも固く、鋭い。


 三番の少女は光を収束してレーザーで迎撃しようとしているが、それよりも飛んで近づく私の方が早い。

 瞬きの間に背後に回り、翼で背中を刺し貫く。


「遅いよ。けど、面白かった」

「……そう、なら役目は果たせたね。残念だけど、これも分身なんだ」

「!?」


 絡めてを正面から叩き伏せたという実感による油断を戒めるように少女は笑いながら言う。

 それと共に今しがた貫いた少女の体がまたもや霞に消えていく。


「馬鹿な!私のアナザーを複製したのは嘘ではなかった!!確かに、あなたは確かにその複製する能力を使っていた!!偽物のわけが...」


 そう、私が驚いたのはコレが偽物だったという事実ではない。いや、大きく見ればそうなのだが、正しくは違う。

 確かにアナザーの効果によって私の光を複製したというなら、この少女は自分のアナザーを偽物に持たせていたということになるが、それは矛盾だ。

 本体が能力を起動しているから偽物が存在しているのに、偽物にアナザーを持たせたら本体は能力を使えないはず...いや、違う。

 そうか、


「「アナザーを持った自分」を複製したのか!!」

「せいかーい、そもそも使い方もよく分からない敵の能力を切り札にするわけないじゃんね?」

「圧し…潰れろ!!!!」

「ッ!!!!」


 意思のこもった言葉と共に理外の重圧が私を襲った。

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