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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第2章-増える宝、天に輝く使いの翼-
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交戦-レーザービーム-

 晴くんは、十六夜さんを連れて行ってしまった。

 残されたのは私と希空ちゃん、そして天使だけだった。


 天使、

 私たちの現状最も脅威であり、恐らくだけれど私たちよりも事情を知っている人間。

 これから私たちは晴くんという、唯一天使と戦ったことのある盾を失った状態で勝たなくてはならない。

 怖くないと言えばうそになる。

 絶対に勝てるなんてうぬぼれることなんてできない。


 それでも、晴くんに託されたこの戦いを放り投げることなんてできない。


 天使は未だにアナザーを起動させることなくただそこに立っているだけだった。

 それは余裕の表れなのか、何か思うところでもあるのか私には分からない。

 私は天使の事を何も知らないから。


「それで?策を練ってきたんでしょ?このまま始めちゃってもいいのかな?」


 天使はそう何の気もなしに聞いてくる。

 それはきっと、本当にただの確認程度のつもりだったのだろうが、私にはそれは煽り文句のように聞こえた。

 それで冷静さ欠くほどではないが、その私と彼女の間にある紛れもない差を見せつけられているようで気分のいいものではなかった。


「随分と優しいんですね…あなたはもっと冷酷だと思っていました」


 言葉には言葉で。

 私にとって争いというものが身近ではないからこそ、最も身近な争いである「言葉」を交わすことになんら抵抗はなく、天使と会話を試みる。


「そうだね…普段の私なら問答無用で攻撃しただろうけど、オウガがね約束を守るって言っていたから…私もそれに倣おうかと思ったんだ」

「そうですか、私としてはいくら十六夜さんに言われたからと言って止まる様には思えなかったので」

「失礼だね、私だって恩人に報いようという気持ちぐらいあるさ…たとえ人を殺すことに躊躇いのなくなった化け物だとしても」


 その言葉と共に溢れるのは、天使の存在感。

 未だにアナザーを起動すらしていないはずの彼女。その感情によって空気が大気が世界が、呼応していると錯覚する。

 それは、私が能力を使って生み出す圧力を素で生み出しているかのような。

 そんな理不尽が目の前にいた。


「では、私は友人がその化け物に落ちようとしているのを止めようとしている主人公のために…原因のべ化け物退治をしないといけませんね」

「…あなたこそ、意外と口が悪いじゃないか」

「……」

「見た目からは想像できない言葉で思わず驚いちゃったよ」

「誰かさんの影響ですかね...」


 確かに、私は化け物と自称している女の子にたとえ敵対していたとしてもそれを退治するなんて普段は言わないだろう。

 私も場の空気に中てられて、晴くんの口の悪さが映ってしまったみたいです。


「そろそろいいかい?」

「ええ、向こうも始まる頃でしょうし」

「恵麻さん」

「希空ちゃん、作戦通りに」


 小声で希空ちゃんと意思を交わして、予定通りに行動するように促す。

 希空ちゃんは一瞬、不安そうな顔をしたのちに力強く頷いてコンテナの向こうへ行く。

 これで今ここには私と天使しかいない。


「?いいのかい?これじゃこっちも一騎打ちじゃないか」

「大丈夫です。言ったでしょう?準備万端ですよ」

「そうかい、なら始めようか」


 やはり天使は私に忠告とも煽りともとれる言葉を投げかける。

 なんだか、言葉を言葉のままに受け取れば心配しているともとれるその言葉は、私の知らない天使の一面の表れなのかもしれない。


(リグフト)よ円環に回れ」


 天使が懐から取り出したのはこの数週間で見慣れてしまった銀色のティリス。

 それに語り掛けるように、歌うように、宣言のように名を呼び起動する。


 その瞬間、彼女の周りには収束して目に見えるようになった光が集まっていく。

 それはアナザーを取り囲み、彼女の頭上へと移動してから形を変えていく。

 あの時、見たモノと同じ。

 天使の証(エンジェル・ヘイロー)

 強く輝きを放ち、そして先ほどの存在感などを鼻で笑うような圧倒的な情報量という名の力が吹き荒れる。

 一瞬で理解できる。格が違うと。

 それでも、私たちはこれに勝てるように策を練ったのだから大丈夫。

 そう心で鼓舞しないと逃げ出してしまいそうになる。


(フェアヘア)よ自由を求めろ」


 そして、彼女の力はそれだけではなかった。

 さらにもう一枚。アナザーを取り出して再び起動の言葉を口にする。


 今度は光のような暴力的な光を放ちこそしなかったが、強力な風と共に羽が舞い散る。

 起動したアナザー特有の銀色の光を輝かせたそれを、宙に放るとアナザーは独りでに彼女の腰辺りで宙に浮き、大きな二対の翼を生やした。


 翼に光の輪。

 天使の姿が完成した。

 天使とは光と翼の二つの能力を併用した姿であった。


「流石にこれは...考えが甘過ぎましたか?」

「ん?ああ、もしかして翼も含めて私の一つの能力だと思っていた?そうだとしたら...そこに関しては甘かったと言わざるを得ないかな?ま、あなたたちが練ったという策を私は知らないけどさ、それでも私は誰にも負けない。正面から叩き潰せる。オウガはそう思ったのだろうし、私もそう思うよ」


 正直、言葉にするまでもなく考えが甘かった。

 私たちは天使が恐ろしいほどに強いと理解はしていたが、その中身についてはほとんど知らなかったのだ。

 私たちは想定される天使の力に対して入念に策を練ってきたが、その前提が覆されたような気分だった。

 そもそも、積極的にゲームに参加していて参加者を襲っているなら複数のアナザーを持っているのは当然なのに...


「さぁ、あなたも早く能力をちゃんと起こしなよ」


 私はすでにアナザーを起動している。それでも天使がそういうということは、天使には分かっているのだ。

 私がまだちゃんと能力を引き出せていない事を。


「いえ、私はまだこの能力の名前を知りませんので」

「?何を言っているんだい?それはあなたが覚醒させたティリス・アナザーだろう?なら名前を知らないなんてことあるわけがない」

「...才能がないんですよ……仕方ないでしょう?」

「は?それは、誰が言ったんだい?」

「...オウル」


 正確には晴くんが名前も能力も分からないと言ったのに対してそう返していただけで、私に直接言っていたわけじゃないけれど...他に理由も見つからないから、そういうことだと納得していた。


「...アイツ、適当言って...はぁ」

「反応からして、それは嘘ということですか?」

「嘘だね。才能がない?才能がないならそもそも覚醒しないよ。ティリス・アナザーってのはそういうものだ。0か1しかないんだよ。覚醒したけど名前が分からないなんて中途半端なんてあり得ない」

「ですけど、分からないのは事実ですよ?それに私だけじゃないです。晴くんも」


 思わず、言わなくてもいい事まで言ってしまった。

 それに対して、天使は驚いた顔を隠そうとせずに呆れたように言う。


「分からないんじゃないよ、分かろうとしてないんだよ。名前を知らないならそれしかない。知っているはずなのに知らないふりをしているんだ。まぁ、そんなことよりも名前を呼べないなら…オウガもワンチャンあるかも...」

「どういうことですか、まるで私が目を逸らしているみたいに」

()()そうだろ?」


 強く断じる天使の言葉。

 ああ、確かに私は目を逸らしている。

 この非日常の象徴ともいえるこのティリス・アナザーから。

 目の前の脅威から。


「...いえ、今はそんな不確定要素に惑わされる場合じゃないですね」

「そうそう、出来ないなら出来ないなりに策を練ったのだろう?思ったよりも拍子抜けだけど...あんまりに弱いと流石に私も心が痛むからね...頼むよ?」

「いちいち一言多いです」


 私は頭に過ぎる様々な考えを振り払い、これから始まる間違いなくこれまでで一番のこの場面に集中する。


「じゃ、行くよ」


 天使はそう宣言してから掌をまっすぐこちらに向ける。

 あの時見た、あの光線を出す前動作。


 翼という想定外にも注意を払いつつ、いつ光線が飛んできてもいいように身構える。


(リグフト)!!」

「弾け!!!!」


 そして放たれた光線はまっすぐに私の胸に飛んできた。

 言葉を交わし、なんだかんだ話をしてくれていた姿から一変。迷いなく命を取りに来る、容赦のない一撃。

 私はそれを引き延ばされた時間間隔の中で、冷静に見つめていた。

 味方には影響が出ないようにしていたが、それ以外に指向性を持たしていない無差別の斥力で完全ではないものの光線を散らすことに成功していた。


 私はその経験を経て、思ったことがあった。

 当然だが、同じ力でも範囲を限定すると効果は増す。

 それはホースから出る水のように、叩く力を貫く力に変える釘のように。

 私は斥力を重圧を場所を制限して放つ。

 光に、光線に効率的に当たる様に。

 少し角度もつけて


 その衝突は如実に表れた。


 私が作り出した斥力の壁の様な物に光線がぶつかり、光線は収束がほどけるように四方にばらけて見当違いの場所に飛んでいく。

 私の元にちゃんと届いた少しばかりの光線は速度をほとんど失い、私は数歩移動するだけで躱せる。


「……あの時も思ったけど、あなた本当に名前を知らないの?出力が高いわけじゃないのに、これを防げるなら...単に技量が高いだけ?やっぱり才能が有り余ってるじゃないか」

「それは、誉め言葉ですか?」

「いや、哀れみの言葉だよ。アナザーの才能があるなんて不幸でしかないなって」

「...私自身に自覚はないですけど、才能に嫉妬しているように映りますね」

「...否定はできないかな」


 上手くいった。上手くいかなくては全てが破綻する大前提。

 天使の一撃をどうにかする。

 その高難易度でありながら基礎中の基礎を何とかクリアした私はこの作戦が大きくは間違いなかったと確信した。


「次は私の番ですね」

「ん?」


 私が取り出したのは銀色ではない。私が普段から使っている普通のピンク色のティリス。

 そして、その本来の機能。物を情報にして収納するという機能を呼び起こす。

 ティリスは便利だ。とにかく重かったり、かさばる物だってこのカード一枚に収納できるんだから。


 私はティリスから小さい鉄球を複数取り出し、それに能力をかけて浮かす。


「鉄球?」

「はい、ただの鉄球です。ところで天使さん?あなたは斥力というものがどういうものかご存じですか?」

「急になに?」

「先ほどはあなたの光線を防ぐために使いましたけど、そもそも大雑把に言えば反発の力である斥力はこういう使い方の方があっている気がしていたんですよね」


 先ほど光線を防ぐときよりもなお範囲を狭める。

 直径は11ミリ、方向は単純に天使に向けて、まっすぐに飛ぶように少しばかりの回転がかかる様に、

 丁寧に能力をかけていく。イメージは電磁加速装置。

 止まっている状態から、一気に加速させる。


「発射!!」


 脳内で引鉄を引くように、能力を解放する。

 それによって鉄球は文字通りの弾丸になって天使を襲う。

 天使はそれを翼を大きく広げて体を覆い隠すことで簡単に防いだ。


「本当に...何と言うか、器用だね」


 防がれた。それでも、足元に散った数枚の羽を私は見逃さなかった。

 それはつまり、最低限防御を削り、天使にダメージを与えられる可能性のある攻撃ということ。


「名付けるなら...斥力加速砲、リフレクションガンとかですかね?」


 後は希空ちゃんが上手くやってくれれば勝てる。

 お願いね、希空ちゃん。

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