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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第2章-増える宝、天に輝く使いの翼-
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約束

 日をまたいで、放課後。

 俺たちは再び、メインストリートへと集まっていた。


「昨日は結局、私のわがままで進まなかった調査を真剣に進めよう!」

「おー」

「よろしくお願いします」


 そう、今日からは本格的な天使捜索のために街を練り歩くことになったのだ。

 発案者は希空。どうやらわがままを言った分頑張らないといけないと思っているらしぃ。


「無理はしないようにな」


 張り切っていることはいいんだが、希空が張りきると頼もしいとかよりも心配が先に出てきてしまう。

 それは普通の兄としての心配もあるが、単純に空回りになりそうという不安もある。


「大丈夫だって、実はね...昨日ああやって遊んでる間にストリートの所々で気配を感じないか探知してみたんだけど...特に何も感じなかったんだよね!」

「ダメじゃん、なんで得意げ?」

「いやいや、天使がメインストリートにいないって分かったじゃん。後は学園地区とか、住宅地区とか、工業地区とか、にしかいないんだよ?」

「多いな」

「一個選択しが減っただけでもありがたいでしょ!」

「まぁな」

「とっても助かりますよ希空ちゃん」


 実際助かる。昨日、遊びながらとは言え一日かかった場所をもう調べなくていいとなるとだいぶ助かる。

 というより、希空が俺たちすら気づかないうちにそんなことをしていたのに驚きだ。

 特にそういった素振りを見せていたわけじゃないから、気が付かなかった。

 思っていたより希空が優秀で困る。

 情けなくも希空に頼んでいる時点でやるせないのに、希空が片手間に行うそれに頼らないと何もできない俺たちの無力感が増す。


「じゃあ、まずはどこから行こうか?」

「そうですね...とりあえず、ここには昨日の時点ではいない...となると、いったんあの場所に戻ってみませんか?」

「あの場所?」

「私たちが初めて天使を見た場所。あの公園に」


 特に反対意見もなく。俺たちはあの公園に向かうことにした。




 この公園に来るのはあの日以来となる。

 久しぶりやってくると公園には一部遊具や木々に黄色いテープで近寄れないようになっていたが、基本的には全く普通の公園へと戻っていた。

 あの凄惨な状況の面影はなく、アレが確かにあったのだと証明しているのはブルーシートに覆われた遊具だけだろう。


 一夜にして日常の姿を変えてしまった公園に、人はほとんどいなかった。

 居るのはベンチに座って休憩しているサラリーマン、ご老人が数人といった感じだ。

 そして、その光景にあの日の惨状を思い出してしまっているのか、希空と六鹿の表情は決して明るいものではなかった。


「どうだ、希空?何かわかるか?」


 その嫌な記憶に支配されている希空を見て、俺は意図的に何も気にしていない、何も思い出していない風を出しながら軽く聞く。

 それはきっと拙い演技だっただろう、それに気が付かれていたと思う。

 それが恥ずかしくて希空の顔をまっすぐ見ることはできなかった。


「待ってね」


 そう言ってから、希空は集中するために目を閉じた。

 結果はすぐに出た。


「凄い力を感じる。確かにここにものすごい力の塊があった。でも今はないね...それが解かる」

「おお、滅茶苦茶わかるじゃん」

「凄いです!これなら天使を追えますね!」

「でも、それしかわからない。どこへ行ったのか、どこにいるのかはわからないの」

「いや、気にするな!元々虱潰しのつもりだったんだから、ちゃんと結果が分かるってことがわかったのが大事だろ」

「そうですよ、これで実際に天使を見つけたときに気が付けないってことがなくなります。ありがとう、希空ちゃん」


 忘れていたけど、そもそも希空が俺たちアナザー持ちと一般人の違いは分かっていたけど、ただのアナザー持ちと天使という個人を見分けられる保証はなかった。

 それが、今違いが判ると分かった。

 これで、天使に奇襲を仕掛けるのに一手進んだ。


「そしたら、次はどこに行くかだな」

「...痕跡も見分けられるなら、天使が居たと思われる場所を順番に回るのがいいんじゃないですか?」

「そうだな...なら、次は」

「そうですね...工業地区の倉庫街。あそこですね」

「ああ、後は各学園かな?どういう基準でアナザー持ちを探しているかわからないけど、やっぱり人が集まる場所には来ていそうだしな」

「では、その順番で…希空ちゃんも大丈夫ですか?」

「うん、任せてよ」




 そうして、順番にそれらを回っていく。

 その途中で痕跡があったり、なかったり。

 別のアナザー持ちの気配があったり。

 決して何もわからないなんてことはなかったが、それ以上の進展はなかなかなかった。

 それは段々と俺たちの体力を蝕んでいった。


「なんて言うか...上手くいかないもんだな」

「ちょっと希望が見えて調子に乗りましたかね」

「ごめんね、もっと細かくわかればいいんだけど...」

「いえ、希空ちゃんは本当に助かってますよ」

「俺たちがなんもできてないからなぁ」


 一歩確かに進んだけれど、その一歩だけでそれ以上はなかったことが精神に来ていた。

 これ以上は、惰性になるだけでちゃんと次の作戦を考えてから出直したほうがいいだろう。

 すでに、日も傾き始めていて解散の時間が近づいていた。


「今日はここまでにするか」

「そうですね、根を詰めすぎないようにですね」

「あーお腹空いた」

「あ~今日はお疲れ、なんか軽く食っていくか」

「さんせー!」

「じゃ、どこ行きます?」

「とりあえずここからだと近いし「Luna」でいいか?」

「行こう行こう!」

「問題ないです」


 俺たちはそうして、運命の分かれ道を進む。

 気が付かないまま、重大なその分かれ道を進んでしまったのだ。


 俺たちは疲れからか、口数は少なくなり歩くスピードもゆっくりだった。

 そうして、精神からくる疲れに足を引き釣りながらも喫茶「Luna」にたどり着く。

 入口は相も変わらず、喫茶店というには渋く目立たない。

 そんな見慣れた店の扉を開けて、入店のベルを鳴らす。


「いらっしゃーい、好きな席にどうぞ!!」


 どうやら今は厨房にいるらしく、店の奥の方から十六夜の声だけが聞こえてくる。

 その声を聞いて、俺たちはまだ二回目なのにすっかりいつもの席といった感じになってしまった奥の席へ向かう。


 いつもは俺たち以外に客なんていないのに、今日はカウンター席にパーカーのフードを被った女の子がいた。

 おそらくは十六夜が今厨房で作っているものはあの女の子が注文したものなんだろうなと漠然と考えていた。


 その子を横目に奥へと進む途中で希空が急にうずくまった。


「希空?」

「希空ちゃん?大丈夫ですか?」


 先ほどまで、確かに疲れていた。疲れていたが軽口は叩けていたし、ここで軽く食事をすることも乗り気だった希空が明らかに普通じゃないような様子でその場にへたり込んでしまった。

 よく見れば、大して熱くもないのに額に汗を滲ませて、呼吸は荒く、今にも吐いてしまいそうなほどに顔色が悪かった。


「おい!希空!どうした!?」

「に、兄さん...私、私は、そんな…なんで」


 希空は何かに怯えているようだった。

 何か、本来ならあり得ないものがそこにあることに恐怖しているようだった。


「…参考までに聞きたいんだけどさ」


 俺と六鹿は希空に気を取られていた。

 きっと周りが見えていなかっただろう。

 その状態から解き放ったのは俺たちのすぐ後ろからかけられた声。

 聞き覚えのある声だ。

 どこかで聞いた声。


「どうやって気が付いたのかな?興味がわいたよ」


 後ろを向けばそこにはフードの隙間から金髪と赤い目を覗かせた、恐ろしく顔の整った女の子がそこにいた。


「天…使…っ!!」


 それに気が付いた俺と六鹿はとっさに懐からアナザーを取り出す。

 希空を背中に庇うために一歩前に出て天使と対峙した。


「やめてよ?店で暴れるなんて非常識だ」

「…どの口が!」

「いいから。そういう話がしたいなら外に行こうよ」


 天使はそれだけ言うと、一人でさっさと外に出てしまう。

 その姿はあの日見た、苛烈な姿とは違って見えて本当にあの天使なのかと思った。

 だが、よくよく考えてみれば俺は何も天使の事を知らないからそのどちらが本性かなんてわからない。


「晴くん…」

「…行こう」


 六鹿が短く俺の名を呼ぶ。そこに含まれた意図、追うのかという質問に俺は少しだけの迷いをのこして追うことを選択する。

 折角見つけた天使。このままぶつかったって絶対負ける。

 かと言って俺たちが逃げるという選択肢はない…なにせ天使は店から出ていったなら店の外で待ち構えてるわけだから、唯一の逃げ道を抑えられたということだ。

 それに、ここを逃せばチャンスがないかもしれない。

 今、天使は問答無用で襲ってくるようなことはなかったから…

 楽観的だろうけど、追うことにする。


「希空、お前は無理するな」


 ただ一人、気が付いてしまった事で精神的にダメージを追った希空は連れていけない。

 純粋に心配もあるが、何かがあった時に自分で動けないと危険だからだ。


 そう考えて、希空を置いていこうとするが等の本人は首を横に振った。


「私も、私も行く」

「だが、」

「心配かけさせちゃってごめん、でも私も行く」


 未だに汗は滲んでる。顔色はマシになったけど以前悪いまま。とてもじゃないけど連れていけるようには見えない。

 だけど、ここで置いていくこともできない思ってしまった。


「無理だけはしないでくれよ」

「わかってる」


 そして、俺たちは入店したばかりの店を入った時の数倍、数十倍…いやきっとそんなもので語れるわけもないほど大きな緊張感をもって出ることになる。


 扉に手を掛けながら俺は念のため、アナザーを起動し能力により身体能力を向上させる。

 六鹿も希空もアナザーの起動だけはしていて最大限に警戒していた。


 そうして、意を決して外に出た。


「遅いじゃないか、外に出るだけなのに何してるんだい?」


 俺たちの最大限の緊張と警戒を鼻で笑うかのように道路の真ん中でボーっと突っ立っている天使。

 その姿はただの少女の様で、アナザーを起動しているようには見えなかった。

 つまり、準備万端の俺たちに対して無防備な状態だった。


「何のつもりだ、どうしてここに」

「何もどうしても無いよ...私はお茶してただけだ。あなたたちがあまりにも今すぐ仕掛けてきそうな雰囲気だったから外に出ようって言っただけさ」

「偶然だっていうのか...!」

「そう、偶然」


 天使はあっけらかんと言う。

 果たしてそんなことがあるだろうか、天使と邂逅を果たし目を点けられた後すぐに、最近になって通い始めた喫茶店にその天使が居るなんて...


「何かさ、勘違いをしているようなんだけど...あなたたちがあの店に来るようになる前から私はあそこに来ていたんだよ?あなたたちは気が付いていなかったみたいだけど私は前からあなたたちを知っている」

「!?」


 前から俺たちを知っていた?

 この店に通うようになったのはアナザー関連に巻き込まれる直前だ。

 そのほとんどは巻き込まれた後から通ってる。

 なら、天使は俺たちがアナザーを手にしてから出会ってることになるんじゃ?


「なら、どうして私たちを襲わなかったんですか?あなたはゲームに積極的に参加しているんですよね?」

「ゲーム?...ああ、オウルがやってるアレね。うん、私はオウルに願いをかなえてもらうためにアナザーを集めてるよ...あなたたちを襲わなかった理由は、いつでもいいと思ったからかな?」

「いつでも奪えると?」

「うん、私とあなたたちとじゃ地力が違うから...とはいえあの時、アレだけ粘られると思ってなかったから興味を引いたんだよね」


 なめられている。

 だが、それを言うだけの実力の差が俺たちと天使にはあった。


「今だってこうしてお話ししてあげてるでしょ?別に逃げてもいいよ?私にとってはタイミングの違いでしかないからさ」


 天使は徹底して俺たちを下に見た発言をする。

 どうする?言われた通りに逃げるべきか、天使を見つけるという当初の目的は達成している。

 ここはおとなしく引いて、策を凝らすのが正しいんじゃないのか?


 カランッ


 選択に迷っていたら事態はさらに混沌へと転がる。


「誰も店内にいねぇと思ったら、お前ら店の前で何やってんの?」


 店から十六夜が出てきた。

 マズイ、十六夜は俺たちがヤバい事に巻き込まれていることも天使が恐ろしい奴だって事も知らない。

 俺はさらに増えた考えなきゃいけないことに思考が鈍った。


「いや、ちょっとね。もしかしてパスタができたのか?」

「ああ、冷めないうちに食べてくれ」

「十六夜…」

「三船さ、六鹿も。もう一回聞くけど、お前ら何やってんの?」


 十六夜と天使のやり取りは傍から見てもわかる慣れ親しんだそれで。

 そして十六夜が俺たちを見る目は今までにないほどに冷めていた。

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