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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第2章-増える宝、天に輝く使いの翼-
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真実は唐突に1

 あれから、大した進展はなかった。

 この数日で俺と六鹿、希空は能力の扱いは上手くなっただろう。

 振り回されることなく、十全に自分の意思でコントロールできるようになった。

 それでも未だに自覚は得られない。

 一体何が足りていないのか、というより何を勘違いしているのかがわからない。

 六鹿は何か掴んだのか、名前を知るところまで行かなくても能力の応用をたくさん思いつき実践していた。

 だが、俺は能力がシンプルすぎてあまり進展もなく…ちょっとした小技を習得しただけで何ができるのかは今だにその全容が見えていなかった。


 そして、そんな牛歩のごとき進みの悪いやる気のある運動部みたいな雰囲気になりつつある六鹿家での練習が今日も終わった。


「お疲れ」

「はい、お疲れ様です」

「何か掴めそうか?」

「まだ、何とも…応用技はたくさんできたんですけどね…」

「そうだな…それができてるだけ俺よりマシか。くそー、やっぱりオウルの言っていた通り才能ないのかな」

「それでも何とか名前ぐらいはわかるようにしたいんですけどね」

「わかるやつは実に楽しそうにしてるからな」


 一通り、今日の練習をこなして体を休めている俺と六鹿から離れた場所で、トレーニング器具で遊ぶのは()()()希空。

 能力を色々試してわかったことだが、希空の能力は自分以外の生物は増やせないことがわかった。

 しかし、逆に自分は増やせるためああやって自分を増やして遊んでいる。

 ちなみに今は二人とも筋トレ中だ。

 希空曰く「自分の分身が作れるなら修行は2倍の効率でできる」らしいが、そもそもお前のそれはファンタジーでありがちな分身なのか、違うのかははっきり言ってわからないし普通の筋トレの2倍ってどうなったら2倍になったと気づけるのか疑問だ。


「希空ちゃん、元気ですね」

「一つしか歳変わんないのに、おばあちゃんみたいな言い方だな」

「そうですか?でも、本当に楽しそう。私たちに秘密を話してくれたあの時は相当参ってたんですね」

「…そうだな、今思えばだいぶ様子もおかしかった。兄としては気がつけなくて情けないよ」

「ふふ、ダメダメなお兄ちゃんで希空ちゃんかわいそうですね」

「そこは、俺の肩を持ってくれよ」


 しかし、希空はあの日は流石にまだ緊張や疲れが残っていたので硬かった態度もすでに影すらなく。

 今は、六鹿家の一般家庭ではまずお目にかかれないような筋トレ設備を使って楽しそうにはしゃいでいる。

 その姿はなんとなく忘れていた、考えないようにしていた普通を感じさせて、心が温かくなった。


「さて、そろそろ帰るよ」

「そうですね、もう夕方ですし」

「うん、いつも悪いな」

「いえ、お互い助け合わないといけないですから」

「助かる、希空!帰るぞ!」

「ええー!もうちょっと!」「あとワンセットでキリいいから!」

「お店じゃないんだから我儘言うな!」


 そこから希空はぐちぐち言いながらも帰り支度をする。

 荷物をまとめる時は二人に増えると言うのは便利でいいな。


「じゃ、これで。また明日」

「バイバイ、恵麻センパイ」

「二人とも気をつけー」


 俺たちが別れの挨拶を交わしているときにそれはきた。

 例えるならそう、まるで莫大な情報が波になって襲ってきたかのような。

 途方もない力の圧力がズンッと響いてきたかのような。


「ッ!!」


 そして、それに似たものを俺たちは知っている。

 それはアナザーを起動した時に溢れる力の波だ。


「これって…」

「一つしかないだろ」

「ど、どうしよう…」


 コレはつまりどこかで誰かがアナザーを使用したということ。

 目の前で起動されると力の波が一瞬すぎて逆に何も感じないが、ある程度離れるとこう感じるというのは初めて知った。

 しかし、遥か遠くではない。感じ取れるぐらいには近い。

 俺たちが目的なのか、違う誰かが狙いなのか、ただ起動しただけなのか…俺たちには判断できない。

 俺たちが目的じゃないなら、無視するべきだ。

 危険からは遠ざかった方がいい。

 だけど、俺たちが目的ならここで無視も逃げることもしない方がいい。

 追われるだろうし、背中から撃たれるかもしれない状況は避けたい。

 どうするのが最善か、その判断がつかなかった。そしてその判断を下せそうな頼れる人物に自然と目が動く。


 六鹿は俺と希空の視線を受けて小さく頷き、選択する。


「行きましょう」


 俺たちの運命は決まった。




 何となく感じる強い気配を元にアナザーが起動されたと思われる方へと進むと、そこはただの公園だった。

 こんな往来でアナザーを起動するような奴がいるとは思えないかったが、その公園が目に入るとそこがもう人々の憩いの場ではなくなっているのがわかった。


 その公園はすでに所々破壊されていて、木は何かに焼き切られたかのように炭化し折れ、遊具の一部は何か強力な衝撃を加えられたかのようにひしゃげていた。

 そして、そんな平和の象徴であるべきだった公園の真ん中で対峙するのは一人の男と一人の天使。


 天使、そう天使だ。

 ひと目見ただけでわかる。アレは天使だと。誰が見てもそう答えるだろう。

 ソレは流れるような金の髪を不揃いに放置しているであろうに、輝きは失われず。

 ソレの赤い瞳は感情の一切を感じさせないのに、冷淡ではなく神々しさを感じさせていた。

 ソレの体躯は幼い少女のそれであるのに何処か感じずにはいられないその色になるほど神の造形とはこれであると言えた。

 しかし、それらの人間離れした容姿を全く考慮に入れなくとも人はアレを天使と呼ぶだろう。


 頭上に輝くのは日の光そのもののように感じる輪。まさに天使の証(エンジェル・ヘイロー)

 腰から伸びる一対の大きな翼は、明らかに通常の生物のものではなくソレの全身よりも大きく広がっていた。


「天…使!?」


 六鹿が自然と口に出す。

 その表情は青く、まず大丈夫ではない顔色だった。

 だが、無理もない。その存在は、俺たちにとって最も会いたくないはずのもの。

 脳裏に蘇るのはオウルの言葉。


『そうだね、あくまでも今の状態で比較するなら...100回やって100回、触ることも能力を使う暇すらなく殺されるだろうね』


 そうオウルが評価した相手。

 曰く、世界を滅ぼせる相手。

 そして、積極的にゲームに参加している相手。


 俺たちの目下最も脅威である相手だ。


 その異様な光景に止まっていた足と思考がようやく動き始めて、俺と六鹿は声に出さずアイコンタクトだけで「隠れる」を選択した。

 その選択肢をとった理由。

 それは天使と対峙している男に見覚えがあったから。先日、俺と六鹿が戦った相手。覚醒の助けとなった出来事、その元凶。七種がそこにいた。


「おいおい、私に倒されるためにわざわざご苦労様、天使サン?」

「…倒す?」

「惚けたって無駄さ!私は知っている!君はこの能力に一度致命傷を負わされているじゃないか!元の彼は油断して相討ちとなっったけれどぼ私はそうはならない!!負けイベントを通して慢心した心を引き締められた私が負ける通りはない!!魔弾(デュクソビット)!!」


 何となく、ちょっとはまともになっているかなと思っていたが、何一つ変わっていない七種に思わず気が抜けそうになるがその後の後景ですぐにそんなことを考える余裕は無くなった。

 七種の引き鉄(ことば)で目には見えないが確かに何かが発射された。

 アレをなんども喰らった俺はわかる。アレは覚悟を決めていれば受けれなくはない。だが、無防備に喰らえばバイクに撥ねられるぐらいの衝撃が襲ってくるのだ。決して無視していい攻撃じゃない。

 だけど、天使がその攻撃に対して行った行動はただその射線を羽根で遮ることだけだった。

 ただ、それだけで防がれた。


「…は?」

「弱いね。ソレを覚醒させた男は軽く放った魔弾でも私の羽を散らすぐらいには強かったのに…ただ拾っただけの一般人ならこんなもんか」


 小揺るぎもせずに受け止めた。あの天使の言葉が本当ならそう言うことなんだろう。

 六鹿が俺を見る。まるで、アレが可能なのかと聞きたいかのように。

 俺はそれに首を横に振ることで答えた。

 覚悟があれば受けることができる。それは来るとわかっていて、受け止める体制があればと言うことだ。

 あの時は何度も喰らうのを覚悟してかなり前傾姿勢になっていたし、実際喰らって何度もフラついた。

 それをまるで強い風に思わず顔を手で庇うかのように軽い仕草で防ぐなんてこと…少なくとも俺にはできない。

 能力の練習によって強化された今の俺でも、正面から受けるのには根性がいることだ。


「あなたとはこれ以上、話すのも面倒だし。終わらせるよ」

「え?え?」


 天使は手のひらを前に突き出すと、その手のひらに光を集め始める。

 少しずつ少しずつ集められ収束していく光は明らかにコレから放つ攻撃のためのチャージといった様子で、刻一刻とその光の持つ脅威を増していった。

 一体どんな攻撃かわからない。

 あたり一帯を吹き飛ばすのだろうか、何かレーザーのようなものだろうか。

 どちらにしろ今、力の格を見せつけた後に放つタメのいる攻撃にあの七種が耐えられるとは思えなかった。

 七種は未だ状況が飲み込めていないのか呆然としているが、それでも段々と命の危機であることを認識したのか体を震わせていた。


「…じゃさよなら」


 そして、光の収束は終わり天使が引き鉄引くその数瞬前に俺の隣で息を顰めていた影が飛び出していた。


(リグフト)


 光はその言葉と共に一つのレーザーとして放たれた。

 それはまさしく光の槍。気づいた時には七種を貫…かなかった。

 一人の乱入者によって七種は突き飛ばされ、レーザーは何もない空間を突き抜けていった。


「あなたは…誰?」

「……」

「六鹿さん…!?」


 それは俺のそばで隠れて様子を見ていたはずの六鹿だった。

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