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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第2章-増える宝、天に輝く使いの翼-
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訓練3

「豪邸だ…」


 わかるぞ。妹よ。

 正直、フィクションでしか見たことがないような豪邸を目の前にするとどんなリアクションをとっていいのかわからなくなる。

 それも外から眺めるとかじゃなくて中に招かれるというのはなかなか体験できるものじゃない。

 どちらかといえば裕福ではあるんだろうが裕福ではあるんだろうが、一般家庭の域を出ない俺たちからすると六鹿の家はまさに別格の雲の上。

 俺もこれで三回目になるわけだが、慣れる気がしない。


「ていうか、兄さん。当然のように乗っちゃったけど送迎とか普通なのかな?」

「いや、普段の六鹿は送迎されてないらしいから俺たちのためだろうな」

「うへ」


 これまた三回目になる敷波さんによる送迎車。

 まだこっちの方には慣れてきた俺だが、流石に初めての体験である希空には落ち着かない時間だったみたいだ。


「ごめんなさい、希空ちゃん。でも外からくるより車で門の中まで入っちゃう方が目立たないし、気が楽かなって」

「あ〜それはそうかもです。こんな豪邸の門を叩く勇気はないなぁ」

「わかるよ」


 そりゃこんな場違いにも程がある門を訪ねたくはない。

 ここの地域担当している郵便屋は大変だな…


 俺たち、俺と六鹿のいつものに加えて新たにアナザーによって能力を手に入れた妹の希空を加えた三人で六鹿家の訓練室に集まっていた。

 目的はもちろん能力の練習なんだが、今日はこの前とは違うことを試す。


 それは、


「さて、俺たちの中で唯一能力の覚醒に加えて名前も知ってるし、さらりと使いこなしている希空に教えをてもらう会を始めよう」

「わー」

 パチパチ


 俺の長ったらしくもそのまんまの名前の会に、露骨にやる気のない返事をする希空と控えめな拍手をする六鹿。


「で、何をすればいいの?」

「とりあえず現状の確認からしておこうか。なんでこの会を開くことになったのか改めて説明する」

「うん、お願い」


 まずは、お互いの能力と今直面している問題点についてすり合わせを行う。


「まず、俺の能力だが。詳細不明。肉体が強化されているみたいだが、それが全てなのかもわからん。パワーと頑丈さが上がっているのは確認済み、再生力も上がっていたな。名称も不明。オウル…ああ、あの梟面の不審者な。曰く、能力に覚醒はしているけど才能がなくて使い方を理解できてないとのことだ」

「次に私ですね。私の能力は圧力をかけること。強化してる状態の晴くんでも、不意打ちなら這いつくばらせられるからそこそこの重さではあるけど決定打にかけます。名称は不明。なんで名前がわからないかも、わからないけれど晴くんの全例を見ると私にも才能がなかったのかなって思う」


 一通り、覚醒してからオウルに尋ねたこと、実際に試したことを元にわかっていることを簡潔に伝える。

 そして、俺たちに直面している問題は。


「俺と六鹿は、ひたすらに能力を使って見る以外の練習の仕方がわからないんだ」

「それ、対して経験値が変わらない私に言われても困るけど」

「いやいや、名前すらわからない俺たちにとっては藁にもすがる思いなんだ!」


 頼む!っと頭を下げると、希空は深く息を吐きながら話し始める。


「とりあえず。私の能力は分裂(ダヴシオン)。手で触れているものの複製を作る能力。作れるものに限りはないと思う。けど何回か試して感覚的にわかったことは私の作る複製はその性能が半分になる」

「半分?」

「うん、たとえば…六鹿先輩。万が一に壊れてもいい棒とかありますか?」

「棒…ちょっと待ってね」


 そう言って六鹿は訓練室の隅に置いてあった木刀を手に戻ってきた。

 壊れてもいいものでスッと木刀出てくる六鹿家こええな。


「コレでいいかな?」

「うん、コレを増やして…」


 一瞬、希空の持っているアナザーが強い輝きを放ち木刀は二つになった。

 それは見た目ではどちらがオリジナルなのかがわからない。完璧な複製のように見えた。


「兄さん。コレ同士をぶつけ合わせて、壊すつもりで」

「ええ…」


 希空からの唐突の破壊命令に困惑を隠せない。

 とりあえず、困惑しつつも六鹿も何も言わないので言われた通りにする。

 とはいえ木刀は元々かなり頑丈で全力で打ち合わせても壊れはしないだろう。

 ということで、俺もアナザーを取り出して能力を使う。

 全身に力が張り、強化されたのを実感する。


「せー、の!!」


 その状態で二つの木刀を打ち合わせた。

 バキィと木特有の繊維が砕けるような音とともに粉々になったのは片方の木刀だけだった。


「こういうこと。わかりやすいのは見ての通り耐久力。でも、同じ木刀を打ち合わせてもオリジナルには傷ひとつないんじゃない?そういう攻撃力みたいなものも半分になる。これが私の分裂の能力のデメリット」


 実際に試して分かるがこれは明らかに壊れた方だけが弱かった。

 握る手に帰ってくる衝撃も壊れた方が大きかったから、恐らく衝撃を吸収するような、そう防御力も半分になっていたのかもしれない。


「それで、感覚で能力を使えている私から言わせてもらえれば…兄さんたちが能力の名前がわからないのは自覚が足りてないんだと思う」

「自覚?」

「そう、自覚」


 どういうことだろうか、俺だけならまだしも六鹿にも足りない自覚とは何なのだろうか。


「最初にこのアナザーを起動して、最初に私が思ったのは私の本質は「複製」とか「模倣」とか「増殖」なんじゃなくて「分裂」だってこと。一つを二つに分かつことが私の本質。同じものを作るんじゃなく、似たものを作るんじゃなく、二つに分けるの。もちろんそうしたらそれぞれの()()は少なくなる。だから、私の能力はそれの補填までする。形を取り繕う。それが私の本質。そう理解したら自然と名前を知っていた。だから、兄さんたちは能力に覚醒しているけどその本質をまだ自覚していないんだと思う」


 希空はきっと自分の感覚的なことを言葉にしてくれている。

 それが解かる。だけれど、最初に自覚を得られなかったのにそう簡単に自覚できるはずもなかった。


「それなら、今日はその自覚を得るために行動しましょう。私と晴くんは、自分の能力の本質がなんなのか意識しながらお互い能力を使うってことでどうでしょう?」

「う~ん、めちゃくちゃ重要な話だったのに結局は才能が必要そうで辛い」

「でも、それぐらいしか私にもわかんないよ」

「いや、助かった。ありがとう希空」

「ええ、ちょっと方針ができたのです。何もわからないまま暗中模索よりは余程いい」


「それじゃあ、今日もやりますか」

「そうですね。希空ちゃんは私たちの訓練を見て気になることがあったら教えてくださいね」

「は、はい」


 少しだけ見えた新しい目標。

 目指すべき道。

 新しく秘密を共有できることができる人間が増え、俺たちは浮かれていたのかもしれない。

 これは決して、楽しむことができるような生ぬるいゲームじゃないって事を。

 本当に命のかかった。俺たちの生存競争なんだって事を。

 そんな当たり前に、当然のように目をそらしていた現実に、残酷に横たわる未来に、俺たちはすぐに直面することになる。

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