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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第2章-増える宝、天に輝く使いの翼-
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訓練2

「え、あ、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」


 そのあまりと言えばあまりな姿に思わずといった風に六鹿は能力を解除して駆け寄る。

 俺は自分を押さえつけていた力が、消えた瞬間に体を起こして顔面を抑える。

 痛くはなかった。

 六鹿の言う通り体が頑丈になっているのだろう。実験は成功だ。

 だけど、顔面を床に叩きつけられるという感覚が無意識に痛いと思ってしまうのだ。

 鼻血すら出てないけれど鼻を無意味に抑えてしまう程度には。


「大丈夫だ。だけど、アレだな重力に耐えようと思っていたけど急に増えた重力に抵抗するのは無理だな」

「そうなんですか?」

「ああ、なんか重い荷物を投げ渡されるような感覚かと思っていたけど、全然違うわ。なんか、こう...うん、上手く言えないけど違うな!でも、耐えられなくはなさそうだったな。四つん這いとかの状態からなら耐えられそう」

「えと、じゃぁ、四つん這いから始めます?」


 六鹿がすこし遠慮気味に聞いてくる。

 確かに四つん這い状態から重力に耐えるだけって絵面はちょっとシュールかもしれないけれど、それが一番だと思うんだよなぁ。


 そして、俺は四つん這いになり膝をつけ、手のひらをつけて叫ぶ


「よし、来い!!」

「いいんですか?」

「来い!!」

「はぁ、行きますよ」


 そして、また六鹿の雰囲気が冷たいものに変わる。


「潰れろ」


 ズンッ!

 と、音なんて出ていないのにそう聞こえてきそうなほどに重たい何かが全身に加わった。

 その急な重力の変化に負けて、手のひらではなく肘をついてしまうが先ほどとは違いまだ耐えられる。

 そして、だんだんとその圧力にも慣れてきて力の入れ方がわかってきた。

 ゆっくりと確実に全身に力を入れて身体を起こしていく。

 歯を食いしばり、地面に縫い付けようとするその力に対抗しようとする。

 やがて、膝に手をついたままだが立ち上がる事ができた。全身の筋肉が悲鳴を上げている。

 手をついている膝に負担が集中して骨が軋む。

 それでも立ち上がる事ができた。


 その俺の姿を見届けたからか圧力が消える。

 解放された俺は全身を脱力させて深く深く息を吐いた。


「今度は立つとこまで行きましたね、大丈夫ですか?」

「…大丈夫だ。……ただ、…ちょっと……休憩!」


 床に寝転んで五体投地する。

 指の一本に至るまで気合を入れていないと負けそうになる圧力は相当にストレスで、解放感がえぐい。


 そのまま身体を休めていると、六鹿が飲み物を差し出してくれる。

 お礼を言って受け取り一気に飲む。

 酷使した結果熱を帯びた体には、常温でも冷たく感じて心地よく染み渡っていく。


「ふぅ、落ち着いた」

「無理してないですか?」

「大丈夫、かなりきついけど耐えられる程度だったから…アレより強くなるともう無理だと思うけど」

「アレより強くはまだ無理ですね」

「そうか、すでに強力な力だと思うけど…これで足りないらしいからな」


 体験して分かる重力キャラが強い理由。

 これを戦闘中に前触れもなくやられたら、怪我は免れないしまともに動けない。

 それだけ六鹿の能力は強力だ。七種よりもよほど強いと感じてしまう。

 だが、それでも全く相手にならないという相手がいるとオウルは言った。

 コレで相手にならないんじゃ、どうしようもない様に思えるが…同時にコレでまだ成長の余地があるとも言っていた。

 今よりもさらに強い圧力とか一瞬でペシャンコになりそうだ。


「強くなってるって自覚とかあるのか?」

「さぁ?まだ使うのこれで三回目ですし、全くですかね」

「そうりゃそうか、先は長いな」


 俺はそもそも能力発動すら認識できてなくて無意識なのだから、成長の実感どころの話では無い。

 けれど、六鹿もまだ使った回数が片手で数えられるという点でまだまだ未知数な部分なんだろう。当然といえば当然。


 そこで、ふと思い出したことを聞いてみる。


「そういえば、六鹿って能力発動する時に詠唱みたいなのはしないんだな」

「はい?」

「ほら七種はしてただろ何たらって言葉がトリガーになってたっぽいじゃん?」


 六鹿は「潰れろ」の一言で能力を使っている。

 あの時も別に特別な言葉を放っていたわけじゃない。

 だけど、使えているのには理由があるのか…ただ七種が思春期特有の病にかかっていたのか。いや、ヤツは最後まであの言葉をトリガーにしていたしただの厨二病ではないだろう。


「ああ、あの言葉ですか…おそらくあれは能力の名前ですよ」

「能力の名前?そんなのつけてたのか?」

「あ、いえ…自分でつけたわけじゃ無いと思います。あの時、あの場でも言いましたけど…初めてアナザーを起動した時から私は能力が使えるという事を不思議と理解してました」

「そんなこと言ってたな」

「はい、その時に能力の使い方も能力の名前も何となく脳裏に浮かんだんです」

「へぇ?」

「ただ…」


 そこで言葉を区切って自分のアナザーを見る。

 そこにあるはずのものを取り逃がしてしまっったかのような雰囲気で。


「私はまだ名前がわからないんです」

「さっき脳裏に浮かんだって…」

「はい、これが名前なんだってすぐに分かりましたが、ノイズがひどくて聞き取れなかったというか…まるでその部分を何かで塗りつぶしてしまっているようというか…そこに名前が書いてあるのに読めない…そんな感じになっているんです」

「だから名前が脳裏に浮かんだけど、それが何なのかわからないってことか…アレかな知らない文字で書かれていたから名前なのは察する事ができるけど読めたりはしないみたいな」

「あ、そうそうそんな感じです。なのでそもそも、私はまだこのアナザーの100%を知りませんし、出せません。オウルの口ぶりからしておそらく名前がわからないなんてことも普通はなさそうですから、私は三船くんと同じで才能がないのかもしれません」


 そう六鹿は自嘲するように言った。

 きっとこれは俺に対するフォローだ。俺も六鹿も、身を守る手段、方法として強さを求めているが、それに価値観の全てが塗りつぶされたわけじゃない。

 現に、俺は才能がないと言われそれで心が折れるなんてことはなく、ならどうすればいいだろうとコレからの対策に対して絶望を覚えていた。

 その点はおそらく六鹿も同じだ。

 強さを求めていても、それだけを求めているわけじゃない。

 なら、ここで自分を下げる様な発言をしているのは俺のためだろう。

 本気で才能がないと自嘲しているのではない。

 協力関係にある限り才能のない俺は足を引っ張る可能性が高い。その時、俺が自分を責めないようにあらかじめ俺と同じであることを強調しているのだ。


「六鹿。早く名前がわかるといいな!俺のアナザーも、もっと素直にしてやるから一緒に強くなろう」


 そんな、六鹿の優しさが身に染みたからこそ…普段言わないようなクサイ台詞も勝手に口から飛び出す。


「はい!頑張りましょう」

「とりあえず、何が効率がいいとかはわからないから俺に能力を掛けて耐える、これを続けよう」


 新たなモチベーションを胸に訓練を再開する。

 ただ、思うのはこれは果たして訓練になっているのか疑問ということ。

 正直辛いが、辛いだけなんじゃないかと思う時間を過ごすことになった。




「今日はありがとうございました」


 日が落ち時間もいい頃になったので訓練を切り上げて解散することになった。

 そんな、俺に六鹿はお礼をいうが世話になっているのはどちらかといえば俺の方なのでそのお礼の言葉はむず痒かった。


「よせよせ、訓練は俺も助かる話だったし、怪我も見てもらったし、風呂も借りちまったし…」

「いえいえ、せっかく無駄に広いお風呂ですし、私にも原因のある怪我だったので」


 という感じで断っても言いくるめにもなってないような平行線の言い合いをしている間に敷浪さんに強引にお風呂に入れられたりしてお世話になりまくってしまった。


「今日も家ではお一人ですか?」

「まぁ、そうだな。親の顔は物心つく頃にはほとんど見ていないような生活だったし…慣れてるから心配すんな」

「でも、今の状態は」

「わかってるけどそれはお前も大差ないんじゃないか?いくらセキュリティ強くても意味ないだろコレには」


 そう、確かに一人暮らしの俺はこれから一層危ないのかもしれない。

 だけど、オウルの言ったアナザーの機能。記録や記憶に残らないというものを考えたらあまりセキュリティシステムに頼るのも良くないのだろう。

 と言っても六鹿の邸宅には常駐のお手伝いさんが何人かいるので一人になるということはないのだろうが…


「とにかく大丈夫だ。何かあったら六鹿にS O S送るよ。情けないけど、今はまだお前の方が強いからな」

「ふふっなら連絡が来ないことを祈りますよ」

「ああ、そうしてくれ」


 そういって家を出ようとしたところで俺の普通のティリスに連絡が入る。

 この通知は珍しいことに妹からのものだった。


 こんな時間に連絡をよこすというのが珍しく俺はそのままのメッセージ開いて中身を見る。

 そして、そこに書かれている衝撃の内容に思わず声を上げてしまった。


「ど、どうしたんですか?」


 思わず漏れてしまった俺の声に、六鹿は心配するような声音で何事かと聞いてくる。

 俺はまだ混乱から覚めないまま六鹿にそのメッセージの内容を見せる。


『兄さん、明日時間あるかな?

 今日学校が終わって寮に帰ったら部屋に銀色のティリスが落ちててさ

 どうしたらいいかわからないから相談に乗ってほしい』


 そんなことが書かれていた。

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