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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第2章-増える宝、天に輝く使いの翼-
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訓練

 六鹿に連れられるまま、放課後学園近くに迎えの車を停めていた敷浪さんと合流し、俺は再び六鹿邸へと向かうことになった。

 昨日家まで送ってもらったものと同じ車で、乗るのが二回目だったからかクラスメイトと同じ車に乗っているという不可思議な現状でもあまり緊張はしなかった。


「そういえば三船くん、昨日は大丈夫だったかい?動けるようになっていたとはいえ、身体中に包帯やガーゼなんかの素人が見ても怪我をしたと解る状態だったろ?ご家族は心配とかしなかったのかい?」


 車での移動中。そんなことを言われて、確かに普通は心配されるだろうし、隠し通せるものじゃないなと今さら思う。


「大丈夫でしたよ、俺は今実質一人暮らしなので、誰にも見られてないですから」


 そう真実を告げると何だか空気がとまったように感じた。

 その原因。隣に座る六鹿の方を見れば、信じられないものを見るかのような目で俺を見ていた。

 何か変なことを言っただろうか…


「三船くん?少し前に私とあなたは危険に巻き込まれないように極力独りにならない様にするって話しませんでしたか?」

「ああ、したな」

「今、一人暮らしなんですか?」

「いや、違うんだ。別に本当に一人暮らしってわけじゃなくて…ウチ、四人家族なんだけど、両親は研究職で滅多に家に帰ってこないし、妹は七曜の全寮制だから家にいないってだけで、一人な訳じゃないしいつ両親が帰ってくるかも分からないのに友人も呼べないからさ」

「それで仕方なく一人で過ごしていたと?いつ襲撃されてもおかしくなかったのに?」

「そんときはまだお互いに半信半疑でできるだけって話だっただろ!」


 六鹿に何を考えているのかと詰められる。

 それに対して家庭環境はどうしようもなく、割り切ることしかできなかったことを説明する。


「言ってくれれば...」

「いや、無理だろ。お前ができる解決策なんて、色々世間体とか考えたら無理だって」

「そうだねぇ...それに関しては三船くんが正しいかな。実際に家のイメージどうこうってほどじゃないけど学生の間の噂話の力をなめちゃいけないよ?どれだけの充実した生活を送れるかはコミュニティとの関係がすべてだからねぇ」


 俺の現実を見た意見に、年長者として真っ当な意見を付け加えてくれる敷浪さん。

 この人はなんだか恰好と話し方が真面目にはとても見えないが、こうして送り迎えだったり、応急手当だったりと、任される程度には優秀で考え方も基本的には真面目なようだ。


 敷浪さんの追撃で流石に納得したのか、言葉が出ないだけなのか、六鹿はそれきりこの件で口を出すことは無くなり、やがて機能も訪れた(とはいえ暗い帰りの記憶しかないのでしっかりと外観を見るのは初めての)六鹿邸へたどり着いた。


 六鹿は一度着替えに自室へ行き、俺はその間に怪我の経過観察のために医務室の様な部屋にやってきていた。


「さ、怪我の具合を見させて頂戴ね」

「はい」


 俺は特に抵抗することもなく衣服を脱ぎ肌をさらした。

 それを一目見ただけで敷浪さんは驚愕に目を見開いていた。


「すごいわね...昨日診た時からもしかしたら一日で完治したりするかもとは思っていたのだけれど、傷跡すら残らず怪我してたなんて見ただけじゃわからないほどとは思わなかった」

「予想してたんですね、いえ昨日もそんなこと言ってましたね」

「これでも本職ではないとは言え医療の知識を学んだ身だから、怪我した時間からどれぐらいのスピードで治っているのかをまぁ、大まかにでも把握できる...でも傷跡もない、皮膚の変色もないっていうのは不思議だな」

「そうですか」


 俺には怪我が治るの早くてラッキーってぐらいにしか考えてないけど、医療知識がある人にとってはなにか気になるポイントがある治り方なのだとか。

 ただ、それは恐らく俺の純粋な自然治癒力じゃなくて恐らく俺の能力に関係するからこその現象なのだろうと辺りを付ける。

 普通の治り方をしてないから治った結果も普通じゃないのだろう。


「まぁ、この分なら日常生活に支障はなしね」

「そうですか、今日も学園は普通に過ごせたので問題ないですね」

「うんうん、でも一応聞いておくけどこれからもあれぐらいの怪我をする予定はあるのかな?それにうちのオジョウサマが巻き込まれる可能性は?」


 敷浪さんから問われるのは否定できない可能性の話。そして、誤魔化しのできない質問だった。

 六鹿に雇われ、六鹿の世話をしているこの人にとって危険が及ぶようなことに関わってほしくないのだろうことは察する。

 ヘタをすれば金輪際近づくなと言われるかもしれない。

 しかし、これは俺だけの問題ではない。俺が近づかなければ六鹿に危険がないのならそうするのだが、そんなことはない。となればここはこの人を説得しなければいけない。


「それは―」

「ああ、大丈夫。ふわっとした事情はすでにオジョウサマに聞いてるよ。ただ、大人として、保護者として、世話係としてオジョウサマに濁された危険やリスクについてちゃんと聞きたいだけ。だから、変に言葉は飾らないでね」


 意を決して言葉を選ぼうとした矢先、敷浪さんにさえぎられてそう告げられる。

 その声音は明るく、怒りをはじめとした負の感情は感じられなかった。ただ暖かい心配の感情が滲んでいた。


「申し訳ないですが危険しかないでしょう、言い訳に聞こえるかもしれないですけど六鹿...恵麻さんが巻き込まれたのは偶然ですが、彼女は絶対に守りますので」


 俺の回答に笑いながら敷浪さんは首を振った。


「馬鹿だなぁ、そうじゃないよ。キミもちゃあんと無事でいなきゃオジョウサマが泣いちゃうでしょ」


 その言うと呆ける俺を促して席を立つ。


「ほら、今日は特訓するんだろう?訓練室に案内するから立ちなさい」


 有無を言わさずに部屋を出てしまう。俺は慌ててその背を追うことしかできなかった。



 訓練室につくとそこはなるほど訓練室。

 ホームジムってこういうことを言うのかって感じの部屋だった。

 部屋の中心はある程度運動ができるように開いており、壁には所狭しとトレーニング用品が置かれていた。

 そしてそこには運動できるようにラフな格好をした六鹿がいた。

 ちなみに敷浪さんは俺を案内してどこかへ消えた。


「遅かったですね三船くん。何か異常はありましたか?」

「いや大丈夫。完治してるってさ」

「よかった。とりあえず訓練とは言いましたけど、三船くんがダメそうなら中断しますので無理しないでくださいね」

「それ、恥ずかしいから意地でもギブアップできねぇ」

「ダメですよ、無理は」


 念押しして無理はダメだと言われるがきっと俺は無理をする。

 とはいえ、今回は本当に完治しているのだから何も心配する必要はない。


「それで、適当なものに能力を使うってことだけど何に使うんだ?」

「三船くん」

「ん?」

「だから三船くんに使ってみようかと」

「はい?」


 なんか耳を疑う、拷問の様な提案をされた気がした。

 だが、それは非常に残念なことに聞き間違えなんかじゃなくてマジで六鹿の提案だったようだ。


「なんで?」

「いや、そんなヤバい人を見るような目で見ないでください」

「実際、病み上がりで今の今まで体調を心配されて無理をするなとまで言われたのに、急に「じゃ、拷問するね」と言われた身からすれば当然でしょ」

「そ、そんなこと言ってないでしょ!」

「言ったようなもんなんだよなぁ」


 どうやら、誤解の類ではあるみたいだが完全にイかれた奴のセリフであったことに違いはないと思う。


「理由を言え、理由を」

「それはもちろん、三船くんの訓練も兼ねているからですよ」

「俺の?」

「はい、現状では三船くんの能力は不明ですが分かっていることもあるでしょう?」

「治癒力が高い事か」

「いやいや、だからって何度も怪我してもらうわけにはいかないじゃないですか...もう一つの方ですよ」

「もう一つ?」


 俺の能力は自覚がない。

 オウルに言わせれば覚醒していることは確実なんだが、どうしてもその能力の詳細がわからない。

 治癒力が高いのも能力の内ではあると思うのだが、それだけの能力なのだと思っていた。

 だが、六鹿は他にもあるという。


「七種さんとの闘いで言っていたじゃないですか、「最初より効かない」って...あれってアナザーを起動してからですよね?彼が手加減していたとか考えずらいのでその耐久力も能力なのでは?」

「...なるほど」


 確かにそうかもしれない。

 あの時はテンションとアドレナリンと勢いで動いていたから能力だと思っていなかった。

 だが、確かに最初の一撃はアイツも軽い調子で放って体ごと吹き飛ばされたし、それだけで立てなくなるほどだった。だけど、アナザーを起動してからは痛いが耐えられないほどじゃなかった。

 不意打ちと覚悟を決めて喰らったのとで違いはあっても異常なほどに威力に差があったように感じる。

 それが奴の意図的な物じゃないならそれは俺の耐久力の変化ということだろう。


「でもさ、俺の体の耐久力が上がって重力に耐えられるのか?聞いてなかったけど六鹿のってそういう系だよな?」

「ええ、何かに圧力をかける能力ですね...別に重力に耐えられなくても壊れないように耐えられるならそれでいいと思いますよ」

「怖えよ」

「それに、思うのですけど体は頑丈に、治癒力も高いって体の機能を強化しているみたいでもしかしたら力も上がっているんじゃないかと思うんでよね」

「そうか?」


 七種を殴った時は大した威力になっていないようだったが、あの時はすでに体中がボロボロだったから上手く殴れなかったしわからないな。


「そういう実験や、訓練を兼ねた方法を取ろうと思うのです。だから無理はしないでくださいと言っているんですよ」

「やっぱりお前頭おかしいよ」


 うん、やっぱり「今から拷問するけど無理しないで行ってくださいね」って言われている気がしてきた。


「失敬な!ほらやりますよ、いいですね」

「わかったわかった」


 とりあえず、言いたいこともやりたいことも理解したので部屋の中央でアナザーを取り出して起動する。

 アナザーを起動すると強く、しかし目を灼く程でもない強さの光が部屋を照らした。

 そして全身に力が巡り、体の奥から根本が変わっていくような不安感と全能感が湧き上がってくる。


「よし、来い」

「では行きます」


 六鹿も俺の準備が整ったのを見届けてアナザーを起動した。

 俺のとは違う包み込むような光が放たれて、何か見られているような何か大きなものの手のひらにいるようなそんな雰囲気が部屋全体を包んでいた。


 そして、ゆっくりと手のひらを身構える俺へと向けて一言。


「潰れろ」


 そんな冷たく無情な言葉を呟き、力を解放した。

 その瞬間、感じ取ったのは今まで漫然と受けていた大自然の力がどれだけ大きく抗いがたいものだったかということ。

 つまりは―


「へぶぅ!!」


 構えていたのに反応できない衝撃に変なこと共に床へと華麗にヘッドバッドを決めたのだった。

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