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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第2章-増える宝、天に輝く使いの翼-
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1度は戻った日常

 あれから、特に大したことがあるわけもなく。

 ベッドに潜り込み、泥のように眠った。

 すこしだけ自重で沈む感覚が心地良く。全身にあった疲れが溶けてマットレスに吸収されているかのようなイメージで癒されていった。


 そんな幸せな夜を過ごし、翌朝。

 寝起きはすこぶるよかった。

 魘されるなんてこともなく、快眠であった。


「身体も問題ないな」


 軽く伸びをしたり、肩を回したりなどのストレッチを一通り行い、身体の具合を確かめる。

 驚くほどに回復しており、痛みもなく、日常生活に支障は全くないであろうことが窺えた。


「確かに異常だな」


 昨晩、車の中で敷浪さんの言っていたことを思い出す。

 これは普通じゃない。

 昨日、目覚めた時は怪我をした状態から治療した状態で変化が激しくてイマイチよくわかっていなかったが。

 アレからと今だと変化なんてほとんどなく、寝ただけなのに…帰宅した時は確かにあった痛みや不調が感じられないということが異常であると実感した。


 そして、そんな異常に心当たりがあった


「俺も能力に覚醒しているって話だったもんな」


 そう、オウルから伝えられた話だ。

 曰く能力の使い方がわからないのは才能がないから。だけど、覚醒は確実にしているらしい。

 どんな能力か自覚することができないが、今自分の状況を考えれば可能性として高いのはこの異常な回復力だろう。


 これからのことを考えると回復能力というのは堂々と病院を使えない身としては大変助かるわけだが、会ったアナザー所持者が六鹿の他だとあの七種だけで、二人とも戦いに使えるような能力だったと考えると複雑な気持ちにはなる。


 一難去って余裕が出てきたおかげで、もっと派手でわかりやすい能力がいいな〜などと考える。


 そんなふうにしていると、六鹿から連絡が入る。


『おはようございます。もう起きていましたか?怪我の具合はどうでしょう。学園に出席するつもりで、身体に不調があるようでしたらこちらで送迎の手配をしましょうか?』


「律儀なやつ」


 丁寧でこちらを案じた内容のメッセージだった。

 俺はそれに送迎の断りと学園へは出席する旨を返して家を出る準備を始めた。




 学園に着く頃。

 昨日は誰も死んでいないし怪我はしたけど病院に行くことをしなかったため気にしていなかったが、超常に足を踏み入れたという事実が誰かに噂されているんじゃないかという疑心暗鬼へと誘った。


 廊下を歩くだけで周りから見られている気がする。

 他愛のない話ごえすら昨日のことを話しているんじゃと気になってくる。

 仕方がないとはいえアナザーという言い逃れできないものを所持・使用している後ろめたさが今頃になって牙を剥いてきた。


 そうしてビクビクしながら教室までたどり着くと、


「や、晴!」

「うぁ!!」


 急に後ろから肩を叩かれたことにより驚き、声を上げてしまう。

 それは思ったよりも大きな声として教室に響き、注目を集めることになった。


「ビックリした〜どうしたの急に大きな声出して?」

「誰のせいだ誰の!人に声かけるときは5メートル以内に入るよりも前に驚かないよう声を抑えて、しかし確実に気がつくように声を張って知らせるのがマナーだと教わっただろ」

「誰にだよ…大体、直接目の前で呼ばなきゃ反応しないじゃん晴は」


 クラスの注目という居た堪れない状況から目を逸らすために他愛のない話を羽衣とする。

 努めていつも通りを心がけて話すことで、周りの視線は次第に「なんだ、いつものか」と興味の無いものへと変わっていく。


 こいつのおかげで変な緊張も注目も無くなって助かった。

 いや、注目の方はこいつのせいだった。感謝を半分返してほしい。


 スッと手のひらを羽衣に差し出す。


「?ナニコレ?」

「いや、心の中でしたお前への感謝が多かったから返せよ」

「意味分かんないけど?!理不尽すぎじゃん?」

「そんなこと言ったら俺の感謝が可哀想だろ?今日の昼メシは楽しみにしとく」

「俺のサイフが可哀想だよ!!」

「そんなことより」

「そんなこと!?」


 羽衣とのじゃれあいでようやく本調子に戻ってきたが、やはり昨日のことが噂になっていないか確かめる必要はある。

 オウルはアナザーを使うと記憶にも記録にも残らないと言っていたが、人の噂というものは何処から産まれて何処にいくのか予想できないものだ。


「なんか、昨日に引き続き学園中が騒ついている気がするんだけど知ってるか?」

「相変わらず何も情報を集めないんだね」

「うるせ、昨日は色々忙しかったんだよ」

「ふ〜ん、いいけどさ」


 そして、羽衣によって昨日と違う噂話について教えられた。

 曰く、事件があったすぐそばで何かが爆発したような痕が見つかった。

 昨日の今日で、警備員も24時間いたのに誰も気が付かず、例によって一部時間帯は監視装置も異能が停止していた。

 おそらく、犯人が現場に戻ってきて何らかの行動を行ったが、大した成果がなくその場を後にしたんじゃないか…


「というわけ」

「なるほど、こりゃ迷宮入りか」

「どうなんだろうね?ここの警察は他の町に比べたら優秀という話だけど、一般人の俺らからしたら違いなんてわからないしね。だから、犯人がすごいのか警察がダメなのかはわからないけど捜査に進展は無さそうだよ」

「まぁ、違法ティリスなんてもんが関わっているかも〜なんて発表するぐらいには警察も困ってんのかね」

「かもね」

「教えてくれてサンキュー、昨日の分と合わせて余分な感謝はチャラにしとくぜ」

「いや、正当な報酬だと思うけどね!?」


 ひとまずは俺や六鹿の事が漏れているという事は無さそうで安心した。

 ここで少しでもそれっぽい事が噂されていたら、俺たちの今後の行動はほとんど制限されていた事だろう。

 このゲームに無関係でいる事は、もうできない。巻き込まれ、被害を受けてしまったから。

 どうしたってまた同じように襲われるという考えに縛られることになる。

 だから、俺たちは力をつけなきゃいけない。

 誰にもバレないように。


 チャイムが鳴り、羽衣は自分の教室へと帰っていく。

 なんだかんだ非日常に襲われたばかりの俺の心は、あいつとの普段と変わらないやり取りのおかげで、日常に帰ってこれたことを実感して癒されていた。

 その感謝の気持ちは確かにあり、昼メシでも奢ってやろうと思っていた。


 が、昼になってその予定は急遽変更になった。


「三船くん、その後どうですか?よければお昼でもとりながら聞かせてください」


 異常ににこやかでちょっと不気味さを感じる六鹿が、有無を言わさない迫力を持ってクラスから浮いている可哀想な子こと俺の元へやってきていた。




 クラスの人気者…なのかはわからないけれど、中心人物であることに間違いはない六鹿にお昼を誘われるというイベント。

 それはアニメや漫画ではないので一瞬で学園中に広まるなんて事はなかった。

 だけど、確実に好奇の視線は倍どころか10倍になっていた事だろう。


 注目されることに慣れているのか、気がついていないのか分からないがそれらの視線を完全無視した六鹿に、感性の違いから改めて住む世界違うなと思ってしまった。


 そして、向かう先は当然のように屋上だった。

 アレだけ注目されていたんじゃ屋上に出るのを誰かに見られるんじゃないかと心配していたが、不思議というかいつも通りというか屋上に向かうほど人が少なくなり、誰かに見られるという事は心配いらないようだった。


「急に接触するなよ、ビックリするし変に噂されたら面倒だぞ?」

「変な噂って何ですか…それに一度、一ノ瀬くんの目の前で話しかけてるじゃないですか」

「あの時は放課後だったし、羽衣は人の噂を聞くのは好きだけど話すのはそんなに好きじゃないから」

「とはいえ、「三船くんとは放課後しか話さない」なんて約束した覚えもないですし」

「いや、それはそうだけど暗黙の了解っていうかさぁ」


 現在、俺と六鹿は隣り合った状態でそれぞれの昼食を食べながら話していた。

 今までの経験から限りなく無いのだろうけど、誰かに見られたら色んな意味で面倒ごとになりそうな状態だ。


「それで、何か聞きたい事でもあったのか?」


 正直、放課後じゃ無いだけでいつもより居心地が悪いのでさっさと本題に入りたかった。


「いえ、さっきも言いましたけどあの後、大丈夫かなと。敷浪さんは大丈夫とは言ってましたが、アレほどの大怪我でしたし直接本人に聞きたくて」

「あ〜怪我な、大丈夫だ。今じゃほとんど痛みもない」

「え、でも敷浪さんが骨が折れてるって…」

「いや、意外としっかり細かいとこも知ってんのかよ」


 敷浪さんが気を利かせて怪我の具体的な状態を教えてないからこの反応なのかと思ったら、聞いた上でこの反応だった。

 いや、ちょっと待て。俺の怪我、結構やばかったけどアレを知った上でこの反応なら結構冷たい方なんじゃ…?


「敷浪さんは嘘はつかないので、ひどい怪我だけど大丈夫と言ったならきっとそうなんだろうなって」

「敷浪さんへの信頼がすごいな」

「子供の頃からの付き合いなので…」

「なるほどな…とりあえず怪我はマジで大丈夫だ。実は敷浪さんにも言われたんだが、俺の怪我はだいぶ酷いが回復力が異常すぎて六鹿んトコに運ばれた時はほとんど治ってたらしいぜ」

「え!?そんなことあり得るんですか?人間ですか?」

「人間だよ!」


 実際、異常だろう。

 今朝の中に包帯は全て外して大丈夫だったし痛みもなかった。

 しかも、朝より今の方が身体が軽く感じるのは血圧の変化以上のなにかの影響を感じずにはいられない。


「もしかして、三船くんのチカラって」

「やっぱりそう思うよな。俺もそう思った」

「でも、そうだとしたら大変ですね」

「大変?何が?確かに直接的な戦闘に使える能力じゃないから俺もハズレ側かな〜って思ったけど」

「いえ、そうではなく。能力を鍛え得る方法、忘れたんですか?能力は使わなきゃ鍛えられないんですよ?でも、その能力じゃどうやって鍛えるんですか」


 六鹿の言葉に俺は言葉を失った。

 そうだ。能力を鍛えなきゃ守れない。それはオウルに聞いたことだ。

 だけど鍛えるのには能力を使わなきゃいけないなら、俺の場合は?

 まだ、自覚して使えるわけじゃないから俺の能力が「再生」だとか「治癒」だとかって決まったわけじゃないけど、もしそうなら能力を鍛えるために自傷しなきゃいけないのはだいぶ辛い。


「え、どうしよ」

「本当にどうするんですか」

「ナイフで指きって治すを繰り返すとか?」

「やめましょう。何だかとっても精神的によくな感じがします」

「俺の方は置いといて、六鹿の方を考えようぜ?どうやって鍛えるんだ?」


 俺は多分見つかることのない答えを探すのをやめて、話を逸らすことにした。

 六鹿の能力…側から見た感じだと、重力を増やすみたいな感じだったがどうなんだろう。


「私の能力は今の所何かに圧力をかける能力見たいですね」

「今の所?」

「ええ、…こう、何といえばいいのか…感覚的にもっと違うこともできるという確信はあるのに何ができるのか分からないんですよね」

「あ〜それも使い方は感覚的に分かるってやつか」

「そうですね、後はあの七種さんが能力使う時に言っていたあの言葉なんですけど…」

「あぁ、何だっけ?デュク…何とかってやつ」

「はい、アレは能力の名前なのかもしれません」

「…そこまで、なんかゲームっぽいんだ?ていうか、それが分かるなら六鹿も能力に名前があるのか?」

「ある、みたいですね。なんて名前なのか分からないんですけど」

「なんていうか、六鹿はまだちゃんと目覚めてない寝坊助みたいな感じだな」

「実際そうなんだと思います。ちゃんと能力を覚醒させないと名前がわからないのか、名前を呼ばないとちゃんと目覚めないのかは分からないですけど」


 そう考えると何とも心もとないパーティだ。

 目覚めたけど自覚なしの才能無し野郎に、完全には目覚めてない眠れる獅子か。

 序盤辛いけど後半は楽になるタイプだ。


「それで、鍛えるってどうするんだ?」

「とりあえずは家に帰ったら適当なものに能力を使ってみようかなと」

「それしかないか…」

「なので、三船くん。今日も家に来てくれませんか?怪我の具合も念のため確認したいですし」


 昨日、敷浪さんに言われた通りに、六鹿の誘いで俺は再び六鹿の家に行くことになった。

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