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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第1章-星と魔弾-
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半面梟氏

「さて、キミは何が聞きたい?」


 オウルはまるで子供にプレゼントは何がいいか聞く親のように、浮ついた心を隠しもしないで問いかけてくる。


 何を質問すべきか、の前に聞かなければいけないことがある。


「俺も質問できるのか?」

「へ?」


 そう、俺は確かにアナザーを起動させてはいる。

 だけどそのタイミングで来ず、今のタイミングということはオウルの自己申告の通り能力を使えるようになることが条件だったのだろう...


 だがそうなると、俺はまだ何の能力にも目覚めていない。

 六鹿の質問の中でサラッと言っていたが、能力は感覚で使い方を理解するらしい...なら理解していない俺はやはり目覚めていないことになる。


「俺はまだ、お前が言うところの覚醒はしていないんじゃないか?」

「ん?」

「能力の使い方なんて分からないぞ。感覚で分かるってことだけど、分からないし無意識でも使えないなら覚醒してないんじゃないのか?」

「ああ、そういうことね...」


 オウルはその仮面によって隠れた顔を俺に近づきじっと見てくる。

 俺の隅々を調べるように、奥底に隠された何かを探るように見てくる。


「...うん、やっぱり覚醒しているよ。わからないのは...才能無いんじゃない?元々、君にアナザーを渡す予定ではなかったし」

「才能がないって...」

「アナザーは言ってしまえば三本目の足を付けるようなものなんだよ?言ったろ、後付けの能力だって...普通の人間としての能力に「歩く」というのがあってそれを理論立てて口で説明できるかい?無理だろ?だけど感覚的にどうすれば「歩く」ことができるか理解しているから歩ける...それと一緒なんだよ。つまり君には二本の足で普通に歩くことはできても、後からつけられた足を含めた三本足で歩く才能はなかったということだよ」


 なるほど。確かにそういわれてしまえば納得するしかない。

 アナザーは特別な力であって誰にでも使えるわけじゃないということだ。

 足を後付けされることなんてそうそうある事じゃない。アナザーを手に入れるのも目の前のオウルの気分次第なら滅多なことじゃ手に入らないだろう。

 そして使い方も...最初から才能のない物はお断りだったのだ。

 確かに俺はオウルに選ばれたわけじゃない。偶然が重なり貰った力だ。


「つまり、俺は覚醒しているけど使い方も理解できない才能なしの雑魚ってことだ」

「どうだろうね...才能がないのはそうだと思うよ、けどイコール雑魚かどうかはキミ次第でしょ」


 ニヤついた声音。

 イラっとする言い回しで正論をぶつけられて改めてこいつが嫌いだと思う。


「さて、ともかくキミに質問の権利があることは分かってもらえたかな?ほらほら、なんでも答えてあげるよ?何かないのかい?」


 質問。実際のところ気になることがありすぎるて逆にないみたいなことになっている。

 能力については六鹿が聞いてくれたおかげで一端の納得はできているからこれ以上は今はいい。

 だからといって何を聞くべきか。六鹿の聞いていたデメリットの話か...

 だけど、オウルはデメリットの存在をほのめかしながらも能力を使うことを推奨している。

 なら、デメリット即座に起こる事ではなく能力の使い過ぎがトリガーか?多分、の域をでない。そりゃそうだ、オウルから何も聞いていないのだから。


 もう分んねぇから自分のために質問しよう。


「オウル、俺が守りたい人を守り切るのに必要なことと脅威を教えてくれ」


 その俺の質問にオウルは興味深そうに頷く。


「ふむふむ、そう来たか~うんうん、いいと思うよ。今までの話の流れだと能力についての質問かと思ったけど...思ったより自分の意見がちゃんとあるようで何よりだ」

「馬鹿にしてんのか」

「とんでもない!ま、僕の意見なんてどうでもいいね。質問に答えよう」


 ピッと人差し指を立てるオウル。


「まず、一つ。守るとは言うけど、方法は色々あるし絶対なんてないからキミが本気で守りたいならそれができるぐらい他を圧倒するしかない。僕すらも霞むぐらいにならないとね」

「強くなれってことか」

「そう!でも、難しいよ現状だとキミは下から数えたほうがいいくらいには弱いから。だから何とかして能力を鍛えなよ。それが一番だ。後はゲームの参加者を積極的に狩る事かな」

「こっちから襲えって事か?」

「そうだね、体験しただろうけどアナザーは結構な力の結晶だよ。ライバルが減ることに加えて自分たちの強化にもつながるだろうね」

「それ、俺たちも狙われるんじゃ」

「そりゃそうだよ。そういうゲームだし」


 そういえばそうだった。最初からこのアナザーを奪い合うゲームだ。

 ゲームに積極的になることで力が手に入り、力をつけることで望みを通せるということ。よくできている、性格が悪いよほんと。


「後は脅威だっけ?言った通りキミは下から数えたほうが早いから大抵の覚醒した参加者が脅威だけど...強いていうなら一人。天使に気をつけなよ」

「天使...?天使ってあの?」

「どの、かは知らないけど...多分、想像している天使で間違いないよ。見た目がそれっぽいから彼女と会ったことある人はみんなそう呼ぶんだよね。彼女、名乗らないし」

「それは、どれくらい強いんだ?」

「そうだなぁ...多分、今の参加者じゃ唯一僕を圧倒できるかな?」


 正直よくわからん。オウルが強いのは何となく分かる。というかアナザーはこいつがばらまいてるんだからコイツが何枚アナザーを持ってるかわからない時点でコイツが強いのは確定だ。

 だけど、どれくらいかがよくわからん。

 直接戦ったわけでも、戦っているところ見たわけでもないのだから当然だけど比較対象が欲しい。


「ってよくわからないよね...そうだね、彼女は全力を出せば世界を滅ぼせるんだ、まさしく天使だね」


 余計分からない。

 規模感が大きすぎて世界を滅ぼせると言われてもピンとこない。しかも、それと同列に語るならオウルもそれぐらい強いのか?マジで?


「あはは、変な顔。よくわからないって顔に書いてあるよ」

「オウル。私から補足の質問いいですか?」

「ん?いいよ」


 感情が顔に出ていたらしいが、それをオウルに直球でいじられる。

 人をイラつかせるのが上手い奴だ。


「もし、私と三船くんがその天使とやり合ったらどの程度できますか」


 六鹿からでた追加の質問はなるほど天使の強さを図るのにいい指標になるかもしれない。

 世界を滅ぼせるとは言うが、六鹿の能力だってこれから成長していけば世界を滅ぼせるかもしれない。重力は強キャラの証だ。


「そうだね、あくまでも今の状態で比較するなら...100回やって100回、触ることも能力を使う暇すらなく殺されるだろうね。力の差を数字で表すなら三船くんが5、六鹿ちゃんが10ぐらいで天使は95ぐらいだよ。マックス100で一般人1ね」

「なるほど...」

「最初からそう言えよ...」


 非常に分かりやすく非情な現実を教えられる。

 要するに今のままじゃ逆立ちしたって勝てないってことだ。


「とは言え、キミたちは覚醒したばかり成長したらワンチャンあるんじゃない?それまでは...みつからないといいねぇ」


 これから訪れるであろう厄災が、俺たちが体験するであろう苦労が、心底楽しくて仕方がないとでも言うように笑う。


「さて、これで僕からのご褒美というかお祝いは以上だよ。いいね?」

「ああ、今日はもう疲れた」

「誰にも見つからないでくださいよ」

「もちろん、じゃまた会える時はもっと面白くなっているといいね」


 そう言ってオウルはいつぞやと同じようにアナザーを取り出し、それの輝きと共に消えていった。


「今後の事を考えたら強くなった方がいいよなぁ」

「今後の事より現状の事を考えてください。体を治すのが先ですよ」

「分かってるよ」


 今日は本当に疲れた。

 精神的にも体力的にも。さっきまで気を失っていたはずなのにまた眠気が襲ってくる。


「お疲れですか?」

「いや、帰るよ。手当、ありがとうな」

「いえ、私がしたわけじゃないので...病院には行けませんからしばらくはうちに来て怪我を治してくださいね」

「ありがとう、助かるよ」


 それから六鹿の計らいで送ってもらえることになった。

 用意されていた車に案内されるがまま乗ると、運転席には先ほど診察をしていた白衣の女、敷浪さんが乗っていた。


「敷浪さんが送ってくれるんですか」

「そうだよ、オジョウサマに頼まれてね...言えない事情があるんだろう?そういう事情がある人間も極力少ないほうがいいだろうからね、私になったよ」

「すみません」

「何、いいんだよ。私はキミのことは何も知らないけど、オジョウサマのことは昔から知っている。オジョウサマがああいう風に助けるのならキミもオジョウサマをどんな形か知らないけど助けたんだろう。だから私からもお礼さ、この送迎は」


 ケラケラと笑いながら俺の言葉を受け流して、自分の言葉を俺に投げかける。

 何というか人生の経験値がまったく違うと感じる女性だ。


「時に三船くん」


 愉快な人だと思っていた矢先に幾分かトーンが落ちた真剣な声音で話しかけられる。


「もし、言えない事情絡みなら申し訳ないが...君の体はだいぶおかしい事に気が付いているかな?」

「...はい?」

「ああ、いや、気が付いていないのか...それはそうか、大怪我して気を失っていたなら自分の怪我の具合を知らなくて当然か」

「え、俺ってなんかそんな酷かったんですか?でも、今はあまり痛くはないんですけど...」

「...そうだろうね、私が診た時には()()()()()()()んだから」

「治り?」

「ちなみに君の怪我の具合なんだけどね、専門器具もなかったので触診と目視だけの診断だけど、骨折三ヶ所、打撲は全身、頭の傷は浅かったよ、後は内臓系もダメージが深そうだった、体の外側で見える範囲に出血は頭の切り傷ぐらいだけど、吐血を確認しているから内出血はだいぶ酷かったはず。これが君が夕方に負った傷。それが、今はダメージが残っているとは言え体を起こして座っているし、体を支えてもらえば歩ける程度まで回復している。治療は魔法じゃないんだ、十分異常だって分かる」


 自分で思っていたよりも重い怪我だったことを聞かされて言葉に詰まる。

 確かにあの時、気合だけで動いていたが最初の一撃の時点でノックアウトだった。

 だいぶヤバかったと感じていたが、意外とあっさり目が覚めたものだから実は大したことじゃなかったのだと思っていたが...


「それってヤバいですか」

「お偉い学会にでも発表したいぐらいには回復力ありすぎだよ。ま、ここは日本だから人体実験なんてできないし、オジョウサマの友達を売ったりしないけど」

「あはは、ありがとうごさいます。ただ、自覚はないっすね」

「そうか...多分、明日には完治まで行くだろう。オジョウサマは心配するだろうから君をまた私に診せに来ると思うけど」

「はい、そうしたらまたお世話になります」

「うん、このことは誰にも言うつもりはないけど、気をつけなさい」

「はい」


 そうしてようやく家に着いた。


 大きく動き出したゲーム。

 それを実感した今日は疲れた。早く寝ることにしよう。

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