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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
第1章-星と魔弾-
12/110

梟の再訪

あけましておめでとうございます。

年始で最高にさぼりました。

べつに文字量が増えたわけでも話が進むわけでもないです...

 目が覚める。

 あの時、あの後一度は意識を失ったが六鹿によって手配された車での移動中に意識は戻っていた。

 しかし、さすがにダメージが大きく朦朧としていたため起き上がることはできなかった。

 そんな不安定な状態の俺に六鹿は


「とりあえず私の家で治療しますね」


 とだけ言ってどこかに連行されていたのを覚えている。

 つまり、今この知らないベッドで目を覚まして、目に入ってきた知らない天井は六鹿の家の天井ということになるのだろうか。


 まぁ、恐らくそうなんだろう。だってすぐそこに六鹿の姿が見えているから。


「目が覚めましたか、三船くん」

「なんとかな」


 そんな簡単なやり取りをして六鹿は「人を呼んでくる」と部屋から出ていく。

 そしてほどなく戻ってきたときには知らない人を伴っていた。

 白衣を着た女性。恰好だけは医者のように見えなくもない。

 だが、茶髪にピンクのインナーカラー。ピアスも多く開けており、白衣がなければ派手な女という印象の人だった。


「三船くん、この人は私のお世話してくれているお手伝いさんの敷浪撫子(しきなみなでしこ)さん。三船君の治療をしてくれたの」

「初めまして、三船くん。事情はオジョウサマから聞いてるけど無茶したようだね?悪いんだけどね、起きたなら改めて怪我の具合見させてよ」


 そうして、状況は分かるがぽんぽんと進む流れについて行けず困惑のまま体中を見られた。

 その最中に気が付いたが、よほど治療の腕がいいのか、確かにまだ体中が痛むがあの時ほどではなく確かに回復に向かっているんだなと実感できた事。

 流石は六鹿の家に雇われているだけはある。お手伝いさんとは言うが、本職じゃない人の手当でここまでとは思わなかった。


 やがて、全て見終わったのか「このまま安静にしていれば大丈夫」と診断し敷浪は部屋を退出した。

 再び部屋には俺と六鹿だけになった。


「えっと...六鹿は怪我とか...」

「私の方は問題ありません......今回はありがとうございました」

「こちらこそ手当助かった。正直あのまま死ぬかとも思ったぞ」


 実際、今回に関しては確かに六鹿に因縁のある人間が相手ではあったがこの件について調べていたら自然に奴とは敵対していた可能性が高い。

 何せ奴も俺たちとは関係なくアナザーに関する場所としてやって生きていた可能性があるからだ。

 ならば俺に出来たのは一撃入れることだけ、最後に奴を追い詰めたのも俺を助けてくれたのも六鹿だ。

 俺はもっと六鹿に感謝すべきなのだろう。


 そういうことを六鹿に簡潔に伝える。


「とは言え、私も最後にようやく動けただけなので一人じゃどうしようもなかったと思います」

「ならお相子だな」

「はい、お相子です」


 生き残ったという安堵。

 乗り越えたという実感。

 巻き込まれたのだという改めての不安。

 道しるべのない中で足掻くという決意。

 そういったマイナスとプラスの感情が入り混じりつつどちらかと言えばプラスに振れた空気に和む。


 パチ、パチ、パチ


 と、部屋に響くのは拍手の音。

 あえて驚かそうという意思が感じられるゆっくりとした拍手の音。

 それはきっと音の主にとっては望んでいた反応。

 俺と六鹿は音の発生源を探すように部屋に備え付けられた大きな窓を見る。


 いつの間にか開け放たれた窓。

 その窓枠に軽く腰掛ける梟面をした男。


「おめでとう!覚醒と初勝利を祝いに来てあげたよ」

「梟面の...」

「お前は...」


 芝居がかった大げさな動きで窓からゆっくりと離れる。

 そして大きく手を広げて、奴は宣う。


「久しぶりだね、三船 晴くん。そして初めまして、六鹿 恵麻さん」

「ご丁寧にどうも。初めまして六鹿です...梟さん?」

「おっと、そういえば三船くんにも名乗ってなかったか...改めて、僕はオウル。もちろん偽名だし、みんな適当に呼ぶから君らも好きに呼んでね」


 これまた舞台であいさつでもするかのように大げさなお辞儀と共に自己紹介をする。

 そんな一挙手一投足が妙に勘に触る。


「何しにきやっがった」

「挨拶だなぁ...言ったでしょお祝いだよ」

「祝いだぁ?なんかくれたりすんのかよ」

「もちろん」

「は?」


 こいつはゲームを楽しむことを優先しているのは分かっている。そして本当の目的が少し別のところにあることも。

 つまり、こいつの言うお祝いがゲームを楽しくするための物なのか、もう一つの目的による物なのか...下手を打つともっと厄介なことに巻き込まれそうだ。


「警戒しているね?いい事だよ...正直、「俺もゲームに参加させろ」なんて言うような子はいないよりはいいけどあんまりゲームを面白くしてくれるとは思えなかったから一安心だよ」

「どの口が言うんだ」

「ま、それはいいや。本題に入ろう。お祝いっていうのはね...ちゃんとアナザーを覚醒させた子にはなんでも一つ質問に答えることにしてるんだ。どんなことでもいいよ、僕の目的でも、正体でも、参加者の情報でもなんでもね」


 やつはそれはそれは酷い笑顔を浮かべていた。

 悪戯に成功した子供の様で、馬鹿を嵌めた詐欺師の様で、獲物を舐る捕食者の様な酷い笑顔だった。

 悪辣。

 ただその一言に尽きるお祝い品だ。

 オウルの言い方こそが悪辣だ。

 つまり、他の参加者で覚醒者。恐らくこのタイミングでその言葉から察するにあの超能力の様な物を手にすることが条件で質問に答えているのだろう。

 あの七種も。


 そして、その質問の内容に際限はないと言っている。

 それこそ他の参加者の個人情報だってこいつにかかれば調べられるし教えるだろう。


 あの六鹿に特別執着した七種の姿がフラッシュバックする。


 思わず六鹿に視線をやるが、六鹿は表情を小動もせずに真剣に何かを考えていた。


「オウルさん...質問は私と三船くんで別ですか?」

「うん、二人とも条件を満たしているからね」

「え?」


 俺はてっきり六鹿だけだと思っていた。

 だって俺はまだ能力を使えていたないし、使い方もわからない。


「そうですか......では質問です」

「はいはい、なんだい?」

「アナザーとは何ですか?これの使い方も含めて教えてください」

「フフフ、いいねぇ!冷静で実用的で面白くない質問だ」

「面白くないとダメでしたか?」

「いいや、全く?じゃあ、レクチャーしてあげよう。アナザーについて」




「そもそもアナザーというものがどういうものかという話からだよね。これは純粋な情報エネルギーの塊なんだよ」

「そんなこと前も言ってたな」

「そうだよ。で、次は情報エネルギーってなんだよって話になると思う。まぁ身も蓋もない言い方をするならデータ量だよ。情報記憶媒体とかで見るあれ。ギガとメガとかのあれ」

「「???」」

「まだ分かりずらいか...う~ん、身近な話だと...アレだよ影の薄い奴っているじゃん?ファミレスとかで水貰えないとかそういうの、逆に何もしてないのに目立つ奴もいるわけだ。それは存在感というデータ量が多いか少ないかの差なんだよ、少ないとそのデータを読み込むのが簡単だから一瞬で忘れたり気が付けない...逆に多いと読み込むのに時間がかかる、読み込み中って表示が出ちゃう、だから記憶に残りやすい。そんな感じ、なんとなくわかったかな?」

「なんとなくは」

「ええ、まぁ」


 俺と六鹿は曖昧に頷く。正直ぶっとんだ話過ぎて、言いたいことは何となく分かるし、つまり()()()()()()なのもわかるのだが、ちゃんと飲み込むことができない。


「情報エネルギーっていうのは絶対だ。存在感なんてマイルドなもので済むならいいけど、例えばそのさらに発展させた先。存在そのものにまで発展したら、情報エネルギーがない=存在しないってことになって消滅するよ。しかも、記憶や記録からも消えるだろうねだって存在しないんだから」

「は?」

「でもその逆。情報エネルギーがあればないものだってあることに出来るんだ。キミたちの超能力みたいに」

「どういう」

「つまりだよ、莫大なエネルギーで無理やり君たちはそういう能力が使えるという情報を後付けしているんだよ。アナザーはそれを行うためのデバイス。最初君たちに配っているものは何の記述もされていないただのエネルギーの塊だった。だけど、君たちが起動することで君たちという情報が混ざり合って、君たちの願望や足りないものを補填するという形で超能力が発現する」


 俺たちの、いや俺は覚醒していないから六鹿のか?

 超能力は本人の願望や足りないもの...果たして六鹿のあの「重圧」はどちらなのだろうか、しかしそれに興味を示すことはものすごくデリカシーに欠けるのではないかと思い思考をやめる。


「能力については感覚で使い方を理解しているはず、あとは使い続ければ慣れて習熟していくよ。おすすめはしないけど...後、アナザーを起動すると起動した人間の情報を読み取るのと超能力を使えるようにするためにエネルギーをバラまく機能があるんだけど、そのエネルギーはアナザーを持っていない機械や人間には害があるから気を付けてね」

「害?」

「うん、莫大なエネルギーに触れることで記録や記憶に障害が残るんだ。あえてそういう設計になっているともいうけど...要するに能力を使うとご都合主義の様に誰の記憶にもカメラなんかの記録にも残らないってこと。安心して能力を使ってよ」


 確かにご都合主義だ。オウルにとって。

 バレないからじゃんじゃん使って奪い合ってゲームを積極的に動かせって言いたいのだろう。


「さて、こんなものかな?別にどういう経緯で開発されて~とかどういう理論で~とかはいらないだろ?最低限の知識と使い方はもう伝えたよ」

「ええ、大丈夫だけどいくつか質問いいですか?」

「どうぞ、それぐらいはいくらでも。答えられないこともあるけど」

「では、なぜ能力のトレーニングをおすすめしないんですか?」

「...フフ」


 六鹿の質問でオウルは一瞬真顔になり、すぐに笑みを浮かべた。

 心底楽しそうに。


「おかしいですか?」

「いやいや、嬉しいんだよ。自分しか知らないことを相手から質問されると気持ちがいい。...だけどごめんね、それは教えてあげられない。教えてほしければ質問の権利を使ってね」

「そうですか...ならもういいです」

「?いくつかあったんじゃないの?」

「今のに答えてもらえないなら全部ダメでしょうから、私はこれでもう大丈夫です」

「察しが良くて頭もいい、ほんと君を巻き込んで正解だったよ」


 六鹿の質問が終わり、さてと仕切りなおしたオウルが体ごと俺に向き直る。

 そして口元に笑みを浮かべたまま、


「次はキミの番だよ三船くん」


 そう言うのだ。

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