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夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
最終章-新たな世界への旅路-
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レイルナティムシル1

「これで、私の夢も完成に近づく」


 博士は俺から奪ったティリス・アナザーを手に機械をいじっていた。

 それがどんな機械なのかを俺は知らない。

 知っていたとしても、今の腹に穴が空いた体では何もできないだろう。


 しかし、俺は知っていた。

 俺が何もする必要はない事。

 何もしなくたって博士はもう終わりだ。

 俺は笑う。

 博士はもう俺に興味の欠片もないから、気が付かない。


 そのティリス・アナザーが博士の望みを叶える夢の宝ではなく、博士の望みを終わらせる絶望の毒であることに気が付かない。


「はは、流石の私も緊張するな!」


 待ちきれないと言った表情で機械を操作していく。

 そして、俺から奪ったティリス・アナザーを機械に差し込む。


「さぁ!増幅せよ!私に無限のエネルギーを!」


 機械は作動した。

 恐らく今までも何度か見ていた機械にアナザーを使わせる方法を使ったのだろう。

 ティリスは正しく機能した。

 博士がどんな設定をして、どんなふうにアナザーを使用したのかは分からない。


 ただその結果は顕著で、そして博士にとっては望ましくない結果をもたらしたことだけが分かった。


 塔が、薄く、ブレた。


「ははははは!............はぁ?」


 博士の喜色に満ちた笑い声は途中で止み、困惑の色を宿す。


「な、なぜだ!なぜエネルギーがあり得ない速度で減っていく!?設定を間違えたか?いや、そんなわけがない、起動は正しく行われている.........なぜ?」


 博士の困惑をよそに、どんどんとその力は広がっていく。

 どうやら博士は調子に乗って、いろんなシステムや機械に繋がっているような根幹へとティリスを繋げたらしい。

 余りの事に、自身の周りですでに起きている変化にも気が付いていないようだ。


「............はっ!」


 腹に空いた穴の痛みなんか吹っ飛ぶほどに、命が失われていくその感覚が嘘のように、晴れやかな気分に思わず声が出る。


「まてまてまて!!それ以上はダメだ!マズイ!!」


 床もその輪郭を曖昧にし、壁は歪み、部屋そのものがずれていくような拡散していくような不思議な状況になる。


 それはここに来る前に相賀によって渡された、アイツの力。

 アイツがまったく使わなかった、だけどそもそもの使い方。

 象と実をずらしてしまう力。


「............ぶっ.........こわせ、拡張(エクファシオン)


 それが博士の思惑とは違う方向に、博士が設定した通りに力を発揮していた。


 壁際に並べられていた水槽と、そこに浮かんでいた希空の分身たちはその座標を狂わせて、水槽の外へとズレ出てくる。

 恐らく、どこかに貯蓄されていたのだろうエネルギーがずれて現れたのだろう謎の光の玉が空中に現れては霧散して消えていく。

 様々な機械が現れたり、消えたり、不安定な床をすり抜けて落下したり、まさに混沌と化していく。


「クソクソクソ!!なんてことしてくれるんだ!!速く止めなければ!!」


 しかし、博士の行動は迅速だった。

 すぐに手元の機械を操作して、この状況に対処しようとした。

 被害を最小限にしようとしているのだろう。

 実際、このままいけばこの部屋だけでなく塔全体へとこの能力の影響は伝播して、崩壊するだろう。


 そうなってくれた方が万々歳ではあるのだが......


「......クソ!............よし、よし、切り離した。くそ......」


 どうやらもう対処し終わってしまったみたいだ。

 残念だ。

 部屋を襲っていた異常は徐々にその影響を失っていき、壁も床も元に戻りつつあった。

 現れては消えていた機械たちも段々と落ち着いてくる。

 そんな中で、最後の最後に俺の近くにどこからかズレてきたのだろう一つのティリス・アナザーがあった。


「.........なるほど、コレは拡張のティリス・アナザーだな............くそ、確かにこれは予想外。まさか入れ替えていたとは......気が付かなかったよ......だが、逆に言えば今は増幅は彼が持っているのだろう?」


 博士は俺に聞いているのか分からないような口調で何かを言っている。

 俺は、そんな中で、博士に見つからない様にティリス・アナザーに手を伸ばしていた。


「なら、簡単だ。彼ならばそのうち機械兵たちが倒すだろう。彼のスペックでは増幅はそう多用できないはずだからな」


 やはり博士は俺なんかを気にしていないようだ。

 一人でなにやら納得したようだ。

 こちらも早くしなければ。


 ティリス・アナザーを手に取った。


 そして、それを使おうと意識を集中させる。

 これは賭けではある。

 この部屋でランダムに物の位置がずれたのなら、それが俺の手元に来る確率なんてとんでもなく低いはずだ。

 それでも、俺はその確率に掛けるしかない。

 なにせ、名前を知っている能力がそれぐらいしかないのだから。


「ならば、早く回収に行かなければ。彼がいるのは零号と失敗作たちが戦っている場所の近くだったな......ないとは思うが、零号に先に回収されれば問題だ」


 博士は未だに血に沈んで倒れている俺になど目もくれず、部屋を出て行こうとする。

 口ぶりから相賀たちの元へと向かおうとしているのだろう。

 だが、博士をここから出すのはダメだ。

 きっとみんなそれぞれの戦いで精一杯だ。

 そんな中で、こんな奴を相手させられない。

 それに、まだ。俺との決着がまだだ。


 その時。

 再び部屋に変化が起きる。

 いや、こんどの変化は塔全体に及ぶものだった。


 バツンとライトが落ちた。


「んな!?」

「.........へぇ!」


 理解した。

 恐らく、俺たちの動向を知っていた博士も同じく理解したのだろう。

 これは、


「動力室が落とされた!?」


 九重がやってくれた!

 間に合った!これで、博士が相賀に預けている増幅を手にしたとしてもその夢は叶わない!


 そして、これはまたとないチャンスだった。

 塔全体の電源が落ちた。

 電力が無いという事は博士が仕掛けている、アナザーを利用した罠も機械兵の物量も使う事が出来ない。


 能力を使うためにさらに集中する。

 イメージを構築する。

 普段の自分を、健康な俺を。

 強く強くイメージして、その力の名を呼ぶ。


分裂(ダヴシオン)!!」


 生み出されるのもう一人の俺。

 自由に動ける、怪我一つない俺。


 そんな俺が駆け出して、動揺して足のとまった博士に肉薄して拳を叩きこむ。


「グゥッゥッ!!」


 大した肉体強化が働いているわけではない。

 それでも、無防備な横面を助走付きでぶん殴ったことで博士はたたらを踏んで、よろめく。


「どうした?さっきから何も思い通りに言ってないみたいじゃないか」


 怪我のない肉体で俺は喋る、煽る。

 早くしないと時間が尽きる。


「この.........実験体風情が......!!」

「どうにかして見せてくれよ、研究者様?」


 俺の命の時間が尽きる前に決着を。

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