(十八)憤然
契約期間はあと五ヶ月残っていたが、退職するのなら、一週間引継ぎを終えたらすぐにでも辞めてもらいたいと言われた。その会社側の対応にも不満があった。それでも、欺瞞と契約違反をするようなブラック企業に、長くいてもろくなことはないだろうと判断した新田は、会社側の要求通り退職届を提出した。
新しく雇われた契約社員には丁寧に引継ぎをしたが、業務に慣れている新田でさえ、サービス残業をしてやっとこなせる仕事量を、新人の社員に出来るはずもなく、引継ぎをはじめて四日目にその新入社員は出社して来なくなった。強引に人員削減しようとした会社側の自業自得な結果であった。結局、新田が受け持っていた仕事は、怠けている女性の契約社員と福山部長が引き継ぐことになったのである。
経理局で退職した契約社員の送別会をすると言われたが、新田は出席を辞退した。
勤務最終日、業務を終えた新田は、お世話になった営業局の社員に挨拶をして回った。困惑した表情を浮かべていたのは営業局の部長であった。営業局の社員から信望を受けていた新田は、その日はじめて退職した旨を告げたのである。
営業局の社員ひとりずつに挨拶した新田であったが、債権回収責任者に就かせようともくろんでいた上役達には、挨拶をしないで憤然と広告会社を後にした。
ガラス張りのビルを出て薄い雲におおわれた仄暗い空を眺めた。悲壮感を漂わせながら、新田は東銀座駅まで足早に歩いて行った。駅の階段の向こう側で、歌舞伎座の建物が燦然と光り輝いている。
参考文献
大腸がんを生きるガイド 日経BP社
今回で最終話です。ありがとうございました。




