第3章
シチューが完成したトオルは、彼の気に入ってるいびるを調理室に誘った。
「トオル!これ美味しいよ!あ、チーズトッピングして良い?」
「いいよ、なんなら牛肉のソテーもトッピングしてもいいんだぞ?」
「ウヒャヒャ、ありがとう!!」
パルメザンチーズを喜んでいびるはトッピングした。
すると、いびるは突然こんな発言をした。
「もしかして、お二人さん付き合ってます?」
トオルは、ため息を吐きながら「いやいやまさかね」と言った。
「恋愛かー、私もしてみたかったなー」ともえが言うと、いびるがもえに近づいた。
「じゃ、じゃあ、僕とよろよよよろしければ、その、僕電車とか好きで!特に!海里とか好きなんですよ!
HB-E300系気動車、半端なく好きなんです。」
「あ、あたし電車詳しくなくて・・・」
俺は止めるために、間に入る。
「いびる、自分の話しかしない男はモテないぜ。これ、ビーフソテーだ」
「いただきます!むしゃむしゃ」
もっと行儀良く食えよと、トオルともえは思った。
すると、匂いに釣られて何人か来た。
その中にカケルもいた。
「あ、トオルじゃん!」
「おー、カケル、どうだ、俺作ったんだ食っていかねえか?」
カケルはムシャムシャとトオルの作ったシチューを頬張った。
「うめー、トモキ、お前もどうだ?」
「・・・毒でも入ってんじゃねえか?」
「入ってねえ、こいつ俺の友達のトオルって言うんだ、マジでこいついい奴だからさ・・・」
トモキと呼ばれた28歳ぐらいの身長180cmの男は、調理室を後にした。
「状況が状況だから懐疑的になるのも・・・な」
もえと、いびるは激昂した。
「ひどい!食べもしないでトオルの料理をまずいなんて」ともえ。
「早速あいつに投票を」
「待て」トオルが言うと黙った。
「人を簡単に殺めるもんじゃない・・・、残ったシチューは、ラップにでもかけておこう。
そしたら、腹減った人が食ってくれるかもしれないしな」とトオルが言い、鍋にラップをした。
トオルは、「少し1人になる」といい、自室へと向かう。
途中、綺麗な女性が眼前を横切った。
その後、トオルといびるともえは、3人で図書室に入った。
「君に勧めたい本が山ほどあるんだ」とトオル。
「えー?いっぱい勧められそう」
「色々勧めたいけど、あえて今進めるとしたら“星の王子さま"とかかな。
マルクス全集とかでもいいんだけど、・・・もし読んだことなかったらさ」と思って。
「ありがとう、私はねぇ」ともえが言った直後
「あ、ごめん、」といびるが、2人に声をかけた。
「俺、ちょっと施設内もう少し知り合いから別の場所行ってくるね」と言い、その場を後にした。
その後、トオルともえが楽しそうに仲良く談笑してると、いきなり、2人に近づく男の姿があった。
「おい、何イチャイチャしてんだよ」
男は大きな拳で、トオルの頬を殴りかかり、嫌がるもえを無理やり抱いた。
「やめて、助けて」
トオルは、「やめろ!もえに手を出すな!」と激昂したが、男は聞く耳を持たない。
トオルは、端末を取り出し、男がもえを抱いてる様子を撮影した。
3分後、投票率25%を獲得したその男は、即座にもえから逃げ図書室から逃げ出した。
「いやだ!いやだ!!!!」
廊下から銃声が響いた。
残り94人
「はじめて、人を殺してしまった」
もえは、自分のせいだと泣き出した。
トオルはもえの背中をさすった。
「ごめん・・・本当にごめん」
もえは、泣きながらトオルにハグをした。
参加者リストとは顔が違う、恐らくかなり濃いメイクをしたのだろう。
「あ、君は?」トオルは、声をかけた。
「私、桜井みんと。
あんたは?」
「俺は、角谷トオル。
桜井ちゃんって、どこかで見たことある気がする。 あ」
トオルは、かつて写真集で眺めたとある女性コスプレイヤーを思い出した。
「あの、コスプレイヤーの桜井・・・みんとさんですか?」
「そう。参加者リストには実名で登録してるし、すっぴんの写真が登録されてるから誰も気づかないけど」
鼻が高い、そして、青い瞳、トオルは桜井に完全に心を奪われた。
我ながらチョロすぎるだろと、トオルは顔を真っ赤にして、何も言えないでいた。
「可愛いじゃん」
トオルは、倒れそうになっていた。
「じゃ、私ラウンジ行くから、あ、トオルくんもくる?」
「いいいい、行きます!!!」
トオルは、桜井と一緒にラウンジへ赴いた。
ラウンジの店員にあの時のお姉さんがいた。
「あら、トオルくんまた女の子口説いたの?」と店員。
「ち、違いますよー」トオルは、ウィスキーをクイっと飲む。
桜井みんとは、アニメの知識が豊富で、トオルと話がかなりあっていた。
会話すること1時間・・・
2人が盛り上がってるところに、もえが偶然現れた。
「あ・・・」とトオル。
もえは、走って逃げ出した。
「え?彼女?」と、みんとは言った。
「ち、違うよ。」とトオルが言うと、みんとは「じゃあ、そろそろ行くね」と席を立った。
「どうするの?追いかけるの?」と店員が聞くとトオルは、「店員さんの鼻をまた触りたい」と言い、鼻を触らせてもらった。
トオルは、30分ほど店員の鼻触り続けた後、またスロットを打ちにいった。
しばらく打ってるとカケルが隣に着席した。
「よう、トオル」
「あ、うん」
「さっきは、ごめんな」
「良いよ、気にしてない」
「所でさー」と、カケルが話し始めようとする。
「死刑投票に選ばれる奴の特徴ってなんかわかった気がするんだよね」
この一言でトオルの手が止まった。
「え、」
「ぶっちゃけこの死刑投票っていうゲームの参加者って、適当に集められたようで実は、めっちゃ考えられてるんじゃない?って思ったわけ」
「えっ、えっ」
「トオルもそうだし、あのチーズ牛丼食ってるやつもそうだけど、基本的にインキャって呼ばれる奴?いわゆるカースト底辺みたいな人って生存率が高い気がするんだよ。
ただ、陽キャと呼ばれるようなやつって、あっさり投票される気がするんだよね。」
トオルは、過去の投票結果を思い出した。
確かに類似点があるように思える。
「陽キャってさ、ぶっちゃけ俺らみたいなインキャとほとんど関わったことないだろうから、インキャの恐ろしさわかってないと思うんだよね。
インキャに恨み買うと、住所特定されたり誹謗中傷を受け続けたり、はてまて殺されたり。
インキャって陽キャにいじめられた人が多いから陽キャってだけで敵視すると思うんだよ。現にここですぐ彼女できるようなやつは、割とすぐに殺されてる。」
「確かに」
「目立ったことはしない方がいいぜ。
お前もいつ命を狙われるかわからん。
お前は恐らく根が暗いから、女友達も殆どいたことないように見受けられる。
だが、陽キャが殺されて、インキャしか残らなくなったら、そのインキャの中でもヨウキャの部類の人間を探そうとする。
そして俺も 」
通知音がなった。
「調子に乗りすぎたようだ」
カケルは、カウンターにいる店員に声をかけた。
そして、カケルはトオルの方を振り向き
「隣の台、設定入ってるからおすすめ」と言い、店員と共に、カケルは姿を消した。
残り94人
トオルは、考えた。
陽キャの比率はわからない。
それと同時にインキャの比率もわからない。
だが、これ以上下手な行動はできない、沈黙それが正しい答えだろう。
トオルは、図書室で本を5冊ほど借り、自室に持ち込み、布団に潜った。
その後、もえから着信があった。
「もしもし、もえ」とトオルは、出た。
「トオルくん、さっきの子は?」
「あーたまたま出会った子、話があったんだ」
「トオルくん、さっきは逃げたりしてごめん。あたし情緒安定していないみたいで」
「いや、気にしてないよ」
1票、トオルは自分の端末を確認すると自分に入っていたのがわかる。
「もえ、そのさ、また話ができたら、
そうだ、今度はもえに・・・」
「ごめん、もう私に関わらないで」
電話がプッツンと切れた。
トオルは、何度かもえにメッセージを送ったが一切既読がつかない。
もえのプロフィール欄を確認すると、ブロックされていることが確認できた。
ただ、もえは、俺の悪口をタイムラインに書いていないようだ。
「・・・またか・・・」
学校内で孤立した日をトオルは、思い出した。
「人間だりー」トオルは、呟いた。
それからしばらく、トオルは目立つ行動は特にせず、筋トレ→読書→パチンコ→ラウンジ→ゲームセンター→調理をルーチンに繰り返す日々となった。
調理に関しては、何人か関心を持つ者が出てきて、他人が作った料理を食べることも増えた。
トオルが調理をしていると、ある男がトオルに声をかけた。
「トオルくんだっけ、もう少し弱火の方がいいよ」
「あ、ありがとうございます。」
「ここは、弱火でしっかりと素材の味を引き出した方がいい。」
それは、トオルが白身魚のムニエルを作ってる時だった。
「この施設には食材や調理器具が数多く揃ってる。
何回か君の料理を味見したけど、少し火を強め過ぎている印象がある」
「あ、あなたは」
トオルは、脳裏にある記憶を思い出した。
それは、かつてバラエティ番組でコンビニのツナマヨおにぎりを食べずに評価し、炎上したシェフであった。
「俺は小森タツ。
もっとも、俺は、髪を切りひっそりと身を潜めて生活していたし、あの頃からだいぶ痩せてしまったから俺が誰だかなんてみんな関心ないんだろう」
トオルは、尋ねた。
「シェフ、どうしてこのゲームに参加したんですか?」
「妻と子のためだよ。
あの事件からパッタリ人が途絶えて、店を畳んだんだ。
借金を残してしまってね、それで別の店で働こうとしても例の炎上事件で顔が知れ渡ったからなかなか採用してもらえなくてね…
やっと雇ってもらった店でも、子と妻を養えるほどには稼げてなくてね。
それでこのゲームをやって資金業者に紹介されたってわけだ。
君はどうして」
トオルは、自分の生い立ちと、このゲームに参加する動機を話した。
「若いねぇ…俺が若い頃にそっくりだ」
「いえいえ」
「俺が店長なら君をシェフとして雇ってる。
君センスあるよ。それに、人に料理を振る舞いたい、美味しいものを食べてもらいたいという気持ちを君の料理から感じる」
「ありがとうございます」
照れたトオルは、顔を赤くした。
そしてトオルは、「是非、テクニックを教えてください」と小森に頭を下げた。
「はははは、良いよ。人に教えるなんて久しぶりだ。うまくできるかな」と小森シェフは、笑いながらトオルに調理技術を伝えた。
5時間、小森シェフはつきっきりで調理をトオルに教え続けた。
そして、究極のオムレツをトオルは、作れるようになった。
「うん、デリシャス。合格だ」
「ありがとうございます。」
「そうだ、トオルくん、君はネットとか詳しいんだっけ」
「はい、そうですが」
少し黙ったのち、小森シェフは、話し始めた。
「参加者リストを何度か見たら既視感のある人が何人かいるのに気がついた。
で、俺がゲームを紹介された理由と謎の既視感について考えたんだ。
一時期俺は、炎上ニュースばかりに目を通してた時期がある。
そこで・・・参加者に炎上経験がある人が何人かいる気がするんだ。
もしかしてだけど・・・」
トオルは、話し始めた。
「もしかしたら他人の空似の可能性もあります。炎上後に改名したり、整形、体型が大きく変わり別人のようになった人も多いでしょう。
ただ一つ言えるのは、参加者の比率として人生がうまくいってない人が多い印象がございます。
その一方で、人生がうまく行ってる、客観的に見ても充実してそうな人生を謳歌してる人も一定数いるように思えます」
「このゲームの真の目的はなんだろうねぇ」小森は、少し頭を抱えた。
トオルは、席を立ち、小森に「宜しければ一緒に温泉でも行きませんか」と、小森を誘った。
この施設内には、温泉エリアと呼ばれるものが存在し、天然温泉で全身を癒すことができた。
ただ、このエリアは、混浴のようで、男女別とはなっていない。
そのため、利用する際は、匿名SNSのタイムラインに温泉エリアを利用する旨を書かなければならない。
「小森と角谷、温泉エリア利用します」と記入し、2人はサウナに入った。
そして、トオルは、「色々考えたんです。
何回かこのゲームの内容を考察したんです。
そしたら、小説を何冊か思い出したんです」
サウナに誰か近づいた。
端末は、温泉に持ち込めないため、誰が入ってきたかは、わからない。
「その話聞かせてよ」
それは、バスタオルで全身を隠した桜井の姿だった。