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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第3部・完結編  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第6章 未来への約束 さらば柏沼高校
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3-85、前原悠樹と、田村尚久

 大感動で幕を閉じた卒業式後、教室ではみんな写真を撮ったり、卒業アルバムの白紙欄にメッセージを寄せ合ったりしていた。五月雨式に、卒業生たちはみな、次第に教室を去って行く。


「前原・・・・・・。もーぉ感動だったね! もう、あれは泣かずにいられないでしょ!」

「号泣だったよね、川田さん。僕も、涙が溢れちゃったよー」

「ねぇ、まだ帰らないよね? ・・・・・・前原さぁ、アタシね・・・・・・」

「ん? どうしたの? 僕も、まだもう少しいようかなと思うけど・・・・・・」

「うん。・・・・・・アタシさぁ・・・・・・」


 川田は、まだ目が少し赤かった。涙で潤んだ瞳は、きらきらと光っている。


「まなみー。撮ろう撮ろう! まだ帰らないでしょー?」

「まなー、こっちこっち! 撮ろうよー」

「わかった! 今行く! アタシも撮るー。真ん中入れて! ごめん、前原ー・・・・・・」


 そんな川田も、クラスの友達と写真をあちこちで撮っている。前原も男子の友達と何枚か撮ったが、女子たちはその倍くらい撮ってるのではないだろうかというほどに、撮り合っている。


「さて、どうしようかな。・・・・・・親はもう帰っちゃったし、僕も、特に残ってやることもないんだよなぁー・・・・・・。川田さん、何か言おうとしてたけど、忙しそうだなぁ・・・・・・」

「・・・・・・おっす、前原! 一組は、もうそろそろ店じまいけ?」

「あれっ? 田村君、まだいたの? ・・・・・・まだ僕のクラスは、こんな感じで写真撮ったりして残ってるよ。帰った人もけっこういるけどさー」

「三組は、もう、ほとんどいねーぞ? 森畑とかも、見当たんないねぇー」

「そっか。帰っちゃったのかなー・・・・・・。井上君もいないし、神長君や中村君もいないんだ」

「親と帰っちゃったりしたのかねぇー? ・・・・・・いやー、しかし、いい卒業式だったねぇー」

「ほんとにねー。阿部さんの送辞でまず、涙腺やられたね!」

「あれはねぇー。よくわかんねーハプニングをその場で乗り越え、阿部はしっかり俺たちのために頑張ってくれたねぇー」

「校長先生や来賓の方々も、さっき廊下で、阿部さんをものすごく誉めてたみたいだよ!」

「誇らしいね。あんな立派な後輩がいてくれるとねぇ。・・・・・・前原、そろそろ帰る?」

「川田さんが何か用がありそうだったけど・・・・・・。まぁ、あとでメールでもしてみようかな」

「川田が? あー・・・・・・。確かに今、取り込み中だねぇー」

「川田さぁん、ごめーん。僕、そろそろ行くよー?」


 教室や廊下で、友達に引っ張りだこの川田。

 写真撮影に忙しいらしく、前原の声はよく届いていないようだ。目は一瞬だけ前原の方を向いたようにも見えたが、また、別のクラスの友達に引っ張られていった。とにかくその人柄からか、川田は交友範囲が広いようだ。


   ・・・・・・むー  むー  むー  むー


「お?」

「あれっ?」


 同時に、前原と田村の携帯が震えた。向こうの机に置いてある川田のバッグからも、マナーモードの音が聞こえる。


――――『Felicitations pour votre diplome ! Merci, tout le monde. Restez en bonne Sante pour toujours ! (ご卒業、おめでとうございます! 皆さん、ありがとうございました。いつまでも、元気でいてねーッ!)』 ――――


「・・・・・・これはー。俺、英語もわかんねーって言ったのにねぇー。末永のやつ、粋なことをー・・・・・・」

「まさか、フランス語で・・・・・・。末永さんらしいなぁー。嬉しいね、田村君!」

「読めなくて何が何だかわかんねーけど、お祝いだってのは、伝わってくるねぇー」


 フランス語で綴られたメール。小笹はきっと、前原たち七人全員に、このメールを送ったのだろう。


「「「「「 (じゃーなー。またいつか! またなーっ!) 」」」」」

「「「「「 (大学行っても、会おうねー。先生、お世話になりましたー) 」」」」」


 次々と、学校を去って行く同級生の声。

 友達に別れを告げる声。再会の約束をする声。恩師への感謝を示す声。

 高校生活という青春の幕を閉じる声が、校舎にじんわりと響き、余韻を残して消えてゆく。


「あ・・・・・・」


 ふと、前原は、「あること」が一つだけ、頭に浮かんだ。


「そうだ。・・・・・・田村君、僕、まだ、やり残したことがあったんだった・・・・・・」

「ん? やり残したこと?」

「・・・・・・そう。・・・・・・田村君。ちょっと、あの場所まで、一緒に来てもらっていい?」

「・・・・・・わかった。前原のやり残しってのに、付き合ってやるとするかねぇー・・・・・・」


   ・・・・・・ササササァァーーーー・・・・・・

   ・・・・・・ササササァァーーーー・・・・・・

   ・・・・・・ふわぁん・・・・・・  ・・・・・・ほわぁん・・・・・・


 風が抜ける。白い花弁が、風に乗る。ひらり、ふわりと、青空に映える白い花弁。ほのかに漂う甘い香りや鳥と共に、それは空へと舞い上がっていった。

 白梅の香りが、辺りに漂っている。卒業した前原たちを、その芳香はやさしく包み込んでゆく。

 前原と田村は、学生服姿のまま、ある場所へと向かっていった。

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