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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第3部・完結編  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第1章 金木犀と、銀木犀
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3-8、審査結果、発表!

「せ、先輩ーーーっ! どうでしたか? わたし、もう、ドッキドキです!」

「俺もです。形が少し、うまくなかったなぁー。組手も緊張しちゃったしなぁー・・・・・・」

「自分は、組手は出来たと思いますが、形が・・・・・・」


 二年生三人は、前原と川田が見ていた限りでは良く出来ていたとのことだが。しかし本人たちは、緊張した中でやはり舞い上がっていた部分があり、内容もよく覚えていないようだ。


「なぁに、だいじだよ! アタシが保証しよう! きっと受かるさ。たぶん」

「えぇー? 先輩、たぶんっていうのはやめてくださいよぉ! わたし、倒れそうです」

「だって、まぁ、受かるとは思うけどさ? 絶対ってことは言えないんだし。審査して決めるのはあの偉い先生方なんだもん」

「ちゃんとできてたから、自信持ってよ。きっと大丈夫だって思ってれば、だいじだよ!」

「そ、そうですよねっ! ・・・・・・あ! そういえば、真衣と紗代! あんたら二人とも、糸恩流の偉い先生に、直接教わったんだって? すっごいじゃない!」

「めったにないことで、僕と川田さんもびっくりだったよ! 源田範士に直接手ほどきされて誉められたなんて、すごい名誉なことだよね。内山さんも大南さんも、これでさらに励みにもなると思うしね!」

「はい! わたしもうちやまも、すっごい緊張しました。でも、源田千蔵先生、とても優しくて、わかりやすく教えて下さいました! もう、何が何だかよくわかりませんけど、感動しました!」

「なんか、大南さん、田村君の口癖がうつってきたかなぁ? でも、相手を完全に想定して形を演武したことが、白帯ではありえないレベルだって誉められてたね」

「え、そうなの? そうかぁ、それは沖縄で、森畑先輩が嘉手本さんに教わってたことだね。真衣も紗代も、きちんとそういうことは聞いて覚えてたのかぁー」

「そういうこと、ですね。阿部先輩に、はやく追いつきたくて!」

「みつるー。俺たちも、受かると良いなぁ!」

「ドキドキだよな! ・・・・・・あ、審査員が部屋から出てきたぞ!」


   がやがやがやがやがや  ざわざわざわざわざわ


 四大流派の一級資格審査員の先生方と県連の先生方が横一線に並んだ。進行役の先生が、受験者へ整列を促した。手には、結果表が書かれた紙を持っているようだ。


「それでは、お待たせしました。審査結果を公表いたします。呼ばれた方は返事をして下さい」


 いよいよ、審査結果の発表。まずは、三級からだ。そして、二級、一級と続く。その後は初段、二段、三段の順で発表される。

 阿部、黒川、長谷川は背筋を伸ばし、ちょっと緊張した表情で待つ。

 大南と内山は、お祈りのようなことをしながら、ぷるぷると震えて待っている。


「(神様、どうか、どうか、わたしら全員を受からせて下さい! どうかー)」


 阿部はふっと目を閉じ、胸に手を当てていた。

 窓からは、ふわりとほのかな花の香り。その心地良く涼しい秋風が、館内へ入ってきていた。


「・・・・・・三級は、以上です!」


 三級の発表が終わった。なんとここまで、大南と内山の名前が呼ばれていない。


「(さ、さよ! なんだろう? 受からなかったのかなぁ・・・・・・)」

「(なんか、だめだったんかなぁ? えぇー・・・・・・。そ、そんなぁー・・・・・・)」


 不安がる二人。明らかに挙動不審だ。それを後ろから、阿部がしっかりと落ち着かせた。


「次に、二級! ・・・・・・八川結羽。小池紗弥加。早乙女みどり。笹木新吾。安西みさき。山川・・・・・・」


 どんどん合格者の名が呼ばれていく中、大南と内山が眉をひそめて不安そうな表情になってゆく。


「・・・・・・内山真衣。斎藤昭人。・・・・・・二級は、以上です!」

「え!  は、はいっ! ・・・・・・や、やったぁ! さよ! わたし、二級だって!」


 内山の表情が、一気に明るくなった。なんと、三級を飛び級しての二級合格。これで明日から、茶帯を締めることができる。


「あれ? ・・・・・・うちやまは呼ばれたけど・・・・・・わたしは? え? も、もしかしてわたし、落ちた? うそぉー」


 なんと、内山は呼ばれたのに、大南は呼ばれなかった。二級の合格者発表はもう終わったのだ。


「さ、さよ・・・・・・。そんなはずないと思うけど・・・・・・」

「・・・・・・うちやま、おめでとう! 明日から君は茶帯で部活の稽古だ! うん、やったね!」

「さよー・・・・・・」


 ちょっと俯いてから、明るく内山の肩を叩いた大南。明るく振る舞ってはいるが、きっと不安ともやもやでいっぱいなのかもしれない。どう見ても、その目は今にも泣きそうだった。


「では、一級! ・・・・・・大南紗代。鎌形晃。癸生川優人。大河内花。・・・・・・一級は、以上です!」

「「「「「 え? 」」」」」

「阿部先輩、い、いま、わたし呼ばれましたか? い、一級? ・・・・・・は、はいっ!」

「確かに、呼ばれたね! すっごいじゃん、紗代! 二つも級飛ばしで昇級なんて!」

「さ、さよ、一級! だから、呼ばれなかったんだ! す、すごぉいーっ。わたしの上かぁ」


 なんと大南は、三級も二級も飛ばしていきなり一級合格。これで大南も茶帯だが、一級ということは三月の審査会で、初段を受験できる資格を得られたのだ。早ければ来春、大南は初段合格も夢ではないのだ。


「す、すげぇな、さよ! みつる、俺たち、一年生に追いつかれちまうぞ!」

「まさか、いきなり一級なんて! まぁ、紗代は剣道経験もあるし、武道の要素が少しは身についてたから、よかったのかもなー」

「こりゃ、わたしらもうかうかしていられないね! 充、敬太! 頑張ろうね、もっと!」


   パチパチパチパチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチパチパチパチ!


 茶帯取得に笑顔を見せる大南と内山。昇級者の発表が終わり、各受験者から合格者へ拍手が贈られた。

 そして、いよいよ、段位合格者の発表。二年生三人の表情が一気に固まった。


「では、発表します。・・・・・・初段! ・・・・・・金澤妃乃。阿部恭子。大島伊光。宮崎健太。黒川敬太。斎藤美津・・・・・・」

「わたし、よ、呼ばれたぁぁ! はいーっ!」

「お、俺も! はいっ!」


 阿部と黒川は、見事初段合格。


「お! やったね。阿部さんも黒川君も、受かったよ!」

「そうだね! やったぁ! ・・・・・・あれ? 長谷川は」 


 川田は、やや心配そうに結果を見守る。


「・・・・・・長谷川充。伊藤亮汰。・・・・・・初段は、以上です!」

「は、はいっ! ・・・・・・やった、自分も初段だ! 受かった!」


   パチパチパチパチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチパチパチパチ!


 その後、二段、三段の合格発表があり、審査会は終了。

 最後に、審査員からの講評では、「空手の競技化が進み、だいぶ組手がスポーツ化している」とのこと。もともとの武道性をきちんと学んで、スポーツだけではない意識で、深く空手を学んで欲しいとのことだった。


「それでは、合格した皆様、登録料などの案内は後日、所属の代表者に郵送でお送りしますので。本日は、お疲れさまでございました!」

「「「「「 お疲れさまでした! ありがとうございました! 」」」」」


 全員で一礼し、解散。

 前原と川田は先に着替え、阿部たちが出てくるのを出口で待っていた。


「いやぁー、よかったよかった! 二年生は無事、みんな初段合格だったね! 大南さんが一級なんて驚きだけど、それだけしっかり稽古を積んだってことなのかな」

「真衣だって、飛び級しての二級だもん。アタシが思ってた以上に、一年生の躍進が目覚ましい限りだね! 新人戦の一年生大会が、これは楽しみだねーっ!」


   すたあん  すたあん  すたあん  すたあん・・・・・・


「「 あ! 」」

「お疲れさまでした。お二人の後輩さんたちも、各自、合格おめでとうございます。これからも、精進して、もっと素晴らしい技量と精神性を目指して下さいね」


 前原たちの前へ、源田千蔵範士が足を止め、帰り際に声をかけてくれた。世界の糸恩流を担って各国へ指導に赴いている大師範だが、本当に優しく、気さくで穏やかな人だ。


「あ、ありがとうございます。恐縮です。おそれいります。僕も、しょ、精進します」

「後輩がもっと空手を好きになるよう、先輩として卒業までしっかり見届けたいと思います」


 そうしているうちに、阿部たちがバッグを抱え、着替え終わって戻ってきた。


「「「「「 あ! 」」」」」

「げ、源田先生。本日はご指導ありがとうございました! もっともっと、がんばります!」

「わたしも、がんばります! 今度は一級合格できるように、がんばります!」

「はっはっは。ぜひ、頑張って下さい。空手は、楽しいものですよ。そして、終わりが無い。どこまでも、ひたすらに、武道の可能性を限界まで突き詰めていって下さい。必ずや、皆さんの人生の大きな糧になりますからね。どんなことも、とことん打ち込んで突き詰めれば、その道の本質が見えます。そして、表面では味わえない奥深さや楽しさも、わかるでしょう」

「「「「「 ありがとうございました! 」」」」」


 みんな揃って一礼すると、源田範士はにこっと笑って軽く手を振り、帰っていった。

 その背中は大きく、とても雄大な感じだった。二年生三人、一年生二人は、目を輝かせて、また深く一礼。

 その帰り道は、みんなで審査の振り返りや空手談義が弾んだ。そして、黒帯になることの自覚と責任について、川田が後輩に深く言い聞かせていた。

 午後の陽射しの中、赤いトンボがたくさん飛び交っている。どこかから薫るキンモクセイの香りは、位の上がった五人を優しく包み、秋の空へと溶けていった。


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