3-72、拳士たちの大宴会! お疲れさまでした!
「ただいま! おかーさぁん、どこー?」
「おかえり! 奥の座敷に用意したよ。みんな上がっちゃいな! 後からまた出すかんね!」
「「「「「 お邪魔します。お世話になりまーす! 」」」」」
狭山の実家は、小料理屋と整骨院。
割烹着姿の、恰幅の良い女性が奥から暖簾をくぐって出てきた。狭山の二倍はありそうな横幅の、貫禄がある母親だ。
楓の一枚板だという、趣のあるカウンターが三席。小上がりが四席。前原たちが通された宴会用の奥座敷は、三十席は取れそうな広さだった。店内にうっすら漂うお香のような薫りが、何とも居心地良い感じだ。
「へーっ! アタシ、こういうお店、好き! これは居心地良いし、絶対美味しいお店だ!」
「ありがと! さぁ、みんな、適当に散らばって座って! 飲み物、なにがいい?」
「アタシ、生ビール!」
「俺、冷や酒がいいねぇー」
「ちょ、ちょっと! 田村君も川田さんも、だめだよぅ! いくらなんでも・・・・・・」
「冗談に決まってんでしょうよ! いくらアタシでも、この場でそれは飲まないわよ?」
「え? 川田は冗談だったんけ?」
「田村ぁ。・・・・・・あんたって、けっこう、ばかな時は、ばかよねぇー・・・・・・」
わいわいわいわいわいわいわいわい わいわいわいわいわいわいわいわい
そして、みんなで談笑しながらの懇親会がスタート。
畳の間にみんな座り、大きな長テーブルを囲んで、わいわいがやがや。違う学校、違うチーム、先輩後輩も関係なく、みんなで楽しく語り合っていた。話題はほとんど、空手談義だが。
一時間以上経ち、お寿司やお肉で盛り上がっていると、だんだん空手談義から、雑談やエンタメ話など、普通の高校生らしい話題も飛び交うようになった。
「いやぁ、陽ちゃんと尚ちゃんの最後の突きは、しびれる場面だったよなぁ! だははっ!」
「あれは、俺もやばかったねぇー。中村が、思ったよりつえーんだもんー」
「ねぇ、柏沼高校はさ、バレンタインデーのチョコ、バレたらどーなる? 宇商ではさぁー、そこまで厳しくないのよねぇー? ・・・・・・さーて、今年、どーしようかしら?」
「あー。狭山ぁ、誰かにあげるのね? アタシは、そーゆーのやらないしなぁー」
「なんでぇ? 川田も森畑も、部の男子にあげたりしないの? 変な感情抜きにさ?」
「うーん。私も真波も、そう言えば、それは気にしたこと無かったような・・・・・・」
「二人とも確か、彼氏とかいないよね。恋人作る気は、ないの?」
「「 ないね! 」」
「スパッと言うねぇ。作る気無くても、部の男子くらいには、お疲れさまってあげればー?」
「そーだ! 真波も菜美も、くれよ! 毎年、コンビニでわざわざチョコ買って、親に見栄張る俺の辛さ、わかんねーべ? あー。ぜってぇ大学行ったら、俺は翡翠で儲けて、彼女作ってやっからなぁー。待ってろ富山県! この井上泰貴が春から行くぜぇ!」
「・・・・・・井上さぁ・・・・・・。バカね! アタシにチョコくれと言いながら、なんで富山で彼女作ってやるなんて言うのよ! 井上のバカ!」
「・・・・・・い、井上先輩。チョコのそれは・・・・・・自分もわかるっす! うん! 辛いっすぅー」
「みつるー。言うなよぉー。切ないからさー。俺も同じだよぅー・・・・・・」
「そーいえば・・・・・・。あの、二斗さんは、等星の大澤さんが好きなんですか?」
「(ぶぶべふぅ!)・・・・・・な! ・・・・・・なにを・・・・・・いきなり? ・・・・・・なんだとぅ?」
「紗代! 二斗がお吸い物噴き出したじゃんかぁ! 目の前にいる敬太がびしょびしょよ! 唐突に変なこと言わないの。ご、ごめんね、二斗! アタシも噴き出しそうだったけど」
二斗は顔を真っ赤にして、てんとう虫柄のハンカチで口元を拭っていた。
「・・・・・・おぉい、前原! ばかやろう! 飲んでっか? おい、おめー。もっと飲めー」
「・・・・・・前原、篠崎をぶっとばしたりするなよ? 面倒くさそうだから。私にも振るなよ?」
「えー。諸岡さん、助けてよ。さっきから篠崎君、水しか飲んでないのに、こーなんだよ?」
「ん! ばか! 篠崎、お前! これ、水じゃねーよ。いつの間にか、酒が開いてる・・・・・・」
「え! ま、まずいよ! ほら、篠崎君! こうなったら、たくさん水飲んで!」
「えーい、うっせぇ、ばかやろうー・・・・・・。おらぁ、水ばっか飲めっかぁ。くそやろう!」
「篠崎、絡みまくってくるわけだ。アタシも、諸岡と同様。面倒くさそうだから、パス!」
「そ、そんなぁー・・・・・・」
「・・・・・・ふぅ。ちょっとみんな、篠崎から離れて・・・・・・。いいわね・・・・・・?」
真顔で静かに立ち上がった朝香。前原たちは一瞬で危険を察知。さっと全員、篠崎から離れた。
・・・・・・ピシャアッ!
キイイイィィィィーーンッ! ドゴォォァァーーッ!
「うごぉーっ! どわぁーっ! ・・・・・・うぐ・・・・・・うぷぷ・・・・・・」
朝香は涼しい顔をしながら、篠崎に強烈な中段突きを中高一本拳で叩き入れていた。すると、篠崎は、お手洗いへ一直線。しばらく出てこなかった。生きてるのだろうか。
「・・・・・・さぁ、みんな、食べよう? ・・・・・・美味しい料理もお肉も、冷めちゃうよ?」
「す、すごいな・・・・・・。さすが、朝香さん・・・・・・。あははは・・・・・・」
何事も無かったかのように、朝香はまた座り、料理を頬張る。阿部はこれに、顔が引きつって苦笑い。
「あっははははッ! なんか、道場の新年会みたいさぁー。楽しいなッ! いーね、小笹!」
「お肉も、おいしーッ! 川田センパイやインテリ中村センパイのチームに、感謝だねッ!」
「うまい! ・・・・・・なるほど。小笹ちゃん、美鈴ちゃん。この肉なら、おれが開発したタレは必ず合うだろう。後で、小笹ちゃんに、レシピを教えてあげても良いのだが・・・・・・」
「えー。嬉しいなぁッ! ねぇ、教えてッ? インテリ中村センパイ、お願いー」
「う、うむっ! で、では、その時はぜひ、小笹ちゃん。おれの家に・・・・・・」
・・・・・・ドゴアッ!
「い、いてぇ! な、何しやがるんだ権田原!」
「中村! おまえー、そりゃ犯罪だべな! そーやって連れ込んで、いかがわしいマネを!」
「ふ、ふっざけんな! おれはその、なんだ、小笹ちゃんらに、純粋に料理人としての『中村流料理』の味付けと盛りつけ方の伝授をだな・・・・・・」
「なにが料理人だ。そんなら、このスーパー料理マスターである権田原優斗にも一緒に教えてくれよぉ! 純粋なら、かまねーよな? あ、末永小笹さんたちも、一緒にね!」
「ふざけろ! お前こそ、変な目的意識があるんじゃないのか? おれの家は、定員オーバーになると爆破されるシステムだ! 諦めろ! だいたい、なんでお前をおれの家に・・・・・・」
「ふーん。ほぉーお。ほぉぉーお? ・・・・・・なら、そこにいる崎岡や諸岡が、ファンシーランジェリー姿で来て、それで定員オーバー気味でも、お前んちは爆破されんだなぁー?」
「むむっ! ・・・・・・まぁ、その、なんだ。女性は体重が軽いから、爆破は・・・・・・ないかな?」
・・・・・・ゴシャアアァァッ! ・・・・・・バキイィィッ!
権田原は、崎岡と諸岡に両頬へ強烈な縦拳を見舞われ、その場でお潰れとなった。
「・・・・・・ったく。美味しい料理がまずくなる話題するんじゃないよ! なぁ、有華!」
「恥ずかしいっ! 清雲館のやつは品がないぞ二斗! 武道家としての品ってものが!」
「・・・・・・。・・・・・・オレも? ・・・・・・なの? ・・・・・・・・・・・・オレは今、清雲館と違うんだよね・・・・・・」
ご立腹でお肉とお寿司を食べる崎岡や諸岡を前に、二斗が小さくなっていた。
・・・・・・かちり、こちり・・・・・・
・・・・・・わいわいわいわいわいわいわい・・・・・・
「あ! もうこんな時間ーっ? そろそろみんな、お開きにしよっか! 立って立ってー」
狭山の一声で、「宴も酣ですが」と言った雰囲気に。みんな一斉に立ち上がる。
篠崎だけは、洗面所の横で死んだようになって、未だ転がっているが。
「いい? 道場の飲み会とかで見るアレ、やろう! さ、お手を拝借! 関東の一本締め!」
~~~ いよぉーーーーおっ! パァンッ! パチパチパチパチ! ~~~
楽しく美味しい懇親会だった。それぞれが想い出を刻み、各々が別々の方向へと帰っていく。
前原、田村、川田、井上は、帰り道を一緒に歩きながら、夕月を静かに眺めていた。
「みんな・・・・・・ありがとねぇー。本当、高校三年間で集った、いい出逢いの仲間たちだったねぇー。俺たち全員さ・・・・・・」
井上と川田が、目を潤ませ無言で頷く。夕暮れの空が、四人をそっと包み込んでいた。
高校生活も、もう、残りあと僅かになっている・・・・・・。




