3-69、激闘! 大将同士のハイレベルバトル!
「ああぁぁーーーーーーーいっ!」
ドギュンッ! ババババシュンッ! シュバアッシュバアッッ!
「(くっ! は、速い! 田村、ギアをまた一段、上げやがったか!)」
・・・・・・ビシィッ! ガガガガッ! バチバチインッ!
一瞬で数発の攻撃を繰り出す田村。
中村もなんとか受けが間に合ったが、スピードを上げた田村にリズムを狂わされたようだ。
「(さぁ、ついてこいよなぁ? 中村、もっと楽しもうぜぇー)」
「(くっ・・・・・・。田村と実際に手合わせしてわかったが、これほどのレベルに上がってた選手だったとは・・・・・・)」
「ああああああぁぁーーーーーいっ!」
キュウンッ! ギュギュンッ! ババンッ! ズババババァンッ!
「(くそっ! ならば・・・・・・おれも・・・・・・ギアを上げるぞぉっ!)」
シュパァンッ! パパパパァン!
「さああああぁぁーーーぃっ!」
ギュゥンッ! キュウゥンッ! ババアァァァァンッ!
中村も田村のスピードに合わせ、カウンターを返す。さっきよりもさらに速い攻防だ。
「(おぉ! 中村もまだ上がるのか! やるねぇー。いいじゃん!)」
「(待ち拳だけのおれだと、思うなよ? ・・・・・・くらえっ!)」
「さああぁぁぁーーーーーーっ!」
・・・・・・ヒュゥゥンッ! ヒュゥゥンッ!
トトォォーーーンッ バチバチンッ!
しなやかで、流れるような軌道の、中村が放つワンツー。
それを、田村はバックステップして難なく前拳で左右に弾く。矢継ぎ早に、中村の右足が伸びる。
ビュウゥンッ! シュバアッ! ビシュウゥーーーッ!
・・・・・・ガツンッ!
「(あっぶねー。追いかけての足刀蹴りかぁ。刃物みたいなキレ味だねぇ、中村の技!)」
「(蹴りを・・・・・・腕で止めたな? もらった!)」
・・・・・・ギュルゥンッ! フワッ クルンッ! バチイイィィンッ!
「(う、うぉぉっ・・・・・・? 切り返して変化させる蹴りとはねぇー・・・・・・)」
「(くっ! これすらも受けるのか! さすが、おれたちの主将だな、田村!)」
足刀蹴りを引かず、中村はそのまま身体を倒し、蹴り足をさらに捻り上げ、斜め上から田村の首元を狙う上段回し蹴りに変化。
しかし、田村もこの蹴りが飛んでくる速度と同じ速さで、身体を横にずらし、右掌で辛うじて受けていた。
「(まだまだっ! 田村・・・・・・。おれの技で、こんなのは知らないだろう?)」
・・・・・・トトォォーーーンッ・・・・・・
「(なんだぁ? 後に間を切った? 何かやるつもりだな、中村ぁ・・・・・・)」
「(ふぅ。さてと。しっかり、全身を脱力して・・・・・・だったな・・・・・・)」
「(ん? なんだ? 膝の力も腰の力も、抜いてるのかぁ?)」
ゆらゆらと構え、腰から下の力をがくんと抜いた中村。いったい、何をするのだろう。
「(よし! きっと、これならできるはずだ! ふぅぅ・・・・・・。・・・・・・いくぞ!)」
「(んん! おっ! 良い目つきだねぇ! ・・・・・・何が来るっ?)」
「さああぁぁぁーーーーーーっ!」
ゆらりっ ふわっ ・・・・・・シュンッ! キイイィーーンッ!
「(な、なにっ! く、くうっ・・・・・・)」
・・・・・・スパアァーーーーーーーンッ!
ざわざわざわざわざわざわ ざわざわざわざわざわざわ
「止め! 白、上段突き、技有り!」
どよどよどよどよどよどよ どよどよどよどよどよどよどよどよ
一気にどよめく館内。中村がなんと、田村を遙かに上回るスピードを発揮。
その上段刻み突きは、遠間から一瞬で田村の顎先へ決まっていた。さすがの田村も、これには面喰らって反応が遅れたようだ。
「い、井上君! 中村君の、今のスピード・・・・・・」
「あぁ。普通じゃねぇ! あれ、インターハイトップクラスや、全日本レベルが出すスピードにほとんど匹敵してたぞ! ・・・・・・陽二、いったい、どういう研究しやがったんだ・・・・・・」
「と、朋子! ・・・・・・中村の、今の動きは! ・・・・・・有華も、見てたか?」
「凄まじい速さだった。しかも、動きに無駄が無かった。きっと、中村のやつ、かなり研究をしたに違いない。・・・・・・あの動きは、脱力と、重心移動、そして攻撃する際の全身のバネが同時に連動しなければ、生み出せない速さなんだが・・・・・・」
「・・・・・・驚いたわね。・・・・・・脱力と、重心を常に前に置いておく倒木法を、理解してるね!」
朝香すら、目をぱちりと大きく見開いて驚いている様子。中村は今、柏沼メンバーの中で一番のキレ味とスピードを得たのだろうか。
「な、なによ、今の! 菜美。中村が、速さの限界を超えたの? アタシの知る中村じゃないよーっ。・・・・・・びっくりしたぁーっ!」
「速さを生み出す身体操作を、身に付けたのかも? 中村って、研究熱心だし。しかも、物理学とかで理屈こねそうだもんねー。・・・・・・受験勉強の合間に、きっと自主練してたな・・・・・・」
ざわざわざわざわざわざわ ざわざわざわざわざわざわ
「(おぉー、びびったぁ! えらくギア上げたねぇー。ふいぃー・・・・・・)」
田村は、赤の開始線でメンホーをくいっと直した。中村は白の開始線で、腰に両手を置き、ふっとクールな笑みを浮かべて立っている。
「(うまくいった! やはり、こういう感覚か! しかし、トップ選手はすごいな。今のおれでは、この技術を連続で使っても、成功率が際どい・・・・・・。理屈はわかったが、発動するのに、おれはまだ連発は難しい。未熟なようだ・・・・・・。だが、もう一発出せれば・・・・・・)」
「続けて、始め!」
・・・・・・トトォォーーーンッ・・・・・・
ふわっ ゆらゆらっ・・・・・・
間合いを取る中村は再び脱力し、光速のような突きを放つ準備をしている。
「(さーて・・・・・・。思わぬ進化の中村・・・・・・。来い! 勝負だー)」
「さああぁぁぁーーーーーーっ!」
「(いける! 勝つのはおれだ、田村!)」
「あああぁぁーーーーーーーいっ!」
「(なっ・・・・・・)」
・・・・・・ギュウゥ ドシュンッ! シュンッ! キイイィィーーンッ!
・・・・・・バチイィィーーーーンッ!
ワアアアアアアアアアアアアアアアー ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!
「止め! 赤、上段突き、技有り!」
なんと、中村が今にも仕掛けようとした瞬間、田村も同等の速さで踏み込み、光速のような逆突きを上段に決めていた。待ち拳型の中村のお株を奪うような、先の先でのカウンター。
「(甘いねぇ、中村。俺は、ギアを最高まで上げたとは、言ってねーぞぉー?)」
「(な、なんてことだ! ・・・・・・面白いな、田村。・・・・・・おれがここまで空手を楽しめるのは、お前がいたからこそだ・・・・・・)」
――――。
(・・・・・・くそっ。また、おれは負けてしまった・・・・・・。勝てないな。理屈ではわかっているんだが・・・・・・。なぜだ・・・・・・。タイミングは、ノートで考えたとおりのはずなのに)
(だーから、中村は理屈が先走りすぎなんだよぉー。ほれ、麦倉主将や、上野先輩、和賀井先輩の動き、見てみ? 考えずに、身体が先に反応してるだろぉ。・・・・・・中村の研究熱心さは、俺もすげーと思うけどさ、空手は、理屈だけじゃないからねぇー・・・・・・)
(主将も・・・・・・二年の先輩も・・・・・・。うーむ、そうか? おれには、よくわからんが)
(とりあえず、中村流の理論があんなら、身体がそれについてくるくらいに、稽古しまくればだいじだろぉ? そーすりゃ、中村理論で勝てるようになるんじゃないかねぇ?)
(・・・・・・理論に、身体が・・・・・・。田村さぁ・・・・・・身体操作というのは、まずは動作が先で体育的な理論が後から生まれるはずだ。おれは、自分で動けているはずだから、理論を生み出して臨んでいるんだ。この理論に間違いは無いはずで、いけるはずだがな・・・・・・)
(動けてないから、勝てないんじゃないんかねぇ? 机上の空論じゃ、何でも言えるぞ)
(なんだと! 言ったな! ・・・・・・見てろ。猛稽古で、理論を証明してやる! ――――)
――――。
(・・・・・・シュパパァン! ・・・・・・スパパァンッ!)
(すげぇな、中村! お前、いつからこんなにカウンター巧くなったんだよ? 二年の中で、一番じゃないか? ・・・・・・何か、秘密特訓でもしやがったか? はっはははは)
(・・・・・・ありがとうございます、上野主将。・・・・・・おれは、今日もやることがあるんで、残らせて下さい。・・・・・・鍵は閉めていきますから・・・・・・。朝練もやらせて下さい!)
(・・・・・・陽二、また今日も居残り稽古やってくんだなー・・・・・・。すげーよなぁ?)
(井上も田村も、ちょっとは中村の熱心さを見習いなよ! アタシも、あの熱心さにはビックリ。最近、急にどうしたんだろ? 女子の先輩方もみんな、驚いてるのよねー)
(・・・・・・なんだろねぇー。ま、中村本人がやりたいんだから、いーんじゃないかねぇー)
(田村・・・・・・。アタシらに何か隠してるでしょ? まさか中村に、何か言ったの?)
(別に。・・・・・・なにがなんだかわかんねーけど・・・・・・。じゃ、俺はお先にーっ!)
(こら! しらばっくれるなー。待て、田村ーっ! アタシに教えてってば! ――――)
――――。
「続けて、始め!」
・・・・・・チリィィーン チリィン!
「三十秒前! あと、しばらく!」
風鈴が、鳴った。五分間の試合時間も、残すところあと僅か。
「ああぁぁーーーーーーーいっ!」
・・・・・・シュンッ! ダシュンッ!
キイィィーンッ! ギュバアァーーーッ!
・・・・・・ガシイッ!
「そぉあああぁーーーっ! せあああぁっ!」
グウィッ! ギュルンッ! ブンッ ベシャァーッ! どしゃ!
田村の中段前蹴りを両掌で挟み受けし、中村はそのまま車のハンドルを回すような動きで、足を捻って引っ張った。その勢いで、田村は床に引きずられるように突っ伏した。
「(ぐあっ。・・・・・・今日は中村のやつ、投げや崩し技が異様にうめぇ! こりゃ他流派の技や他の武道の技も、すげぇ研究して身に付けてきやがったなぁー・・・・・・)」
田村の表情が一瞬、くわっと険しくなった。
「そあああああーーーっ!」
ダダンッ! ギュンッ! ヒュウゥーーーンッ!
「(やべぇ! 容赦ないなぁ、中村! すげぇ闘志だ!)」
・・・・・・ごろんごろんごろんっ ・・・・・・ドガアァーーッ!
「(逃がすか! まだまだぁ! 逃げるなぁ、田村!)」
タタタァンッ! ギュンッ・・・・・・
床を転がって逃げる田村を、大きく踏み込んで追う中村。
「(しつけぇぞ、中村! ・・・・・・俺は、しつこいの嫌いなんでねぇーっ!)」
「そあああああーーーっ!」
・・・・・・ギュンッ!
倒れた田村に向かって突きを打ち下ろす中村。
「・・・・・・ああぁぁーーーーーーーいっ!」
・・・・・・クルリッ ギュルン シュバアッッ!
「(な、なにっ!)」
倒れたまま、一気に腰を回転させ、下からカウンターで中村に蹴りを放つ田村。
・・・・・・ドグウゥゥンッ! ・・・・・・パカァァァァンッ!
・・・・・・シイィーーーーーーーーンッ・・・・・・
腹を打つ、鈍い打撃音。メンホーを叩く、乾いた衝撃音。二つの音が、同時に弾けた。
「止め! ・・・・・・相打ちぃ!」
「「「「「 (・・・・・うおおおぉぉ・・・・・・) 」」」」」
主審の相打ち判定で、観覧席から一気に声が漏れた。
みんな、田村と中村の戦いのすごさに、完全に惹き込まれてしまっていたようだ。
二人は、開始線で、呼吸を整えている。
「「 (やるじゃんかぁ、中村! / やるじゃないか、田村!) 」」
手に汗握る、同期による互角の戦い。みんな、拳を握って、試合に魅入っている。
外では、赤茶色に染まった桜の葉が、ひゅるりと風に吹かれて枝から離れ、舞っている。
その風の中を、セキレイが颯爽と飛んで、青空の彼方へと飛んでいった。




