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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第3部・完結編  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第5章 ドリームマッチ! かしぬま武道フェスティバル!
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3-57、決着! 同門対決!

   しいいぃーーーーー・・・・・・んっ・・・・・・


「ど、どうなってるんだ、朋子・・・・・・。こんな内容の試合、初めてだ・・・・・・」

「・・・・・・確かに、ちょっと驚きだね。この試合・・・・・・今、優勢なのは、森畑さんね・・・・・・」

「た、確かに、川田をその場に居付かせ、ずっと気力で圧している森畑の方が、優勢っちゃ優勢だろうけど・・・・・・。とてもじゃないが、こんな作戦、普通はやろうと思わないぞ?」

「・・・・・・里央も経験したでしょ? 森畑さんの返し技。あれほどのものを持ってるからこそ、あの川田さんを前にして、こんな戦法ができるんだろうね? さて、どうなるかなぁ・・・・・・」


 生唾を飲んで見守る、諸岡。

 朝香も、川田が動けないこの展開に、驚いている。


「森畑センパイ、いくらなんでも、すっごい作戦だなぁッ! 美鈴、ワタシたちじゃ、川田センパイ相手に、こんな戦法できないよねー?」

「無理だぁねー。川田サンの鋭すぎる突っ込みと、台風みたいな手数。それを知ってたら、尚更こんな組手できないさぁ! 森畑サン、余程の自信があるんかなぁ! すごぉいネ!」

「ワタシが朝香サンと戦ったのとは、まるっきり逆の内容だー。もう、試合終わっちゃうよ! いまだに、お互い、突きも蹴りも出してないじゃんーッ・・・・・・」

「だからよぉー。小笹、昔からおばぁが言ってたケドさ、武道としての空手は本来、ポイントの取り合いなんてモノじゃないからこそ、怖いんだって。動いた瞬間に、やられてしまう。やるか、やられるか。攻撃を仕掛けたら、それを受けられて、固められ、押さえつけられ、そして、一撃返されて息の根を止められてしまう・・・・・・。そんな怖さを持つモノだからこそそう簡単に、仕掛けることなんかできないんだろうさー・・・・・・」


 白側の陣地で試合を見守る小笹と美鈴も、真剣な目で試合を見つめている。

 まるで、西部劇のガンマンが早撃ち対決をするかのようでもあるし、剣の達人が居合で相手を斬り伏せるのを待つかのようでもある。


「(くぅーーっ! ・・・・・・もう、やってやる! 菜美、アタシを甘く見るなよなぁーッ!)」


   ・・・・・・タタン  ・・・・・・タタン   ・・・・・・タタタタァン・・・・・・


「(! ・・・・・・へぇ。真波、もう限界なのねー。我慢が足りないぞぉ! 後悔するなよ!)」

「さあぁぁーー・・・・・・」


   ・・・・・・ドギュウンッッ!  


「(え! ・・・・・・うぁぁっ!)」


   ・・・・・・ビシュゥィッ!  ・・・・・・シュッバアアアァァァーーッ・・・・・・

   ・・・・・・ヒュウゥゥー・・・・・・  ・・・・・・シュパァン・・・・・・


「「「「「 ぷ、ぷはぁーーーーーっ・・・・・・ 」」」」」


 一瞬の出来事。痺れを切らせた川田は、射程距離ギリギリで、突きが届くか届かないかの間合いに飛び込もうとした。

 そして、前にほんの数ミリだけ身体の重心をかけたところで、森畑の凄まじい左上段刻み突きが、ミサイルのように発射。メンホーに届くギリギリで、川田は首を左に倒し、寸前で躱す。右頬を掠めた森畑の刻み突きは、ひんやりとした風を生み出し、風鳴り音を立てて、また引き戻された。

 見ているお客さんや前原たちも、一気に解放したかのように、大きく息を吐いた。


「(あ・・・・・・あっぶなかったぁぁぁぁっ! ・・・・・・菜美の刻み突きカウンター、冗談じゃないレベルのキレじゃんかぁ! 躱すのも見切るのも、判断を誤ったら終わりじゃないか!)」

「(いけると思ったのに・・・・・・。惜しかったなぁー。まぁいいや。やり直し!)」


   ・・・・・・シイィーーーーーーーーンッ・・・・・・


 時を巻き戻したかのように、同じ構えに戻る森畑。その拳がまた、センサーのように川田の動きに合わせて、リズムを刻む。

 カウンターを間一髪で躱した川田は、森畑の射程圏内からまだ抜けていなかった。


「(くっ・・・・・・。また、待つの! ・・・・・・やりにくいな。あまりにも動かなすぎだっての!)」

「(・・・・・・ふふっ! 忘れてるぞっ、真波っ!)」

「(え? なによ、菜美・・・・・・)」


   ・・・・・・キュンッッ!  シュッバアァーーーーッ!  


「(! ま、前足での・・・・・・刻み足刀蹴りぃっ? やっばぁいーっ!)」


   ・・・・・・バシイィィンッ・・・・・・


「(・・・・・・ふぅー。・・・・・・ま、間合いの中にいたのかアタシ! あ、焦ったぁ!)」


 またまた間一髪。森畑がノーモーションで繰り出した前足での上段足刀蹴りは、開いた前拳で川田がギリギリのところで弾いた。


「阿部先輩。試合、動きが出てきました! ・・・・・・川田先輩が、先に仕掛けたんですよね?」

「・・・・・・いや。あれは、川田先輩が『動かされてる』んだと思う! 今の蹴りを受けたのも、全部、森畑先輩の間合いの中だよ! さっきも、川田先輩が動き出す瞬間を、森畑先輩は狙い撃ちしてた! これ、すごいわ。川田先輩を、森畑先輩が駆け引きで動かしてるんだ!」

「そ、そんなことが! えぇぇー、すごいなぁ。・・・・・・剣道っぽい動きを使えば、さよもああしてじっくり待つ組手ができるんじゃ?」

「無理無理! うちやま、あれはさぁー・・・・・・森畑先輩レベルのカウンターが使えなきゃ、ただの突っ立ってる的にされちゃうよー。朝香さんにやられた、うちやまみたいにー」

「ひどーい。わーん。それは言わないでよー。あれ、本当に見えなかったんだからー」


 蹴りを引き戻す森畑。その構えはさっきよりもやや横向きで、左脇腹が少しだけ空いているようにも見える。


「(左脇が空いてる? いや・・・・・・でも、これは誘いか? 菜美のことだから、アタシがそこを狙って突っ込めば、先の先で返してくる恐れも・・・・・・。あー、もぉー、ややこしいなぁ!)」


   ・・・・・・ササッ・・・・・・


「(え!)」

「(ふぅ。あぶない。ちょっと隙を作っちゃってた! ・・・・・・真波、狙ってこなかったな)」


 再び、隙の無い構えに戻した森畑。

 川田はその動きを見て、下唇を噛んだ。誘いとして空けていたのではなく、本当に隙があったのだ。


「あー、川田、今のは本当のチャンスだったろうにねぇー。でも、森畑のカウンターや、これまでの駆け引きによって、あいつ、頭ん中がいまめちゃくちゃだろうねぇ」

「普段なら思いっきり隙を突いていくけど、森畑さんの罠なのか混乱してるんだね。まさか、森畑さんが川田さんをここまで追い込むなんて・・・・・・」

「(なんなのよぉ! さっきのは、本当に隙があったのかーっ! くっそぉ、アタシとしたことが、いつものような思い切りはどうした? 菜美との組手が、本気でやるとこんなにも疲れるとは思ってもいなかった!)」

「(『空手に先手無し』とは、よく言ったものね。さて・・・・・・そろそろ、いくらなんでも時間が無くなってきたな・・・・・・)」


   ・・・・・・チリーン・・・・・・チリィーン!


 風鈴が鳴らされた。試合時間、四分半が経過したようだ。


「三十秒前! あと、しばらくっ!」

「(アタシは、このまま時間終了で引き分けなんて、嫌だからね! 菜美と、ここまできたら、白黒つけてやるんだから! でも、菜美は突きでも蹴りでも打ちでも、超反応のようなカウンターを使ってくる・・・・・・。どう攻めようか。えぇいっ、迷ってても、解決しない!)」


   ・・・・・・きらっ・・・・・・


 川田の眼の色が変わった。さっきまでの迷った眼から、一気に闘志が渦巻く眼の色に。


「井上君、田村君。川田さんはさ、このまま引き分けなら、チームの勝利は確実だよね?」

「そうだけど、真波がそんな消極戦法やるわけねぇよ! 悠樹、あいつの眼を見てみ。覚悟を決めたんだろうよ! ああなったら、真波は強えぞ! スピードもパワーも、迷いが無くなった分、アップするだろうしな! おそらく一気に突っ込むに決まってるぜ、あいつ!」

「(・・・・・・。・・・・・・川田、本当に真っ正面から突っ込むつもりかねぇ?)」


 テンションが上がっている井上をよそに、田村は腕組みをして真顔で川田と森畑の両方を見つめていた。


「(気迫が・・・・・・上がった! この、異様に殺気だった気配。真波ぃ、勝負ってワケか!)」

「(菜美ぃ・・・・・・。アタシはもう、あんたをぶっ飛ばす勢いで、やってやる! 一本勝負で、アタシが引き分けまで待つようなこと、ないからね! ・・・・・・よぉし・・・・・・)」

「さあああぁぁぁーっ!」

「とぉああぁぁーーっ!」


 両者、構えた位置で一気に裂帛の気合いを放つ。

 審判を含む館内の人全てが、その二人の声に、はっとした。空気が一気に爆発したかのように、張り詰めていたものが吹き飛んだ。


   ・・・・・・ギュ  ・・・・・・キュンッッ  ・・・・・・キイィーーーンッ!


 川田は、全身の力を足先に込め、一気に床を蹴る。その初速は、あの朝香に匹敵するスピードにまで乗った。


   ・・・・・・フワッ   ・・・・・・キュンッッ   ・・・・・・ドギュウンッ!


 川田が動き出す瞬間、森畑は既に床を蹴り腰を前に進めていた。川田の攻撃する気配を先読みし、無意識のうちに拳を放つ姿勢に入っていたのだ。

 相手の動きよりも前の気を察知して放つ、先々の先。考えてから動くのではない。見てから動くのではない。気を感じ取って無意識で発動する、ナチュラルカウンターだ。


「さあああぁーーーーーーーーーっ!」

「とああああぁーーーーーーーぁっ!」


   バシャアアァァァァンッ!   パンッ ・・・・・・シュパアァンッ!


   ・・・・・・しいぃーーーーーーーんっ・・・・・・


 時が止まった。誰もがそんな気がした。

 その後に響き渡っていたのは強烈な炸裂音。そして、残心を取った時の、帯が腰に当たる音。拳と道着による衣擦れの音。その音で、館内の時が戻ったような感覚になった。


   バッ  バッ  バッ  バッ


 赤旗が、まるで聖域を表す結界でもあるかのように、コートの四隅で天に向かって掲げられていた。それと同時に、主審がまっすぐ手刀を振り下ろし、割って入る。


「・・・・・・止めぇっ! 赤、上段突き、一本! 勝負あり! 赤の、勝ち!」


   ・・・・・・パチ  パチ

   ・・・・・・パチパチパチパチ

   ・・・・・・パチパチパチパチパチパチパチパチ  パチパチパチパチパチパチパチパチ!


   ワアアアアアアアアアアアアアアア  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


 五月雨のように、拍手が降り注いだ。まさに「武道」の試合。それを体現した二人に向かって、館内にいる人たちが自然と拍手と歓声を贈っていた。

 凄まじい精神力勝負。最後の最後で勝負を制したのは、川田だった。


「・・・・・・ふうぅーーっ・・・・・・。・・・・・・やられたな・・・・・・。あーぁ、強烈な突きだったぁー」


 メンホーをはずし、大きく息を吐いて天を仰ぐ森畑。

 最後の最後で、森畑は川田に向かって先にカウンターを合わせたものの、スピードをさらに上げた川田が、それに合わせて上段突きを撃ち込む形となった。

 言わば、カウンターに合わせたカウンター。それが深く、強烈な威力で入り、姿勢も速度も威力も申し分ないと審判は判断。一撃必殺の一本技に昇華した。


   すた  すた  すた  すた


「菜美ー・・・・・・。ありがと! あー、疲れたぁ! もーっ! あんな試合、アタシはもうたくさんだよぉ! ・・・・・・すっっごく疲れたんだからね! ・・・・・・でも、恐ろしく強かったよ! さすが、菜美だ。アタシがあそこまで手玉に取られるなんて・・・・・・。ありがとね!」

「まさか、最後の最後で、あんなスピードになるなんて! 私も、勝ったと思ったんだけどなぁー。カウンターにカウンターを合わせられた形になっちゃったね。やっぱり、真波は強かった! でも、私はこういう試合こそ、好きなんだけどねー」

「アタシも、嫌いじゃないけど、いや。疲れるんだもん・・・・・・。あー、まだ、緊張感が切れないや! あはは。つっかれたぁー・・・・・・」


 コート中央で、握手して笑顔を交わす二人を見て、赤側の諸岡と朝香、白側の小笹と美鈴も、ゆっくりと立ち上がった。


「勝負の結果! 赤の、勝ち!」

「「「「「 ありがとうございましたーっ! 」」」」」


 女子の部、全試合終了。緊迫感のある戦いを制した川田のチーム「MTR18」が、頂点に立った。

 森畑は、小笹と美鈴に、お肉獲得できなかったことを陳謝。でもなぜか、二人とも森畑に自衛隊のような敬礼を見せていた。

 あの試合の影響は、いろんなところに影響を及ぼしたのかもしれない。

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