3-54、女子たちの全力バトル!
パパパパァン! ダアァンッ! ダシュンッ! ドパァンドドンドパァン!
「「「「「 (ねぇ、始まるまで、こっちの武道館見てみよう? 空手道部門だって) 」」」」」
「「「「「 (激しい音させてんなぁ空手も! 女の子らの激しいバトルだ!) 」」」」」
野球場を挟んで少し離れたの第二武道館では、なぎなたと少林寺拳法の演武会が休憩時間を迎えていた。袴姿の学生や一般の人、空手と似たような道着を身に付けた中学生や高校生が、第一武道館の外から、試合を眺めている。
「ねー・・・・・・。早く宇河宮いこーよぉ、風花! 売り切れちゃうよーっ?」
「もーちょっとまってぇー。・・・・・・ふーちゃんびっくりぃ! 柏沼高校の人たちが、こっちの中で出てるみたいなのよねーっ・・・・・・」
「少林寺拳法を見に来たんじゃなかったのぉー? ねー、もう行こうよ。わたし、これより買い物の方がメインで来たんだからねぇー?」
「だから、まってってばぁー。もーちょっと見たら、行くからぁー・・・・・・」
がやがやがやがやがやがやがやがや がやがやがやがやがやがやがやがや
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
「ふうぅーっ・・・・・・」
既に、試合時間、四分経過。少し、両者に疲れの色が見えてきた。
「(こ、この試合、いつもと規定時間が違うんだった。一試合、五分だっけ・・・・・・)」
「(さ、さすがに、長く感じるな。だが、五分程度じゃ、私のスタミナは揺るがないさ!)」
「(私らが、決勝に行くの! 真波と最後に戦うんだ!)」
「(行かせないよ! 私は、朋子ともう一度、戦ってみたいんだ!)」
森畑も崎岡も、前拳を伸ばせば届く位置で構え合っていた。いつもの試合よりも長く集中力を必要とするが、お互いに意地があるのか、気を張り続けているようだ。
「とああああああぁーーーーぃっ!」
タタタァンッ! バシュウッッ! ドヒュウンッドヒュウンッ!
「せええぇやああぁぁーーーーーっ!」
ダアァンッ! ドオォンッ! ガシイッ! ガシイッ!
崎岡は、森畑のワンツーを真っ正面から受け止め、両腕を絡め取るようにして、動きをその場で止めた。
「(あっ! ・・・・・・このっ、離せ崎岡!)」
ぐいん ぐいん ぐいぐいぐい!
両腕を必死に動かして、森畑は振り払おうと暴れる。しかし、崎岡は離さない。
・・・・・・シュラアンッ!
「(はっ! 両足払い!)」
両腕を絡めた崎岡は森畑の足首を狙って、大きく足底を振り上げ、一気に両足ごと刈り飛ばす準備姿勢に。
「(ま、まずっ! この両腕、なんとか振り払わないと、間合いが・・・・・・)」
「「 森畑センパイーッ! / 森畑サンーッ! 」」
「(え! 二人とも、何を!?)」
森畑が苦戦している最中、後ろでは何と、小笹と美鈴が壱百零八歩の動きをやっていた。これが、何を意味するのか前原はわからなかったが、田村と井上はわかったらしい。
「(このルールにおいて、一本技で仕留めるのは私の美学! 森畑菜美、終わりにしよう!)」
崎岡は、森畑の両腕に絡めた手首を引き、がしっと両腕を掴んだ。そして、強烈な足払いが森畑を襲う。一気に両足ごと刈り払い、投げ落として一本技を決める気だ。
・・・・・・シュババババババーーーーーーッ!
「(スーパーリンペイ? ・・・・・・っ! そうかぁ! わっかりにくいアドバイスだなっ!)」
・・・・・・ぐいっ スウッ クルンッ シュパァーッ!
森畑は咄嗟に掴まれた両腕を胸元へ引き寄せた。そして、手首を返して斜め前へ押し出すような動きで、何と、崎岡の掴み技を軽々と振り解いてしまった。
「(な、なにっ! これは、スーパーリンペイの形? 腕が、なんでこんな簡単に・・・・・・)」
「(スーパーリンペイのこの動き、こういう意味だったもんね。まさか、組手の中で実践できるなんて、このルールだからだねっ! でも、こんな軽く外せるんだ! 驚いたなぁ!)」
・・・・・・バチイイィィンッ!
崎岡の足払いは、森畑の片足のみを打ち払った。両腕を解き、姿勢を取り戻した森畑は、寸前の所で左前足を浮かし、重心は後ろの右足に。足払いは、軽く浮かした状態の前足を、振り子のように吹き飛ばしただけだった。
「とああああああぁーーーーっ!」
・・・・・・シュラアアァンッ!
「(こ、この至近距離で! ど、どっちだ! ええぃっ!)」
サアッ! ガシッ!
崎岡が打ち払った森畑の左足はそのまま、真下からS字を描くように崎岡に向かってスピードを上げながら伸びてゆく。
崎岡は直感的に、蹴りが上がってくる方向と逆側の上段と中段をブロック。眼の動きから、逆側に蹴りが来ても躱して避けるつもりだ。
「(蹴りは、裏回し蹴りも、普通の回し蹴りも、防御準備はできてる! さぁ、どっちだ!)」
・・・・・・パキイィィーーーンッ! ・・・・・・ヒュラアッ・・・・・・
「(・・・・・・なっ・・・・・・)」
メンホーを叩く、高く乾いた音。しかしそれは、蹴りが決まったときの派手な音ではなかった。
森畑は、左足を崎岡の右脇腹前でストップ。そして、残心を取っている右腕は、ぱあっと指を開いた拳が腰元に引き戻されていた。
「(な、なんだとぉーっ! しょ、掌底打ちっ・・・・・・。そんな古風な技まで・・・・・・)」
「止め! 赤、上段打ち、技有り! 合わせ一本! 勝負あり! 赤の、勝ち!」
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!
蹴りは囮だったのだ。意識的に蹴りと思い込んだ崎岡だったが、森畑は冷静にその心の隙を突いて、斜め下から崎岡の顎先へ掌底打ちを決めていた。
普段の公式ルールでは使えない技だが、ここ一番の技として、森畑は繰り出したのだった。
「勝負の結果! 赤の、勝ち!」
「「「「「 ありがとうございましたーっ! 」」」」」
女子の部、第二試合は、接戦と激戦を制した森畑たちのチームが勝ち、決勝戦へ駒を進めた。これで女子の部決勝は、川田 対 森畑の図式が出来上がった。
「・・・・・・やられたぁ。まったく、何だよ最後のあの技。まさか、掌底での上げ打ちなんて」
メンホーを脇に抱え、髪の先から汗を滴らせている崎岡。
タオルで汗を拭いながら、森畑へ歩み寄る。森畑もメンホーを両手で抱え、笑って崎岡に話しかける。
「いやー、もうね、マグレの一言。選んだんじゃないよ? 身体が勝手に、あれを出したの」
「不意を突かれたよ。まさかあの場で、あんな技とは。蹴りしか頭になかったぞ!」
・・・・・・がしいっ!
「うわっ、と! 何すんだー崎岡っ! びっくりするじゃないかー」
「楽しかったよっ! ひっさびさに、熱い試合ができたんでな!」
森畑の首を腕でがしっと抑え込む崎岡は、清々しい笑顔で森畑と笑い合っている。
「さーやーまーサンっ! くすくすっ! 面白かったさぁ! また、手合わせしたぁい!」
「東恩納さん、ありがとねー。いやぁ、強いっ! 最後の倒し技、ものすごい握力だったぁ。逃げらんなかったし、振り解けなかったよ。どーやって鍛えてるのさ!」
「あっはははッ! チーシィーとサンチンガーミィだよッ! あたしの握力、軽くリンゴを砕けるくらいあるのー」
「え! そ、それってー、普通の男子以上じゃ・・・・・・。ち、ちーしぃ? さんちんがーみ? わたしも剛道流なんだけど、ほぼスポーツ主義の道場だからかなー? 知らないなー、それ」
「あっははははッ! まぁ、ネットで調べてくださぁい? 狭山サンの一本拳も、びっくりしたさぁーッ! まさか、あんな握りで突いてくる人、本当にいるとは思わなかったもん!」
狭山と美鈴も、試合が終われば笑顔で会話。
試合は、お互いに今まで培った稽古の技量を試し合う、文字通り「試し合い」の場。同じように稽古を積んできた者が、相手役をしてくれるからこそ、試合は成り立つ。それゆえに、お互いを尊重し、試し合ってくれたことへの敬意を持って、礼に始まり礼に終わるのだ。
試合は、数多くある武道において「稽古」の一つにすぎない。
「末永小笹、ありがとうな。これで、新人大会のリベンジができた。また、お互い、全国選抜で暴れようじゃないか! ・・・・・・肘入れたとこ、だいじょうぶか?」
「くすっ! なんくるなーいさぁ、大澤サンッ! でもぉ、あの肘は痛いよぉ。いまも左胸が痛いもんー・・・・・・。全空連ルールで、肘が禁じ手になっている理由、わかった気がするー」
小笹のダメージを心配する大澤。
笑いながら左胸に手を当ててさすっている小笹を、なぜか、中村と長谷川は無言でうなずきながら、腕組みをして仁王立ちで見ていた。
「さぁーて、と! 真波っ! 覚悟はいい? 決勝戦、私とオーダー当ててよね!」
「言われるまでもないっての! 勝ち上がってきたね、菜美! アタシに挑んだこと、もう、後悔したって遅いからねぇ! ふふっ。アタシ、楽しくなってきて、ワクワクしちゃう!」
左に朝香、右に諸岡と並び、ハイテンションではしゃいでいる川田。
決勝戦は、川田と森畑が直接対決となる。果たして、どちらが強いのか。気になる勝負の行方は。
「こ、これは面白くなってきたね田村君!」
「そうだねぇー。さっすが、フェスティバルだ! 祭りだねぇー。祭り!」
窓からは、冬の眩しい陽の光が斜めに差し込んでいる。
真冬の冷気と、夏のように熱い選手の闘志。熱気渦巻く館内は、ますます盛り上がっていった。




