3-52、真っ向勝負! 栃木空手 vs 沖縄空手
【赤 菜の花 笹の葉 すずのおと】 【白 ひなみの華】
先鋒 末永小笹 ― 大澤美月
中堅 東恩納美鈴 ― 狭山陽納実
大将 森畑菜美 ― 崎岡有華
ドドォーーーーン ドドォーーーーン
試合が切り替わる合図の和太鼓が打ち鳴らされた。
貼り出されたオーダー表には、これまた注目の対戦がいくつもある。いったい、どのような試合展開になるのだろうか。
小笹と大澤は、新人大会の決勝戦を再現するのだろうか。美鈴と狭山は完全なる初顔合わせ。美鈴は初めて栃木の地で試合を行うことになる。そして大将戦は、森畑と崎岡の対戦。
前原が聞いた話によると、この二人は中学時代の全国大会で一度、組手での対戦経験があるらしい。今回は、およそ五年ぶりの対戦だそうだ。
「(くすっ! あははっ! 大澤サン、新人戦のリベンジはさせないからねぇーッ!)」
「(市民イベントだろうが、私は等星の主将。二度も末永小笹に負けられるか!)」
「(初めて当たる人さぁ! 楽しみだな! どんな組手やるのかなぁーッ! くすくすっ!)」
「(良い経験になる気がする。東恩納美鈴か。本場沖縄の空手、見せてもらおうじゃんっ!)」
「(まさか、あの全中以来、今日ここで当たるなんてね! 負けないよ、崎岡有華!)」
「(面白いイベントだ。これも運命の歯車ってやつか? いざ、尋常に勝負! 森畑菜美!)」
観覧席も、どんどんボルテージが上がっている。この第二試合も、目が離せそうにない。
花と華がぶつかる、強く清く美しい一本勝負。主審の声で、いま、第二試合が始まった。
「赤! 先鋒! 末永選手!」
「はぁーぃッ!」
「白! 先鋒! 大澤選手!」
「はぁいっ!」
~~~選手!~~~
「「「 ファイトーーーーーーーっ! 」」」
ワアアアアアアアアアアアアアアア ワアアアアアアアアアアアアアアア
森畑と美鈴に背中を押され、赤の開始線までスキップして入る小笹。対する大澤は、狭山と崎岡の二人に肩を叩かれ、気合い十分で入場。
「(くすっ。さァ、始めよっか! 大澤サンっ!)」
「(市民イベントだからって、手は抜かないからね! 末永小笹っ!)」
にこっと口元を緩める小笹と、きりっと口元を引き締める大澤。
「勝負一本! 始め!」
「ツアアァーーーーーイッ!」
「ええぇああぁーーーっ!」
シュルンシュルンッ! シュタンシュタン シュルンシュルンシュルン・・・・・・
円を描くような動きで、床を滑るように動く小笹。足捌きは相変わらず独特の動きだが、上半身はがっちりと基本通りの構えで拳を前に向けている。
キイィーンッ! ドパパパパァンッッ! バチバチィンッ!
「(ちっ! 先に仕掛けてきたね! ・・・・・・速いな、相変わらず!)」
ごあいさつとばかりに、大澤へ超高速の連突きを放つ小笹。大澤は、大きく斜め後ろに跳んで、両腕でそれをうまく弾き落とす。
ギュウゥンッ! ズババババババッ! ズバシャアアァァッ!
「(あははっ! ムキになんないでよぉ! まーだ、準備運動レベルだよぉーッ?)」
お返しとばかりに、大澤も手数と蹴り技で応戦。小笹はこれを両腕でブロックし、手首を柔らかく使って突きや蹴りを受け流す。
「(くすっ!)」
・・・・・・キュルンッ キイィーンッ!
シュバアァーーーーーーッ・・・・・・
「(うわぁ・・・・・・っと!)」
コマのように片足を軸にした鎌のような後ろ回し蹴りが、大澤の首へ高速で襲いかかる。上体を反らして、大澤は紙一重で躱す。小笹の大鎌のような蹴りは空を切る。
「(まぁだまだッ! あははっ!)」
・・・・・・クルンッ キュルンッ シュバババババアッ! シュバアァーーーッ!
「(うわっ! ・・・・・・こ、このぉ! ふざけた連続蹴りだ!)」
ベキイィッ! バチイィッ! ドガアァァァッ!
「(うっ・・・・・・く! 速さと重さの備わった蹴り! 受けるのもダメージが残る!)」
ワアアアアアアアアアアアアアーッ ワアアアアアアアアアアアアアーッ
鎌と鞭を合わせたような、竜巻を思わせる小笹の連続回転蹴り。その動きに対し、観覧席からは、まるでサーカスを見ているかのような歓声が沸き起こる。
・・・・・・タンッ! キュルンッ シュバアッ!
「(と、跳び足刀蹴り! よ、よけろーっ!)」
両腕で回転蹴りをブロックしていた大澤。自分の腕で視界を遮ってしまっていたところへ、小笹はその場で跳躍。今度は直線的な足刀蹴りを、空中から繰り出した。
・・・・・・シュバアアァッ・・・・・・ ・・・・・・タンッ!
「(ちぇっ! つまんないのぉッ! あははっ! さぁ、もっと遊びましょ! 大澤サン!)」
「(くっそぉ、曲芸みたいな組手だ。どこから、どんな技が来るのか、読めない・・・・・・)」
「(・・・・・・くすっ!)」
「(なっ! 何だ! 今度は・・・・・・)」
・・・・・・タタタァンッ! ギュンッ! キイィーーンッ! ドスウゥッッ!
「(うあっ・・・・・・。ふ、普通に、突きだってぇ?)」
ざわざわざわざわざわざわ ざわざわざわざわざわざわ
「止め! 赤、中段突き、技有り!」
大技や変化技で攻めていた小笹が、大きく一足飛びで深く踏み込んだ。まるで、フェンシングの剣先のように、低い姿勢からの中段追い突きが大澤のみぞおちへ入っていた。
開始線で、右手を腰に当て、左拳をくるっと回して余裕の表情を見せる小笹。
「小笹、相変わらずめんどくさい組手やるなぁー・・・・・・。敵に回したら大変だけど、味方のチームにいるとすごく心強いねー」
「森畑サン。確か小笹って、先月、関東選抜大会も組手で優勝したんですよねッ? 来月末の全国選抜も、これはきっと、優勝候補の筆頭になるさぁーッ!」
「対する大澤美月も、等星の主将として意地で頑張ったみたい。彼女も、関東選抜では三位になってるから、二人とも全国選抜出場選手ってわけか・・・・・・。私、とんでもないレベルの市民イベントに出場しちゃったな、こりゃ・・・・・・」
がやがやがやがやがやがやがやがや がやがやがやがやがやがやがやがや
「続けて、始め!」
シュバアッシュバアッ! キュルンッ シュバババババアッ!
ズババババババッ! ズババババババッ! ズバシャアアァァッ!
小笹と大澤の技がぶつかり合う。突きと蹴り、蹴りと突き。上下左右で、お互いの技が炸裂。全国でもトップレベルの選手による第二試合の先鋒戦は、三次元の戦いを描いている。
「ツアアァーーーーーイッ!」
タタタァンッ! キュウンッ! シュバババババッ!
「(きた! ここだっ!)」
「ええぇあああぁーーーーーぃっ!」
ダアンッ! ダシュンッ! ・・・・・・ドグウウゥンッッ!
「(けほっ・・・・・・。な、なんでぇーッ・・・・・・。そんなー・・・・・・)」
ドオンッ! ・・・・・・ごろごろ どしゃ!
何と、大澤の強烈な踏み込み肘当てが小笹の胸元に突き刺さった。大きく踏み込んで回し蹴りを繰り出そうとした出鼻へ、大澤は形の演武でもするかのように、楔形に左肘を突き出したまま踏み込む。そして、体当たりでもするかのように、直線的な肘当てを繰り出した。
まさに、槍のような肘当てのカウンター。大南が使った回して当てるものと違い、全体重を肘先に乗せてぶつかる、破壊力満点の技だ。小笹は、その威力をまともに受け、吹っ飛ばされてしまった。
「止め! 白、中段当て、一本! 勝負あり! 白の、勝ち!」
ザワザワザワザワザワザワザワザワ ワアアアアアアアアアアアアアーッ!
「(や、やった・・・・・・のか? 私、末永小笹に勝ったのか!)」
「いったぁーッ・・・・・・。あーぁ、もぉーッ! ・・・・・・まさか、肘で踏み込むなんてッ」
胸元を押さえながら、ゆっくり立ち上がる小笹。そこへ、歩み寄って手を差し伸べる大澤。
「今日のところは・・・・・・こんな結果になったみたいだな? また、当たったときは、よろしく!」
「・・・・・・あははっ! ・・・・・・あー、効いた。迂闊だったなぁ、ワタシ。お見事、大澤サン!」
お互いに、健闘を讃えていた。大澤はにこっと笑った。見事に新人大会のリベンジを果たし、満足したようだ。
「すごい当て身だったな。・・・・・・大澤のあの肘当ては、まるで形のセーパイか、中国拳法のような動きだった。俺が見た本では、中国拳法の何だかの門派に、あんな感じで肘ごとぶつかる体当たりがあったな。あれなら、破壊力も乗った技。まさに、一本技と言っていいだろう」
「俺も、昔から剛道流の形は練り込んでるけどさ、いやー、今のは見事だったなぁ。小笹ちゃんが、一瞬でぶっとばされたもんなー」
中村も神長も、この試合内容には腕組みをして感心していた。
今回の試合は、普段の大会では使えない技も解禁されている試合。禁じ手が減ったことで、組手のスタイルも大きく変わる。どんな技が使えるかによって、間合いや対処法も変わってくる。競技や試合は、ルールがある分、そのルールにいかに早く順応するかで、勝てる見込みは大幅に変わってくるのだ。
「あっははははッ! あーぁ、小笹! 油断したねぇッ? あんなに振り回してた大技が、たった一発の肘に負けちゃうんだもんなぁーッ! 相手の技への、想像力が足りないさぁ!」
「忘れてたよー、肘。あー、何だかんだで、ワタシも、いつの間にかスポーツチックな組手に慣れすぎてたのねぇーッ・・・・・・。セーパイでやられたようなもんじゃないかぁー・・・・・・」
「あらま、予想外だったな、小笹が先鋒で敗れるなんて。じゃ、美鈴ちゃんも、気を抜かないで頑張ってね! 相手の狭山陽納実も、主将として頑張ってた実力者。油断禁物ね!」
「はぁーい! なんくるないさぁーッ! くすくすっ! 楽しんできまぁーす!」
ザワザワザワザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワザワザワザワ
「よしっ! 狭山さん、崎岡先輩! 先鋒、末永小笹を下してきました!」
「すっごぉい! 肘での踏み込みなんてさ! 崎岡、いい後輩持ったね。すごいわ。・・・・・・さーてと、じゃ、沖縄空手を体験してくるとするかぁー」
すらりとした手足。細い指。長身だが軽量級である狭山がメンホーをつける。
「ファイトだ、狭山! この楽しいイベントを、さらに楽しめる相手だろう。久々の試合を、思いっきり楽しんでくるといい!」
「あいよ! まっかしといて! 勝ち負けよりも、まずは楽しむ。だけど優勝賞品の和牛は、やっぱり欲しいよね! ま、頑張ってくるからねっ!」
くるりと巻き上げた髪を、指でくいっと直す狭山。中堅戦も、面白くなりそうだ。
「赤! 中堅! 東恩納選手!」
「はあぁーぃッ!」
「白! 中堅! 狭山選手!」
「よっしゃーっ!」
~~~選手!~~~
「「「 ファイトーーーーーーーっ! 」」」
ワアアアアアアアアアアアアアアア ワアアアアアアアアアアアアアアア
ニコニコして、楽しそうに開始線に立つ美鈴。狭山も初めて対戦する美鈴を前に、ワクワクしているような感じで、白の開始線に立つ。
「勝負一本! 始め!」
「ツアァーーーーーーーーッ!」
ダダダダダダダダーッ ドゴォンッ! ズドオンッ! ドンドンッ!
「(ちょっと、いきなり様子見無しで来るぅ? しかも、突き、重いなぁ!)」
開始早々に、一気に駆け出し、鋭く重い突きを狭山に浴びせる美鈴。その打撃音は、普通の競技で聞く音ではない。巻き藁でも突き込んでいるかのような、芯に響く音。
ズドオンッ! ドドオンッ! ドスンドスンッ! バスンッ!
・・・・・・パァン! パパァン! フワリッ クルリッ
狭山は美鈴の突きを受けきれないと判断し、瞬間的に受け流しに変更。
柳に風がそよぐが如く、大砲のような美鈴の重い突きを、柔らかくふわりと受け流している。この流麗な受け技に、かつて、川田も流され、やられてしまったのだ。
「せああぁーーーーーーーっ!」
ピシュンッ! ピシュッ! ピシュウーッ! シュパパァンッ!
「(へぇ! くすくすっ! まるで、針で突き刺すような突きねぇーッ! あっははははッ!)」
すらっとした腕から繰り出される、独特の音を乗せた刺すような連突き。見た目よりも遠い間合いから攻撃する狭山だが、その風切り音は、この突きを受けた美鈴にだけは理由がわかった。
ピシュウンッ! ピシュピシュンッ! ・・・・・・パチインッ!
「(! 痛っ・・・・・・。これは! 正拳じゃない? 中高一本拳なのぉーッ?)」
中指の関節だけを突き出し、矢じりのように尖らせて突く、中高一本拳。急所であるツボを突くための拳だが、狭山の狙いとは、いったい。
「せあああぁぁーーーいっ!」
ピシュピシュンッ ピシュウンッ! ピシュウンッ! ・・・・・・ストオンッ!
・・・・・・ずきぃっ!
「(うわっ・・・・・・。い、痛ぁーーっ! な、何をしたのさぁ、今!)」
「(ふっふっふー。効いたかな? これぞ、ツボ突きを狙った、ひなみスペシャル!)」
狭山の一本拳は、美鈴の上段や中段を狙うと言うより、腕や肩口を狙っているようだ。そして、それによる連突きの一つが、美鈴の二の腕に入った。
「な、なんだあの狭山さんの突き? た、田村君・・・・・・あれって・・・・・・」
「なんだかんだで、狭山のやつ、けっこうな裏技知ってやがるねぇー」
電気が走るように、腕が痺れる美鈴。
前原も初めて見る、狭山の秘密テクニック。いったいどこで狭山はこんな知識を得たのだろうか。
「狭山、まさかこんな戦法持ってたなんてなー。アタシ、あの受け流しに、いいようにやられたけど、ツボ突き技なんてのは、知らなかったなー。意外なこと知ってるんだね、狭山」
「狭山って、あいつ、たしか実家は小料理屋だったよな? あれ? 整骨院だっけ?」
「・・・・・・どっちもよ。お母さんが小料理屋で、その隣でお父さんとお兄さんが整骨院やってるのよ。だから、里央が言ったのは、どっちも正解。きっと、整骨院での知識かもね?」
「そっか。・・・・・・朋子、なんでそこまで知ってるんだ?」
「だって、瀧本監督の行きつけらしいのよ、狭山さんちのお店・・・・・・。美味しいらしいよ?」
「「 へー、そうなんだー 」」
ザワザワザワザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワザワザワザワ
「(この人の一本拳、触れさせちゃダメねー。間合いを取っておかないと、変なところをダメージ受けちゃうさぁ! 面白い人がいるさぁー、栃木って!)」
・・・・・・トトォォーーーンッ・・・・・・
「(あ! 間合いを切ったか。じゃ、逃がさないようにしないとなー)」
「せあああぁぁーーーいっ!」
タンッ タタタァン ヒュヒュッ! フワァンッ! ヒュヒュヒュウンッ!
スパパパパパァンッ! パパァンッパパァンッ! スパパァンッ!
「(手足の長い人さぁーッ! 遠い間合いからでも攻撃可能なのねーッ!)」
後ろに逃げる美鈴を、今度は突きと蹴りのコンビネーションで追う狭山。相手が退いた瞬間を逃さずに、正拳と前蹴りの連係攻撃で攻めたてる。
「みすずーーーっ! 後ろに行くと不利だよぉーッ! 円の動き! 円の動きぃーっ!」
「美鈴ちゃん! 今日のルールは、場外でペナルティポイントは無いけど、四回出たら失格になっちゃうのは同じ! 場外に気をつけてーっ!」
「(小笹も森畑サンも、にふぇーでーびるぅっ! あたしは、そう簡単にやられないさぁ!)」
・・・・・・クルリンッ タタタタタタタタッ!
「(おっと! うまく回避するんだねー。今度はそっちかぁ?)」
コートの場外ギリギリで、美鈴は狭山の前蹴りを躱し、くるっと身を翻して横に回り込む。狭山は姿勢を戻して、美鈴の方へ向き直そうとした。
「ツアァーーーーーーーーーーッ!」
・・・・・・キュウンッ ギュルンッ シュバアァーーッ! ドッゴオオォォォンッ!
「(うわぁーーー・・・・・・っと! あっぶない! 何て破壊力の突きなのーっ! ・・・・・・背中にまで衝撃が突き抜けてきたーっ!)」
「(あららッ、決まんなかったー。今のを防ぐなんて、この人、なかなかさぁ! 面白いッ)」
三戦立ちから、ぎゅるりと膝や腰を捻り、肩、肘、手首に回転力を伝えて繰り出す美鈴の中段突き。振り向いた狭山は、両掌を重ねて、何とか直撃を免れた。
独特の身体操作から、身体の表面にではなく、身体の芯や内部全体に衝撃力を伝える美鈴の突きだが、その小柄な体躯からは想像もつかない破壊力に、狭山は冷や汗を垂らしていた。
栃木の空手と沖縄の空手が激突している中堅戦。どちらが、技を先に決めるのだろうか。




