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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第3部・完結編  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第1章 金木犀と、銀木犀
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3-5、あふたぁ柏葉祭

「・・・・・・始めっ!」


   ヒュラッ  ススッ  ササァッ  タンッ カカカカカカッ  シャッ

   カカカカカカッ  ヒラリッ  ススッ  ザザザザッ


「(ここは・・・・・・まずいな! 絶対に取らないと! 僕の得意なところだ!)」


   ヒュンッ  カシッ  カカカカカカッ  ザザザッ

   ヒュルッ ガガガッ


「(くっそぉ! アタシとしたことが・・・・・・。絶対にここは、ミスれない!)」


   タンッ ヒラッ  シャシャシャシャッ ガガガッ カカカカカカッ

   カカカカカカッ  カカカカカカッ


   ~~~♪ ~~~♪♪ ~~~♪♪♪ ~~~♪


「止め! それまで!」


   がやがやがやがやがやがやがやがや  がやがやがやがやがやがやがやがや


「「「「「 (やっべぇ、できなかったぁ! 難しかった!) 」」」」」

「「「「「 (模試と同じくらいの難易度だったー) 」」」」」


 文化祭も終わり、今日は全校一斉の実力テストの日。

 前原たち三年生は、この実力テストで志望校の絞り込みをさらに行う。後に配られる結果表でA判定からD判定までのうち、合格できそうなところを先生との面談でさらに絞ってゆくのだ。


「おつかれ! 川田さん、今日のテスト、難しかったねー」

「前原ぁー。アタシ、志望の大学に行けないかもー・・・・・・。はぁーっ・・・・・・」

「あと一教科だから、頑張ろうよ。明日はまた、阿部さんたちの審査会だし。今日頑張れば、お休みだから。ね、もう少し力を出して、頑張ろうよ?」

「頑張ってるんだって、アタシも。頑張ってるんだけど、できないんだっての! もーっ! もういい。前原なんか、知らない! あー、もう、怠いし、最悪ー・・・・・・」

「ど、どうしたの川田さん。ご、ごめんよ。・・・・・・とりあえず、ラストの日本史、ファイト」


 川田は何だかものすごく機嫌が悪い。イライラしていて、前原にすぐ八つ当たりする。昨日から急にらしい。


「(困ったなぁ。僕は川田さんに何かしちゃったのかなぁ。はー・・・・・・)」

「おっす、前原。英語はどーだった?」

「あ、田村君。・・・・・・僕はそこそこできたけど、川田さんが・・・・・・」

「なんだぁ? おーい、川田。だめだったんけ?」

「うっさいな! もぉーっ、田村は自分のクラス帰ってよ! もー。アタシ、寝る!」

「な、なんだなんだ? 何が何だかよくわかんねーけど、川田、機嫌わりぃねぇー」

「昨日からこんな感じ。僕も結構、当たられてね。なんか、調子よくないみたいだし、そっとしとこうかな・・・・・・」

「明日、前原と川田で審査会付き添うんだろ? だいじかぁ?」

「ま、なんとかなるよ。だいじ。二人で行ってくるからさ!」

「新井先輩や松島先輩も、仕事で忙しい時期だからしばらくダメみたいだしなぁー」

「しょうがないよ。秋の行楽シーズンだし、収穫シーズンだし。それに、先輩方も本業が大事なんだしね。川田さんも、きっと、明日には元に戻るよ。ね? 川田さん?」

「・・・・・・前原ぁ、アタシはいま、ほんと、きついのよ・・・・・・。約束はできないけど、まぁ、明日は何とかするから・・・・・・」

「ふぅん。・・・・・・堀内先輩の、魔法のツボ圧しがまた、必要かもねぇー」

「え? なんで? 柏葉祭の疲れが今頃とか?」

「だめだねぇ、前原はー。ま、わかんねーならいいや。とりあえず、次のテスト頑張ろうぜ」


 そう言って田村は、川田を廊下の窓越しにモミジ柄のうちわで数回扇ぎ、のたのたと自分の教室に戻っていった。


   ~~~♪ ~~~♪♪ ~~~♪♪♪ ~~~♪


 実力テストも無事に終わり、昼食タイムだ。前原は、ぐいっと背伸びをして教室を出た。


「やっとお昼だー。今日は、何のパンを買おうかな」

「いらっしゃい! 今日は、秋の新作『紫芋餡のくるみパン』と『くりコロネ』があるよ!」

「美味しそうですね福田先輩。じゃ、紫芋のそれ、いただきます!」

「ありがとう。収穫の秋だし、この紫芋は松島先輩のファームから初めて仕入れてみたんだ。まさに秋の味っていう風味に仕上げたから。あ、おまけで、ベビーカステラも入れとくよ」

「あ、ありがとうございます。恐縮です。福田先輩の畑では、紫芋は作ってないんですか?」

「いやぁ、うちも作ってみたけど、土が合わないのか、うまくなくてねー」

「そうだったんですか。し、失礼しました!」

「あ! それと、部活引退したみんなにはまだ言ってなかったかもしれないけど、実はさー」

「・・・・・・わかります。コーチ就任、おめでとうございます!」

「なんだ、知ってたんだ? 海月女学院の同好会、今日から本格始動なんだよ。いやぁ、まさか、あの末永さんのところで指導することになるとはねぇ。海月女学院の売店や校内レストランにも、うちの三本松農園のパンを卸してるんだよー」

「そうなんですか。しかし、そうなると新人戦とか一年生大会は、福田先輩が教えたチームと阿部さんたちが戦うことになるんですね?」

「なんか、複雑だけどね。柏沼高校空手道部で主将やってた頃のノウハウで、いいチーム作りをしなきゃね! 白帯の子たちも、インターハイ準優勝の末永さんに憧れて入ってきた一年生ばかりでさ。みんな、砂が水を吸うかのような早さで、めきめき上達してるよー」

「それは、末恐ろしいですね。大南さんや内山さんのライバルになるのかなー。指導、がんばってください! では、失礼します」

「前原くんも、受験生なのにまだまだ後輩の付き添いもやってるんだってね? 大変だけど、ファイトな! じゃ、ぜひ新作のパン、味わってね!」


 前原が買ったのは、福田が自信満々の新作パンとのこと。

 それを教室で食べようとした前原だったが、目を輝かせた川田に「味見」と言われて、半ば強奪気味にチョココロネやたまごサンドと交換させられてしまった。


「ひどいよー川田さぁん。僕、福田先輩の新作、食べたかったのになぁ」

「(もぐもぐもぐ)・・・・・・許せ、前原っ!」

「許せないよー」

「許せー」

「川田さんっ?」

「だってー、アタシ、食べたかったんだもん」

「はぁー。もういいよ。・・・・・・僕、そういう川田さんには、かなわないなぁ」


 落ち込んでいた前原だったが、川田と交換したチョココロネを「美味しいや」と笑顔で頬張り、明るい顔へと戻っていった。

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