3-49、ドリームマッチ開幕! 川田真波vs阿部恭子
ざわざわざわざわざわざわ ざわざわざわざわざわざわ
がやがやがやがやがやがやがやがや どよどよどよどよどよどよどよどよ
「注目の的だな、朋子は。・・・・・・川田。観覧席のお客さんが、どよめいてるぞ?」
「なーに、気にしないでいいのよ。普通に楽しんでくれればね! アタシが無理言って、等星メンバーに来てもらっちゃったんだもん。今日は、試合って言うよりは、イベントとして身体を動かしてくれれば、ね! まぁ、観客がどよめくのは、無理もないか・・・・・・」
「・・・・・・私は今まで、大きな大会や、勝つことが目標の大会ばかりだったから。こういう、地元に根付いた行事で、雰囲気が和やかな試合って、もしかしたら初めてかも・・・・・・」
「でも、お客さんは、『全日本覇者の朝香朋子』として見ているようだぞ? 朋子、だいじょうぶか? ・・・・・・有華や美月は、既に狭山と親しげに和んでいるようだが・・・・・・」
「心配ないよ。ありがとね、里央。そして、川田さん・・・・・・。これが、本当に私の最後の試合になると思うから。今日の出場は特別よ? ・・・・・・一緒のチームで、楽しみましょう!」
「だね! アタシのチーム名、『MTR18』はね、『真波』『朋子』『里央』の『十八歳』が集ったって意味なんだ。まぁ、アイドルグループっぽいけど、許してね?」
「ふふっ。相変わらずね。私は、別に気にしてないから。・・・・・・他も、ユニークなチーム名ばかりね? 柏沼市のイベントで、まさか、こんな試合があったなんてね・・・・・・」
朝香と諸岡は、貼り出された組み合わせ表の紙を見て笑っている。
篠崎たちのチーム名が「田舎のアパート名みたいだ」と言って、二人で大笑いしていた。
「まさか、真波が朝香たち等星メンバーを連れてくるとはねー・・・・・・。小笹! 美鈴ちゃん! 私たちも、今日は楽しんで、思いっきり暴れようね!」
「あははっ! ルール見たケド、面白そぉ! これ、ワタシや美鈴は、地稽古でならした技の数々が使えるってコトだねぇッ! 楽しみ、楽しみーッ!」
「一回戦は、『ひなみの華』ってチームと当たるのねぇ? なーんか、居酒屋みたいな名前で面白いさぁーッ! 小笹とあたし、誘ってもらって嬉しいなぁッ! くすくすっ!」
小笹と美鈴を擁する、森畑のチーム。
沖縄から栃木へ遊びに来るとわかっていた美鈴とともに、小笹へも声をかけていた森畑。抜け目ない感じだ。
「なんだか、とんでもねーメンバーが集まった感じだねぇ? どーいう試合なんだ、今日は」
「すごいよね。朝香さんらだけでもびっくりなのに、まさか、美鈴さんだの二斗君だの、新井先輩たちまで加わるなんて・・・・・・」
「市民イベントだけど、まるでミニインターハイじゃんか! こりゃ、とんでもねぇ武道フェスティバルだぜ! ぶるぶる、ぶるぶる、ぶるぶる」
出場者がみな揃い、開始前の簡単な開会式が行われた。
今回は、参加した全選手には参加賞として生のイチゴが十個入ったパックが一つ配られるとのこと。優勝したチームには、特産品のこんにゃくと和牛の詰め合わせがもらえるようだ。何とも、このローカルな感じがたまらない。
優勝賞品がお肉と聞いた瞬間、二斗、崎岡、美鈴の目つきが変わった。権田原や篠崎、狭山は、お肉よりも美鈴の存在がすごく気になっているような感じであった。
「日頃鍛錬した成果を、遺憾なく発揮して下さいっ! 楽しく、ケガのないように、選手諸君の健闘を祈ります!」
来賓で訪れていた柏沼市空手道連盟の会長あいさつや副市長のあいさつなどがあり、いよいよ試合が始まろうとしていた。一つしかないコートで、まず、女子の部が行われる。
大会事務局である柏沼市教育委員会の社会体育担当の職員が、試合用具をせっせと準備している。
「ふふっ。白の拳サポーターなんて、小さい頃以来かもね? 今日は、本当に、昔ながらの感じなのね? ・・・・・・久しぶりだ。この古い時代の拳サポーター・・・・・・」
「最近のやつらじゃ、この拳サポ、知らないよな? 私らが小学生の頃までは、みんなこれだったもんな。向こうで、有華や美月たちも、懐かしそうにしてるぞ?」
朝香と諸岡は、薄めで白い拳サポーターを装着し、お互いに感触を確かめ合っている。
今回は、今までの大会のような赤と青ではなく、昔ながらの赤と白で行う。選手は、イベントの事務局が準備した、真っ新な純白の拳サポーターで統一される。赤側のチームには、自分の帯の上に巻く赤い紐が配られる。
「まさか崎岡と同じチームで戦える日が来るとはねー。いやー、これも何かの縁ってことかなー? 一回戦は、柏沼の森畑菜美チームとだけどさー、まさかインターハイの形優勝の東恩納美鈴が現れるとはー・・・・・・」
「狭山は沖縄インターハイには出られなかったが、情報はもう知ってるようだな? あのチームにいるやつらは、侮れないよ! だが、今日は、一本勝負の試合だ。うまくいけば、一撃で試合を終わらせることも出来る! 頑張ろう! 和牛のためにも!」
「崎岡先輩・・・・・・。狭山さんのためじゃなく、和牛のためなんですか? 私は、ヘルシーなほうがいいですー。・・・・・・でも、確かにあのお肉、美味しそうですね!」
「崎岡も大澤も、ほんとありがとね! よーし、頑張って、うちらで賞品ゲットしよう!」
狭山は、崎岡や大澤と円陣を組み、気合いを入れる。どうやら、試合がどうこうよりも、お肉のために戦うようだ。
「せ、せんぱーい。つ、強い人ばっかりですー。ぶるぶる、ぶるぶる、ぶるぶる」
「阿部先輩。いくらなんでも、市民大会にこのレベルは、反則じゃないですかぁ?」
「そ、そうね。まさか、こんな面子が集まっちゃうなんて・・・・・・。でもっ、紗代! 真衣! 今日のルールなら、わたしたちだって、十分に勝てる見込みはある! 頑張ろう!」
~~~ 女子の部を行います。選手は、コート両側に並んで下さい ~~~
ドドォォーーーーーーーンッ!
ドドォーーーーーーーーーンッ!
ドォン! ドォン! ドォンドォンドドォンッ!
和太鼓が大きく鳴らされた。その合図で、審判団が並んで、選手へ整列を促す。
メンホーを抱え、純白の拳サポーターをつけた女子選手たちが、凜としたオーラを放つ。それぞれの想いと決意を心に持って、正面の壁に掲げられた国旗と神棚に、向かった。
「選手! 正面にーっ、礼! お互いにーっ、礼!」
「「「「「 おねがいしまーーーーーーーーーーすっ! 」」」」」
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ パチパチパチパチパチパチパチパチ!
観覧席から贈られる歓声と拍手。いよいよ、ドリームマッチの火蓋が切って落とされた。
【赤 MTR18】 【白 あべんじゃぁず】
先鋒 川田真波 ― 阿部恭子
中堅 諸岡里央 ― 大南紗代
大将 朝香朋子 ― 内山真衣
麻の葉模様があしらわれた、高そうな和紙。それに、しっかりとした字で書道家らしき人がその場でオーダーを書いて貼り出す方式だ。
「わーんわーん! あ、朝香さんとぉーーーっ!? わーんわーん! 勝てるワケないよー」
「泣くな、うちやま! もう、開き直ろう! 日本一と当たるなんて、むしろ、運が良い!」
「わたしは・・・・・・川田先輩とか! 紗代も真衣も、こーなったら、良い経験値になるように頑張ろう! 三年生と戦えるのは、本当にもう、これが最後なんだから! 大切にしよう!」
がやがやがやがや がやがやがやがや がやがやがやがや
「恭子が先鋒かー。さーて、主将としての意地、アタシに見せてもらおうじゃないの!」
「朋子、さすがに、本気ではやらないんだろ? 今日は楽しむ程度で、いいんだろ?」
「・・・・・・。・・・・・・。・・・・・・さぁね?」
両チーム、気合い十分。先鋒の川田さんと阿部さんが、同時にメンホーをつけた。
「・・・・・・しゃあっ! いくよ恭子! アタシにかかってこいーっ!」
「・・・・・よぉしっ! もう、やるしかない! いきますよ、川田先輩!」
両者は目をきらりと光らせ、にこっと笑う。
「赤! 先鋒! 川田選手!」
「はいーっ!」
「白! 先鋒! 阿部選手!」
「はあぃっ!」
~~~選手!~~~
「「「 ファイトーーーーーーーっ! 」」」
ワアアアアアアアアアアアアアアア ワアアアアアアアアアアアアアアア
赤の開始線には川田。白の開始線には阿部。両者とも左胸に「柏沼高」と刺繍された、同じ道着を身に纏い、気力を全身に漲らせて向かい合った。
「なんか、不思議な光景だねぇー。同じ部のメンバーが、違う学校のメンバーと組んで、向かい合って対戦なんてさぁー」
「そうだねー。でも、面白いよ! これもまた、空手の楽しみ方の一つ、なんだよね?」
「真波と恭子が、ちゃんとした試合で当たったことなんてねーもんなぁ! 一本勝負だから、もし、恭子が一撃で一本取ったりしたら大番狂わせだぜ? がんばれーっ!」
川田と向かい合う阿部は、きちんと落ち着いている様子。
阿部と向かい合う川田は、どこか嬉しそうで楽しそうな表情。
「(先輩。部を引き継いでから磨き上げたわたしの空手、見て下さい!)」
「(良い目ぇしてるね、恭子! やる気十分ってわけね? 面白い!)」
がやがやがやがやがやがやがやがや がやがやがやがやがやがやがやがや
正面に飾られた生け花。その、生けられたセンリョウの赤い実が、ゆらりと一粒、揺れた。
「勝負一本! 始め!」
「さあああぁぁーーーいっ!」
「たあああああああーいっ!」
ダアンッ! タアンッ!
いつものような小刻みで素速いステップを踏まず、大きく足を開き、腰を落としてどっしりと構えた川田。それに対して、阿部は軽やかに力を抜いて構え、左右にステップを踏む。
タタタァンッ! タタタァンッ! タタンタタタァンッ!
「(ふふん・・・・・・。少しは動きが良くなったようね、恭子? でも、それはね、アタシが教えてきたこと。・・・・・・まだ、教えてないことが、あるのよねー・・・・・・)」
「(いつもの先輩の構えじゃない! ・・・・・・ステップを踏まないんですか? 稽古不足で、スタミナ温存ってわけ? 最近の稽古量なら、わたしのが上回ってるはず! ・・・・・・よし!)」
・・・・・・ギュッ タタタァンッ!
「たあああああああーいっ!」
バシュンッ! バシュンッ!
阿部は床を蹴り、川田の首元めがけてワンツーの二連打を放つ。
シュッ バシイィィッ! パチイィンッ!
「(甘い、甘い!)」
「(くっ・・・・・・。この程度じゃ、さすがに動じませんか!)」
眉一つ動かさず、にこっと笑い、前拳のみで阿部のワンツーを二発とも弾き飛ばした川田。受け一つにしても、数々の強豪と戦ってきた自信と貫禄を感じさせる動きだ。
「(じゃ、アタシも・・・・・・いくよ!)」
「さあああぁぁぁーーーーーーーっ!」
シュゥンッ! シュバババババアッ! シュバアッシュバアッ!
「(わぁ! は、速いーっ!)」
バチインッ! ドガアァァァッ! バチイッ! ドガアァァァッ! どしゃ
川田が一気に仕掛けた連突きは、二歩踏み込む間に七連打。
その突進力で、阿部は吹き飛ばされてしまった。
「止め! ・・・・・・とりませんっ!」
「(ふうぅ・・・・・・。あ、危なかった! そうだよね。これが、川田先輩だ!)」
気を取り直して、開始線に戻った阿部。川田は腰に手を当てながら笑い、余裕の表情。
「(ナメてもらっちゃ困るね、恭子? さぁ、続き続きーっ!)」
先鋒戦。たった一瞬の攻防だったが、観覧席からはどよめきが起こっていた。
「阿部せんぱい、ファイトーーーーーっ! 返しどころを見つけましょう!」
「先輩! 川田先輩の連突きは、間合いを切りましょう! 巻き込まれちゃダメです!」
内山と大南も、阿部へ声援とアドバイスを送る。
「(真衣と紗代も、いっぱしになってきたね! 恭子。後輩からのエールを受けて、さぁ、アタシにどう立ち向かう? まだまだ、アタシはこんなもんじゃないぞぉ?)」
わいわいわいわいわいわいわいわい どよどよどよどよどよどよどよどよ
阿部に立ちはだかる川田。先輩後輩同士の戦いは、川田が主導権を握っている。
「続けて、始め!」
タタタタタタタタッ! タタタァンッ! タタタァンッ!
「(ジグザグステップ? ・・・・・・ってことは・・・・・・)」
阿部は、ステップのギアを上げて左右斜めに動き回る。川田はその阿部の動きを目で追い、どかっと構えたまま冷静に観察。
「たあああああああーっ!」
タアンッ! バシイイィッ!
「(・・・・・・っと! やっぱりね! アタシが教えた駆け引きは、通じないっての!)」
斜めに踏み込んで左中段回し蹴りを放った阿部。
川田は両腕を使って、右側面の中段と上段をしっかりとブロック。阿部の蹴りは、川田の右肘付近にぶつかり、軽々と防がれた。部活でよく川田が後輩たちに教えていた、中段蹴りを取るための駆け引きだ。
「(・・・・・・まだですよ、先輩!)」
「たあああああああーいっ!」
「(え! こっち?)」
ヒュンッ パチイイィィィンッ!
ワアアアアアアアアアアアアアアア ワアアアアアアアアアアアアアアア
副審の白旗が、二本、同時に真横へあがった。
「止め! 白、上段打ち、技有り!」
「やったやった! 阿部先輩、ナイス裏拳です! いいですよーっ!」
川田がブロックした逆側へ、蹴りを囮にして阿部は左の上段裏拳打ちを決めた。やぶれかぶれではない、鮮やかな流れからの技。もう少し威力と速度があれば、一本になってもおかしくないタイミングだった。
「(け、蹴りは囮かーっ! ・・・・・成長したなぁ、恭子! こんな技の組み立てまで!)」
「(どうですか? わたしも、先輩の教えだけじゃなく、いろいろアレンジを加えてます!)」
技有りを先制した阿部。もう一つ技有りを奪えば、合わせ一本で試合終了だ。
「おい、川田! 一本勝負だぞ! 気ぃ抜くなぁ! 油断すると一撃で終わるんだぞー」
「川田さん、取りかえそう! しっかりと! あなたならいけるはずよ!」
諸岡と朝香も、後ろから川田へ声を送る。いつの間にか、ムードはあっという間に真剣な大会モード。裏拳をもらってしまった川田は、なぜか、ものすごく嬉しそうだ。
「続けて、始め!」
「さああああああぁぁーーーっ!」
キュウンッ! キュキュキュウゥンッ! シャシャシャシャアアァァァ!
シュタタタタタタタッ! キュウンッ! シュタタタタタタタッ!
「(えっ! 動きが、は、速い! 目で追いきれない!)」
さっきまでの、山のように動かない構えから一転。川田はインターハイで見せたような高速移動の足捌きで、阿部を翻弄。背中側まで回り込むかのようなスピードで、阿部を右から左から追い回し、動きながら常に狙っている。
「(アタシだって、全国の八強なのさ! さぁ、恭子! ・・・・・・この速さ、目に焼き付けなさいね!)」
キュキュキュッ キュウンッ! ズバババババババァッ! バチイイィィンッ!
キュウンッ! ドガガガガァッ! パパァンッパパァンッ! パパパパァン!
「(うああっ! さ、退がっても、避けきれないーっ・・・・・・)」
必死に間合いを切って対処しようとする阿部に、その遙か上を行くスピードで追い詰めてゆく川田。上段、中段の連突きに加え、回し蹴りや前蹴りも含んだ猛烈な攻撃。
・・・・・・ベシイイィィッ! ごろんごろん どしゃ
「止め! 元の位置!」
意識が防御に集中していたところへ、川田は強烈な足払いを仕掛けて阿部を場外近くまで転がした。必死に防いでいた阿部は、まだまだ諦めてはいない様子。
「(うっ、うまいな、川田先輩! 意識が上に行っていたところへ、見逃すことなくわたしの両足を刈るなんて・・・・・・)」
「(以前の恭子なら、もっとバタバタしてたろうけど。こりゃ、想像以上に成長してるね!)」
がやがやがやがやがやがやがやがや がやがやがやがやがやがやがやがや
「ひな・・・・・・。見た? あの川田さんて、一日体験の時にいた先輩だよなー? あ、あんなに強い人だったんだ・・・・・・。四月から、ぼくたち、あの部で絶対に強くなろうな!」
「推薦の内定取れてよかったよね、康太。・・・・・・その川田先輩と一緒のチームにいる、日本一の朝香さん。あの人だよ! 柏葉祭にいたの! だから、どこかで見たことある人だと思ったんだね! そんな人と一緒にいる先輩だなんて、すごぉい!」
ワアアアアアアアアアアアアアアア がやがやがやがやがやがやがやがや
観覧席にいる中学生も、川田の猛攻に驚いている。小さな会場ではあるが、その雰囲気は、大きな会場とほとんど変わらないほど。
「続けて、始め!」
「(はぁ、はぁ・・・・・・。川田先輩相手に、待つのは不利だ。スピードがわたしとは桁違いだ! それなら、もう、防御されても構わないくらいの勢いで、思いっきりいくしかない!)」
ダアンッ! ギュギュウッ・・・・・・
「(んん? 構えの重心を前にして・・・・・・。なぁるほどぉ。恭子は覚悟を決めて突っ込む気かぁ! よーし・・・・・・)」
ダアンッ! グウゥ・・・・・・ッ
前傾姿勢に近い重心に変えた阿部に対し、両足に重心を均等に置き、腰を落とす川田。
「たあああぁぁぁーーーーぁいっ!」
シュンッ ダアアァッ タアーンッ! ズバアァーーーーーーッ!
射程距離にさしかかったギリギリの間合いから、大きく一足飛びで踏み込み、上段刻み突きを繰り出す阿部。
川田の顎先めがけて、阿部の突きが空気を割きながら飛んでゆく。
「(決まれぇーーーーっ!)」
・・・・・・ギラッ・・・・・・
「さあああぁぁぁーーーーーーーぁいっ!」
ヒュバッ ドスウウゥゥゥゥッ! ・・・・・・スパァンッ!
「(あ・・・・・・。・・・・・・けほっ!)」
阿部の突きは、川田の右頬を掠めて、抜けた。
ものすごい威力の右中段逆突きが、同時に阿部の腹部に突き刺さった。それは、阿部の身体が一瞬だけ浮き上がるほどの威力。
キレのある腰の回転で、川田は残心を取って一歩後ろへ間合いを切った。やや開いた前拳は、動きの止まった阿部に向けられ、いまだに気力が指先まで漲っている。
副審の赤旗は、どれも真上にあがっていた。申し分の無いタイミング、姿勢、威力。残心まで含めて、文句の無いカウンターだった。
「止め! 赤、中段突き、一本! 勝負ありっ! 赤の、勝ち!」
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ パチパチパチパチパチパチパチパチ!
阿部は、みぞおちを撃ち抜かれた衝撃で、がくりと膝をついたまま動けない。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
すっ・・・・・・
「あ! か、川田先輩・・・・・・。はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
座り込んでいる阿部に、笑顔で手を差し伸べる川田。
「ありがと! 強くなったねーっ、恭子! アタシも、最後は本気で返しちゃったよ!」
・・・・・・ぐいっ ぽんぽんっ
「はぁぁー・・・・・・。・・・・・・効きましたぁ。息が止まりましたもん! 一撃でこんなになるなんて、これは、教わってませんでした。手数で攻めることは教わってましたけど・・・・・・」
「一本勝負はね、こういう組手スタイルも必要なのよ。まっ、覚えといてねっ!」
「ありがとう・・・・・・ございました!」
川田と阿部は、共に深く一礼。
一度は技有りを奪われた川田だったが、まさに一撃必殺のような中段突きで逆転勝利。さすがに、阿部にとっては高い壁だった。しかし、成長した阿部も大健闘だった。
パチパチパチパチパチパチパチパチ! パチパチパチパチパチパチパチパチ!
「やっぱ・・・・・・強かったぁ。さすがだ、川田先輩・・・・・・」
「でも、阿部せんぱいも、すごい裏拳でしたよ! 川田せんぱいから、一つ取りましたし!」
「まぁね! わたしの秘策だったのよ! 最後の突きは、ほんと、やられたけどさぁー」
中堅戦の準備が整い、メンホーをしっかりと装着する諸岡と大南の両者。
「阿部先輩、うちやま。・・・・・・行ってきます! 相手は等星の諸岡さん。最初からいきます!」
交互に、両肘をぐいっと伸ばし、呼吸を整える大南。
「お疲れさま、川田さん。・・・・・・後輩の阿部さん、だいぶ強くなってたね?」
「焦ったぁーっ! まさか、アタシが先制で技有り取られるとは! 頼んだよ、諸岡っ!」
「イベントとは言え、気を抜きすぎだっての。見てな。私は川田みたいな不用意なことはないんだから!」
擦れた黒帯をきゅっと締め直し、メンホーの弛みを確認している諸岡。
たった一発で試合が終わってしまうという、緊張感のある武道フェスティバルでのローカルルール。一年生大会で大活躍だった大南は、諸岡とどう戦うつもりなのだろうか。




