3-44、電車は四人を乗せて
わしわしわし もごもごもご もぐもぐもぐ わしわし もぐもぐ ごくん
「いやぁ、アタシは幸せだぁ! もうしばらく、お寿司食べなくても平気だなーっ!」
「何箱食うんだよ、川田・・・・・・。そっちの二箱、俺たちにもくれよー」
「いいよ。はい、あげる! その代わり、そっちの美味しそうなの、アタシと前原にもちょうだいー? 菜美が買ってきた中華ちまき、美味しそうなんだもん!」
「はいはい、どーぞお食べなさいな! 真波ってさ、ほんといつも、自然体だよねー。私には真波のそのキャラが羨ましいわー。底無しの食欲ね、今日は・・・・・・」
「川田さん、お野菜も食べようよ? 僕が買ってきた、タコとスズキのカルパッチョ、これもサッパリして美味しいよ!」
「ありがとー。もらうね! なんかアタシ、力込めて武道館での試合見たからか、やたらとお腹も空いちゃってねー。食欲止まらないくらいよー」
「栄養の学部行くやつが、そんなんでいーんかねぇ? だいじかよぉー」
四人は帰りの電車に揺られながら、地下街で仕入れた美味しいものを食べ、楽しく雑談をしながら栃木へ向かっている。
川田は大食い選手にでもなったかのような勢いで、たくさん食べている。前原と田村が「よく太らないなぁ」と、感心してしまうほどの勢いだ。
宝石を散りばめたような都会の灯りは、いまだ降り続けている雪を、美しく染め上げていた。
黄金色の不思議なオブジェが乗ったビルを過ぎ、川を渡り、次第に東京から列車は離れる。
・・・・・・カタコン カタコン タタンタタン カタコンカタコン・・・・・・
「・・・・・・あー、美味しかった! お寿司は、いいわぁ! ねぇ、田村のその焼き鳥と中華サラダも、ちょっとちょうだいーっ?」
「いったいどこまで食う気だ! 俺が食うやつなくなっちまうべ! 前原のそれでも、もらっとけよー・・・・・・」
「え? なにそれ、前原? ちまき?」
「川田さんが寿司屋にべったりだったとき、なんか、面白いから買ってみたんだよー。沖縄フェアやってた場所で売ってた『カーサムーチー』だって!」
「へー。見た目、ちまきっぽいけど、笹の葉じゃないね? ショウガの葉に似てるけど?」
「お店の人が、月桃っていう葉っぱに包んで蒸した、お餅みたいなものって言ってたよ。縁起物としての食べ物だったんだってさ?」
「すごく美味しそうな香りだね。真波、お餅っぽいけど、入るの?」
「だいじよー。いけるいける! へー、沖縄のやつかぁ。小笹とか美鈴ちゃんならわかるんだろうけどねぇ! ゲットウなんて葉っぱ、アタシ、知らないなー」
川田は、カーサムーチーをむぐむぐと頬張り、顔がほころんでいる。とんでもない食欲だ。
「そうそう、真波さ? 今度、予定が合えば遊び行ってもいいかな? 一度も真波んち、行ったことなかったしー」
「いいよ。おいでよ、菜美! アタシんち、お姉ちゃんが今いないから、布団とか部屋も余ってて泊まれるからさー。クリスマス会でもみんなで、やる? 田村たち男子も一緒に!」
「おー、いいねぇ! あ、でも、そうなると、また中村は来られないかもしんないねぇー」
「中村君、センター試験終わってもまだ国立の試験とかあるだろうしね。みんなでとなると、ちょっと気まずいかもね・・・・・・」
「そっかぁ。そうだね・・・・・・。じゃ、菜美、クリスマス会とかは抜きにして、遊びおいでよ」
「うん、わかった! それじゃ、遠慮無く!」
川田は、あっという間にカーサムーチーを食べ尽くしてしまった。それでもちゃんと味わっているというから驚きだ。本当に、大食い選手権に出られそうな食欲だ。
「そうそう、それとさー・・・・・・」
「「「 ん? 」」」
食べ終わってすぐに、川田が話を切り替えた。
「二月の、かしぬま武道フェスティバルさぁ、アタシ出たいんだけど、一チーム三人で団体組むようなのよね? アタシ一人じゃつまんないから、みんなで出ない?」
「二月中頃の、建国記念日だっけ? 確か金曜日で連休になるから、俺は平気だねぇー」
「私も、運動不足解消に、出たいな! 組手の団体戦だよね? しかも、むかーしの全空連ルールとか松楓館協会ルールみたいな感じなんだっけ?」
「ポイントの取り合い合戦ではないね。『有効』がなくて、一本と技有りのみ。しかも、姿勢と威力とタイミングが三拍子揃ったものであれば、たった一発の突きや打ちでも『一本』になるんだったよね!? 技有り二つで、『合わせ一本』だし、いつものルールとは違うよね。僕も出たいなー」
「武道フェスティバルさぁ、そのルールで『一本勝負』だろぉ? なかなか神経使う組手になるんだよねぇー。しかも、肘当てや手刀打ちとか、今は使えないような技も、技有りや一本になるんだろ?」
「そうそう! それがまた、いーんじゃない!」
「まぁ、突きでも蹴りでも打ちでも当てでも、空手本来の技をしっかりと使いこなせるルールなんて、面白いよねぇー。ポイントゲームじゃなく、まさに武道だね!」
「ね? 面白いよね! アタシさ、一本勝負ルールのこのイベント、楽しみなんだよ!」
「わかった、真波! 私も出るよ! だけど・・・・・・私、真波とは組まない!」
「「「 え! 」」」
森畑は、イチゴみるくオーレをストローですすりながら、目をきらりと輝かせる。
「あえて、私は真波とは別チームで出たいな。・・・・・・真波、正真正銘の一本勝負、私からの挑戦状として、受けてよ! 公式の場で、真波と一度、当たってみたいの!」
「菜美ーっ・・・・・・。ふふふっ、アタシにそんなこと言って、知らないぞー? わかった。それじゃ、お互いにそれぞれ、メンバー集めて出場ね! 面白くなりそうじゃん!」
なんと、川田と森畑は、お互いに別チームで組んで出るという。ただの市民イベントであるはずの武道フェスティバルだが、同期女子二人がいきなり静かな火花を散らせている。
「まぁ、俺と前原は一緒でいいんじゃないかねぇー? 三人じゃ、あとは、井上か中村か神長かなぁ? 二年のやつらを入れるって方法もあるけどねぇー」
「一応、井上君らにも声かけてみるよ。中村君も、二月半ばならどうか、聞いてみるね」
「俺たちの高校最後の試合は、インターハイじゃなく、なんと地元イベントになりそうだとはねぇー」
笑い合い、下らない話なども交えながら、四人を乗せた電車は雪の中を進んでいった。
新柏沼駅に着く頃、外は深い雪に包まれていた。
東京とは違う、さらりとした粉雪が柏沼市内に降り積もっている。




