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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第3部・完結編  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第4章 粉雪、鐘の音、初詣
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3-39、ビッグネーム、大激突!!

   ワアアアアアアアアアアアアアッ!  ワアアアアアアアアアアアアッ!


 三階までぐるりと取り囲む観客席。煌々と輝く数多くの照明。そして、中央の天井に吊り下げられた巨大な日の丸の国旗。

 「全日本空手道選手権大会」の表記と、全選手、全種目の組み合わせ表が一枚の大きなボードで掲げられている館内。インターハイよりも多くの来賓と、報道陣、そして関係者の数々。

 中央の試合場は、一段高く組まれた場所に敷かれた、青白鮮やかな四つのコートがある。

 大きな優勝旗と、巨大なトロフィー。そして、天皇杯、皇后杯など、日本一の栄光を讃える数多くのものが並んでいる本部席。空手道競技日本一を決める場は、他とは一線を画す雰囲気だ。

 形、組手ともに、それぞれ選手が入場してくると歓声も一段と大きく響く。


「やっと間に合った! 席、ありがとね、みんな! しかし、武道館は広いね。この二階と三階席まで合わせて、何人入ってるんだろう? これじゃ、どこかに知り合いがいても、とてもわからないよね? ・・・・・・森畑さん、ここ、見やすそうだね!」

「そうねー。私らの席、見やすくていいわ! 真波がどっかの大学空手道部を退かしてまで、取った席みたいだけどね。ビシッと啖呵切って、退かしちゃうんだもんー」

「だって、あんなに無駄に座席取ったら迷惑じゃん! アタシ、ああいう非常識なのは許せないのよね! どこの大学か知らないけどさ、アタシが強く言ったら、どっか行っちゃった」

「前原。川田って、すげぇよなぁー。普通、単身で大学空手道部相手に、どけと言えないよねぇー。ほんと、いつぞやは等星に宣戦布告したり、度胸だけは日本一だな」

「なんだそれ、田村! アタシは、度胸『だけ』じゃなく、ちゃんと他の人のことも考えて言ってやったんだってばー」

「はははっ。川田さんらしいや! ま、こうして四人で席取れたんじゃ、あとはゆっくりと、試合観戦しようか。・・・・・・楽しみだなぁ、どんな試合が展開されるのか」


 四人は試合についての雑談を交わしながら、観客となって今日はゆっくり観戦だ。


   ワアアアアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアーッ


「シェリヤアァーーーイッ!」


   キュウンッ!  キイィーンッ!  シュバアッシュバアッ!  バチイイィッ!


「ウオオォリャアァァシャァ!」


   キイイイーンッ!  ドバアンッドバアンッ ドパァンドドンドパァン!


「せいやあぁぁーーっ!」


   キュンッ!  キイィーンッ!  ドガガガガガッ  ババババッ!


「ニィーーーーパイポォーーーッ!」


   ・・・・・・シュバババァッ!  ヒュウンッ シュパパッパパァンッ!


「ニィセーーーーシィーーーッ!」


   ・・・・・・スパアァンッッ! ヒュババァッ シュバッ! ヒュルンバシュッ!


 男子も女子も、そのまま世界でも通用するような選手たちが繰り広げる、超ハイレベルの激戦。

 組手も形も、前原たちが出場したインターハイを遙かに凌ぐレベルの選手が、たくさん出場している。


「凄いね、菜美。アタシ、この中に放り込まれたら、簡単にやられちゃいそうー」

「えー? そうでもないんじゃない? 真波だって、この中で戦えるレベルの組手だよ!」

「そうそう。川田さん、朝香さんや崎岡さんとも良い勝負できるんだもん、だいじだよ!」

「うーん、そう言われると・・・・・・。大学生になったら、ちょっと、自主トレ増やそうかな?」

「ほれ。Dコート見てみ? おもしれー試合が始まりそうだ!」

「「「 あ! 」」」


   ワアアアアアアアアアアアアアアア  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


「赤! 高体連代表! 朝香選手!」

「はいーっ!」

「青! 栃木県代表! 崎岡選手!」

「はあいっ!」

「(日本一を決める舞台で、初戦が有華か・・・・・・。私の最後の試合で・・・・・・)」

「(これも何の因果だろうね、朋子? 初めから、全力で行かせてもらうよっ!)」


 女子組手はさっそく注目の一戦。朝香朋子 対 崎岡有華。

 この対戦が始まりそうになった時、川田と森畑は身を乗り出して真剣な表情に切り替わっていた。遙か遠くの南東側の席では、小笹らしき人が、同じような姿勢で真剣な表情をしていた。


 ~~~選手!~~~


「「「「「 崎岡せんぱぁーいっ! 朝香せんぱぁーいっ! ファイトーーーーーっ! 」」」」」


 どこからか、等星女子高の声援が聞こえる。二階席には見当たらない。三階席だろうか。

 朝香と崎岡は開始線に立ち、同時にゆっくりと一礼。この全日本大会は、メンホーを装着せず、素面で行う。マウスピースをキュッと噛み締める両者。気合いの乗った表情がよくわかる。


「勝負! 始め!」

「いいぃぃやああぁぁーーーーっ!」

「ああぁぁーーーーーーーいっ!」


   ダアアァンッ!  ドシュンッッ!  キイイイィィィィーーンッ! ドガアッ!

   キュウンッ!  ズガガガガガガガガガガッ!  キイイイィィィィーーンッ!

   ピシャアンッ!  キュウンッ!  ズドオンッズドオンッドゴオンッ!


 同時に裂帛の気合いを発し、床を蹴った両者。

 光速瞬撃の朝香と瞬間連撃の崎岡が大激突。お互いに手の内を知り尽くしているからか、なかなか技は決まらない。


「「 お姉ーーーっ! 負けるんやないでーーーーーっ! 勝つんやでぇーっ! 」」


 どこかから、ちらっと京都弁のアクセントをした声が聞こえた。


   キイイイィィィィーーンッ!  シュバアッシュバアッ! ビシャアッ!

   チュドドドドドドドドドォッ!  キュウンッ!  ドパアァーーーンッッ!


 激しい攻防の音。攻めも、受けも、どちらも手を緩めない。攻撃力と防御力は、両者互角。


「(有華、速くなってる・・・・・・。コンビネーションも以前より巧い! 強くなってる!)」

「(朋子、三年間一緒にやってきたけど・・・・・・さすがに今日が一番強い! 上等だぁっ!)」

「「 せええぇぇやああぁーーーっ! / あああぁぁーーーーーーーいっ! 」」


 意地と意地がぶつかり合う死闘。

 一瞬でも気を抜いたら命までもっていかれそうな技が飛び交っているが、お互い、それと相反する嬉しそうな表情で汗飛沫を散らせていた。


 ~~~ ・・・・・・ビビィーーーーーーーッ! ~~~


 全日本大会専用の電光掲示板が、試合終了のブザーを鳴らす。


「(はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。朝香朋子だね、やはり)」

「(ふうっ・・・・・・。有華・・・・・・。こんなに強くなってたなんて・・・・・・)」

「6対5! 赤の、勝ち!」


   ざっ  ざっ  ざっ  ざっ・・・・・・  がしっ!


 コートの中央で、朝香と崎岡は握手をし、抱き合って健闘を讃え合った。


「朋子・・・・・・。ありがとうな! ・・・・・・私は、朋子と最後に一緒に戦えてよかった!」

「私も・・・・・・。有華や里央と共に、一緒に頑張ってこられて、嬉しかった! 楽しかった!」


 まるで決勝戦の後でもあるかのように、お互い、涙を流し合っていた。そして、ぱんっと掌を叩き合って、互いに一礼。爽やかな笑顔で、コートから二人は出て行った。


「いやー、なんか、よかった! アタシもらい泣きしそう。・・・・・・くすん・・・・・・」

「ほんとだね。等星の同期同士。うちらじゃ、私と真波が当たるような図式だもんね・・・・・・」


 目を潤ませて、しみじみと語る川田と森畑。しかし田村と前原は、既に目をBコートへ。


   ざわざわざわざわざわざわ  ざわざわざわざわざわざわ


「「「「「 去年のインハイ女王と、今年のインハイ女王が一回戦だ! すげぇぞ! 」」」」」


 Bコートは女子形。

 栃木県代表で出ている諸岡が、なんと、高体連代表の美鈴と大激突。新旧インターハイ女王の対決に、観客もたくさん注目していた。


「「「「「 諸岡せんぱぁーいっ! 等星ーーっ!  必勝ーーーーーーっ! 」」」」」

「「「「「 みすずーーーーっ! ファイトーーーっ! ちばりよぉーーーーっ! 」」」」」


 等星女子高の声援と、おそらくは沖縄のうるま金城高であろう声援がぶつかり合う。今日は、全国から無数の関係者たちがここに集結しているのだ。


「赤! 栃木県代表! 諸岡選手!」

「はいいぃっ!」

「青! 高体連代表! 東恩納選手!」

「はあぁーーいっ!」

「(この時を待っていたよ、インターハイ女王! その座は、この私がいた場所なんだ!)」

「(去年の女王、諸岡里央! 小笹が下したあなたに、あたしが負けるはずないさぁーっ!)」


 女王同士の火花が散る。純白の道着に、赤と青の帯が揺れる。

 一礼を終え、諸岡が先攻。一万人を超える大観衆に注目され、形を打つ。


「セエェパァーーーーイィッ!」


   シュパアアッ   ズアッ  シュバァン ズバァッ パアァァンッ!

   スッ  ザシュッ!  シュバッ ズダァァン!  あああいっ!  シュババッ! 

   スッ  ザシュッ!  シュバッ ズダァァン!  あああいっ!  シュババッ!

   ズアッ   ヒュゥン シュバッ  バシュッ スウウ  バシュウッ・・・・・・


 諸岡と入れ替わって、美鈴が入場。

 美鈴は以前よりも、ぐっと大人っぽさを増した雰囲気で、凛としたオーラを纏っている。


「セーーーーーパァイッ!」


 後攻の美鈴も、意地があるのか、諸岡と同じ形をぶつけた。本家、沖縄剛道流の十八歩セーパイを解き放つ。


   シュパアアッ   ズシャッ  シュバァッッ  ズバァッ シュパアァァンッ!

   スーッ  ザシュッ!  シュバッ ズダァン!  つああーいっ!  シュバアッ! 

   スーッ  ザシュッ!  シュバッ ズダァン!  つああーいっ!  シュバアッ!

   ズアッ  ヒュルゥン シュバッ  バシュッ スウッ  バシュン・・・・・・


 あえて同じ形をぶつけたことで、誰が見ても意地と意地のぶつかり合いだとわかる戦い。そのレベルは、両者伯仲していた。


「判定ぇーーーーーーーーっ!」


 ~~~ ピィーーーーッ! ピッ! ~~~


   バッ!  ババッ!  バッ!  ババッ!  ババッ!


「2対3! 青の、勝ち!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアア  ワアアアアアアアアアアアアアアア


 一回戦のビッグネーム対決は、僅差で旗数で優った美鈴の辛勝。諸岡はゆっくりと一礼し、美鈴に歩み寄る。美鈴も、自ら諸岡に歩み寄った。


「・・・・・・現役のインターハイ女王。さすがだった・・・・・・。いい勝負を、ありがとう!」

「こちらこそぉ、勉強させて頂きました! 勝てるとは、勝ったとは、思えませんでしたぁ」


   ・・・・・・がしっ!


「まさか、一回戦で新旧女王対決とはねぇー。なんとも、全日本らしい豪華な組み合わせってやつだねぇー。諸岡も、すげぇ良い形を演武したんだけどなぁー」

「美鈴さんも、楽勝なんて試合じゃなかったよね・・・・・・。いやぁ、すごかったなぁー」


 武道館内は、熱気と歓声に早くも包まれていた。冬の寒さも、この中では関係ないほどに。


   ワアアアアアアアアアアアアアアア  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


 まだまだ、ビッグネーム同士の大激突はあるのだろうか。

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