3-34、え? 知らなかったんですか!?
たたたたたたたたたたたたたっ・・・・・・
「先輩ーーーっ! 川田先輩! 森畑先輩!」
「「 恭子ーーーっ! 」」
「やりました! わたし、やりました!」
「やったね! アタシも、あんたがあれほど演説うまいとは思わなかった! よかったぁ!」
「あれは、文句なしでしょう。恭子の対抗馬だった二人も、唖然としていたよ。あれは、もっと票数が伸びてもいいくらいだよ! やったね恭子! 生徒会長、おめでとう!」
昇降口前で、阿部、川田、森畑はがっしりと肩を組んで、三人で跳びはねている。
「明日から一週間、生徒会役員執行部の募集もあるんです。敬太、紗代、真衣は、さっそく明日、希望するって言ってました! あと数人も、わたしのクラスの友達が入ってくれるって言ってましたので、もう、バッチリです!」
「演説で、部活動規定を改正したいってのもアピールしてたね! さて、これから、校長先生に冊子渡しに行くわけだけどさ。・・・・・・新生徒会長の恭子がいると、印象が違うかもねーっ? アタシ、恭子ほどうまく演説なんか出来ないもんなー」
「そんなことないですよ。川田先輩のチャキチャキっぷりを見て、わたしはどんどん自信をつけていったんですから。校長先生も、立会演説会、後ろで聴いていてくれたみたいですね」
「真波。デブダルマは、いなかったね? ああいう肝心な場にいなくて、空手道部を目の敵にして嫌がらせのようにしてくるんだもんな。いじやけるねーっ!」
「デブダルマには、もう、好き勝手させないんだから! アタシらの作戦はね、いま、空手道部を守るために、反対勢力を外堀から埋めている感じだよね! いい風が吹いているんだと思うよ! ここからが正念場だねっ!」
川田は、拳をぐっと握って、森畑と阿部にそれを向けた。
前原と田村、そして中村は、ミニ冊子とDVDを揃え、校長室に向かうための準備を整えていた。神長と井上は、武道場から歴代部員の名簿とインターハイの賞状などを持ってきてくれるとのことだ。
たたたたたたたっ たたたたたたたっ
「すいません。おそくなりました!」
「あれ? まだ、黒川先輩や長谷川先輩は来てないんですね?」
内山と大南が先に合流。どうやら、黒川と長谷川は、生徒会担当の先生から事務連絡のようなものを受けているとのことだ。
「阿部せんぱい、もう、わたしもさよも感動しっぱなしでした! すごかったです。本物の選挙演説みたいでしたよー。阿部せんぱいと一緒に、わたしも、生徒会頑張ります!」
「わたし、阿部先輩みたいに、空手も生徒会も両立できるように、頑張りたいです!」
「紗代も真衣も、ありがとね! いい学校にしようね! みんながいれば、わたしもすごく心強いよ! 部活メンバーが生徒会でも一緒なんて、ほんと、楽しみ!」
阿部は、大南と内山の肩をを両腕で抱き、笑顔ではしゃいでいた。
「・・・・・・すんません、川田先輩。遅くなりました!」
「みつると一緒に、生徒会役員のことについて話をされてたもので・・・・・・」
長谷川と黒川も到着。副会長としての信任を受けたからか、長谷川はどこか以前よりは頼もしい雰囲気になっていた。
「長谷川ーっ、おめでとう! 恭子が会長、長谷川が副会長なんて、アタシ想像もしてなかったよーっ! まさに、空手道部政権みたいな生徒会だねー」
「いやいや、ほんと、まぐれっす! でも、一生懸命、言うだけのことは言ったつもりです」
「川田先輩。俺の応援演説がやばくて、すいませんでした。いやー、ほんと、やっちまったぁって感じで・・・・・・」
「まったくだよ! もぉーっ、アタシも菜美もヒヤヒヤしたんだからね! でも、こうして二人が当選したわけだしさ! 結果オーライってことで、許してやるから安心しなー」
川田と森畑は、黒川をヘッドロックしたり、ちょっかいを出したりしてからかっている。何だかんだで黒川も、嬉しそうだ。
だだだだだだだっ だだだだだだだっ
「お! もうみんな集まってんじゃんか! 道太郎と持ってきたぜ!」
「名簿と、賞状な。これだけありゃ、校長だって、空手道部がただの殴る蹴るの集団だなんて見ないと思うんだけどなぁ? あとは、話のもっていき方だな?」
「しっかし、これだけの先輩らがいた中で、俺たちみたいなピンチはなかったんかな? 道場の姉弟子らの名前もあっけど、そんな話聞いたことねーしなぁ・・・・・・」
井上は、神長から歴代部員の名簿を受け取り、じっくりと眺めている。
「みんな、揃っているようだな?」
「準備万端だ。これで、しっかりと校長にも説明が出来そうだねぇ―」
「冊子もDVDも、どうやって校長先生にアピールするか、バッチリ決まったよ!」
前原、中村、田村も無事に合流。これで十二人が揃い、いよいよ校長室へ。
田村を先頭に、両翼に川田と阿部、そして前原たちが後に続く。まるで、医療ドラマの「院長総回診のお時間です」みたいな、あんな感じだ。
ざっ ざっ ざっ ざっ・・・・・・
「田村先輩・・・・・・ドキドキしてきますね・・・・・・」
「校長室に部員全員で乗り込むようなもんでしょ? 高校生活で初めてだ、アタシ・・・・・・」
「なぁに。お話をしにいくだけだから、だいじだ。別に、一揆や打ちこわしをするわけじゃないんだからさぁ。・・・・・・まぁ、状況説明をして、空手への理解を深めてもらうのが目的だからねぇー」
「(ごくり)・・・・・・まだ、生徒会長の任命もされてないけど、すごい会長デビューになりそうだなぁ、わたし・・・・・・」
ざっ ざっ ざっ ぴたり!
十二の足音は、校長室前で一斉に止まった。
「・・・・・・よーし・・・・・・。いくぞ、みんな。心の準備は、だいじかねぇー?」
「「「「「 ごくりっ 」」」」」
生唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえた。そして、田村は、ノックして扉を開いた。
「「「「「 失礼します! 空手道部一同、入ります! 」」」」」
「うん? ほぉ、どうしたんだね、突然。引退した三年生たちも一緒とは・・・・・・」
ふかふかの絨毯と、独特な芳香。校長室は、やはり特別な空間だ。
肘掛け付きのイスに座った校長先生は、田村たちが一歩入ると、手元の書類をぱさりと机において、ゆっくりと立ち上がった。
「堀江校長先生・・・・・・。三年三組の、田村尚久です。本日は、折り入ってお願いと説明に、まいりました。突然すみません。お時間、少しだけよろしいでしょうか?」
いつになく丁寧な田村。校長先生はにこっと笑って、全員の顔を見ていた。
「構いませんよ。はて? お願いと、説明とは、どういうことかな? 君は確か、夏休み後の表彰伝達式で、インターハイの賞状を渡した覚えがあるが・・・・・・。空手道部の主将だった生徒だね? 阿部恭子さんもいるではないか。先程の演説、見事でした! 素晴らしかった」
「ありがとうございます。それで、その、空手道部のことなんですが・・・・・・」
「ふむ? ・・・・・・なにか、重そうな話のようだね・・・・・・。いったい、何かね?」
阿部が校長先生に話を切り出すと、田村は川田に目で指示し、ミニ冊子が校長先生の手に川田から渡された。
「おや? これは? 『空手道の正しい理解のために』と、あるが?」
「校長先生。こうして、引退した三年をも含めて、全員でこうして伺ったのは、空手道部の廃部案を、どうしても白紙撤回にしていただきたいからなんです。そのためにも、先生方に空手道は暴力的なものではないということを、いま、全員で丁寧に説明をしています」
「??? 空手道部の、廃部案とは? 待ちなさい。どういうことだね!?」
「「「「「 え? 」」」」」
なんと、校長先生は廃部案のことについて、訝しげな表情を見せた。この話を知らないとのことだ。
田村たちも、学校のトップである校長先生が、どうして話を知らないのかはわからなかった。お互いに、数秒、その場に固まってしまった。
「えーと・・・・・・。その・・・・・・。五人以下の部は、来年度の新入生募集ができず、来年度末に廃部という話をされまして・・・・・・。いくつか挙げられたなかで、空手道部もその筆頭候補と言うことで、あのデブダ・・・・・・じゃなかった、上島先生や杉並生徒会長が決めたと聞いているんですが。ですから、こうして、空手のイメージをしっかりと正しく理解して、部の存続をなんとか認めて欲しくてですね・・・・・・」
「ま、待ちなさい。そのような話は、私は聞いていないぞ? 空手道部は、インターハイでもベスト8の実績。君たち男子の団体と、君の後ろにいる三年一組の川田真波さんの個人戦。どれも素晴らしい活躍だったはずです。・・・・・・今回、新人大会も実績があるではありませんか。それがどうして、いきなり廃部などと・・・・・・。上島先生と言いましたね、今?」
「そうです! 上島先生が! アタシはそう聞きました!」
「わたしも代表委員会の後、そう言われたんです! 校長先生、助けて下さい。こんな措置、あまりにもひどいです!」
川田と阿部が、校長先生へ必死に訴えかける。校長先生は、突然のこの事態を確認すべく、職員室へ内線を回した。
「あぁ、私だ。・・・・・・上島先生は? ・・・・・・構わん! 今すぐ校長室に来るように言ってくれたまえ!」
ガチャンッ!
数分後、校長室へ上島先生が到着。気まずそうな表情で、入ってきた。
「(来やがったなデブダルマ! このやろぉ、校長を無視して話を進めてたのか!)」
田村が睨んでいる。もっと凄い表情で、阿部や川田、森畑も睨んでいた。
「上島先生! 部活動の廃部案など、私はこれっぽっちも聞いていないぞ! この子たちが言いに来なかったら、まったくわからなかった! どういうことだねッ!」
バアァンッ!
校長先生は、書類の束を机に思い切り叩きつけた。前原たちもその音に驚いた。内山と井上は、なぜか、ぶるぶると震えていた。
「申し訳ありません、校長・・・・・・。廃部案は、その、何と言いますか、空手部が部員数五人以下だからでして・・・・・・」
「だからといって、すぐに廃部にするということはどういうことかね! こうして、校長室にまで直談判に来たこの子たちの思いを、君は無視して進めようとしていたというのか!」
上島先生は、聞こえないくらいの小さな音で舌打ち。中村や森畑の方をちらりと見る。
「校長。しかしですね、この空手の連中は、生活態度から見ましても、お世辞にもこの学校の風紀に合っていないと思われるんですが・・・・・・。柏葉祭でも、私が聞いたところによると、一般客と乱闘騒ぎになり、暴力を振るってケガを負わせたとか? そんな連中の部は、暴力を教育現場が推奨しているようなものかと・・・・・・」
「ふざけないでよ! 柏葉祭の件は、むしろアタシら生徒側が被害者だっての! 正当防衛だし、ケガなんか負わせてないよ、アタシらは! ねぇ、中村!」
「あぁ。まったくもって不愉快だ。どこからそういう尾ひれが付いて、話がおかしくなっているのか理解出来んな。暴力を振るってきたのは、あの不良たちだ! おれは被害者だ!」
「だが、お前たちは空手をやってるんだろう? 空手家が一般人に手を出した場合、正当防衛も過剰防衛になると聞いたがね。そういうことがあるから、それも含めてで、私は空手部は廃部にすべきと思っているんだがね・・・・・・。ケンカの道具なのだろう、空手は!」
「ひっどぉい! そんなの、勝手な言い分じゃないですかぁ! 先生の好き嫌いだけで、一生懸命やっている生徒の可能性や芽を摘むようなこと、しないで下さいよ!」
ちょび髭を指で触り、嫌みったらしい顔で上島先生は川田と中村を嘲笑っている。それに吠えて噛みつく阿部。みな、今にも殴りかかりそうな勢いだが、田村がストップをかけている。
「柏葉祭の件は、生徒指導主任から、私もきちんと聞いた。柏沼警察署の地域安全課の刑事も、正当防衛だと言っていた。上島先生ッ! あなたの独断で廃部案を通すことは、職員としての服務規程違反になりますぞ? 空手道部が、本校の風紀に合わんと言ったな?」
「校長は、空手というものの内容を、わかっておられますか? 殴る蹴る、へたすりゃ大ケガし、血まみれになるようなものです。それでも、校長は、本校に必要だと言うのですか?」
「わかってないのは君だ、上島先生! 空手は殴る蹴る? 血まみれになる? そんな偏った印象しか持たぬ上に、理解をしようともしていないではないか! 武道ですよ、空手道は? しっかりとした精神性が磨けるからこそ、こうした生徒たちが、育つのではないのかねッ!」
「うっ・・・・・・! し、しかし校長。空手はケンカと大差なく・・・・・・その内容的にも薄っぺらくて、不良がやるもの・・・・・・」
「君は、ケンカの延長のような物言いだが、空手道は、『人に打たれず、人打たず』という精神があることも、知らんのではないかね! この件は、私が預かる! 下がりたまえ!」
上島先生は一喝され、慌てて退室。
校長先生から意外な言葉が出たことで、前原たちは耳を疑った。




