3-32、空手道部救出作戦
タタタタタタタタタッ カタタタタッ タタタタタタタッ
パチッ タタタタタタタタッ カタタタタタッ パチッ
カタタタッ タタッ パチッ タタタタタタタタッ パチッ カタタッ
「前原先輩。前書きはこんな感じでどうっすか? 自分、書いてみたんですけど」
「・・・・・・いいね! あ、もう少し、流派についてのところを膨らませようか?」
「流派については、糸恩流、剛道流、松楓館流、和合流の他に、どうしましょう?」
「沖縄の古流や、フルコンタクト空手との関係も書いておこう? こっちの雑誌や本に、それについて書かれてるからさ。あとは、長谷川君の文章力に任せるよ」
「了解です! まとめてみます!」
タタタタタタタタッ タタタタタタタタッ カタタタタタタッ パチッ
「田村先輩、川田先輩。空手の各流祖の格言みたいのって、載せた方がいいですか?」
「あー、けっこうそれ、重要かもねぇ。それがあった方が、より文化的なものだというのも印象が強くなる気がするねぇー」
「恭子、沖縄文化の中での位置づけ的なページも書ける? アタシ、またちょっと資料探してみるよ!」
「ありがとうございます! じゃ、またちょっと、書き足してみますね!」
タタタタタタタタッ タタタタタタタタ カタカタカタカタ パチッ・・・・・・
空手道部メンバーは今日、市内の図書館や施設に集まり、さっそく作戦開始。
前原、田村、川田、そして長谷川と阿部の五人は図書館でミニ冊子の原稿作成中。三年生の三人で館内の書物から資料をたくさん集め、その中から冊子に使う部分を抜粋する作業中だ。
それを基にして、長谷川と阿部は、担当ページの原稿をそれぞれ書く。今日は長谷川と阿部がノートパソコンを持参してきた。本当は学校のパソコン室でやりたかったらしいが、パソコン部の電算大会だかが近いとの理由で断られてしまったのだ。
~~チャララー♪ ~~チャッチャララー♪ 柏沼高校空手道部♪
「うむっ! いいオープニングだ! いや・・・・・・やはり、ここのテロップは、もっとこうしたほうが・・・・・・」
「中村先輩。書体はポップなのより、ここは行書体か草書体にした方が渋いですよー。あと、効果音も、もうちょっと重めの方が、武道っぽくありませんか?」
「そ、そうか? よし、もう一回、作ってみよう!」
「紗代ちゃん、なかなかのプロデューサーっぷりだな! 陽ちゃん。俺たちだけだったら、変なプロモになっちったかもしれないぞー。だはははっ!」
中村、神長、大南の三人は、図書館の隣にある情報センターの視聴覚コーナーで、空手道部のプロモーションビデオのDVDを作成中。大南が意外なことになかなかのセンスを発揮し、ビデオの映像効果やBGMなどについて、どんどん良案を出していた。
「(うちやま・・・・・・。来るといいな。来られるのかな? いや、必ず来るって言ってたし、きっと大丈夫だよね・・・・・・)」
大南は内山にも声をかけていたのだが、午前中は来られそうにないとのこと。午後になったら、図書館のミニ冊子チームに合流してくれるとのことだが。
パアァァンッ! ダアンッ!
パシャッ パシャッ
「・・・・・・もうちょっと、別な部分の動きの方がいいかなぁ? 私、ニーパイポの鶴っぽいところで一旦止まるから、お願いね!」
「俺は、スーパーリンペイの回し受けのところで止まってみっから!」
「わかりました! うまく角度を考えて、かっこよく撮ります!」
井上、森畑、黒川の三人は、ちょっと離れたところにある市立武道館の剣道場を借りて、冊子に載せるスナップショットを撮っていた。森畑と井上が道着姿で形や組手のフォームを作り、それを黒川がデジタルカメラで撮影。
黒川はなんと、「柏沼フォトコンテスト」に応募したこともあるらしく、学校にあるキンモクセイをテーマに撮った写真が見事に入選したんだとか。魚の知識といい、写真の腕前といい、意外な才能を隠し持っているようだ。
スーパーリンペイ、ニーパイポ。トマリバッサイにチャタンヤラクーサンクーなどの形で、より見栄えのする部分で二人が止まる。黒川がシャッターを切る。そして回し蹴りや組手構えにフォームを変え、またカメラのフラッシュが光る。
みな、本気だった。みんな、自然と本気になっていた。
部活動の世代交代をしてから、阿部たちは主に五人で毎日やっていた。三年生七人はそれぞれの進路に向けて、自分のことをやっていた。完全に世代別に分かれていたが、それがまた、十二人で一丸となってひとつのことに没頭している。
それもそのはず。自分たちが打ち込んできた部、思い出の詰まった部、そして今までの先輩方が二十年以上かけてここまで襷をつないできた部。その空手道部が廃部にされるかどうかの瀬戸際なのだ。
しゃーーーーっ ききいぃっ がちゃ たたたたっ
「すみません・・・・・・。お、おそくなりましたぁ!」
「あっ! 真衣っ! 早かったね! アタシ、紗代から午後になったら合流って聞いてたからさ」
「はぁ、はぁ・・・・・・。何とか、家の用事は、抜け出してきました・・・・・・」
「だいぶチャリを飛ばしてきたみたいだねぇー。でも、早く来てくれてよかったぞー」
「本当に、すみません・・・・・・。せんぱい、わたし、いろいろと迷惑を・・・・・・」
「いーのいーの! さぁ、真衣も一緒に手伝って! わたしと充は原稿作成班だから、真衣は先輩たちと資料集め、頼んでもいいかな?」
「は、はいっ! がんばります!」
内山がチームに合流した。思っていたよりも早く来てくれたことに、川田や阿部はすごく安心した表情となった。
「なんか・・・・・・大変なことになっちゃいましたね。うちも、大会の後、親がちょっと理解を得られなくなってしまいまして・・・・・・。本当に、すみません・・・・・・」
「知ってるよ。アタシと田村が、ちょーっとした用事で応接室の近くにいたらさ、真衣と親が先生らと神妙な面持ちで話してるの、見ちゃったんだよー」
「あー、そうだねぇ。そうそう、ちょーっとした用事でね。俺と川田は、内山が辛そうにしてるの、わかってたんだよねぇー」
「どんな用事だったんですか、田村せんぱい? 全力で走り去っていきましたよね?」
「なんだぁ、見てたのかぁ? いやぁ、ほんと心配したんだよぉー。内山が、このまま辞めちゃうんじゃないかってさぁー」
「田村はあの時、アタシを置いて一人で武道場行っちゃったんだよ。ひどいでしょー、真衣? でもよかったぁ! アタシもね、大会のこと聞いてたからさ。真衣にはしばらく空手の話題とか振らない方がいいのかなーって思って、どう絡めばいいのか悩んでたんだよね」
「すみません。・・・・・・もう、大会の日やその後数日は、わたしも、頭の中がめちゃくちゃで。でも、あれから一週間以上も経ちましたし、わたしもいろいろ悩んだんですけど、空手、続けていくことにしたんです!」
「え! そうなの!! やったじゃん!!」
「でもまだ、親を説得しきれてないんですけど。あと、組手はまだ、やっぱり怖くなっちゃってダメですけど、できるように、努力します・・・・・・」
「良かったよ、内山さん。でも、ほんとよく決心してくれたよー。僕も嬉しいよ!」
「まだしばらく、部活は行けないかもしれませんが、辞めないです! 励ましのメールも、毎日眺めて、自分を勇気づけてるんです。意外な人からも頂きました。もう、宝物です!」
書架から本を引き出しながら、内山は笑顔で話している。先週の様子とは違って、表情は以前の内山にほぼ戻っていた。前歯には、きらりと銀色の矯正具が光っているが。
「励ましのメールかぁ。いやぁ、みんな、内山のこと心配だったからねぇー」
「アタシはすぐに真衣に送ったよ。菜美もケガの具合とか心配してたから、お大事にって内容送ったって言ってた。意外な人って、アタシらの他に誰からメールもらったの?」
「崎岡さんです。なんか、大会の日、わたしが病院から家に送ってもらう車内で、携帯の電源を入れたらメールが入ってて」
「え!! 崎岡って、あの崎岡!? 等星の!?」
「はい。『辛くなったら、休んでもいいんだ。私も、内山と同じように、組手が痛くて怖くて辞めたくなった時もある。でも、そういう経験は、必ず自分を強く高めてくれる薬にもなる。大変だったな。しばらく休んでみるといい。きっと、内山の中で、何かが変わる。今日は、勝負の場だが矢萩が申し訳ないことをした。お大事に』・・・・・・って」
「へぇー。崎岡も、新人戦見に来てたのね。アタシも行きたかったぁ。そんなメールを送ってくれていたなんてね。よかったね、真衣!」
「先輩方からそれぞれ頂いたメールも、すごく嬉しかったんです! あと、中村せんぱいが、やたらと、カルシウムとタンパク質を補給しろっていう内容の電話を何度もくれました」
元気を取り戻してきている内山は笑いながら、携帯のメールをみんなに見せた。
前原は何かを思い出したように「崎岡さん、あの日、何か高速でメールを打っていたような」と呟く。
「・・・・・・わたし、わかりました。さよとは同期ですけど、半年でかなりの差が開いてるんだなぁって。それも、焦りなんです。でも、わたしはわたしで、地道にがんばります」
「真衣。・・・・・・迷ってたんでまだ声かけなかったんだけどさ、辞めないで続ける決心をいま聞いたから、アタシから改めて誘うね。来月、みんなで東京の武道館に全日本選手権見に行くんだけど、真衣も一緒にどう? まぁ、電車で行く遠足みたいな感じだけどさ!」
「武道館! わたしも、見に行きたいです。・・・・・・それまでに、何とか、両親を説得してみますから! ・・・・・・よかった。わたし、もう部に居場所がないんじゃないかって・・・・・・」
内山は、顔を覆って、しゃがみ込んでしまった。そしてその場で、静かに泣きだした。
川田はスカートを膝裏で畳んで一緒に座り込み、内山の頭を撫でながら「ごめんねぇ」と呟いて、優しく慰めていた。内山も、たくさん辛かったのだろう。
* * * * *
「「「「「 よぉし! できたぁっ! 」」」」」
あれからしばらくして、ビデオ班とスナップ班も合流し、黒川が撮った写真を冊子のページにいくつも差し込んで、ミニ冊子の原稿が完成した。
中村はビデオの原版を持ち帰り、自宅のパソコンでDVDにするとのこと。枚数がかなり多いが、三日もあればできると言っている。
ミニ冊子も、印刷して綴じ込むにはまた新たな作業が必要だ。ページは全部で十五ページ。阿部、川田、神長の家にあるそれぞれのプリンターで、部数を分けて印刷することになった。教員全員に配る予定だから、なかなかの冊数となる。
「これで、だいじだ! 戦う武器は揃ったねぇー。空手道部救出作戦、って感じだねぇー」
「あとは、冊子とDVDが整ったら、学校で営業作戦だね! 田村君、配るのは、いつがいいんだろう? 放課後だと職員会議とか部活とかで、職員室の先生たち散っちゃうよね?」
「まぁ、二人組とかになって、随時配り歩くのがいいだろう。職員室で一気にやるよりは、個別訪問のようにした方が、万が一に門前払いを食らう心配も少ないだろう」
「・・・・・・まさか、本当に廃部案が出てたなんて・・・・・・。本当にわたし、知らなかった」
「うちやまだけじゃなく、わたしたちも知らなかったんだよー。阿部先輩が代表委員会の後、急に言われたんだって! ずるいよねー。予告もなしになんてさ!」
「ほんっと、あの日はあり得なかったよ! わたし、代表委員会の後、ずっと怒ってたもん」
「自分も、恭子に聞いて、デブダルマをぶっ飛ばしたくなったしなー。ありえねえって!」
「真衣も戻ってきてくれたし、アタシと菜美は、ちょいと別な作戦も思いついたんだよなー。今日はこの後、それを実行に移してから帰るよ! 体育協会に寄ってから帰るからー」
「なんだぁ? だいじかよ、二人で! 真波も菜美も、別な作戦って、なんだー?」
「あ。井上も来てくれた方がいいかな。行き先一緒だし。ま、これはオマケみたいな作戦だからさっ! 私と真波で、さっき、柏沼高校の沿革を見て、すぐ思いついたの! うちの高校さ、武道が盛んな柏沼市の中で唯一、『武道教育推進校』に選ばれてるみたいよー?」
「何だ? 森ちゃん、それが今回の作戦でどう活きるんだい? うーむ、楽しみだな!」
「川田先輩、俺、なんとなくわかりました。そこを突っ込めば、うまくいけば、いい援護射撃になるかもしれませんね!」
おまけのような新作戦を思いついたという川田。しかも、この後すぐにそれを実行するという。いったい、何をしようというのだろうか。
「みんな、今日は土曜日だってのに、集まってもらって悪かったねぇー。でも、こうしてみんなで空手道部を守りぬくための準備ができた! 今日はお疲れ! また、月曜にな!」
田村の言葉で、みなガッツポーズをとって解散した。
川田、森畑、井上の三人は、すぐ近くにある体育協会の事務所に向かった。
図書館の外に植えられている山茶花の葉は、土曜日の昼下がりの陽射しを浴び、深緑がさらに鮮明になっている。どこかから、薪を燃やすような香ばしい薫りも漂ってくる。
十二人の声は、晩秋の空に散っていく。
前原は、阿部や内山と一緒に帰路についた。
「前原先輩。絶対に、空手道部を守り抜きましょうね!」
「もちろんだよ!」
「前原せんぱい。阿部せんぱい。わたしも・・・・・・がんばります!」
「うん! その意気! 先輩たちから受け継いだバトンを、絶対に絶やさないようにしようね!」
空は晴れ、風はひゅるりと冷えている。しかし、部員みんなの心は燃え上がっていた。




