3-31、恭子の決心!
「「「「「 え! 」」」」」
「だからさ、俺たち三年も含めて、みんなで空手道ってものを、先生らや生徒会のやつらにきちんと理解してもらうんだよ。そのためにも、パソコンでミニ冊子みたいのを作ってさ、全職員と生徒会役員に配るんだ! ゲリラ作戦ってやつだねぇー!」
「だ、大胆な作戦ですね、田村先輩! 自分、パソコンは得意っす! まかせてください!」
「でもさ、田村君。それだけで足りるのかなぁ? 茶道部や華道部は、もともとが文化部として認識されているし、日本文化として先生らの意識に、いい印象で根付いてるじゃない?」
「ふふっ。甘いね前原! それを、アタシらで、教師一人ずつに植え付けるのさ!」
「川田先輩。でも、どうやって? 柏葉祭はもう終わっちゃいましたし・・・・・・。うちやまが休んじゃうとしたら、一年生はわたししかいないんですが・・・・・・。人手、足りますか?」
「うーん、そう言われると、そぉねぇ。・・・・・・どうすんの、田村?」
「空手についての知識的なものは、ミニ冊子で何とかなるとして・・・・・・。その他で印象づけるには、どーすっかな。・・・・・・ちくしょう、茶道部は、生徒会長の杉並が部長だったから、きっと職員会議とかスルーできたんだよねぇー」
「杉並か。あいつは、おれたち生徒には高飛車な物言いだが、先生らにはものすごく好印象というやつなんだ。まぁ、なんだ、こう言っちゃ悪いが、ゴマすり上手な中間管理職みたいなやつという感じだな・・・・・・。悪いやつではないんだが、偏りがある感じがあるな」
「どうする、尚久? まさか、毎朝正門前でみんな形の演武するわけにもいかねーべ? 休部はきっと、デブダルマの偏見と独断が元だろ?」
「そうだねぇー」
「それが、生徒会長や他の先生にも広まって、今に至ってるとしたら・・・・・・。その偏見をぶっ壊すには、もっと空手道部全体がこの柏沼高校に貢献してるようなインパクトにしなきゃ、だめじゃねーか?」
「泰ちゃんの言うように、あの上島が同僚に植え付けたイメージだとすると、他の先生もかなり俺たちに偏見を隠し抱いているかもしれない。柏沼高校イコール空手道部って言うくらいの良いインパクトにしなきゃ、きついと思うぞ?」
「そうなんだよねぇー。ミニ冊子を一冊ずつ真摯な態度で配るのもいいと思ったけど、井上や神長が言うのも一理あるねぇー。そのインパクトを教員側にどう印象づければ・・・・・・」
「真波、どうしよう? 真衣がしばらく部活来られそうにないとなると、現役生は四人だよ」
「一年生は紗代だけだしなぁ。・・・・・・くっそぉーっ、なんでインターハイで実績まで作った部が、そんな偏見で追い込まれなきゃなんないのさ! アタシは、頭に来てるのよ!」
みんな突然の緊急事態に、頭を悩ませていた。いい案が思い浮かばない苛立ちから、次第に、三年生の間にもピリピリとしたムードが漂う。
「頭に来てるなら川田、まずは冷静に! このままじゃ本当に部が消されてしまうぞ」
「・・・・・・だから、アタシは嫌だって言ってんのよ! 頑張ってきたこの部が消えるなんて! あり得ない! ふざけんじゃないっての!!」
「だから、いい案を何とか絞りだそうとおれは言ってるんだ! 短気を起こしても損するだけだろう! 怒ってる暇があるなら、冷静に案を考えろ川田!」
「なぁによ、その言い方! 中村はね、そういうところが上から目線なんだよ? アタシだってねぇ、好きで怒ってるわけじゃないっての! わかってんだよ、そんなことぉ!!」
「か、川田先輩も、中村先輩も、落ち着いて下さい! まずは、冷静に!」
「う、うむ・・・・・・。すまなかった・・・・・・。つい、な」
「紗代、止めなくて良かったのに! アタシ、今の中村の言い方には本気で腹が立ったの!」
「それは、悪かった。だけどな・・・・・・」
「だぁーっ、陽二も真波も、いい加減にしろって! うるせーよ。考えてもうるせーから、邪魔されて良い案が出ねーじゃん!」
「それは、井上が発想力に乏しいからなんじゃない? もっと私みたく、深く考えればさ」
「あ? なんだと菜美! 今、なんつった? 俺の発想力が何だって言った、おまえ!」
「なんでそんな突っかかってくんの!? 普通に言っただけじゃん!」
ピリピリ バチバチ ピリピリ バチバチバチ
「だめだよ、みんな! これじゃ、ますます空手道部はだめだって言われちゃうよ! 落ち着いて!」
「前原の言うように、一から落ち着いて考えようかねぇー。なぁに、きっと、必ず良い方向になるって!」
「ちょっと、楽観的すぎんでしょ田村! アタシらが何でここまで神経尖らせてるか、あんたわかってんの!? あー、もぉ。なんでこんなことになってんのさぁー」
「・・・・・・きょうこ! おい、きょうこ! お前、主将なんだから、ずっと黙ってないで何とか言えよ! 何でさっきから、すっと黙ってんだよぉ?」
「・・・・・・。」
すっ・・・・・・ すくっ
阿部は、ずっと目を瞑って腕組みをしていたが、ぱちっと目を開き、何かを決心したかのようにすっと立ち上がった。
「恭子、どうしたの? なにか、いい案が思いついた?」
「・・・・・・井上先輩、神長先輩。先程、言ってましたよね? 柏沼高校イコール空手道部っていうくらいの良いインパクトがないときつい、って?」
「あ、あぁ。そうでもしなきゃ、七十人近い先生らの印象は、そうは変わらないだろうしな。・・・・・・どうしたんだ、恭ちゃん?」
「・・・・・・ずっと考えてました。さっき、この武道場に戻る時、途中で『これなら』と思えるものがあったんです。・・・・・・先程、先輩たちの討論を聞いていて、わたし、決心しました!」
阿部はセーラー服のスカーフをくいっと締め直し、腰に手を当て、力のこもった声で三年生に向かって声を上げた。
川田と森畑はブレザーのリボンを指で直し、阿部の決心とやらが何なのか気になっているような顔で見つめ合っている。
田村も学ラン姿で胡座をかき、腕組みをしながら、正面に立つ阿部と目を合わせた。
「柏沼高校イコール空手道部にする方法、もう、これしかありませんッ!」
阿部は、右拳を強く握って、声高らかに叫んだ。
「わたし、来月の生徒会長選挙に、立候補しますっ! 柏沼高校の生徒会長になりますっ!」
バッ ダァンッ!
拳を突き上げ、床を強く踏み鳴らした阿部。とんでもない驚きの発言に、一同騒然。
「「「「「 な、なんだってぇーーーッ! 」」」」」
「わたしが生徒会長になれば、生徒会役員に敬太、充、そして紗代。空手道部みんなで、執行部を結成しようと思うんです! そうすれば、きっと! もう、これは賭けですけどね!」
「「「「「 お、おおおおおおおぉーーーっ!? 」」」」」
唐突に、生徒会長選挙に出馬表明をした阿部。
あまりにも衝撃的なことばかりで、前原は頭の中が大混乱となっていた。




