3-30、空手道部最大の危機!?
がさごそ がさごそ ごそごそ がさがさ
植え込みに、無理矢理入り込む十人。
川田がそれに気付き、「もう少し警戒して入ってこい」と言ったジェスチャーを前原たちに送っている。
「こんなとこにいたのかよぉ、川田。どこ行っちゃったんかと思ってたぞぉ?」
「ゴメンね。アタシ、さっきからデブダルマを追ってたんだけど、いなくてさ。そしたら、応接室にいたんだけど・・・・・・。ねぇ、あれ、どう理解すればいいのよ?」
川田は全員に、指で応接室の方を見るように指し示す。その部屋の中には、驚きの光景が。
「え! 部屋にいるのって・・・・・・。うちやま? なんで?」
「な! 保護者対応中とは聞いてたけど、なんで内山さんが? あれ、内山さんの親だよね?」
「進路の前橋先生、関係なくない? 進路相談ってわけでもなさそうだし・・・・・・」
「前橋先生は進路指導主任だけど、わたしたち一学年の学年主任でもあるんです」
「空手道部顧問に、特別活動主任に、一学年主任・・・・・・。尚久。なんか、嫌な予感がするメンバーが固まってるけど、やべぇんじゃねーか?」
「田村。どうする? ここからじゃ、何を話してるのかわからないけど・・・・・・」
「・・・・・・わかった。みんなは、武道場へ行っててくれ! 俺がちょいと、こっそり聞き耳を立ててくっから。大体のことがわかったら、すぐそっち行くからさ!」
「待って田村! アタシもやる!」
田村と川田は、こそこそと応接室の外壁まで移動。そして、どこに持っていたのかわからなかったが、川田は紙コップを胸ポケットから二つ取り出し、二人で壁に紙コップをつけ、聞き耳を立て始めた。その姿は傍から見ると・・・・・・怪しすぎる。
「な、なんという作戦だ。おれも思いつかなかった。すばらしい! うむっ!」
「そ、そうかな? ・・・・・・すばらしい、のか? 陽二の感覚、たまにわかんねぇよー」
「それじゃ、私らは武道場へ先に行ってようか。恭子、鍵開いてるかな?」
「あ。森畑先輩、鍵は大丈夫です! よし、わたしらも行こう」
田村と川田を残して、前原たちは武道場へ移動。二人は同時にオッケーサインを指で示していた。
なんだか、この状況を田村と川田の二人は楽しんでいるようにしか見えない。
「(・・・・・・うちやま。・・・・・・なんで? ・・・・・・どうしてそんな表情で、その部屋にいるの?)」
大南は、最後まで応接室の方を何度も振り返っては、眉をひそめている。
かさかさ かさかさ かさっ かさかさ かさかさ
「(枯れ葉の音か。川田、そっちは、聞こえるか?)」
「(うん。耳が慣れてきた。・・・・・・なんか、深刻な話・・・・・・っぽいね?)」
「(マジかよぉ。・・・・・・どれ、俺もじっくりと・・・・・・)」
ざわんざわざん ぼやんぼやん ぼわぼわぼわ
紙コップ越しに、川田と田村の耳に伝わる、室内の声。
だんだんと、二人の耳に、室内の声が入ってくる。その会話の内容は、いったい、どんなことが話されているというのだろう。
分かれた前原たちは武道場で、今後の対策を話し合うことにした。
* * * * *
「・・・・・・ちょっと、これ以上は。理解できないんですよ。学校側としては、どういう認識でいるんでしょうか? うちとしましては、部活を辞めれば終わりという話ではありませんっ!!!」
フォーマルな姿で応接室のイスに座っている内山の母は、激昂している。
「いやはや、内山さんの仰ることは、当校としましても、たいへん重く受け止めております。空手というスポーツは、殴る蹴るの勝負らしいですから、こういうことは、やはりきちんとした指導者がいないことには・・・・・・。ケガまでしてしまったことは、申し訳ありません」
眉をへの字に曲げて黙って聞いている早川先生の横で、上島先生は事務的な回答をして頭を下げる。
「いいですか? 女の子がですよ? 道着を血まみれにして帰ってきて、しかも、前歯まで歪んで。万が一、折れてたりなんかしたら。永久歯がですよ? とんでもない大ケガだと思いませんか!」
「本当よ! こんなこと、あってはならないわっ!」
内山の父は腕組みをして太い声で怒りを露わにし、母は漆塗りの机をばしんと手で叩く。
「はぁ。まったくですな。仰るとおりでございます」
上島先生は、気の無い返事で、にやけ顔をしてまた頭を下げる。
「そうでしょう! 親として、黙っていられると思いますか? うちの子は、空手経験どころか、スポーツ経験だってなかったんです。今回のことは、ちょっと、学校側もどういうつもりで考えているのか聞かないことには、やはり黙っていられなかったんですよ!」
内山の父は、ぐいっと身体を前のめりにし、眉間にしわを寄せている。
「いやぁ、我々としましても、まことに遺憾だと感じておりますよ。ほら! 早川先生っ! あなた顧問なんだから、あなたの口でしっかりと説明しなさい! まったく、これだから空手なんてものは・・・・・・」
「・・・・・・お父さんも、お母さんも、ちょっと、言い過ぎないでよ? 組手は怖いけど、形は安全なんだよ? わたし、形だったら、ちゃんとやれるから・・・・・・」
「真衣は黙ってなさい! いい? あなた、空手で身を立てるわけじゃないでしょ! だからお母さん、反対したよね? もっと、自分に合った部活やりなさいって!」
「お父さんだって、真衣が毎日、あれを覚えたこれを覚えたって話すのを聞いてたけどな。自分の娘が血まみれにされ、歯も折られかけて、黙ってられると思うか? しかも、聞けば、先生が教えてるんじゃないという話じゃないか。指導者もいない部活で、そんな危険な種目、これ以上はダメだッ!」
ピリピリとした空気。張り裂けるような声。応接室内は、緊迫感のある空気で満たされている。
「えっと、内山様。・・・・・・この度のケガにつきましては、昨日もお話ししたとおりでありますが、競技としては『寸止め』となっていて、本来は安全性の高い競技なんです。ですから、毎回、このようなことがあるわけではないんですが・・・・・・」
「早川先生っ! 内山さんは、そんなことを聞いているんじゃないんだ! まったく!」
「学年主任として把握していることではありますが、内山真衣さんには同じクラスで、空手道部に所属している子もいるようです。昨日の大会で、真衣さんもきちんと実績を上げてきたことは、早川より伝え聞いております。・・・・・・今回の件は、空手道競技という場で起きたことですので、学校としましては・・・・・・」
「責任は取れないって仰りたいのですか?」
「いえ、そういうわけでは。ただ、ケガの治療などにつきましては、大会の保険などで対応して頂けると言うことでもありますので・・・・・・」
ザワザワザワザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワザワザワザワ
「(なんだか、すげぇ状況の話だな・・・・・・。俺らじゃ、どうこうできそうもないぞ、これ)」
「(真衣の親は、そこまで思ってるなんて。・・・・・・やっぱり、アタシらと感性は違うなぁ)」
「早川先生。先生は、空手の経験者ではないとのことを真衣から聞いてますが、柏沼高校は空手道部に、どうして素人の先生をつけているんです? こういう競技こそ、専門性のある先生を顧問につけるべきでしょう!」
「いやはや、そうですね、はい。特別活動主任の私としましても、これはまことに遺憾だと感じておりまして! 空手なんぞ、殴る蹴るの野蛮なイメージですよね? 当校としましても、そこは認識しております。ほら! 早川先生も、頭を下げないか! ほら!」
「・・・・・・も、申し訳・・・・・・ございませんでした・・・・・・」
「お父さんもお母さんも、落ち着いてよ! わたし、ちゃんと考えて空手続けたいの」
「ダメだ。部活をやるなら、別なものにしなさい。また血だらけになったりしたらどうする。へたすりゃ、次は前歯が折れてしまうかもしれないぞ! それどころか、打ち所が悪くて、万が一の大事故になったら、取り返しがつかんぞ! ダメだ、真衣!」
「あなたの同期の大南さんだっけ? その子は、剣道をやっていたんでしょう? 真衣とは、スポーツの下地が違うじゃないの。空手なんて特殊な競技じゃなく、中学までやっていたピアノをまたやるとか、ね?」
「なんで、わかってくれないのよ! わたし、みんなと続けたいよ・・・・・・」
「まぁまぁ、内山さん。本人もこう言っていることですから、どうでしょう? 実はですね、空手道部は、次年度以降、休部の流れになったんですよ。部員も五人しかいませんので、来年度末で廃部の候補に挙がっているんです。ですから、答えはこの場でというよりは、今しばらく様子見をしてもいかがでしょうか?」
「・・・・・・え! 休部? 廃部? そんなのわたし、知りません! 早川先生! そうなんですか!? ねぇ、先生っ!」
「・・・・・・く・・・・・・っ!」
早川先生は、先輩教員二人の横で、歯ぎしりをしながら黙って拳を何度も握り直す。内山は涙を流しながら、必死に両親に部活を続けたい気持ちを訴え続けている。
・・・・・・かさかさかさかさかさかさ・・・・・・
・・・・・・ひゅるうぅぅぅー・・・・・・
・・・・・・ひゅひゅるうぅぅぅー・・・・・・
「(やはり、部員五人以下ってのがネックか・・・・・・。あとは、危ないって先入観かぁー)」
「(田村。このままじゃ、来春に新入部員、入ってこられないじゃない!)」
「(見学に来てくれた子たちもいたのになぁ。どーすっかな? ほんとに、やべぇな)」
「(アタシらが在籍してる今年度中に、何か変えられる手立てはないのかな?)」
「(ん! 茶道部や華道部は、なんか、文化的なことがどーたらこーたらで、スルーされたんだよな、たしか? しかも茶道部は、生徒会長が部長だったのもあるだろ、きっと!)」
「(そうだったね。まったく、茶道や華道が文化的で良くて、なんで空手道がダメなのよ!)」
「(それを、利用しようぜ! 空手道が、単なる殴る蹴るのイメージになってるのを、ぶっ壊してやろうぜ! ・・・・・・打開策、見えてきたかもしんねぇぞぉー)」
すくっ! だだだだだだだっ!
「あ! 待ってよ田村! アタシを置いてくなーっ!」
思い立ったように、武道場へ真っ直ぐ駆けていった田村。身体のあちこちに葉っぱをつけて後を追う川田。その様子を、内山は、応接室内からちらっと横目で見ていた。
空手道部の危機を、田村はどうやって回避するというのだろうか。その打開策とは、いったい・・・・・・。




